花は桜木、君は美し   作:喉黒飴

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炎がレコ大を取りましたね。おめでとうございます。


第一話

 必死に息を殺す。口元を両手で覆い、荒くなる呼吸音を少しでも小さくしようと試みている。音を立ててしまったが最後、瞬間的に絶望に支配されてしまう。それを理解しているからこそ、必死に息を殺すことに務める。身体は意思に反して小刻みに震え、緊張感は時間の経過とともに増大していくばかりだ。しかしそれでも尚、少年たちは必死に息を殺し続けた。

 

 ──ぐちゅり、ぐちゃ、ぐちゃり。

 

 不快な音が室内で木霊する。水分を多量に含む柔らかい物体に、外部から圧力を加えることによって生じている音だった。雲を透かし、薄らと差し込む月光が音源を照らしあげる。

 それは、赤黒い肉塊だった。元は人間の一部だったそれは、見るも無残に乱雑に喰い散らかされ、その一室に原型無く散らばっていた。

 鼻を刺すような不快感のある血の臭いが、室内に充満していく。

 悽惨な現場を作り出した存在が、悦に浸りながら返り血を拭いさる。月明かりに照らされるその姿はヒトのようであって、ヒトでない異形な存在──鬼と呼ばれる生物の姿がそこにあった。

 

「小童が居たはず……一体何処に隠れたのやら」

 

 恐怖を煽るような悍ましい声だった。鬼は声を発するや否や、血管が隆起する剛腕を振りかざす。 直後、衝撃波と共に男女の死体の一部が凄まじい速度で辺りに飛散する。

 途端に辺り一面が鮮血によって染め上げられる。一家団欒の場であった面影は儚く消え、血生臭い殺戮現場がそこにはあった。

 

「ヒッ──」

 

 声が漏れた。漏らしてしまった。

 少女が零した、少年の背後から漏れ出たそれは確かな音であり、恐怖を孕んでいた。

 

 運命は時として残酷だ。

 

 襖が素早く開かれる。凄まじい音が室内に響き、襖は敷居から外れ後方へと弾け飛んで行く。

 少年たちの眼前に、鬼が現れる。体躯は大きく、返り血にその身を染めながら悦に浸る。

 少年たちは嫌でも目の前の存在が人外なものであることを悟らざるを得なかった。

 

 先刻襖を襲った衝撃が、決壊の合図となった。

 極限に張り詰めていた緊張は、呆気なく瓦解した。糸が切れたように四肢は力無く垂れ、思考が恐怖によって支配されていく。目の前には殺人鬼。室内に蔓延る死臭。

 死がそこまで迫っていることを、否が応でも理解させられてしまった。

 

「ほう、ここに居たのか。 それも三人とは、某もついている」

 

 押し入れの中には三人──男子一名、女子二名──の幼子の姿があった。三人とも幼いながらも端正な顔立ちをしている。しかし、その表情には恐怖が浮かび上がっており、それを目視した鬼は三日月状に口角を釣り上げた。

 

「幼子は身が柔らかく極上、それも女子が二匹もいると来た。 加えて男子は稀血──今夜は馳走だな」

 

 残虐な笑みを浮かべながら、鬼は三人を前に一層悦に浸る。

 

 鬼の主食は“人間”である。人智を超越した存在は、その力によって数多もの人々を喰らって生きてきた。

 鬼は人間を食べれば食べる程に力を高めていく性質がある。血液型があるように、稀血と呼ばれる珍しい系統の血の人間がごく稀にだが存在する。 稀血の人間は、鬼の観点からすると通常の人間と比べ肉体や血の栄養価は極めて高く、一人の捕食によって五十から百人分の人間を喰らうのと同様の栄養を得られてしまう。それ故に、稀血の人間は鬼から狙われやすいという背景があり、人知れず命を落としていることも少なくなかった。

 

「先刻のも悪くは無かったが、幼子は格別よ」

 

 せせら笑う鬼の背後に、変わり果てた男女の姿があった。 少年の背後から小さな嘔吐きが漏れ始める。無理も無い──齢10前後の少女たちには刺激が強すぎた。吐瀉物が吐き出され、少女たちの嗚咽が少年の耳に鮮明に届いた。

 

