虹の花咲くその日まで   作:T oga

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今回のサブタイトルはりなりー回で使うかしずく回で使うかめちゃくちゃ迷って結局お蔵入りにしたんですけど、しずく回が全3話になってしまったので急遽引っ張り出してきました(笑)

それでは、しずくが自分の鏡を壊すその瞬間をどうぞご覧下さい!!



33話 BROKEN MIRROR

 あなたの理想のヒロイン~♪

 いつの日にかなれますように~♪

 

 日も落ちて月が満ちる夜、俺は家で以前撮った桜坂のPVを見ながら、今日あった出来事を思い返していた。

 

『……あっ、侑先輩と内村先輩……。えっと……ちょっと目にゴミが入っただけで……全然大丈夫ですよ』

 

『い、急いでるので、もう帰りますね』

 

 あの時の桜坂はすごく苦しそうな顔をしていた。あれは自分の演技に自信が持てず、悩んでいる顔だ。

 幼少期から長年舞台に身を置いていた俺はあんな風に悩んでいる俳優や女優を色々見てきた……

 

『歌も、ダンスも、演劇も……すべてやめてやる!』

 

 かつて俺も似たような経験をした事がある。俺の場合は母が死んで演劇をやる事に意味を見出だせなくなったのが原因だが、今回の桜坂も同じように悩んでいるのだろう。

 

『全然大丈夫』と桜坂はそう言ったが……

 

「大丈夫な訳ないんだよなぁ……」

 

 俺はそう一人でに呟く。

 

 

『大丈夫、お兄ちゃん?』

『あ、あぁ……大丈夫』

 

 つい先日、俺も遥に怒られた後、公園で遊んでいた子供に『大丈夫か』と問われ、思わず『大丈夫』だと返してしまったが、もちろん大丈夫などではなかった。

 足取りもフラついて、後悔の念で頭がいっぱいだった。

 

 

 桜坂の苦しみは理解出来る。俺は母が死んだ時も、先日の遥が怒った時も時間はかかったが自分の心の中で解決する事が出来た。

 

 桜坂も時間を掛ければ、きっと自分で答えを見出だせるはずだ。しかし今はオーディションまで時間がない。

 

「どうすれば……」

 

 考えるが結局答えは出て来ず、俺は悟る。

 

「やっぱり、俺は……」

 

 


 

 

 次の日──

 

 藤黄学園との合同演劇祭が二週間後に迫ってきているという事もあり、少し長めの職員会議が行われ、今日は午前授業となった。

 

 俺は食堂で昼食を済ませた後、桜坂を探して一年生の教室がある東棟の三階を歩き回っていた。

 

 すると、他の教室から中須の声が聞こえてくる。

 

「見つけた!」

 

 おそらく中須も桜坂を探していたのだろう。俺より先に中須が桜坂を見つけたようだ。

 

 中須の声が聞こえてきた方向へ歩いていくと、とある教室で中須と桜坂が話しているのが聞こえてきた。

 

「かすみさん……? ど、どうしたの?」

「どうって、そりゃ……。昨日、変な感じで別れちゃったじゃん? だから、どうしてるかなって……」

 

 中須がそう聞くと、桜坂はこう答える。

 

「ごめんね心配かけて。でも私は本当に大丈夫」

 

 また「大丈夫」。そう言った。ここから桜坂の表情は見えないが、どうせまた作り笑いでもしてるんだろう。

 

「オーディションだって……」

 

 桜坂の言葉を遮って、中須が彼女の両頬……いや耳か? まぁどちらでもいいけれど……

 

 とにかく中須は桜坂の両頬へと手を添え、彼女の顔を自分の顔の前へと持ってきて、ジーっと観察し、こう告げる。

 

「目ちょっと腫れてるよ?」

 

 ……そうか、桜坂は泣いていたのか。

 

「しず子が頑固キャラだってことはよーく分かったよ。でも……」

 

 中須は少しためてから大きな声で桜坂へ次の言葉を届ける。

 

「そんな顔で必死に隠そうとしないでよ!私としず子の仲でしょ!?」

 

 それを聞いた桜坂はついに自分の思いの丈を打ち明け始めた。

 

「今度の役ね。自分をさらけ出さなきゃいけないんだって……でも、私にはできない。私、小さい頃からずっと昔の映画や小説が好きだったの。でもそんな子は私しかいなかったから……不安だった。誰かに「変なの」って顔される度、「嫌われたらどうしよう?」って。そのうち他のことでも人から「違うな」って思われることが怖くなって……」

