「久しぶりね、内村君」
「…………あぁ、久しぶりだな。
とある日の放課後。帰りの
俺は正直言うと、こいつは苦手だ。だから敢えて
「おかげさまでね。あなたが演劇部を続けていたらきっと私は部長にはなれなかったわ。辞めてくれてありがとう」
うぜぇ……
「で? 何しに来たんだよ」
俺はため息混じりにそう尋ねる。
「あら、久しぶりに顔を見に来ただけよ? しずくが良くあなたの事話してくれててね。それを聞いてたら私もまたあなたと話したくなったの」
「……真実を混ぜた嘘はバレにくいって良く聞くけど、お前は嘘が下手だな。そんなんで演劇部の部長が務まるのかよ?」
俺は彼女の真実と嘘を暴いた。
「桜坂が俺の事を話したのは真実だけど、お前が俺と話したくなったってのは嘘だろ」
すると、彼女は少し驚いた顔をした後、また澄まし顔に戻り、素直に俺を称賛した。
「さすがは天才子役ね。最近はドラマにもまた出始めたみたいだし、どう? 演劇部戻ってくる気はない?」
芸能事務所を立ち上げるっていう俺の夢を叶えるのに役立つかはわからないが、今の俺は演劇部に戻ってもいいかもと少し思ってはいる。
だが、それをこの部長に言うのは気が引ける為、俺は逡巡の末、こう口を開いた。
「それが本題か?」
そう聞くと、彼女は首を横に振った。
「いいえ。本題は別よ」
すると、彼女は一冊の台本をカバンの中から取り出して俺に見せる。
「この演目の主題歌をあなたに作曲して欲しくてね。お願い出来ないかしら?」
台本の表紙に書かれた演目の題名は『荒野の雨』。部長の話では次の藤黄学園との合同演劇祭で公演する部長オリジナル脚本の演目らしい。
ペラペラと軽く読ませてもらったが、良く書けてると思う。素直に褒めるのは
「主演はしずくで、スクールアイドルとして歌も歌って欲しいのよ。実は去年、藤黄学園の相川さんも合同演劇祭の演目の最後にソロ楽曲を歌ってね。面白そうだと思ったから今年はしずくにも同じ事をしてもらいたいの」
藤黄学園の相川涼。俺や彼方や
「そういう話はスクールアイドル同好会にしてこいよ? なんで俺に言うんだ?」
「だって、スクールアイドル同好会の曲を作曲してるのってあなたなんでしょ? しずくはあなたの作った曲を歌いたいと思ってるはずよ」
別に天王寺でも作曲は出来るだろ……。そうは思ったが、台本を読んでそれに合ったタイアップ曲を作るなら天王寺のボーカロイド風の曲よりも俺の作風のが合っているのは確かだ。
「わかった。曲作ってみるよ。この台本は貰っていいのか?」
「えぇ、元々あなたに渡す為に持って来たんだもの。じゃあ、お願いね」
「作詞はお前も手伝えよ」
「オッケー」
そう言って部長は俺の教室から去って行った。……気付いたら教室にはもう俺しか残っていなかった。
そして、俺は『荒野の雨』の主題歌として桜坂が歌う新曲の作曲を始めた。
作曲をしつつ、たまにドラマの撮影などで芸能界の仕事にも行きながら、高校最後の学園生活を日々送っている時、とある噂が俺の耳にも入ってくる。
「なんか、桜坂さん。合同演劇祭の主演下ろされちゃったらしいよ……」
「あーそれ、演劇部の友達に聞いた! なんか来週再オーディションがあるんだよね!?」
……何……だと……!?
俺はその噂話を聞いた瞬間、駆け出した。
向かった先は、演劇部部長の元だ。校内を探して、部室棟の屋上でやっと見つけた。
「あら、内村くん。どうしたの? 私今から部活なんだけど」
他の演劇部員はまだ来ていないらしい。部長と話すには好都合だ。
「桜坂が降板ってどういう事だよ!? 荒野の雨の主演はスクールアイドルの桜坂にしか出来ないってのはお前も分かってるだろ」
「えぇ、だから再オーディションではもちろんしずくを受からせる予定だわ。もし次のオーディションでもしずくが今と変わらないようであれば今年の演劇祭は他の演目って事になるけれど」
どういうことだ……?
