後期生徒会役員選挙の選挙期間が始まった。
勿論、俺は生徒会長に立候補しようと思っていたのだが……
「は?」
は?
「……はぁ?」
出した声と心の中の声、合計で三回も「は?」と言ってしまった。
……あっ、今ので四回目だ。
目の前にあるのは生徒会に提出された後期生徒会役員立候補用紙の一つ
役職欄の『会長』と書かれた部分に丸をつけられた立候補用紙である。
ちなみに俺はまだ立候補用紙を出していない。
つまり、俺より先に会長に立候補した者がいるという事だ。
その立候補用紙に書かれている生徒の名前は……
「な~か~が~わ~!? あいつ何考えてやがる!!?」
──『中川菜々』だった。
数日前──
「生徒会……ですか?」
「あぁ」
部室棟の屋上で柔軟体操をしていた中川をベンチに座りながら見ていた俺は彼女に提案する。
「確か、お前の親はめちゃくちゃ厳しくてアニメもスクールアイドルも禁止されてるって言ってたよな」
「えぇ……はい」
柔軟体操をしながら中川は返事をした。俺もこう続ける。
「生徒会に入れば、スクールアイドルの練習で帰るのが遅くなっても怪しまれないだろ? だから後期から生徒会に入ってみたらいいんじゃね?って思ったんだが……」
「ああっ!! そういうことですか! 確かにそれはいい考えかもしれません!!」
俺の話を最後まで聞いた中川は興奮して立ち上がった。
「まぁ……勿論、生徒会の仕事もちゃんとしてもらわなきゃいけないけどな」
「大丈夫です!望むところですよ!」
「よし!んじゃ、そういう事で。今日のダンスレッスンも気ぃ引き締めて行くぞ!」
「はい!頑張ります!」
確かに俺は「生徒会に入ってみればどうだ?」とは言ったが「会長になれ」なんて一言も言っていない。
一体、中川は何を考えているんだか……
そんな事を考えている時、当の本人が生徒会室に現れた。いつものダンスレッスンの為だろう。
「失礼します!内村会長いらっしゃいますか!?」
「来たか、中川……入れ!」
「はい!」
生徒会室の扉が開いて、中川が入ってくる。
「えっと……内村先輩……? どうしたんですか……? 何か、顔怖くないですか……?」
「いや、そんな事ないぞ」
「嘘ですよね……」
「まぁ、とにかく今日はちょっと話がある」
中川は何故か怯えているように見える。
別に怒ってる訳ではないんだが……
「えっと……なん、でしょう?」
生徒会長席の前まで来た中川は歯切れ悪くそう尋ねてくる。
「これだ」
俺は中川が提出した生徒会役員立候補用紙を彼女に見せる。
すると中川は合点がいった、とでも言いたげな表情に変わり、警戒を解いた。
「あぁ、これは内村先輩に言われたからですよ」
「俺は「生徒会に入ってみたらどうだ?」とは言ったが「会長になれ」なんて言ってないぞ?」
「確かにそうですけど、折角生徒会に入るなら会長やりたいじゃないですか!」
そうかぁ……? 俺は会長なんて責任重大な役職出来ればやりたくないんだが……
じゃあ、なんでやってるんだ?って言われるかもしれないが、まぁ色々あったんだよ……。後期の生徒会長に立候補しようとした理由も俺しかやるやつがいないって思ってたからだ。
まぁでも実際、俺が今の虹ヶ咲で一番生徒会長に向いていると思う。
「私が会長じゃダメなんですか?」
「一年から会長ってのは難しいんじゃないか?」
「内村先輩も去年の後期から会長やってるって聞きましたよ! 内村先輩は出来たんですから、難しいってことはないと思います!」
いや、それは事情があって……ってその話をしたところで中川とは何の関係もない話だしな……
「会長やりながらスクールアイドルってのは無理あるだろ……?」
「大丈夫です!やれます!!」
自分で言っておいてアレだが、
だけどなぁ……。中川が生徒会長ってのがものすごく不安に感じるんだよなぁ……
「本当に中川に出来るのか……?」
「出来ますよ! 中学の頃も生徒会長をやっていたって前にも話したじゃないですか!」
