白ウサギが悪意をラーニングしたのは間違っているだろうか 作:クロウド、
「―――換金を頼む」
ダンジョンから戻ったベル・クラネルは『ギルド』のカウンターの一つにジャラジャラと言う音を鳴らす麻袋を置く。
麻袋の中身は魔物の核となっていた紫紺色の結晶『魔石』と『ドロップアイテム』。モンスターは魔石を除去されると消滅するが、一部原型をとどめたものがるそれがドロップアイテムと呼ばれる。冒険者はそれらをギルドや専門の『ファミリア』に売却し生計を立てるのだ。
「あ、おかえり。ベル君」
ベルがたつカウンターの向こうからギルドの制服を着た窓口受付嬢、ベルの『アドバイザー』を担っているハーフエルフの女性エイナ・チュールは今日も無事に帰ってきた自分が担当している年下の少年を見て笑顔で対応する。
だが、ベルが持ってきた麻袋を見てその緑玉食の目を細めて眉をしかめる。
「ベル君、今日は何回層まで潜ったの?」
「五階層だ」
ベルのあまりにもあっさりしたベルの返答にエイナは額を抑えてこれみよがしにため息を吐いた。そして、カウンターをダンッと叩いてベルを見据える。
「ベル君!まだ冒険者になって半月しかたってないのに五階層まで潜るなんて何考えてるの!講習のとき何度も言ったよね!?不用意に下層に行っちゃダメだって!」
ベルは性格こそ冷静沈着だが、実際は14歳のまだまだ幼い少年だ。だからこそ、エイナはベルのことを弟のように思っている節があり、本当なら冒険者なんて危険な職業などしてほしくなったが、本人の意志は硬かった。。
「不要な心配だ」
だが、ベルは相変わらずの無表情と冷たい声音でピシャリと言葉をきる。
「あのねぇ……自信と無謀は違うんだよ?それに君いつまでその格好でダンジョンに潜る気?魔法を使えるわけでもないんだからもっとちゃんとした防具を纏ったほうがいいよ」
「必要ないな、寧ろ邪魔だ」
「はぁ……本当に仕方がないんだから」
ベルのにべもない返答にもはや何も言えないエイナ。そして、もう一度大きなため息をこぼした。そして、諦めて換金の査定に入った。
「ベル君、困ったことがあったら何でも相談してね」
「―――礼は言っておく」
換金が終わりそれをしまうと自身を気にかけてくれる言葉に礼をいうとベルはギルドをあとにした。
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メインストリートを抜け、細道をいくつも曲がりベルは目的の場所にたどり着いた。
そこにはもはや廃墟といっても刺し違えのないもの、かつては神々を崇めるために作られたはずの教会は人々の記憶から忘れ去られた哀愁が漂っていた。
正面玄関にあるボロボロの女神の像は顔が崩れながらもほほえみながらベルを見下ろしている。
中に入るとそこは外見に負けず劣らずの半壊状態で割れた床のタイルからは雑草が繁茂している。崩れた天井の大穴から、まだ日が高い陽光が覗いている。
ベルはすたすたと部屋の奥に行くと地下室へと向かう階段を降り始める。
「ヘスティア、今戻ったぞ」
ベルは階段を降りると地下室の扉を開き、いるはずの人物に帰還を報告した。
その人物は部屋に備え付けられた茶色のソファに寝転び本を見上げていた。ベルの存在に気づくとその人物はとてとてと小柄なベルより小さな体でベルに近づいてくる。
「おかえり、ベル君!今日は早かったね!」
「ほしかったデータは取れたからな。イレギュラーは起きたが特に問題はない」
このツインテールがトレードマークの少女の名はヘスティア、ベルが主神と仰ぐ正真正銘の神だ。
「ヘスティア、早速だが【ステイタス】の更新を頼む」
「あぁ、任せとけ!」
―――遠い昔、神々は人々が暮らすこの世界『外界』へと降りてきた。その理由は彼らが住む『天界』は退屈で仕方なかったかららしい。