 

 ……これは俺が昔、こども演劇教室で一緒だった頃、桜坂から相談された内容だ。

 

『桜坂、何かあったのか? なんか演技に集中出来てなかったみたいだけど?』

『えっと……あの……私、昔の映画とか小説とかが大好きなんです』

『うん。知ってる』

『でも!周りにはそんな子居なくって……誰かに変な子だって思われたくない……違うなって思われるのが怖い……友達に嫌われるのが……怖いんです』

『えっと……自分をさらけ出すのが怖いって事か?』

『はい……』

『じゃあさ……自分をさらけ出せないなら、さらけ出せるようになるまで……その自信が持てるまでなりたい自分を演じればいい。俺もそうしてる。桜坂も演じるのは得意だろ?』

『えっ……?』

 

 そのアドバイスの結果が……これだ。

 

「だから演技を始めたの。みんなに好かれるいい子のフリを……そしたら、楽になれた」

「しず子……?」

「私、やっぱり自分をさらけ出せない。それが役者にもスクールアイドルにも必要なら……」

 

 桜坂の声がどんどん大きくなっていく。

 

「私はどっちにもなれないよ!!」

 

 それは桜坂の悲痛の叫びだ。

 

「表現なんてできない……嫌われるのは、怖いよ……」

 

 ……「すまない」。俺にはそんな言葉しか思い付かなかった。しかし、中須は違った。

 

「なに……甘っちょろいこと言ってんだぁぁ!!」

 

 中須がそう言って、桜坂に殴りかかろうとする。……って、おい! スクールアイドルなんだから、顔は……

 

 そう思ったが、やはりそこはアイドル。

 

「わっ!」

 

 寸止めからのデコピンであった。

 

「嫌われるかもしれないからなんだ!かすみんだってこーんなに可愛いのに褒めてくれない人がたくさんいるんだよ!?」

「はぁ?」

「しず子だってかすみんのこと可愛いって言ってくれたことないよね!?」

 

 ないのか……ってか、その話、関係あるのか?

 

「しず子はどう思ってるの!?」

「えっ……!? えーっと……」

 

 桜坂の顔はやはりこの位置からは見えないが、おそらく困惑しているのだろう。俺もそうだ。

 

「可愛い!? 可愛くない!?」

「か、可愛いんじゃないかな?」

「ほら、言ってくれたじゃん!」

 

 いや、疑問系だったぞ? それでいいのか?

 

「しず子も出してみなよ!意外と頑固なところも意地っ張りなところも本当は自信がないところも全部!」

 

 あぁ、そういう風に話が繋がるのか……いや、繋がってるのか? まぁ、いいや……

 

「それ褒めてない……」

 

 言われてみれば確かにそうだな。頑固も意地っ張りも自信がないも、どちらかと言えば悪口なような……

 

 と、中須の説得方法に少しツッコミを入れていた時だった。

 

 

「もしかしたらしず子のこと好きじゃないって言う人もいるかもしれないけど、私は桜坂しずくのこと大好きだから!」

 

 

 ふいに放たれた告白。それは桜坂の心の鏡を思いっきり叩き割る。まさに雷鳴のような言葉だった。自分の弱さもすべて受け入れてくれる存在がいる。その心強さは何物にも勝るモノだ。

 

 

 中須が少し動いた事により、ここから一瞬だけ見る事が出来た桜坂の瞳には光が戻っていた。

 

 そんな桜坂に気付いていない様子の中須は腕を組みながら、こう続けるが……

 

「だから心配しなくても……っ///」

 

 言いながら桜坂の方を見て、自分が勢いでした告白に気付いたのだろう。急に照れ始めた中須はこう言った。

 

「……か"え"る"!! かすみんにここまで言わせたんだから絶対に再オーディション合格してよねっ!!」

 

 そして、そのまま照れながら教室を飛び出したのだった。

 

「あははっ、あはははっ!」

 

 教室の中からは桜坂の笑い声が聞こえてくる。

 

「くっ、あははははっ!!」

 

 俺もつられて笑い出してしまった。

 

 

 教室から飛び出してきた中須はそのまま走り去ろうとするが、もちろんこのまま帰す訳ないだろう。

 

 俺は中須にこう声を掛けた。

 

「中須、お前……めちゃくちゃいい女だな」

「げぇっ!コースケせんぱいっ!? 聞いてたんですか!?」

「「私は桜坂しずくのこと大好きだから」って……大胆な告白だな。いつもの「かすみん」って一人称じゃなくって、私ってところが特に良かったと思うぞ」

 

