後編は次話以降への伏線を少し張っています
「決めました!私のスクールアイドルとしての名前は『優木せつ菜』にします!!」
いつもの夏休みの特訓期間中、学園に来るなり中川はそう言った。
「おぉ、ついに決まったのか。あのラノベから取ったんだな」
「はい!」
中川の好きなライトノベルの登場キャラに『ユウキ』と『セツナ』が出てくる。そこから取った名前だというのはすぐに分かった。
「貸してくれたあのラノベ。面白かったよ」
「本当ですか!?」
「あぁ、お約束のご都合展開が多いけど、むしろそれがいい!っていうか……そうそう!それそれ!って感じのシーンが多くてめちゃくちゃ読んでて楽しかったぜ」
「えぇ!そうですよね!!こうなったらいいのに、って思ったところでその通りに進んでくれるのが読んでてすごく気持ちいいんですよ!!」
「でもなんでユウキはあんな無茶ばっかするんだろうな?セツナもちゃんと止めてやればいいのにさ」
「それに関しては二人ともそうする理由があるんです!」
「そうなのか!?」
「はい!内村先輩、まだ一巻しか読んでないですよね?それ以降の巻もお渡ししますよ?」
「あぁ、それは大丈夫。昨日、続きが気になって自分で買いに行って全巻揃えたんだよ。とりあえず二巻まで読んだぜ」
「そうなんですか!?嬉しいです!三巻以降も是非!」
「ああ、帰ったら読むよ。あっ、それと二巻の中盤くらいでさ……」
そんな感じで永遠に続きそうな俺と中川のラノベ談義は神枝先輩が次のように注意するまで止まらなかった。
「お二人とも、今日は何のために音楽室に集まったのでしたっけ?」
「「あっ……」」
そう。今日は屋上での柔軟でもなければ、ダンスレッスンでもない。録音室での歌のレッスンでもなければ、学園の外周の走りこみでもない。
中川の……優木せつ菜のソロ曲を製作するため、音楽室に集まったのだ。
勿論、音楽室の許可は取ってある。俺が生徒会長だ。
「そうでした!」
中川は俺が生徒会長だと言う事実を忘れていて、そう言ったのではない。神枝先輩の注意を受けて、今日の目的を思い出してそう言ったのだ。
中川は持ってきたカバンの中からノートを取り出し、俺に見せてくれた。
「どうぞ!内村先輩!!」
「これが昨日言ってたやつか。少し見させてもらうぞ……」
中川からノートを受け取って、ページを開く。
『走り出した 思いは強くするよ
悩んだら 君の手を握ろう』
書いてあるのは、曲の歌詞だ。
おそらくラスサビまですべての歌詞を考えて書いてきたのだろう。ノートのページが文字で埋めつくされていた。
その歌詞を読み終えた後、俺は素直な感想を漏らす。
「いい歌詞だな。曲のイメージは出来てるのか?」
「はい!結構力作なんです!! 歌ってみてもいいですか!?」
「頼む」
すると中川は気分良く、アカペラで自分の書いた歌詞を曲にして歌って見せた。
「走~り出した~、思いは強くす~るよ~♪
な~やんだら~、君の手をに~ぎろ~♪」
なんとなくイメージ通りの曲調だ。
中川の好きなアニソンっぽさがある。分かりやすくて助かるよ。
俺はピアノの前に座り、今中川が歌った曲調で音階を作る。
『ドミ~レシドシ~、ミミミファソシミ~ファラ~♪
ミ~レシドシ~、ミミミファソシミ~ファミ~♪』
とりあえず近いであろう音に当てはめてみただけだが……
「どうだ……?」
俺がそう聞くと、中川は目を輝かせ、神枝先輩も感心したように口を開いた。
「そうです!そんな感じです!!」
「すごいですわね、会長。もしかして絶対音感とか持っていらしたりするんですの?」
「絶対音感なんかないですよ。なんとなくで弾いただけです」
「それでもすごいですよ!!」
中川は大分興奮しているようだ。
「まぁ、んじゃ細かい調整は後回しにして……こんな感じで作ってくか」
「はい!!」
こうして、優木せつ菜のソロ曲は完成した。
それとともに夏休みも終わった。
宿題は……完璧だ。
始業式当日の朝、いつもの時間に家を出ると、外で彼方が俺を待ってくれていた。
