それでは、どうぞ!!
「なんで、そこまでお姉ちゃんが疲れてるのを知ってて、止めてくれなかったんですか!?」
「えっ……? いや、遥……俺はな……」
「もういいです!! 輝助さんなんか知りません!!」
…………遥が怒った。
思いがけない展開に俺は呆然としてしまった。
「大丈夫、お兄ちゃん?」
公園で遊んでいた小学生が話し掛けてくる。遥の声大きかったからな。もちろん彼らにも聞こえたのだろう。
「あ、あぁ……大丈夫」
そう言って、俺はフラフラと歩きながら家に戻った。
正直に言おう。大丈夫な訳がない。
今まで可愛がっていた妹にいきなり反抗期が来たような感覚で、俺はとても大きなショックを受けた。
「はぁぁぁぁぁぁ」
おそらく今まで生きてきた人生の中で一番大きいであろうため息がその日の俺の口から吐き出たのだった。
そして、次の日の昼休み。
気分展開の為、外で昼食を食べていると、何やら話し声が聞こえてきた。
「遥ちゃんせっかくスクールアイドルになったのに心配掛けちゃって……遥ちゃんがやめるくらいならいっそ彼方ちゃんが……」
「それはダメ!」
彼方の弱気な声とそれを止める高咲の声だ。
声の聞こえた方向へ目を向けると、スクールアイドル同好会の皆が集まって昼食を食べていた。
どうやら昨日の話をしているらしい。
「彼方ちゃん」
彼方の名前を呼びながら、エマが立ち上がって彼方の隣に腰掛ける。
「それは本当に彼方ちゃんが望んでる事なの?」
「……違う。彼方ちゃんの望みは、ずっと探してた夢はここにある」
彼方の望み……夢……
俺は彼方をスクールアイドルに誘った時の事を思い出す。
『あのね……。せつ菜ちゃんのライブ見る前から実はスクールアイドルには興味があったの。遥ちゃんが楽しそうに動画見せてくれたりしたからさ。でもね。高校生になったら家計の手助けの為にバイトをしようってのは中学生の頃から決めてたし、仕事が忙しくてあんまり家にいないお母さんの為と、遥ちゃんの為にも家事はもちろん頑張らなきゃでしょ? そんな中で彼方ちゃんはこーちゃんと同じニジガクに通いたいなんてワガママ言っちゃったじゃない? だから奨学金の為に勉強も頑張らなきゃいけないのだよ。……だから、もうワガママはダメなの。スクールアイドルをやりたいって思ってても、彼方ちゃんにはそれは許されないことなんだよ』
『でも、せつ菜の舞台を見て、やりたいって気持ちが大きくなってきたんだろ?』
『……そうなんだ。だから最近スクールアイドルになった後の彼方ちゃんの事を色々想像しちゃったりして……』
長い台詞だったが、俺は覚えている。
『彼方はスクールアイドルが好きなのか?』
『……うん。多分好きだと思う。せつ菜ちゃんのステージを見てからより一層やりたいなって気持ちが強くなった』
『じゃあさ、やってみろよ。やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい』
『……バイトも家事も勉強もあるんだよ?』
『バイトの時間になったらすぐ帰っていいし、学生なんだから勉強が最優先なのは当たり前だ。家事は朝と夜、あとは休みの日にまとめて……だろ? 放課後いつも保健室とかでダラダラしてる時間をスクールアイドルに当てればいいじゃんか』
『彼方ちゃんにも……出来るかな?』
『彼方なら、出来る。それに彼方がスクールアイドルになれば、遥が喜ぶと思うぞ』
この時の俺はこう言ったが、今思えば彼方に無理を強いていたのかもしれない。
ふとそう考えたが、彼方の言葉で思い返す。
「同好会が再開してからずっと楽しかったんだ。やりたいことがどんどん増えていって それを一緒に目指す仲間がいるのがすごく幸せで……みんなとの同好会は彼方ちゃんにとってもう大事な失いたくない場所なんだよ」