「中学と高校の生徒会は全然違うんだけどなぁ……」
「もし嫌なら内村先輩も会長に立候補すればいいじゃないですか! 生徒会選挙で堂々と勝負しましょう!」
もし生徒会選挙で中川と戦えば勝つ自信はある。俺が生徒会長をやった方が色々な学校行事でスムーズに事が運ぶはずだ。
しかし、選挙で俺が中川に勝って会長になると中川を生徒会に入れられる事が出来なくなってしまい、中川のスクールアイドル活動の隠れ蓑として生徒会を使う事が出来なくなってしまう。
それは困る。
「俺が会長になった方が、これからの行事もスムーズに進行出来ると思うぞ」
「そうかもしれません。でも、私は生徒会に入るなら会長をやりたいです!」
頑固だなぁ……。これは俺が折れないとダメみたいだ……
「はぁ、わかったよ。じゃあ、お前が会長でいい。その代わり俺は副会長になるぞ。お前のやり方に色々口出しさせてもらう。それでいいな」
「はい!それで構いません!」
初めて知り合った時から中川の事を引っ込み思案なやつだと思っていたが、どうやら考えを改めなくてはならないらしい。
いや、スクールアイドルになりたいって言う時点で引っ込み思案な訳がないじゃないか。馬鹿か俺は……
スクールアイドルも生徒会長も同じ表舞台に立つ者だ。スクールアイドルとして舞台に立つ前に生徒会長として人の目に慣れさせるのもいいかもしれないな。
中学と高校の生徒会の違いもついでにしっかり学べよ、中川……
虹ヶ咲学園の生徒会長ってのを舐めてると痛い目みるからな……
と、そんな事を思いながら今日もいつも通り、中川のダンスレッスンに付き合う俺であった。
その日の帰り道──
「こーちゃん、もしかして~部活でも入ったの~?」
「はぁ? 部活なんか入ってないぞ?」
『そろそろ帰らないとバイトの時間に間に合わなくなっちゃうから~保健室まで迎えに来てね~』という彼方お嬢様のラインをもらい、中川のダンスレッスンを切り上げ、家まで彼方を送る途中、彼方が変な質問をした。
「なんでいきなり、そんな事……?」
「だってこーちゃん、最近ずっと忙しいみたいじゃん。生徒会室に行っても鍵閉まってて誰もいないし~」
中川のダンスレッスンをしている時、他に生徒会メンバーがいなければ生徒会室の鍵を閉めるようにしている。
「生徒会の仕事ってのは生徒会室以外でやる事のが多いんだぞ」
「前にこーちゃん言ってたよ~。「生徒会室以外の仕事は他の役員に任せて、会長は生徒会室でどっしり座ってるもんだ」って」
そんなこと言ったかな……?
……いや、言ったかもしれない。
言ったのだとしたら、それは多分、あの人の受け売りで言ったんだと思う。
「今は後期生徒会役員選挙の準備があるから忙しくても仕方ないだろ」
嘘である。生徒会役員選挙は選挙管理委員の仕事なので、生徒会は動かない。会長権限……というより生徒会権限で後期生徒会役員の立候補者を他の生徒よりも先に知る事が出来るから、その情報を吟味して、次の生徒会に立候補するかを決められるくらいだ。仕事はない。
「う~ん。でもこーちゃん、二学期入ってからいっつも忙しそうだよ~?」
「前も言っただろ? 副会長が家の都合で少し海外行く事になったから一ヶ月早めに生徒会をやめたんだよ。その分忙しくなってるんだって」
「なんか、隠してな~い?」
「俺がお前に嘘ついた事あるか?」
「……昔っから、嘘ばっかりだよ」
あれ……? これはヤバいぞ……このまま話してたら、いずれバレる。騙しきれない。
「とにかく!! 彼方は今日もバイトなんだろ! 早く帰ってバイトの準備しなくちゃな!」
「あ~そうだね。急げこーちゃん、ゴーゴー!」
俺はペダルを全力で回し、自転車のケイデンスを上げて帰り道を急ぐ。
文化祭まで、優木せつ菜の事はなんとしてでも隠し通さなければならない。
スクールアイドル優木せつ菜のサプライズ御披露目ライブを成功させなくては……!
読んで頂いてありがとうございます
次回もお楽しみに~!