「恐怖に慄け! 絶望は味を昇華させる! 畏怖の念こそが至上の味と言うものよ!」

 

 鬼が息み、両腕は形態を変化させていく。肘から下が──前腕は刀身となり、大拳も黒く鋭利な形状へと変化を成した。鬼が構えを解き、軽く刃を振るうと足元の畳が剣圧で切り刻まれる。

 

 何も出来ず、あっさりと命を散らしてしまうのかと、少年は奥歯を噛み締めた。憎悪の念が胸の底から込み上げてくる。自身はどうなっても構わない、しかし後ろに控える二人の少女には生き延びて貰わなければならない。せめて抵抗を、何か隙を作ることが出来れば──その思いだけが、少年を奮い立たせる。

 

 懐には普段愛用している紙めんこ──胡蝶夫人に買ってもらったもの──があり、強くそれを握りしめる。そして逡巡の後、鬼の目を目掛けて投擲を行う。しかし、それは意味を成さず、鬼の手によって細切れにされるに終わった。

 少年を再び絶望が支配する。こうなる事は目に見えていた。無駄な行為だと言うのも理解していた。それでも、何も成さずに屠られるのだけは嫌だった。力差は誰が見ても歴然であり、絶対に勝利することは無い。それを理解していても、足掻きたかった。抗いたかった。

 

「追い詰められた鼠は獅子をも噛むと言うが──酔狂なものよのう。自ら死を望むか小童よ」

 

「──くっ」

 

「挑発通り、まずは小童……お前から──」

 

 ──“岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極”

 

 手斧と鉄球が鎖で繋がれた刀──日輪刀と呼ばれる人食いを行う鬼を、日光以外で倒すことができる唯一の武器──が鬼の頭部を、頸部を破壊する。

 

 少年が死を覚悟した次の瞬間、鬼は黒い影によって横へと高速に吹き飛ばされ、その姿と入れ替わるように一つの姿が出現した。

 

「──遅くなってすまない、怪我は無いか?」

 

 家族を、恩人を失ったある日のこと、盲目の鬼殺隊士──悲鳴嶼行冥に出会ったことで三人の人生は大きな転機を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 悲鳴嶼行冥は元来優しい男である。

 古びた寺で身寄りのない子供たちを育て、貧しいながらも幸せに暮らしていた。自分は碌に食べずとも子供らに食べさせ、毎日毎日、身を粉にして働いた。

 人を殴ったことはおろか、声を上げて子供を叱ることもなかった。

 繊細で生真面目で、慈愛に満ちた平凡な男。

 

 そんな彼に──突如悪夢が押し寄せた。

 

 ある日のこと、悲鳴嶼の言いつけを守らず日没以降も寺に戻らなかった子供が鬼と遭遇した。

 

 その鬼は実に狡猾であった。死に対する恐怖に支配された子供に向かって、甘美な提言を行うことで傀儡にする。

 それは寺で過ごす人々を差し出せば、子供自身の命は取らないというものであった。悪魔の囁きとも言える鬼との取引に、子供は首を縦に振る。

 

 悲鳴嶼たちが暮らしていた地域では、鬼の脅威の伝承が色濃く残っており、夜は鬼が嫌う藤の花の香炉を焚く風習が存在する。鬼は当然ながらその香炉を甚く警戒していた。遠方から寺を監視し、腕白である眼前の子供が自身の前に姿を表す機会を虎視眈々と窺っていたのだ。

 

 子供の働きにより、香炉はすぐさま処分され、鬼は寺へと足を踏み入れる。鬼の二つの目的のうち、第一の目的であった寺への侵入はこうしてまんまと成功した。

 

 突如姿を現した鬼に対して、寺は騒然とした状態となる。

 手始めに入口付近に座していた子供四人が瞬殺され、周囲の壁を朱に染め上げた。

 

 残った四人の命は何とか守ろうと悲鳴嶼は自身の背後に隠れるように指示するが、三人の子供達はそれを聞かずに部屋から飛び出す。

 当時の悲鳴嶼は今と違って痩せ細っており、気弱で大声も出したことがない頼りがいがあるとは言い難い大人であった。それに加えて悲鳴嶼は盲目である。子供たちはその点から悲鳴嶼に不安を覚え、思わずその場から逃げ出し──暗闇の中で喉元を掻き切られることで命を落とした。