「こーちゃん、おはよ~」
「おはよう、彼方」
「今日からまたお願いね~。運転手さん」
「……だから、二人乗りは違反だって……」
「いいから!れっつご~!」
いつものやり取りを終え、自転車に乗って走り出す。
少し走ると後ろから彼方が喋りかけてきた。
「ねぇ、こーちゃん」
「ん?なんだよ、彼方」
「夏休みは~結局生徒会ばっかりだったの~?」
「あぁ、まぁ……そうだな」
中川はスクールアイドルをする事を親や友達などに隠したいらしく、俺も神枝先輩も誰にも言わないという約束を守りながら手伝っている。
遥には少しだけ話してしまったが、同じ学園に通う彼方に話してそこから他の人へ噂が広まってしまうのはあまりよろしくないだろう。
彼方は口が固い方だから大丈夫だとは思うけれど、中川の気持ちを考えれば言わぬが花だ。
「彼方は夏休み中ずっとバイトしてたのか?」
俺は話題を変える意図も含めて彼方にそう聞き返す。
「「ずっと」ってわけじゃないよ~。お盆はおばあちゃんのお墓参りとか行ったし~、遥ちゃんとも一緒に遊んだのです!」
「いや、遥の受験勉強の邪魔すんなよ」
「遥ちゃんが「いいよ」って言ったからいいんだも~ん」
言った後に気付いたが、そういう俺も神枝先輩の大学受験の邪魔をしてしまっているのかもしれない。
神枝先輩は高校三年。大学受験の年だ。
もし、邪魔をしてしまっているなら申し訳ないな。今日の生徒会で確認して謝っておこう。今後どうするかも考えなきゃな……。
そんな風に心の中で思っていると、彼方は少し真剣な声で俺にこう尋ねた。
「あのね、もし言いたくなかったら答えなくてもいいんだけど……こーちゃんもお墓参り行ったんだよね……?」
「まぁ、そりゃ……一周忌だしな……法要もちゃんと行ったよ……」
「そっか……」
その日の朝はそのまま会話もなく、静かな登校となった。……あぁ、静かではあったが、別に彼方が自転車の後ろで寝ていたとかそういう訳じゃないから、そこは心配はしなくていいぞ。
始業式は問題なく順調に進み、式が終わった後、俺はいつものように生徒会室に足を運んだ。
他の学校も同じだと思うが、始業式後に授業はない。
その為、いつもの放課後と同じ行動ではあるもののどこか新鮮味を覚える微妙な感覚もあった。
だからだろうか? いつもは俺が生徒会室に一番早くやってくるのに、今回は違ったのだ。
「あれ?」
「あら、内村君。職員室に何のよう?」
「生徒会室の鍵を取りに伺わせて頂いたのですが、ないようでして……」
そう。いつもはある生徒会室の鍵が職員室に無かったのだ。
疑問に思っていると、先生がこう言った。
「あぁ、それなら神枝さんが持っていったわ。分かるとは思うけど、双子の妹さんじゃなくてお姉さんの方の神枝さんね」
「そうでしたか。ありがとうございます」
どうやら生徒会室の鍵は神枝先輩が持っていったらしい。神枝先輩が一足早かったようだ。
ちなみに神枝先輩には
「失礼しました」
そう言い、礼をして、職員室を出た俺の携帯電話に一通のラインが届いた。
『お疲れ様です、内村会長。本日は生徒会室にいらっしゃらないのでしょうか?』
神枝先輩からだ。
『いえ、神枝先輩が鍵を持っていった事を知らなかったので生徒会室に行く前に鍵を取りに職員室に寄ったんです。今から向かいますよ』
そう返すとすぐに返事が来た。少し遅れて二通届く。
『そうでしたか』
『内村会長にお話したい事があります』
『生徒会室でお待ちしております』
話したい事?
……もしかして中川の事だろうか?
『わかりました。すぐ向かいます』
俺はそのようなラインを返して、少し早足で生徒会室へと向かった。
その日が神枝副会長との最後のやり取りになるとも知らずに……
読んで頂いてありがとうございます!
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仕事始まって投稿頻度も落ちていくかもしれませんが、頑張って書きますので感想等お待ちしております!!