俺の疑問は顔に出ていたのだろう。部長はこう続ける。
「今のしずくじゃ、駄目なのよ。もっと自分をさらけ出してもらわなきゃ……」
「だから、こんな面倒くさい手を取るってか?」
「ただ、教えるだけじゃこの問題は解決しないと思ったのよ。だって今のしずくを作ったのはあなたなんでしょう? こうでもしないと今のしずくを校正するのは難しいと判断したって事」
今の桜坂を作ったのが、俺?
彼女はまた俺の表情から心中を察したらしい。
「忘れてるみたいね。まぁ、片想いの思い出なんていつも一方的なものよね」
後半は声が小さくて何を言っているかわからなかった。
「とにかく、昔の演劇教室での事でも思い出しながら、あなたも色々考えたら?」
「どういう意味だ? お前は何を言っている!?」
俺がそう彼女に問うのと同時に屋上には他の演劇部員がゾロゾロとやって来た。
その中の一人には、合同演劇祭へ向けてスクールアイドル同好会ではなく演劇部メインで活動している桜坂の姿もあった。
「とにかく、作曲は続けてればいいんだな?」
「えぇ、お願い。無駄な努力にならないようにあなたも思い出しなさいよ」
やはり言っている意味をうまく理解出来なかったが、まぁ仕方ない。ここは一度帰るとしよう。
「先輩……?」
「桜坂。頑張れよ」
「……はい」
桜坂は少し元気がなさそうだった。
その後、俺は家へと戻り、幼い頃通っていた演劇教室の写真を眺めていた。
それと同時に桜坂と虹ヶ咲で初めて会った時の事を思い出す。
『……!? ……内村……輝助先輩……?』
『……? どうして俺の名前を……? どこかで会った事あったっけ?』
『あっ……すいません。覚えて……ないですよね。私、桜坂しずくと言います。輝助先輩とは以前、演劇教室で一緒だった事があります』
『あーそうだったか。ごめんな、あんまり覚えてねぇや……』
あの時の自己紹介が嘘とかじゃなければ、桜坂は俺と同じ演劇教室出身だったんだよな……写真にいるか?
…………あっ、居た。この娘か。
今の桜坂の雰囲気と全く同じなのですぐに気付いた。
写真で見つけた幼い頃の桜坂を数秒間くらい見ていると、なんとなくだが、演劇教室での彼女の事を思い出してきた。
『よぉ、桜坂!今日も早いな』
『先輩!おはようございます!今日は土曜日なんで早く来ちゃいました』
『しずくちゃんは本当に演劇が好きなのね』
『先輩のお母さん!いらして下さったんですか!』
『未来の名俳優と名女優を見るためにね』
『かの有名な主演女優賞受賞経験者のお母さんが見てくれるんですから、より一層頑張らないとですね!』
桜坂……桜坂しずく……そうだ!思い出した!
確かに桜坂は俺と同じ演劇教室の出身だ。俺や俺の両親に憧れを抱いていた二つ年下の女の子。
両親の離婚や母が死んだ時のショック、その後の虹ヶ咲での生徒会活動などですっかり思い出が色褪せてしまっていた。
そして俺は昔、彼女にしたアドバイスも同時に思い出す。
『自分をさらけ出せないなら、さらけ出せるようになるまで……その自信が持てるまでなりたい自分を演じればいい。俺もそうしてる。桜坂も演じるのは得意だろ?』
その俺のアドバイスが桜坂を縛る呪いのようになっていたのか……
同じアドバイスを中川にもした事があった。
あの時に感じた
同じアドバイスをした中川も、一度は
あの時高咲に任せっきりで何も出来なかった俺がリベンジを果たすべきは今なのではないか?
そう感じた俺は、桜坂が自分を隠そうとして被っている仮面の下の素顔を見るために、彼女と面と向かって話そうと決意した。
……なんて言葉を掛けてやればいいのかはまだわからないが、俺も高咲が中川を立ち直らせたように……桜坂を立ち直らせてみせる!
と、そんな風に思った次の日、桜坂に声を掛けようとしたのだが……
「おい、桜坂……」
「しず子、確保ー!」
俺の決意は中須によって出鼻を挫かれた……
読んで頂いてありがとうございました!
しずく回じゃなくて半分は部長回って感じになりましたけど(笑)
次回もお楽しみに!!