 

 唖然とする悲鳴嶼の背後には独りの幼女。悲鳴嶼の命を聞いたのは子供たちの中で最も年下である沙代だけであった。

 

 ──沙代だけは何としてでも守られねばならない。

 

 鬼の攻撃を額に受けながらも、悲鳴嶼は渾身の力で拳を振り抜く。鬼の頭蓋は潰れさり、生暖かい血液が飛散する。生き物を殴るのはこれが初めてのことであり、その感覚は地獄のもののように思えた。拳に残る気色悪さは、今となっても忘れることはない。

 鬼には再生能力があり、時間こそ掛かるものの頸が無事ならば体を再生することが可能であった。

 日の光が鬼に有効であると聞かされていた悲鳴嶼は、夜が明けるまでその頭蓋を殴り潰し続けた。

 

 疲労困憊ながらも、沙代を守ることは出来た。

 しかしその代償は大きく、これにより悲鳴嶼は心を痛めることになる。

 

 鬼の亡骸は日の出に合わせて塵となり、現場には七人の子供達の遺体のみが残った。駆けつけた役人たちに向かって、沙代は嗚咽を混じえながら言葉を落とす。

 

『あの人は化け物。 みんなあの人が、みんな殺した』

 

 沙代は当時まだ四歳の子供であった。恐怖により、混乱してしまったことは想像に難くない。

 事実、現場に駆けつけた者たちや詮議に当たった役人はおろか、悲鳴嶼ですら恐怖のあまり錯乱した少女が無意識に記憶を改竄し、自分を化け物と呼んだのだと思いこんでいる。

 

 子供は自分の心を守ることに精一杯であり、そういう者だ。自分がその立場なら同じような対応をしていたかもしれない。

 

 そうは思っても沙代だけには労って貰いたかった、有難うと言って欲しかった。その一言があれば悲鳴嶼の心は救われた──しかし、現実は無常である。

 

 沙代の発言が証言となり、悲鳴嶼は殺人の罪を課せられ投獄されることとなった。

 処刑日は着々と迫り、いよいよ明日処刑が実行されるとなった日──産屋敷耀哉が目の前に現れた。

 

『君が人を守るために戦ったのだと、私は知っているよ。──君は人殺しではない』

 

 産屋敷耀哉の声は聞く者に安らぎを与え、その者がその時欲している言葉を的確にかける才を持っていた。その声に救われたのは悲鳴嶼だけではない。

 

 恩に報いるべく、悲鳴嶼は鬼殺隊へと入隊し、産屋敷耀哉の為にその力を奮う。

 

 あれから数年が経過している。

 しかし、あの時の言葉を、恐怖に呑まれた沙代の声を、悲鳴嶼は片時として忘れたことは無い。

 子供は純粋無垢で、弱く、哀れで、直ぐに嘘をつき、残酷なことを平気で行える我欲の塊だ。

 そんな考えが悲鳴嶼の脳内に巣食って離れない。

 

「悲鳴嶼行冥様のお宅でお間違いないでしょうか?」

 

 だから今、悲鳴嶼の前に佇む三人の子供の存在は心的外傷(トラウマ)であり、これ以上子供と関わりたくないというのが本心である。

 

 あの後、三人は隠──鬼殺隊における事後処理部隊──の手により、遠方の親戚の元に送られたと聞いていた。

 遠方ゆえ、二度と会うこともないと思っていたのだが、わざわざこちらまで出向いたのには何か理由があるのだろう、と悲鳴嶼は訝しんだ。

 

「突然訪れた無礼をお許しください」

 

 悲鳴嶼の視線に気付いた少年が頭を下げる。

 

「天野十三(ジュウザ)と申します。 こちらの背が高い方が胡蝶カナエで、小さい方がしのぶです」

 

 少年──十三がそう紹介すると後ろに控える少女二人も頭を下げる。姉に比べ、背丈が低い幼い方からはどことなくぎこちない気配が感じられた。

 

「──何故この家を?」

「無礼とは思いましたが隠の方にお聞きしました。 悲鳴嶼様には、鬼から助けていただいたお礼も碌にできておらず、申し訳ございません。俺たちを、二人を助けていただきありがとうございました」