 俺は笑いながら中須をそう褒める。

 

「はわわわわ……!コースケせんぱい!これはかすみんとコースケせんぱいだけの秘密ですからねっ!」

「ごめん、それ無理」

「えぇー!! なんでですかぁ!?」

 

 なんでって、そりゃあ……

 

「かすみさん……?先輩……?」

「すまん、桜坂。立ち聞きするつもりはなかったんだが……」

「……っ!?///」

 

 後ろにいる桜坂に気づいた中須は赤面して(うつむ)いた。本当に可愛いやつだよ。

 

「顔、赤いよ?かすみさん」

「もう!見ないで、しず子~!!」

「さっき目が腫れてるのを見られた仕返し~!」

「しず子のバカぁぁ……」

 

 可愛いやり取りを続ける二人を少し見守った後、俺は桜坂に声を掛ける。

 

「あのな、桜坂」

「……? はい。何でしょう、先輩?」

「実は俺……演劇部の部長から『荒野の雨』の主題歌を作ってくれって依頼受けてんだよ。お前が歌うつもりで曲作ってるから絶対オーディション受かってくれよ? じゃないと、俺も困る」

 

 俺がそう言うと、桜坂は一瞬だけ目をキョトンとさせた後、笑い出しながら了承した。

 

「ふふふっ、わかりました。かすみさんの為にも、先輩の為にも、落ちるわけにはいきませんね」

「あぁ、あと……」

「はい……?」

「……いや、何でもない。これはお前がオーディションに受かってから言うよ」

「えー、何です? 気になるじゃないですか~!?」

 

 そう俺に問いながら、明るく笑う桜坂。

 

「もう本当に大丈夫そうだな」

「あっ……はい。その……ご心配をお掛けしました……」

「もうホントだよ。しず子の頑固者!」

「ほら、やっぱり褒めてないじゃん!!」

 

 中須の放った雷鳴は、桜坂の胸に鳴り響いたはずだ。

 彼女の閉ざされた心は溢れ出ることだろう。

 

 


 

 

「オーディション合格おめでとう!!」

 

 オーディションは無事桜坂が主演を取り戻し、俺も演劇部の部長と話し合って『荒野の雨』に出演する事が決まった。

 

 ちなみに桜坂がオーディションに受かってから言おうと思っていたのはこの事だ。元々、部長から誘われており、少し迷っていたのだが、中須の言葉を聞いて俺も頑張らなきゃと力を貰えた気がする。

 

 そして、桜坂がオーディションに受かった後、渡そうと思っていた物もある。それは……

 

「はい!しずくちゃん」

「えっと、侑先輩? これは……?」

「開けてみて?」

 

 同好会の皆で作った、荒野の雨の主役衣装に合わせる装飾品だ。

 

「わぁ~! これ皆さんが!?」

「うん。私達もしずくちゃんに何か出来ないかなって思って色々考えて……」

「それで手作りのプレゼントを演劇の衣装に合わせるのはどうかって話し合いで決まったんだよ。これも桜坂がオーディションで主演を取り戻してくれないと渡せなかったからな」

「ありがとうございます! 舞台で絶対使わせてもらいます!!」

 

 それからは特に何事もなく、準備や練習も順調に進み、開かれた藤黄学園との合同演劇祭は大成功で幕を閉じた。

 

 

 そして、今回の件で俺は思った。

 

 やはり、俺に出来るのは作曲と芝居だけだという事を……

 

 女子高生の気持ちを理解して適切なアドバイスを送るなんて、そんな高度な芸当は俺には身に余る生業であって、どれだけ必死にやろうと思っても出来る訳がなかったんだ。

 

 高咲には高咲の、中須には中須の、そして桜坂には桜坂の、それぞれ出来る事と出来ない事……個性がある。

 

 そう思うと、俺の心はなんとなく軽くなった。

 

 これからは無理せず、自分の出来る事をやっていこう!

 

 一歩一歩、夢へ向かって……

 

 




読んで頂いてありがとうございます!!

やっぱしずかす最高ですね。ここに割り込むのはさすがの輝助でも無理ですわ(笑)

なんなら今回のしずくの問題は輝助のせいと言っても過言ではない……


ちなみに私はアニガサキ8話の劇中劇になります『荒野の雨』も執筆しております。もしよろしければこちらもご覧下さい!
https://syosetu.org/novel/243180/

感想等もお待ちしております! 次回もお楽しみに!!

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