虹の花咲くその日まで   作:T oga

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このアニガサキ8話相当のお話は彼方ちゃん回と同じく前編、後編と分ける2話構成を予定していたのですが……

すみません!! 後編めちゃくちゃ長くなりそうなので分割します!!

という事で今回はアニガサキ8話相当の中編って事になります。では、どうぞ




32話 黒い雫

「しず子、確保ー!」

「か、かすみさん……!?」

 

 俺が桜坂に声を掛けるより先に中須が桜坂に声を掛けた。中須の後ろから天王寺もやってくる。

 

 桜坂は急に声を掛けられて、中須と天王寺に囲まれた為、困惑の声を上げた。

 

「なに……?」

「りな子!」

「ラジャー」

 

 中須が天王寺の名を呼ぶと天王寺が鞄から何かを取り出す。

 

「璃奈ちゃんボード、拘束!」

「ちょっと! これじゃ、前が……」

 

 璃奈ちゃんボードとは、天王寺が感情表現をする時に使うものだ。スケッチブックにピンクのペンで色々な表情の天王寺の顔が書かれており、その一枚を選んで顔の前に掲げる事で感情を表現出来るようになっている。

 

 ジョイポリスでのライブの後から天王寺はこの璃奈ちゃんボードを使い始めたのだが、まさかこんな使い方もあるとは……

 

 天王寺は桜坂の後ろから璃奈ちゃんボードを桜坂の顔に被せ、彼女の視界を奪ったのだ。

 

 ご丁寧に今回の璃奈ちゃんボードには目が「×」になっている桜坂の顔がブラウンのペンで描かれている。

 

「それじゃあ、出発ー!!」

「オー!」

「え、えぇー!?」

 

 こうして、桜坂が中須と天王寺に誘拐された……

 

「……何だ、これ? ……いや、それより追わなきゃ……!」

 

 俺は目の前で起こった一年生組の謎のやり取りに少し唖然としたが、すぐ我に戻って、彼女達を追いかけ始めた。

 

 

「かすみさん! 璃奈さん! 何なの、一体?」

「最近のしずくちゃん、(こん)を詰めすぎだと思ったから……」

「気分転換に一緒に遊びに行こっ!!」

「えっ……? でも、私演劇の練習しなくちゃだし……」

「たまにはいいじゃん! 付き合ってよ!」

「……はぁ、わかった。行くから「拘束」はやめて……」

 

 そう話しながら、どこかへと向かう彼女達を尾行していると今度は俺が後ろからふいに声を掛けられた。

 

「ねぇ、侑ちゃん。あれ、内村先輩じゃない?」

「ホントだ。あの、何してるんですか?」

 

 声を掛けてきたのは上原と高咲だ。

 

「いや、えっと……」

 

 なんて答えればいいのか迷っていると、上原と高咲は俺の目線の先にいる一年生組を見て、こう言った。

 

「あれは……かすみちゃん達だ」

「…………もしかして、ストーカーですか?」

「違うわ!」

 

 上原が疑惑の目を向けてきたが、断じてストーカーなどではない。俺は少し強めに否定したが、客観的に見ると確かにストーカーのようだったかもしれない。今は反省している。

 

「かすみちゃんと璃奈ちゃん、今日は早めに練習終わりたいって言ってたけど、しずくちゃんと遊びに行くからだったんだね~」

「しずくちゃんは演劇祭の主演に決まって忙しいだろうし、遊べる時に遊びたいんだと思うよ。侑ちゃんだって中学生の頃、私が合唱コンクールの練習で居残りしてた時、遊べる時間減って悲しいねって言ってたでしょ?」

「懐かしい~。そんな事もあったね」

 

 高咲と上原は俺を蚊帳の外にして、そんな風に話し始める。

 

 その会話を横で聞いていて、俺は少し疑問に思った。

 

「ん? 高咲と上原は桜坂が降板されちまったの知らないのか?」

「えっ……? 降板ってどういう事ですか!?」

「おい、高咲! 声大きい!」

 

 俺は桜坂達に声が聞こえたのではないかと思い、慌てて高咲の声の大きさを注意したが……

 

「もうしずくちゃん達、居なくなっちゃってますよ?」

 

 上原のその言葉の後、周囲を確認してみると、もう桜坂達はどこかへ行ってしまっていたようだった。

 

「マジか……まぁ、仕方ない。桜坂と話すのはまた明日にしよう」

「それで、降板ってどういう事なんですか?」

「あぁ、実はな……」

 

 高咲に質問されて、俺は桜坂が降板となった経緯を説明した。演目についてや部長が再オーディションで桜坂を取る予定にしている事なども話すと色々混乱してしまうと思うので、噂になっている「桜坂が自分をさらけ出せないという理由で演劇祭の主演が降板になって、来週再オーディションがある」という状況だけを二人に話す。

 

 その話を聞いた高咲と上原は……

 

「かすみちゃん達は多分それを知って、元気付ける為にしずくちゃんを遊びに誘ったんだろうね」

「うん。侑ちゃんの思ってる通りだと思うよ」

 

 そう答えた。

 

「俺もなんとか出来ないかと思って、桜坂に話し掛けようと思ったんだが、中須に先を越されちまってな……」

「それでストーカーを……」

「だから、違うって……」

「まぁ、この問題はかすみちゃん達に任せておくのが一番かもね」

 

 また俺をストーカー扱いする上原がそう言ったが……

 

「でも、私達にも何か出来ないかな……」

 

