「中川さ~ん。生徒会長が呼んでるよ」
俺が話しかけた一年生の一人が中川さんへと声を掛ける。
すると、彼女はこちらに気づいた様子で、勉強を教えあっていた友達らしき少女に一言断って、俺の方へと駆け寄って来た。
「生徒会長。どうされました?」
「あぁ、実は少し話があって……」
ここで話してもいいんだが、周りの目が少し気になる。教室にいるほぼ全員がこちらに注目しているようだ。
「ちょっと向こうで話せないかな?」
「はい。私もその方が有り難いです……」
中川さんも教室からの視線に勿論気づいていたのだろう。少し照れた顔で俺の意見に賛成した。
階段の踊り場まできて、そこで本題に入る。
まぁ、出羽亀好きな一部の生徒が階段の上と下からこちらを覗き見ているが、小さな声で話せば聞こえることはないだろう。
……いや、隠すような話ではないのかもしれないけれど。
「その……話、なんだけど……」
なんて切り出そうか、少し迷っていたら彼女の方が口を開いた。
「スクールアイドル同好会の設立について……ですよね?」
「あぁ、あれから音沙汰がないから少し気になってね。部員集めは順調?」
敢えて、「順調か」と問いた。
否定から入るのは、俺は好きじゃない。
「…………」
返事は……沈黙。無言の否定か。
「気に障る言い方をしたら申し訳ないけど、もしかして友達が少ないとか、人見知りとか、だったり……?」
もっと言葉を選ぶべきだったろうか。今も何て聞いていいのか迷っている。
「……えっと、そういう訳ではないんです。確かに多くはないですけど友達はいますし、人見知りはない方だと思います。中学生の頃は生徒会長もしてましたし……」
生徒会ってのは陰キャの集まりだと俺は思っているんだがな。友達には違うと否定されたが……。まぁ、それはさておき
「スクールアイドル同好会への勧誘はしてる?」
「…………」
また、沈黙。聞き方を変えよう。
「してない?」
「……」コクッ
小さく頷いた。どうやら陰キャな方ではあるが、友達もいるし、「ぼっち」という訳ではない。しかし、スクールアイドル同好会への積極的な勧誘は出来ずにいるということらしい。
「中川さん……君は……」
キーンコーンカーンコーン
俺の質問は予鈴によって遮られた。
「ごめんなさい、休憩時間中に」
「いえ、大丈夫です」
「今日の放課後、生徒会室に来て頂いてもいいですか?もう少しこの件について話したいので……」
「……わかりました。では、また放課後に……」
そう言うと、彼女はすぐさま自分の教室へと戻っていった。
やはり彼女の様子が気になるが、まずは授業に集中だな。
俺も自分の教室へと急いで戻るのだった。
そして、今日の授業も終わり、放課後──
約束通り、中川さんは生徒会室に姿を現した。
もしかしたら、このまま逃げてしまうのではと思ったが杞憂だったようで何よりだ。
俺はまず、生徒会室まで足を運んでくれた彼女に謝罪する。
「すみません、呼び出したみたいになってしまって」
「いえ、そんな事は……私もその、このままじゃダメだと思ってはいたんです」
このままじゃダメ……か。やはり彼女は何か問題を抱えてるように感じる。
俺は休憩時間中に彼女に聞こうとした質問をもう一度問い掛ける。
「中川さん、君はスクールアイドルのことが好きなんですよね?」
「はい!」
間のない早い返事。スクールアイドルが好きだという気持ちに噓偽りはないようだ。
「こう言うのは失礼かも知れないですけど、スクールアイドルの魅力ってなんですか?」
「スクールアイドルの魅力……そうですね。スクールアイドルってものすごく輝いて見えるんです!私が初めて見たスクールアイドルも信じられないほどキラキラ輝いてて、でもその笑顔はかわいらしいだけじゃなくて、とっても強くて、凛々しくて……。自分の「大好き」な気持ちをすごく素直に表現しているなって、そう感じたんです!それで私も歌ってみたい!輝いてみたい!ってスクールアイドルに憧れを抱くようになったんです!自分も大好きな気持ちを世界に向けて叫んでみたいって!」
そう語る彼女の目はキラキラと輝いて見えた。