そうか……やはり、俺が彼方を同好会に誘ったのは間違いじゃなかったんだ。
「でも遥ちゃんの幸せも守りたいの。そんなのワガママだよね」
「ワガママ」……この言葉は彼方が自分を責める時に良く使う言葉だ。
この言葉に対して、朝香が最適解を出してくれた。
「そうかしら?それってワガママじゃなくて自分に正直って言うんじゃない?」
朝香もつい先月までスクールアイドルをやりたいという気持ちを隠していた。だからこその言葉だろう。
その朝香の言葉にエマや上原がこう続ける。
「うん。自分に嘘ついてるよりずっといいと思うよ」
「きっと遥ちゃんも彼方さんの幸せを守りたいんだと思います」
そして、天王寺もこう言った。
「似た者姉妹だと思う」
「似た者姉妹?」
これに関しては俺も大分昔から気付いている。
しかし、彼方は分かってないみたいだな。
「だって二人とも言ってること一緒だよ?」
「そうですね。お二人とも全部自分一人で解決しようとしています」
宮下と中川の言う通りだ。
「でも遥ちゃんは彼方ちゃんが守らないと……」
そもそもその考え方が危ういんだよなぁ……。
遥ももう高校生なんだ。子供じゃない。
「彼方さん、遥ちゃんはもう守ってもらうだけの人じゃないと思う。だってそうじゃなきゃお姉さんのことを助けたいってあんなに真剣にならないよ」
高咲が彼方にそう言うと、彼方は少し考えるような仕草をしてからこう言った。
「何となく分かったような気がする」
そして、その場で立ち上がり彼方は決意する。
そのタイミングで俺も彼女達に声を掛けた。
「遥ちゃんにちゃんと伝えなきゃ!」
「それ、俺にも手伝わさせてくれよ」
それから一週間、俺達は色々と行動に移した。
まず、遥にバレないように東雲学院のスクールアイドル部へ連絡して、ヴィーナスフォートでのライブの前に少しだけ時間を貰い、彼方のライブを計画。
俺の前任の生徒会長であり、江東区長の娘でもある
俺はライブで披露する新曲の製作も担当。遥への謝罪の気持ちや彼方の思いなどを歌に乗せる為、歌詞は彼方と二人で「ああでもない」「こーでもない」と
ライブ衣装は彼方がデザインしたものを服飾同好会で作ってもらい、振り付けは朝香やエマ、高咲達にもアイデアを出してもらって完成させた。
身体の固い彼方でも優雅に踊れる振り付けになったと思う。
それらすべてが決まれば後はひたすら練習あるのみだ。彼方は勿論、家事やバイトもあるのだが、遥にサプライズをしたいという一心で練習に励んでいた。
遥の為とはいえ、遥の願いと若干反する行動を取ってしまったのは少し申し訳ないと感じたが……
遥に気取られる事なく、ライブ当日を迎えられたのは
「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のライブは14時半からになっております! その後すぐに東雲学院のライブも始まりますので、よろしければお立ち寄り下さーい。えっ? あっ、はい!もちろん無料ライブでございます!どうぞお楽しみ下さい!」
ライブ当日、俺はコンサートスタッフとして働いていた。
たまにヴィーナスフォートの買い物客から質問をされたりしながら、教会広場の
「なぁに?アイドルのライブ?」
「あっ、はい。虹ヶ咲学園に所属する高校生の一人がここでライブを行うんです。歌も振り付けも学園の生徒が自分達で考えたんですよ」
「あらそうなの!面白そうね。もうすぐ始まるみたいだし、私も見ていこうかしら」
「はい、是非!15時からはここで東雲学院のライブも行われますので、お時間が許すようであれば、そちらもご覧になっていって下さい」
「ありがとう。お兄さん」
「こちらこそ、ご興味持って頂いてありがとうございます」