人々が一般的に思う楽園、『天界』にて無限の時間をダラダラと過ごす毎日に飽きてしまったただの沢山の神々は『外界』の神々は『外界』に住む人間たちに娯楽を求めて降りてきた。
『子供たちと同じ視点かつ能力、彼らの視点に立つ』
完璧の存在であるがゆえに、不完全。無駄だらけのこの世界に娯楽を求めて降りてきたのだ。
神々は子供たちと趣味や食事や芸術などといったものから娯楽を見出し多くの神々は外界に永住する道を選んだ。大昔の人物たちは神々の永住を拒めるわけなく寧ろ『恩恵』を与えてくれる存在として彼らを迎えた。
神々から『恩恵』を与えられた人間はその神の眷属『ファミリア』となる。ベルは今、ヘスティアの唯一の眷属、名目上【ヘスティア・ファミリア】の団長ということになる。
部屋の奥にあるベッドに向かうとベルは羽織を脱いで、腰の帯を取ると背中を晒し。そこにはびっしりと刻まれた文字の羅列。神々の文字【神聖文字】で刻まれた【神の恩恵】を得た証である【ステイタス】。
「さぁ、寝た寝た」
ヘスティアに言われたとおり、ベルはベッドに寝転ぶ。その背後でチャリという金属音がなる。ヘスティアが針を取り出した音だ。
彼女は自分の指先にぷつりと針を指すと自身の血をベルの背中に垂らす。
この【ステイタス】は様々な経験で得られる【経験値】によって能力が向上していくのだ。
「はい、出来たよ。君の新しいステイタス」
ヘスティアは元々用意しておいた用紙に更新した【ステイタス】を写し、ベルに渡す。それを受け取ったベルはそれを確認する。
ベル・クラネル
力:F 342→F 351 耐久:G 232→G 235 器用:G 222→G 231 敏捷:F 347→F 356 魔力 E 412→E 423
《魔法》
【】
《スキル》
【
・別世界の知識を知ることができる。
・知識から様々なアイテムを複製できる。
・思考能力が超向上。
「まだ、ランクアップには至らないか」
「いや、君コレ十分凄いぜ?」
ベルが若干落胆した声でそう言うがヘスティアは呆れたようにそう突っ込んだ。
「まぁ、たった半月でコレくらい伸びればランクアップも目じゃないと思うぜ。それに、君元々めちゃくちゃ強いだろ?」
「いいや、まだ足らん」
ベルは脱いだ服を着直し、珍しい紫色の帯を締め直すと立ち上がる。
「俺がこの街に来たのはこの世界で新たなアークが生まれないように悪意を監視するため、そして、その悪意を摘み取るための力を手に入れるためだからな」
「アーク……人類を滅ぼそうとした人工知能?とかいうものだっけ?」
「そうだ。アークは悪意がある限りどこにでも生まれ得る。このオラリオにもな」
―――幼い頃、ベルは住んでいた村の近くに落ちていた黒いベルト、『アークドライバー』を拾った。その瞬間流れ込んできたのはこことは違う世界の戦士達の記録。
このベルトに残された記録。悪意をラーニングした人工知能『アーク』と、それに対抗するために作られた仮面ライダーたち。彼らは見事アークを倒したが、アークは人間とヒューマギアそれぞれの悪意を媒体に復活し、最終決戦の末、人類とヒューマギアは戦争直前になったがヒューマギアの『心』を信じた一人の男によってそれは防がれた。
それらを見たベルが自分で見つけた使命、それは『この世界でアークのような存在を生み出さないようにすること』。
―――普通の子供なら幼い頃にそんなものを見せられれば疑心暗鬼になるかもしれない。だが、それでもベルは彼らのように人間や神々の『心』を信じたかった。
そして、彼はアークドライバーに残った知能と立体コピー能力で作ったドライバーとプログライズキーという力を持って悪意を摘むためにさらなる力を求めて神々の恩恵が手に入るこのオラリオにやってきたのだ。
「いやぁ、ごめんねぇ。君みたいな才能あふれる子供をこんなへっぽこ神と契約させちゃって」