彼女のその目の輝きがスクールアイドルの輝きなのだとしたら……
彼女の「大好き」な気持ちをここで止めちゃいけない。
俺はそう感じた。
「本当にスクールアイドルのことが大好きなんだな……」
ふと、そう呟くと彼女は我に返ったようで急にしおらしくなる。
「えっ?あっ!すみません、すみません。ごめんなさい。急にこんな語りだして……気持ち悪かったですよね……?」
「いや、なんで謝るの?気持ち悪くなんてないし、中川さんは本当にスクールアイドルのことが好きなんだなって関心したんだよ」
「え?……そうなんですか? 私、好きな事を話し出すと、伝えたい事とか共感して欲しい事とかいっぱいありすぎてつい語り過ぎちゃうんです……」
「そういうことか……」
どうやら彼女は自分の中の好きな気持ちを隠してしまう癖があるようだ。そんな自分にコンプレックスを抱いているからこそ、自分とは正反対に「自分の好きなモノ」を素直に表現出来るスクールアイドルに憧れているのだろう。
スクールアイドルが好きで、スクールアイドルに憧れていて、スクールアイドルをやりたいと心から思っている。
しかし、その好きな気持ちを隠してしまうが故に、他の友達に「一緒にスクールアイドルをやりませんか?」と伝える事が出来ずにいるという事なのだろう。
おそらくこの問題はスクールアイドルになって、自分に自信を持てるようになれば解決する問題だと思う。
とすれば、答えはこれしかないだろう。
「中川さん……いや、中川。お前、ソロのスクールアイドルをやる気はあるか?」
「えっ?……えっと……?え?……ソロのスクールアイドル……?」
急に俺が口調を変えたのと、おそらく考えもつかなかったのであろう「ソロのスクールアイドル」という響きに戸惑いを隠せない様子の彼女に対し、俺はこう話を持ち掛ける。
「ここからは生徒会長の内村輝助じゃない。虹ヶ咲の一生徒としての内村輝助として話させてもらう。だから生徒会長モードの口調じゃなくて、いつもの口調に変えさせてもらうぞ」
「はぁ……」
「それで、ソロのスクールアイドルってのはどう思う?」
「ソロ……つまり、一人でステージに立つって事ですよね?」
「そうだ」
「正直、自信はあまりないです。でも、他の友達を勧誘する勇気のない私がスクールアイドルをするには今のところ、それが一番いいのかなって……少し、思います」
やっぱり、そうか。
彼女の「他の友達を勧誘する勇気がない」という言葉で俺の考えは確信に変わった。
「やってみろよ、ソロのスクールアイドル。もし、「中川菜々」として舞台に立つのが怖いなら、偽名……いや、芸名を使って自分とは違うスクールアイドルとしての自分を演じるって形でもいい。俺が生徒会長の時と通常時で口調を変えてる時と同じようにな」
「…………」
この彼女の沈黙は否定の沈黙ではない。長考の沈黙だ。
俺はそう判断して、言葉を続ける。
「自分をさらけ出せないなら、さらけ出せるようになるまで……その自信が持てるまでなりたい自分を演じればいい」
自分でそう言いながら、ふと昔を思い出す。
昔も誰かに同じようなアドバイスをした気がするが、誰に対してだったろうか?……少し考えたが、思い出せない。まぁ、いいか。
「幸い俺は生徒会長で音楽科だ。生徒会長権限でお前のソロでのスクールアイドル活動を認めるし、最大限の手助けもしてやる。作曲もやってやる。だから、まずは一歩、踏み出してみないか?」
俺はそう言って、彼女に手を差し伸べる。
「あの……ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
すると、中川菜々はそう問いた。
「ん?…………あぁ、何でも聞いてくれ」
「どうして、私にここまでしてくれるんですか?」
あぁ、そんな事か。
「それはな……」
その理由を言葉にすると、彼女は輝いた笑顔を見せ、こう言ったのだった。
「わかりました!私、ソロのスクールアイドル……やってみます!これから、お願いしますね、生徒会長……いや、内村先輩!」
しずくとせつ菜って少し似てるなって思うのは気のせいですかね?
感想、誤字報告等お待ちしております!
次回もお楽しみに!