すべてはここから始まった……
では、お楽しみ下さい!!
桜の花が咲き始め、温かな日差しが降り注ぐようになった四月の中旬頃。
入学したばかりの新入生もこの学園に慣れてきたかと思われたこの時期に、彼女は現れた。
コンコンコン
「……失礼します」
生徒会室で一人、生徒会費の予算編成をしていた時、ふと扉からノックの音とともに少女の声が聞こえた。
規則正しい間をおいた三度のノック。どうやら扉の向こうの彼女は礼儀正しい人のようだ。
多少声が震えているように感じる。おそらく緊張からだろう。ということはあまり生徒会に来ない人……もしかしたら一年生かもしれないな。
「どうぞ」
俺は扉の向こうの彼女へそう声を掛ける。すると、扉は開かれ、一人の少女が顔を出した。
綺麗な長い黒髪を三つ編みのおさげでまとめている眼鏡を掛けた少女だった。
リボンの色は黄色。やはり一年生か。
「えっと……君は?リボンの色からして一年生のようだけど」
「普通科一年。中川菜々です」
「中川さん。ようこそ、生徒会へ。それで、どのようなご用件でこちらに?」
背筋を伸ばして、直立する彼女。やはり緊張しているらしい。
一つしか年は変わらないのに、何故ここまで緊張するのだろうかと少し疑問に思うが、俺も実際、一つ年上なだけの先輩に物怖じしてしまうことはあるので、それが学校の上級生というものなのだろう。あと、人口比の少ない男子であることや生徒会長という肩書きも緊張させる要因として働いているのかもしれない。致し方ない。
「あっ……えっと……その……」
どうやら言いづらい用件のようだ。
「とりあえず、そこのソファにでも座ったらどうかな?」
「いえ、大丈夫です!…………あのっ!」
うわっ、急に大きな声になったな。
内心驚きながらも俺はその驚きを表には出さず、笑顔で優しく冷静な生徒会長を演じ続ける。
しかし、その笑顔の仮面は彼女が放った一つの単語で剝がされかける。
「この学園に……その……スクールアイドル部は……ないのでしょうか?」
「……!?スクール……アイドル……」
スクールアイドル。芸能プロダクションを介さずに、一般高校の女子生徒が部活動の一環として行うアイドル活動のことだ。今から六年前の2014年3月にスクールアイドルの全国大会として開催された「ラブライブ」の第二回大会で秋葉原の国立音ノ木坂学院という高校のスクールアイドルグループ「
去年のラブライブ第十二回大会では静岡県の沼津から来た私立浦の星女学院のスクールアイドル「
その浦の星女学院が去年をもって廃校となってしまったのはとても残念だと感じたが……。
『あなたが女の子に生まれてきていれば、スクールアイドルとして活動させたのに……』
俺が中学生の時、
「あの……生徒会長。どうされました?」
「あ、あぁ……。ごめんなさい。少し考え事を……」
中川さんから声を掛けられ、ふと我に返る。
スクールアイドルが嫌いだというのは俺個人の意見だ。
スクールアイドル部を探していたということは、彼女はスクールアイドルが好きなのだろう。
他人の「大好き」を俺個人の理由で否定するわけにはいかない。
「確かに、この学園にはスクールアイドル部はありませんが、五人以上の生徒を集めれば同好会の設立は可能です。あと四人、生徒を集めてこの用紙に名前を記入して頂ければ、生徒会の方で部室をご用意させていただきますよ」
俺は机の引き出しから「同好会申請書」を取り出し、そう説明しながら彼女に手渡す。
「スクールアイドル部はないんですね。でも……ないなら作ればいい……。わかりました!他の同志を集めて、もう一度お伺いいたします!ありがとうございました!」
最初に生徒会室に入ってきた緊張はどこへやら。彼女は深く頭をさげた後、走って生徒会室を飛び出していった。
「普通科一年……中川菜々か」
俺は彼女の名を小さく呟く。
彼女はこの学園で一体どのようなスクールアイドルを作り上げるのか……。
俺はそんな興味を彼女へと向けていた。
しかし、それから二ヶ月。彼女は一度たりとも生徒会室に現れることはなかった。
「こーちゃん、最近……元気ない?」
いつも通りの放課後。彼方を自転車の後ろに乗せて家への帰路を走る中、ふと彼方がそんなことを口にした。
「そうか?俺は別にいつも通りだぞ。学校で変わったこともないし」
「う~ん。そうかな~?確かに見た感じはいつもと変わらないけど~、なんか少し元気がないようにも見えるよ~?お姉ちゃんの勘ってやつ~」
「……彼方はいつ俺の姉になったんだよ。どっちかっていうと俺がお前の兄貴だろ」
「あ~そうかも。こーちゃんお兄ちゃんだね~」
その日はそんな風にごまかしたが、「元気がない」というのは半分正解かもしれない。
俺は、あの日の彼女……中川菜々を──スクールアイドル同好会を設立しようと希望を胸に抱いて生徒会室を後にした彼女のことをそれなりに気にかけているのだ。
あれから二ヶ月、彼女は生徒会室には一度も顔を出していない。放課後や休憩時間中などで学校を歩いている時も、彼女が他の生徒を勧誘しているような姿は一度も見ていない。授業の移動教室に向かうらしき彼女の姿はたまに見かけてはいるのだが……。
と、そこまで考えてふと思い立った。
……もしかしたら彼女は学校で友達を作れなかったのではないか?
二、三回くらいだが授業の移動教室に向かう途中の彼女を目撃したことがある。しかし、その時に友達と一緒に歩いているような姿は見たことがない。
生徒会室に来た時もとても緊張している様子だった。あれは男だから、生徒会長だからというだけではなく、彼女自身が人見知りだったという可能性はないだろうか?
人見知りだから、一緒にスクールアイドルをやって欲しいと誰かに口にすることが出来ないのではないだろうか?
もし、違うならそれはそれでいい。明日、学校で確認してみるか……。
次の日、俺は生徒会室にある生徒名簿から「中川菜々」の名を探し、彼女の在籍するクラスへと足を運んだ。
「えっと、少しいいかな?」
俺はクラスの入り口近くで話していた一年生の少女に声を掛ける。
「あっ、はい……」
「なんでしょう……って、え?もしかして?」
「あっ、生徒会長っ!?」
「ああ、はい」
どうやら一年生にも俺の顔はちゃんと知られているようだ。やはり男で生徒会長というのは珍しいのだろう。
生徒会長がクラスに来たなどという理由だけで
「このクラスに中川菜々さんがいると思うんだけど……」
「えっと……中川さんって誰だっけ?」
「あの頭いい子だよ。眼鏡した」
「あぁ……」
クラスメイトにもこの認知のされ方……やはり、俺の仮説は正しかったのかもしれない。
「あっ、いた。あそこです」
クラスメイトが指差した先にいたのは、どうやら友達らしき大人しめな少女と勉強を教えあっている中川菜々だった。
……あれ?
どうやら彼女は別に「ぼっち」って訳ではなかったようだ……。
せつ菜になる前の菜々を書くの結構難しい……
独自設定盛り盛りですが、感想や誤字報告等頂けると嬉しいです!!