 

 まだ変声期も迎えていない年端もいかない少年だが、その声は堂々たるものであった。精悍な雰囲気が感じられ、それに対し悲鳴嶼は雄大な大空を自由に翔る一匹の鷲を想像した。

 

 少年に続いて、少女二人も感謝の言葉を述べる。年嵩の少女は鈴の音のようなどこまでも可憐な声色で、一方で凛と澄んでもいた。対する妹はまだ幼さが残り、利かん気そうな印象を受けた。

 

「隠の方の協力もあって、胡蝶家の葬儀も無事終えることが出来ました。 悲鳴嶼様が彼処で駆けつけてくれなければ、俺たちは命を落とし、今こうして話すことも出来なければそれこそ納棺も行えていません。 全ては、悲鳴嶼様のお陰です。 本当に有難う御座いました」

 

 ──遠方まで、これを伝えるためにやって来たのか。心の傷も癒えていないだろうに……。

 

 少年、少女たちの健気さ、深く心の籠った言葉に悲鳴嶼の心が揺れる。

 しかし、それでもこれ以上関与することが恐ろしかった。

 

 今でこそ殊勝な事を述べているが、時日を経るにつれて悲鳴嶼を責め立てるようになるかもしれない。二人の死は、悲鳴嶼が招いたものだと。

 

 子供は、自己防衛の為にそういう事を言いかねないという考えが浮かび上がる。

 故に悲鳴嶼は──

 

「──礼には及ばない。 隊士としての、務めを果たしたに過ぎない」

 

 素っ気なく告げ、突き放す他なかった。

 

「──隠の方に、鬼殺隊についてお話をお聞きしました」

 

 少年の声が先程までと違い、僅かに震える。緊張を帯びていることは瞭然であった。

 三人はお互いの顔を見合い、小さく頷き合う。

 

「今日はお願いがあって参りました」

「鬼狩りの方法を教えて欲しいの。私たちに」

 

 十三の声を遮るように、しのぶが言う。

 

「鬼の頸を切る方法を教えて」

 

 その硬い声色に、悲鳴嶼の心眼は三人の胸の内を捉える。

 

 姉──カナエの中に、深い悲しみと悲痛な決意があるのに対し、しのぶの中には燃え上がる怒りが、憎悪があった。

 そして、十三の中にも鬼に対する憎悪がある。しかし二人と決定的に違う点──自身に対する怒り、二人の為になら自分の命を捨てても構わないという思いが渦巻いていた。

 

 悲鳴嶼の頬を一筋の涙が伝う。

 

 ──何と哀れなことか……。

 

 何事もなければ家族の愛に包まれ、幸せに暮らしていたはずの幼子たちが、ここまでの憎悪を身に宿さなければならなかったすべてが、厭わしく、哀れで堪らなかった。

 

 だからこそ──悲鳴嶼は子供たちの懇願に背を向けた。

 

「……礼は受け取った。 気をつけて帰るが良い」

 

 一時の感情で、この子らの未来を奪ってはならない。

 

 何より、悲鳴嶼の傷だらけの心が、子供たちに情をかけることを拒絶していた。

 

 

 

 

 

 

 子供たちの来訪から少しだった頃。

 そろそろ薪が無くなる頃だと、悲鳴嶼が外に出ると特徴的な音が響く。木が割れる高い音だ。

 薪割り場へと足を運ぶと、そこには十三の姿があった。

 思わず眉を顰める。

 

「……何をしている」

「薪割りをしています。 まだ鬼狩りを教えるって、言ってもらってないので」

 

 斧が振り下ろされ、薪が割られる。また高い音が鳴る。薪に対して斧が垂直に振り下ろされた時にのみ発生する音だ。

 

「二人はどうした?」

「カナエとしのぶは掃除をしているかと。 あぁ、後で悲鳴嶼様の着物を洗濯したいので着替えて欲しいと言ってました」

「……そんな事を頼んだ覚えはない」

 

 行動力が高すぎる。懐に飛び込んでくるその豪胆さに、悲鳴嶼は憮然としながら告げる。

 

「何故帰宅しない。 帰りが遅くなれば、それこそ鬼と遭遇することになる」

「──帰る家はありません」

 

