首置いてけ、なぁ。   作:奥の手

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節分だぁ! 鬼狩りじゃあ!
と思ったら暦の関係でどうやら昨日だったらしいですね。
遅まきながら更新です。


第6話

 

「はぁ……はぁ……」

 

森の中を、一匹の鬼が逃げていました。

痩せた男の鬼です。その表情には怨嗟とも悔しさとも取れる色が浮かんでいます。

 

「なんなんだ! なんなんだあいつら! くそが」

 

吐き捨てながら木々の間を縫うように逃げます。

 

もうすぐ夜明けでした。

東の遠い空が明るくなっています。何羽かの鳥が、鬼の逃げる足音に驚いて木から飛び立ちます。

 

日が登る前に逃げ隠れしようとする鬼を、追うものがいました。

二人です。

一人は動きやすい大正袴に、尺の短い刀を持っています。もうずいぶん長い距離を走っているのに、息切れひとつしていない少女です。

もう一人は朱色の鎧に身を包んだ男です。まるで戦国時代から抜け出してきたかのような姿で、実際戦国時代から抜け出してきた男でした。

蘭と豊久は、少しずつ鬼を追い詰めるように。

日が登る東の空へ追い込むように、鬼のあとを追従します。

 

「うおあ!」

 

木の根に足を取られた鬼が、その速度を落とします。直後。

 

短刀を持った少女が追いつき、すぐ脇をすれ違うように通り過ぎました。一瞬、刀身に登りかけた日の光が反射します。

 

「こ……の……」

 

鬼の言葉は続きませんでした。二の句が継がれるよりも先に首が落ち、そして灰となって消えていきます。

 

「五匹目、ですね」

「おう、先ば越されたか」

「早い者勝ちです」

「そうじゃのう。その通りよ」

 

短刀を鞘に戻しながら呟く蘭に、豊久も追いつきました。

東の空に日が上ります。

最終選別、最初の夜が明けました。蘭と豊久は、鬼を積極的に狩るように立ち回り。

その首を確実に落としていきました。

 

 

道すがら狩った鳥を解体し、火を起こして焼いています。

二人は朝日の登った東の山の少し開けた場所に腰を下ろし、朝食を取ることにしました。

じゅうじゅうと美味しそうな音を立てて焼き鳥が完成します。

 

「鬼は——」

 

鶏肉にかぶりつきながら、さして調味料を振っていないが故に味のしない肉を見つめたあと、蘭が続けます。

 

「思っていたより、鬼は弱い生き物なのかもしれませんね」

 

その言葉に、同じく鶏肉をモグモグと食べながら豊久は、

 

「そうじゃの。刀さえそろわば首ばもぐんはたやすか。じゃっどん」

 

骨を吐き出します。

 

「あと六日ある。六日んうちに何があるかわからん。()()()のはいかんど」

「ええ、そうですね……ナメてなどいません。ちゃんと殺します」

 

蘭も、小骨を吐き出しながら一人ごちました。

 

 

————化け物のような鬼がいる。

最終選別が始まって三日が経ったある日のことです。

深い傷を負い、もういつ命を失ってもおかしくないという若い青年から、蘭と豊久はそんな情報を聞き出しました。

その化け物のような鬼にやられた傷なのか、それとも別の鬼なのかはわかりませんでしたが。

鬼の犠牲となった男に、蘭は複雑な感情をもって、最後を看取ってあげます。そして、

 

「倒しましょう。その鬼」

「手がずばあ生えちょるち言いよったな」

「ええ、きっと異能の鬼か、それに準じる強さです。これ以上犠牲者を出さないためにも、狩りましょう」

「そうじゃの。ちいとばかし小鬼を切るんも飽きとった。ここらで大将首ば欲か」

 

まぁ切っても首が残らんから首級にならんがの、と。

少々残念そうに言う豊久に、

 

「切れば死ぬのは変わりありません。切っただけ手柄だと思いましょう」

 

蘭は眉尻を下げながらそう言いました。

 

 

それから三日。

雑魚鬼とも呼べるほど弱い周囲の鬼を切りながら、蘭と豊久は危なげもなく選別を生き残っています。

求めるのは、三日目に教えてくれた「手が複数ある鬼」の存在です。それから出会った者で、まだ息のある者、もうすぐ死にそうな者、ガタガタと震えながらも生き延びている者等々に話を聞いて回りましたが。

 

「見つからん! ぜんぜんおらんど!」

 

鬼の姿どころか、情報すら入って来なくなりました。

恐れられるような図体をしていれば、少しでも情報はあるものだと思いましたが。

 

「もしかすると、出会った人はみんなやられてしまった、とかですかね」

「だったらそっ首、ぜったいに叩き落としたかぞ」

「そうですね。危険すぎます。どうにかして生き残った方を見つけたいところで——」

 

瞬間、蘭の頭上に鬼が降ってきました。

肘の先が鋭利な刃のようになっています。蘭は気付くのが遅れました。

 

