Vtuber銀玲の憂鬱   作:明日死ぬ

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銀玲の部屋

某日 銀玲の部屋

 

「vtuber元年で、僕が産まれて、それで――」

 

「(私以外にも使っている人がいたのか、元年なんて言葉)」

 

 同じ古参勢というのも大きいか。私のちょっと後くらいに登場した彼は、厳ついモデルと優しい性格のギャップを武器にし、vtuber界の良心としてひっそりと活動を続けてきた。

 

「数か月前から鬼さんとしての活動を停止することに決めました、突然で申し訳ありません」

 

「報告の一つも無しに休止。本人に何かあったんじゃないかと疑う人も多かったですが、実際の所は?」

 

「怖かったんです」

「僕は元々、ネット上のあるグループの一員として活動していました。人を玩具にして嘲笑う、法律もモラルもない最低な集団。

vtuberが世間に知れ渡る少し前から、僕たちのグループでは話題になっていました。人を不幸にするには色々な方法がありますが、

vtuberは顔を隠して活動出来るという特徴があった」

 

「vtuberとして、界隈を内部から崩壊させる……鬼さんが活動を止めたのもあの事件があった頃ですね?」

 

「お察しの通り、あの事件も僕の仲間がやったものです。僕は怖くなってしまって。最初は、vtuber界をぐちゃぐちゃにするためいい人を演じていたのに、だんだん裏切れなくなっていて、適当なタイミングで僕の本性を明かすつもりが、いつしか仲間に

僕の本性を明かされないかが怖かった」

 

「そして、あの事件が起こった」

 

「vtuber界隈が荒れるのを見るたび、僕の心は昔に戻っていきました。やっぱり、人を馬鹿にするってどうしようもなく楽しいことを思い出したんです。もう、鬼さんとしては居られない」

 

もしも鬼さんのファンがこのことを知ったらどうなるのだろうか? と私と彼は思いました。何はともあれ、元気そうで良かったと笑うのだろうか?

そう考えてしまうと、少しだけ悲しくて、言葉が出てきました。

 

「二重人格じゃ駄目ですかね?」

 

「はぁ」

 

「だって鬼さんは鬼さんだったじゃないですか。それは、嘘じゃないです」

 

「別に構いませんよ。鬼さんと名乗る人物が勝手に言ってるだけ、と解釈しても」

 

嫌な話の流れだ。

 

「僕ではなく銀玲さんのチャンネルで発表したのは、拡散力の違いを考えてのことです」

 

私が巻き添えで低評価とヘイトを買うことまで計算してるから、嫌になる。

 

「ちゃんと、情報は渡すので安心してください。カットしないでくださいね?」

 

「本当はここに来ちゃいけないのにね、vtuberであることを放棄した奴なんか。

それが貴方のvtuberだって言うのなら、私はそれを否定する」

 

「好きにしてください」

 

この後も言い争いが続いたから、カットした。

 

 

 

「実は私もネット上のあるグループのことは前から知っていて、その一人と戦ってた」

 

「あ、まだいたんだ。ひかれあうもんですね、僕ら」

 

「但し違うアプローチで。記者としてだけど」

 

vtuberがネット上の存在である以上、ネットでの評判というのは極めて大事なものである。それを決定づけるのがまとめサイトであったり、ニュースサイトであったりする。もしも、そこに存在する人間が悪意を持って記事を扱ったらどうなるだろう。

 

「中々訴えるのも難しくて、大変だったよ」

 

私も印象操作を行っていた側だったため、すぐに気づき対抗することが出来たが、そうでなければ手に負えなかったことが目に見えている。

 

「だから、負けないよ。私は」

 

「そうですか。しかし、第二第三の僕が、あの人が、やがてまた……」

 

鬼さんもどきは消えていった。

 

舞台裏。

 

「てっきり私は、取りこぼした情報を奪いに来たのかと」

 

大規模流出事件の後、vtuberの個人情報というのはよりガードが固くなった。しかしスタジオの管理者である私は、

スタジオの出入り口等にある監視カメラを見ることが出来る。つまり、中の人を把握している。

もしも私がこれを漏らしたら、vtuberの匿名性は完全に死に絶えるだろう。

 

「そこまで高望みはしませんよ」

 

「そう」

 

「僕等は楽しみたいだけなんだ」

 

まぁ、そうなったとしても離れる人は以前より少ないだろうから、面白くないということか。

であるならば、この情報提供はやはり悪意なのか。

 

「あの人が彼氏バレ程度で引退するはずがない」

 

それ以上の何かがあった。そう思い運営との軋轢の線を探ったが、何も出てこなかった。

 

「その彼氏が悪人だったとしたら?」

 

「……だとしても、それは」

 

「彼女の彼氏が、あの悪魔だったなら」

 

「――――――――ああ」

 

確かにそれは、悪意に満ちていて、救いようのない現実だ。

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