ヨタ話   作:うすうす

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ウロヴォール・ヨタ: 不死者。記憶力にクセあり。


閑話: 道中

 揺れ動く馬車の中、ユーケミニ・ヨタは道中の(いとま)をもの思いに耽ることで(こな)していた。

 視線の先には1人。外の景色をぼうっと見遣る彼はウロヴォール・ヨタ。この馬車旅仲間は拾いもので、珍しき人外仲間で、従者であり、私の食料である。"ヨタ" をあげたのだから眷属とも言えるだろうか。

 

 混沌の闇(カルキ)に遭遇した後。共に睡眠も休養も不要な身で、時折の吸血(食事)幾度(いくたび)挟みつつ歩き詰めた。今はなるべく形而上の(魔力的な)残滓を残したくはない。それ故の徒歩旅だった。

 混沌が沸いているのだ、聖者共は既に動き出しているのだろう。であるなら、足がついて面倒な事態に陥る前になるべく遠くへと離れたかった。

 馬車旅となったのは3度の日の出を迎えた後になる。街道に出た所で充分距離を取ったと判断し格好を変えた後、通り掛かった荷馬車の空きスペースに交渉の(のち)乗り込んだ。状況は十二分に不審がられるようなものだが、認識を逸らしてあるので問題はない。

 

 思考のうちに私のウロヴォールを見遣る視線は、自然と首元に向いていた。自身の内から頭蓋を揺らす軽い響きで、思わず喉を鳴らしていることに気付き、内心苦笑する。渇いているわけでは無いのに。

 なにせ、美味なのだ。滑らかな口あたりに、しつこさの無い通り。程よく存在感を持ちつつ飽きの来ない風味。今まで口にしたどの血よりもお気に入りだ。

 そんな血が不死の身から無尽蔵に湧いて出る。これほど理想的なことはそうないだろう。だからそう、いいじゃないか、連日頂いてしまっていても。最初の時はちょっと、(はした)なく夢中になってしまって、気を失わせてしまったけれど……。

 

 不意の大きな揺れ。車輪が石でも踏んだのだろう。事のほか大きく体勢を崩し後頭部をぶつけ、鈍い音が響いた。痛い。

 そんな私の様を不思議そうに見るウロヴォールが目に入る。ふむ。

 私が気の向くままに彼の元へと寄ると、彼から手が差し出される。これに支えられながら彼の足の間に潜り込んで腰掛けた。馬車がまたもや揺れるが、今度はウロヴォールの支えにより体勢は崩さない。

 ウロヴォールには馬車に乗り込む前、街道に出た所で彼の望んだ通りに "勧告(オーダー)" してある。故、今の彼は従者としての行動を(おも)としていた。下からちらとその表情を覗き込めば困惑の色が見て取れる。そうだろう。先程の先導は、私が操って行わせたようなものであるから。

 

 揺れで顎の当たらないようにだろう、私の頭に置かれたウロヴォールの手の感触に、少し不思議な心地がする。もう永い間独りで過ごしていたから、この5日目にもなる関わりが随分と新鮮で、しかし何処か懐かしくもあった。

 

(しかし何だ、そうか今は、彼の血()()から成っているのだな、私は)

 

 それはなんとも、何処となく気恥ずかしさの湧くことである。いつか読み耽った書き物を想起するのだ。どうせならあのカルキの内で、ヒロインの「貴方の血で私を満たして」なんて台詞を、私も口にしてみれば良かっただろうか。

 

 何ともなしに対比を取るが、不器用で律儀なこいつは当然、そして私も当然、それの登場人物らとは似つかない。

 不器用な奴だ。歯に絹着せぬ、とは何か違うが……。独特な言葉選びは、時折の長考を挟んでも変わりない。言葉の後には迷いを見せて、しかし直ぐに気にするのを止めるようだ。

 律儀なのは、意図せずとも触手で感情を読み取ってしまったと、言葉に詰まりつつも態々(わざわざ)謝ってきたところとか。別に黙っていれば分からないのに。

 それにあの時も。手が置かれたのは肩で、腰を抱いてはくれなかったし。

 

 ………。

 

 飛躍していた思考に気付き、額を揉む。手放したくない存在なのは確かであった。ちょっとした趣味も、漠然とした人恋しさも、果ては血の工面でさえ彼が居れば満たされるのだから。

 しかし彼はその身に備えた特性を、あまり理解していないらしかった。心許ない事である。世の地平は広く、人型一つなぞ容易に見失う。

 ぼそりと呟く。何方(どちら)でも良いが、この声量ではウロヴォールには聞こえまい(など)と思いつつ。

 

勧促(オーダー)。【いのちだいじに】、……【形振り構わず】…。」

 

 告げて、身の魔力と共に沈む意識を手放した。身体は彼に委ねつつ、ふわりとした先行きの想定は直近にて収束する。目覚める頃には、ヒトの生息域、だろうか。

 

 

 

 

 

 

「距離感、近……」

 

腕の中で無防備に意識を落とすユーケミニに、ウロヴォールはぽつり、困惑を溢した。

 

 

 




乙女……

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