 手を止め、十三は硬い声で言った。

 

「俺たちにはもう何もありません。 残ったものは全て捨ててきました」

「自分たちの命を粗末にするな。 鬼殺は過酷で、仲間の死を乗り越えて戦わねばならない」

「承知しています」

「今は難しいだろうが、時間が経てば記憶は忘却される。 自ら茨の道を──」

「無理ですよ、そんなの」

 

 悲鳴嶼が最後まで言い終わる前に、十三が口を開く。その声色は先程までとは違い、明確な怒気を孕んでいた。

 

「俺の両親は鬼に殺されました。 胡蝶夫妻──恩人も目の前で命を落としました。 俺は弱くて、何も出来ませんでした。 自分を騙して生きていくなんて、耐えられません」

 

 十三の言っている意味は分かる。

 目の前で恩人の命が、無作為な暴力により葬られた。それは余りにも残酷な出来事で。何も無かったことにするには、この事件は大きくて、無視できるはずが無かった。

 

「亡き父母たちが、君たちの過酷な未来を望むと思うのか?」

「──二人を守りたいんです」

 

 それは柔らかくて優しい声色だった。燃え上がるような怒りを孕む声ではなく、ただひたすらに静かな──波一つない水面のような、雲ひとつない大空を連想させる声であった。

 

 ──この歳にして、これほどの……。

 

 到底、少年に出せる声ではなかった。

 その真摯な声色を耳にして、悲鳴嶼は眼前の少年に対して哀れみを覚えた。

 男の子と言えど、まだ幼子である。物事を背負い込むには、その背中は余りに小さすぎた。

 

「しのぶは同年代の少女の中でも一際身体が小柄で、力も弱いです」

「……隊士にある程度の体格は必要だ。 人間は生まれ持った筋肉量は変えられない、という話を耳にしたことがある。 力が無くては剣技を磨こうと鬼の頸を切ることは叶わないだろう」

「それについては……俺もそう思います」

 

 鬼と戦闘になった際、勝利を掴む為には頸を刎ねるか、もしくは日光によりその身を焼滅させる必要がある。日光が出るまで長期戦を行うのは得策では無く、戦いが長引けば長引くほど体力勝負では鬼に軍杯が上がってしまう。短期決戦で決めるには頸を刎ねる他無い。

 当然ながら鬼も自らの弱点が頸部にあることを重々承知している。そこで鬼がとる手段のひとつとして、頸部の硬化が挙げられる。

 男性の隊士でさえ、その様な鬼と戦闘になった際には苦戦を強いられることがある。男性に比べ、筋力が少ない女性隊士ではそれ以上厳しい戦いになるのは容易に想像がついた。

 

「姉の方は歳の割に上背があるが……それでもやはり女性の隊士は少ないのが現状だ」

「俺だって二人には鬼殺の道に進んで欲しくない。 でも、二人の気持ちも尊重してやりたいんです。 だから──二人を守れる、そんな力を身に付けたいんです」

「…………」

「お願いします。 鬼狩りを教えてください」

 

 あの件以来、悲鳴嶼の中で子供は好ましい存在ではない。

 必死に守ろうと精一杯行動した結果、拒絶され、心無い罵倒をその身に浴びた。

 

 しかし、少年の悲痛な決意に悲鳴嶼の心は揺れる。

 大切な人たちのために、平気で自分の命を擲とうとするその姿勢に恐怖を覚えた。年端もいかない子供の言葉に、無性に腹が立った。そしてそれ以上に、彼らの気持ちを素直に受け取ることが出来ない自分が情けなく、許せなかった。

 

「──鬼殺の道は厳しい。 並大抵の努力では、到底鬼との戦いで勝利を掴むことは出来ない」

 

 まだ子供を信頼できたわけじゃない。

 だけど、彼らの覚悟に胸を打たれた。

 このまま放置すれば、その命は圧倒的な力を前に摘まれてしまうことだろう。それに対して嫌悪感を覚え、哀れむくらい、彼らに対して情が芽生えていた。

 

「──君たちにこれから課題を課す。 それを達成することが出来たならば、育手を紹介しよう」

 

 故に──彼らの力になろう、そう思った。

 

 

 




雲のジュウザ大好きです。
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