「チィッ!!」

 

豊久が抜きます。勢いよく迫る鬼を、肘ごと叩き切るように吹き飛ばしました。

豊久はそのまま踏み込みます。弾き、飛んだ先にいる鬼の首へ一閃。

首は、見事に胴体から離れました。

 

地面を転がる鬼の頭。灰となって消えゆく首へ、豊久は片手ながら手を合わせます。

 

と、同時に。

今度は近くの草むらが、がさりと揺れました。不覚をとった蘭は豊久に感謝しつつも、今度は自分がと刀を抜き、切りかかります。

草むらから、

 

「うわ! ちょ、ちょっとまってください!」

 

出てきたのは、人でした。すんでのところで刃を止めた蘭は、肩の力を抜きながら出てきた少年を見上げます。

子供ですが、自分よりは年上でした。額に傷があります。潮騒を描いたような羽織を着た少年でした。

 

「だ、大丈夫ですか!? こっちから鬼の匂いがしたんですが……」

 

たった今、その鬼の首を切った豊久が帰ってきます。少年はややも驚きながら、一安心したようにほっと息をつきました。

蘭は、この数日間出会った人々に聞いてきた質問を少年にも問いかけます。

 

手を複数生やした、化け物のような鬼を見ていないかと。

少年から返ってきた答えは、

 

「その鬼は——その鬼なら、俺が倒しました。安心してください」

 

名を、竈門炭治郎と名乗った少年に。

蘭は感謝の言葉を。豊久は他の強そうな鬼の情報を、それぞれ聞きました。

 

 

炭治郎と名乗った少年は、他の鬼のことについてはわからないと返答しました。

豊久は少しだけ残念そうにしながらも、頷き、だったら自分で探すということになりました。

 

聞くところによると、蘭たちが探していた鬼は、炭治郎の師匠が捕まえた鬼だそうです。そして何人も、その弟子が犠牲になっていたと。

討ち取れてよかったことと、そして、できればもう、同じような犠牲を出したくないことを聞きました。

人が鬼に食われないようにしたい。

その気持ちは蘭と通じるものがあります。同じ志の者がいることを、蘭は嬉しく思いました。

 

別れ際、炭治郎はおかしなことを聞いてきました。

 

「鬼を人に戻す方法を知りませんか」

 

あいにく、蘭も豊久もそのようなことは知りません。

残念ながらわからないと伝え、最終選別を無事に生き残れることをお互いに祈りながら、その日は別れました。

 

 

そうして、藤襲山での七日間が過ぎました。

鬼に襲われる。

鬼を狩る。

そのどちらも果たして、終始鬼の首を斬り続けた二人は、無事に選別を生き残りました。

豊久が望む”大将首”は、残念ながら居ませんでした。

 

「まぁ、正式に隊士となれば、より強い鬼に出会うこともあると思います。その時を待ちましょう」

 

不服そうな豊久に、蘭はそのような言葉をかけます。

より強い鬼がいるのならば、その鬼はより多くの人間を喰らっていると言うことになります。

そう考えるだけで、蘭はその鬼の首を切る理由になると思いました。

豊久は強い鬼を斬ることを望み、蘭もまた、人を多く傷つけている鬼を斬ることを望んでいます。

その意味では、二人の目的は一致していました。

 

夜が開けます。

藤の花の咲く境内に、豊久と蘭を入れて六人の人間が集まっていました。

最初は二十数人いたはずです。これが生き残りなのだと思うと、ずいぶん少ないです。

試験そのものは過酷なのだと。

しかし鬼の首を切ることは容易かったと。

蘭も、豊久も、なぜここまで生き残りが少ないのかがわかりませんでした。

わかりませんが、鬼が脅威であることは確かです。刀を振る理由には十分です。

 

最終選別。

蘭は七体を、豊久は八体を。

鬼の体と首を切り離し、灰と成しました。

 

 

「そうかい。そんなに鬼を倒したんだね」

 

寝殿造の屋敷の一角。日の光が差し込む縁側で、一人の男がそうつぶやきました。

鎹鴉(かすがいがらす)からの報告聞き、素直に驚嘆の声を漏らしたのは、この屋敷の当主です。

産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)。鬼殺の隊士をまとめ上げる一族の当主にして、97代目になる男です。

 

「七人も生き残るなんて。優秀な子達だね」

 

また私の子が増えるね、と。

その双眼に、確かに嬉しそうな面持ちをたたえながらつぶやきます。

 

「それにしても」

 

はた、喜色の笑みから一変して、今度は物憂げな表情になります。

 

「鬼を補充するのが大変だ。いったいどんな子が、そんなに()()()んだろうかね」

 

苦笑。

そして一抹の興味を惹かれながら。

産屋敷耀哉はひとり、縁側で日の光を浴びています。

とても天気の良い、晴れ日和でした。

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