そんな風にマダムをエスコートしていると、高咲が遥を連れて観客席の方へとやってきた。
「あの……何なんですか?」
遥が高咲にそう尋ねるが、高咲は何も答えず笑顔を見せ、次の瞬間……
「「「わぁ~!」」」
教会広場の扉が開き、彼方が
彼方は舞台上からすぐに遥の姿を見つけ、彼女へウィンクをした後、すぐに歌い始める。
Hey… Now listen! 初めてで一番の~♪
曲のタイトルは『Butterfly』。今までの彼方の人生で常に隣にいた遥の夢であるスクールアイドル。それをこれからも応援していきたいという思いと、姉妹でお互いにスクールアイドルとして羽ばたいて行こうというメッセージを込めた楽曲だ。「羽ばたき」というイメージから最初は「鳥」を連想したのだが、「鳥」では近江姉妹のイメージと少しかけ離れてしまうのではないかと感じた俺と彼方はそれぞれ「白鳥」と「蝶」を新たに連想し、それを振り付けなどに落とし込んでいる。
また、彼方は実は英語の成績がとても良いので今回は彼方と話し合って英語の歌詞も多めに取り入れた。
そして天王寺の助言もあり、曲のジャンルはスクールアイドルの楽曲としては珍しいFuture Bassに決まった。
初めてFuture Bassを作曲したが、上手く出来たと自負している。
────♪
信じて We can fly! ♪
彼方のライブは大成功に終わった。
ライブが終わってすぐに遥は舞台裏に駆け出して行く。彼方と話しに行くのだろう。
近くにいた俺には全く気付かなかったのが少し悲しいけれど……まぁいいか。あの姉妹の間に入るなんておこがましい真似は出来ない。
俺はコンサートスタッフの仕事に戻っていったのだった。
東雲学院のライブも終わって、俺がヴィーナスフォートから出ようとした時の事だ。
「輝助さん!」
名前を呼ばれ、振り向くとそこには遥がいた。
「おぉ、遥か。東雲学院のライブ良かったぞ。一年からあの東雲学院のセンターに選ばれるなんて凄いな」
「えっ……? あっ、ありがとうございます。それより……あの……」
俺が東雲学院のライブを見た率直な感想をそのまま遥に伝えると、遥は少し戸惑いながらお礼を述べた後、何かを言いたげに口ごもった。
「あの、輝助さん! ……ごめんなさい」
そして、俺に対して謝る。
おそらく一週間前に遥が怒った件だろう。
「あれは遥が謝るような事じゃない。俺が彼方をスクールアイドルに誘ったのに最近、自分の事を優先させて彼方の事をちゃんと見れてなかったから……俺が悪いよ」
俺がそう言うと、遥はこう返してきた。
「お姉ちゃんから聞きました。今日お姉ちゃんがライブで歌った曲は輝助さんが作曲したんですよね。私、あの曲の歌詞を聞いて気付いたんです。私もお姉ちゃんも似た者姉妹だってこと。それに輝助さんが自分の事を優先するのは卒業後の進路の為なんですから仕方ないです。私も東雲学院に入学する為に中三の一学期から勉強に専念してたんで分かります」
「そうか」
『butterfly』に込めたメッセージは無事、遥に伝わったようだ。
「遥も大人になったんだな……」
分かってるつもりではいたんだが、やはり心のどこかでまだ幼い妹のように遥を見ていたのだろう。
俺がふとそう呟くと、遥は「当たり前じゃないですか」とでも言いたげに胸を張る。
「私も高校生になったんですから! もう子供扱いはしないで下さいね♪」
そして、明るくそう言いながら遥はウインクをする。彼方が今日のライブで披露したウインクに似ていて「やはり姉妹だな」と感じた。
……遥のウインクに少し「ドキッ」としたのは内緒にしておこう。
読んで頂いてありがとうございます!
近江姉妹可愛すぎません? 4500文字と過去最長のボリュームになりましたが書いててめちゃくちゃ楽しかったです!
次回もお楽しみに!!