 高咲は何かしら手伝いをしたいらしい。

 

「じゃあ、侑ちゃん。私達は私達で何か出来ないか考えてみる?」

「うん。みんなにも話してアイデアもらおう!内村先輩も協力して下さいよ!」

「うーん。まぁ、一人で話してもどう元気づければいいかわからなかったしな。わかった。俺も協力するよ」

 

 という事で俺もスクールアイドル同好会と協力して、桜坂を元気づける為、何か出来ないか考える事にした。

 

 

 そして、次の日の放課後。中須と天王寺は今日も桜坂と遊びに行くらしいので、俺を含む残りの同好会メンバーは部室でどうすれば桜坂を元気づけられるか話し合った。

 

 その結果──

 

「手作りプレゼントはどうでしょう!」

 

 そのせつ菜の言葉で同好会の皆は桜坂へ手作りのプレゼントを送る事に決めた。

 

 何を送るかで色々悩んだが、エマがアイデアを出してくれた演劇の衣装に合う装飾品という形で結論が出た。

 

 演劇の衣装は俺も見た事があるので知っているし、服飾同好会に行けば実物も見せてもらえるからな。

 

 

 作るものが決まると早速、その装飾品の材料集めの為にヴィーナスフォートへと向かう事となった。

 

 話し合いの結果、出来るだけ早めに作った方がいいだろうと決まり、俺は材料集めの荷物持ちに駆り出されたのだ。久しぶりに芸能関係の仕事が休みだと思ったらこれだよ……

 

「えっと買う物は……」

「侑ちゃん、エマさんと彼方さんから買い物リスト貰ってきてるよ。はいこれ」

「さすが歩夢さんですね。それでは輝助先輩は荷物持ちお願いします」

「了解」

 

 俺とともに買い物にやって来たのは高咲と上原、そしてせつ菜だ。他の同好会メンバーは服飾同好会などと一緒に布から自作出来るものを製作しているらしい。

 

 あまり裁縫には詳しくないので、ここは大人しく女性陣におまかせして、俺は力仕事に徹底しよう。

 

 


 

 

 そうして買い物も終わり、ヴィーナスフォートから虹ヶ咲学園へ帰ろうとした途中、俺達は中須と天王寺を見つけた。

 

「かすみちゃん!璃奈ちゃん! しずくちゃんと一緒じゃなかったの?」

「侑先輩……皆さん……聞いて下さい……!」

 

 中須は俺達に数分前くらいの出来事を話してくれた。

 

 桜坂と別れたきっかけは中須のとある台詞からだったようだ。

 

『今日は嫌なこと全部忘れてパーッと遊ぼ!それで元気出たらオーディション頑張って主役取り返そう!』

『知ってたんだ……』

『うん。でも別に内緒にしなくてもいいじゃん。私たち応援するし。それにもししず子が落ち込んでるなら話を聞くぐらい……』

 

 そんな中須のフォローに対して桜坂はぎこちなく笑ってこう言ったらしい

 

『大丈夫。心配しないで。私は平気だから。2人ともありがとう。……今日はもう帰らなきゃ。じゃあね』

 

 

「それで、しず子一人で向こうに歩いて行っちゃって……追いかけようにもなんて言えばいいのか分からなくなっちゃって……」

「そうか……」

 

 中須は少し悔しそうな、泣きそうな震えた声をしていた。

 

「「心配しないで」って言ってたみたいだけど、それは絶対平気じゃないよね……」

「だよね。歩夢の言う通りだと思う」

「はい。私もそう思います! しずくさんも私と一緒で……」

「あぁ、せつ菜と一緒で何か悩むと抱え込んじまうタイプなんだろうな」

「はい……」

 

 話を聞いた俺達は桜坂が悩みを抱え込んでしまっているのだと改めて気付いた。

 

「……うーん。しずくちゃんが歩いていったのは向こうだよね?」

「えっ、はい。そうですけど……」

 

 中須に確認を取ると高咲は走り出す。それを歩夢が止めたが……

 

「侑ちゃん、追いかけていってどうするの?」

「わかんない!でもとりあえず、しずくちゃんからちゃんと話を聞いた方がいいと思う!」

 

 高咲はそう言って考えなしにまた駆け出してしまう。

 

「おい、高咲!」

 

 俺もそんな高咲を追って走り出した。

 

 

 

 そして、俺と高咲は道端で座り込み泣いている桜坂を見つけたのだが……

 

「見つけた!しずくちゃん!」

「大丈夫か、桜坂」

「……あっ、侑先輩と内村先輩……。えっと……ちょっと目にゴミが入っただけで……全然大丈夫ですよ」

 

 そう言って桜坂は立ち上がり、置いてあったタピオカミルクティーを無造作に取った。

 乱暴な取り方になってしまった為、プラカップを握ったところが少し変形してしまい、中身も少し(こぼ)れてしまう。

 

「い、急いでるので、もう帰りますね」

「え、待っ……」

 

 高咲の制止も聞かず、早足で去っていく桜坂の後ろ姿を俺はどこか歪な形に空目した。心の中の不安や悲しみが身体の外へ(こぼ)れているようにも見える。

 

 

 それはまるで変形したプラカップから零れるタピオカミルクティーのようであった……

 

 




読んで頂いてありがとうございます!

とりあえずここまでです。この先は考えてあるんですがまだ全然書けていないので書き終わり次第投稿という形になります。

次回まで気長にお待ち下さい。
感想等頂けるととても嬉しいです!

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