ヘスティアは申し訳無さそうに頭をかく。ベルはオラリオに来ていくつかのファミリアの拠点、ホームを訪れたがその怪しい外見とひ弱そうな見た目から何度も追い返された(手を上げてきた人間には無論正当防衛として痛い目を見せた)。そんな中であったのが眷属ゼロの彼女ヘスティアだった。
眷属は基本的に主神を養わなければならない、神々は子供に『恩恵』与え、子供達はその対価として娯楽などを対価とする言うなればギブアンドテイクな関係だ。
ただ、零細ファミリアである【ヘスティア・ファミリア】は神と子供それぞれが働いている。ベルはダンジョンで冒険者稼業、ヘスティアは普段はバイト、その二人の収入で生計を立てているのだ。
ベルはヘスティアの言葉に特に気にした様子もなく答える。
「気にするな。寧ろ俺はお前が俺の主神になってくれてよかったと思っている」
「ベルくん……?」
「お前のような善意の塊のような存在が主神でいてくれれば、俺自身がアークになる心配はないからな」
「べ、ベルくん!」
ベルの言葉にヘスティアは胸の底から嬉しくなる。少しばかり機械的な性格をしているベルだったが、自分のことを本当に慕ってくれているということがとても嬉しかったのだ。
最初は眷属欲しさだけで近づいてきたのかもしれないが、ベルの過去と目的を知りそれを受け入れてくれた彼女にはベル自身とても感謝している。
「そろそろ夕食にするか」
「ああ、それならバイト先からじゃが丸くんをたくさんもらってきたぜ!」
「そうか、なら軽めのスープでも作るか」
―――数十分後、ベルが作ったスープとヘスティアがもらってきたじゃが丸くんという夕食を食べ終える。
「ベル君ってほんとになんでもできるよね……。」
ベルの作ったスープを飲んだ感想をヘスティアが呟いた。
「アークがハッキングした中に料理用ヒューマギアのデータが残っていたからな、それを利用させてもらった」
ベルは食事を終えるとソファに腰掛け、アークドライバーの中心部にある赤いパーツ『アークドライブコア』から投影されたディスプレイとキーボードパネルの操作を始める。
「なにしてるんだい?」
ヘスティアはソファの背もたれから彼の手元を覗き込む。
ヘスティアはその動作を何度かみているのでそれがデータの入力やベルトのメンテナンスだということを知っているので、特に驚いている様子はなかったが何をしているのかは気になった。
「設計図を作っている」
「設計図、新しいアイテムのかい?」
ディスプレイを見てみると、直方形のアイテムの図面が記されておりところどころヘスティアでもわからない文字があるが、それはこの世界の文字ではないからだ。
「正確には改造だがな。―――よし、コレで完成だ」
ベルがエンターキーを押すとディスプレイとパネルが消えその代わりに空中に投影された二つの設計図を『アークコアドライブ』から出たレーザーが形作っていく。
「ヘスティア、これを」
「なんだい、これ?」
空中で完成したそれを手に取り、片方をヘスティアに渡すベル。それは直方形の形状に液晶パネルのついたアイテムで、画面にはいくつかのアイコンが記してある。それを物珍しげな目でそれを眺めて、ベルに尋ねる。
「連絡用ツールのライズフォンだ」
「連絡用?」
「ダンジョンに潜っている間は地形の関係で通話はできそうにないが、それ以外は連絡が可能なはずだ。このアイコンを押せば連絡が取れる」
ベルは自分の手の中にあるライズフォンの受話器マークの通話アプリのアイコンを指差して説明する。
「へぇ、便利な代物だね」
「お互い何かあったら困るからな、これは肌見放さず持っててくれ」
「もちろん、ベルくんからのプレゼントだからね!」
そういってヘスティアは嬉しそうにライズフォンを胸に抱いた。
ベル君普通にめちゃくちゃ強いです。そりゃそうだよな、正真正銘最強のAIさんの戦闘データをもとに戦ってるんですから