そのころ陸軍はパーパルディア皇国と邂逅していた…
中央暦1639年12月7日午前8時――――
パーパルディア皇国属領統治軍所属ワイバーンロード2騎
その日は快晴な空が広がっていた。ワイバーンと呼ばれる飛龍を操り、竜騎士であるマドックと上長であり師匠でもあるルパートは、パーパルディア皇国属領北東方向の警戒任務兼訓練飛行についていた。
皇国北東方向にはリーム王国。東に行けばデュロがあるが、ここら辺は何もないド田舎である。
哨戒勤務の必要性、それは特には無いが、一応属領を警戒するのともうすぐ訓練を始めて1年になるマドックの技量を見極める為、彼と上官のルパートは公国北東の空へ飛ばしていた。
「―――――――!?」
先に何かを見つけたのはルパートであった。
「なんだ?あれは…」
空に見える粒のような飛行物体。通常は、味方のワイバーン以外に考えられないがワイバーンにしてはおかしい。
「何だこの音は…」
マドックは聞いたこともない奇妙な重低音に警戒心を抱き始めた。
粒のように見えた飛行物体は、どんどんこちらに進んで来た。それが近づくにつれ、味方のワイバーンでは無いことを確信する。
「羽ばたいていない」
ルパートは、すぐに通信用魔法具を用いて司令部に報告する。
「我、未確認騎を確認、これより要撃し、確認を行う。現在地・・・・」
高度差はほとんど無い。彼は一度すれ違ってから、距離を詰めるつもりだった。
未確認騎とすれ違う。
その物体は、彼の認識によれば、ワイバーンより一回りか二回り程大きかった。羽ばたいておらず、翼についた風車のようなものが2つぐるぐる回っていた。
機体は緑色、胴体と翼に赤い丸が描かれていた。
彼は、反転して、愛騎を羽ばたかせる。風圧が重くのしかかり、飛ばされそうになる。一気に距離を詰める・・・つもりだったが、全く追いつけない。ワイバーンロードの最高速度時速約350km/h。生物の中では、ほぼ最強の速度を誇り、馬より速く、機動性に富んだ空の覇者(本国にはさらに品種改良を加えた上位種を試験運用しているらしいが)
が全く追いつけない。
相手は、生物なのか何なのかも全く解らない。
「くっっっ!!なんなんだ、あいつは!!」
驚愕
「司令部!!司令部!!!!我、飛行騎を確認しようとするも、速度が違いすぎる。追いつけない。飛行騎は皇都エストシラント方向へ進行、繰り返す。皇都エストシラント方向へ進行した」
報告を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「そんなワイバーンは聞いたこともない!復活した魔王軍の先遣隊じゃないのか!」
「属領統治軍は何故今まで気が付かなかった!」
「とりあえず上げられる部隊は全部上げろ!」
ワイバーンでも追いつけない未確認騎がよりによって、パーパルディア皇国の首都である皇都エストシラントに向かって飛んで来ると言う。
攻撃を受けたら、軍の威信に関わる。
機は速度からしておそらくすでに本土領空へ進入しているはず。
通信魔法で、指令が流れる。
「この通信を聞いている飛龍隊は全騎発進セヨ、未確認騎が皇都エストシラントへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜セヨ、繰り返す発見次第撃墜セヨ」
滑走路から、どんどんワイバーンが発進する。
彼等は透き通るような青い空に向かい、舞い上がっていった。
一部の竜騎士部隊は、運良く未確認騎の正面に正対した。報告に寄れば、相手は超高速飛行が可能な者のようだ。
相手が速すぎる場合、チャンスはすれ違う一瞬のみ。
竜騎士部隊12騎が横一線に並び、口を開ける。
火炎弾の一斉射撃。これが当たれば、落ちない飛竜はいない。
口の中に徐々に火球が形成されていく。その時、未確認騎が上昇を始めた。すでにワイバーンの最大高度4000mを飛んでいた彼らにとって、それは想定外の事態であった。
すさまじい上昇能力でぐんぐん高度が上がっていく。
竜騎士部隊は、未確認騎をその射程にとらえる事無く、引き離された。
「我、未確認騎を発見、攻撃態勢に入るも、未確認騎は上昇し、超高々度で皇都エストシラント方向へ進行した。繰り返すーーーーーーーーー」
皇都防衛隊、隊長アラディンは、竜騎士部隊からの報告を受け、上空を見上げた。
一般的に、飛龍から地上への攻撃方法は、口から吐く火炎弾である。矢をばらまいたり、岩を落とす方法も過去には検討されたが、空を飛ぶ生き物は重たい物を運ぶ事が出来ない。
単騎で来るなら、攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察と思慮される。
される。
しかし、いったいなんなのだろうか?
飛龍でも追いつけない正体不明の物。飛竜の上昇限度を超えて飛行していく恐るべき物、それがまもなく皇都エストシラント上空に現れる。
隊長アラディンは、空を睨んでいた。
遠くの方から音が聞こえ始めた。ブーンといった聞き慣れない音、しばらくして、それはエストシラント上空に現れた。
奇妙異な物体、大きくて緑色の機体、羽ばたかない翼、怪奇な音、翼と胴体に赤い丸が描かれている。
明らかな領空侵犯、しかし、飛竜は遙か遠くからこちらへ向かっている最中、攻撃手段は、あることにはあるが、今回は接近が速すぎて、何も準備が出来ていない。
事実上現時点では無い。
物体は、エストシラント上空を旋回し、北東方向へ飛び去った。
◆◆◆
中央暦1639年12月7日 午後
皇都エストシラント 皇城
「それでは、これより緊急御前会議を始めたいと思います。」
国家の危機的状況となった時のみ開催され、根回しも何も無く、生の情報をぶつけ合う会議が始まろうとしていた。
会議は国のトップ、皇帝ルディアスを筆頭として、国の重役が顔を連ねる。
皆、顔は暗く、だれ1人として笑顔を見せる者はいない。
会議の面々には、皇族レミール、軍の最高司令アルデ、第1外務局長エルト、第2外務局長ランス、第3外務局長カイオス。そして臣民統治機構長パーラスと皇都エストシラント防衛基地司令メイガが含まれていた。
皇都防衛軍司令のメイガが午前中に起こったことを皇帝に説明する。
「…でありまして、この度の失態は全て私の責任!いかなる罰も受ける覚悟であります!」
メイガの額には汗が滴る。
少し間を空けて、ゆっくりと皇帝は話始める。
「余は・・・・悲しいのだ。初代皇帝以降、パールネウス共和国の時代から皇都の空を守ってきた皇都防衛軍が今はこの有様なのかと。先祖にどう顔向けできようか」
一同が沈黙していると
「で、余に泥を塗った奴はどこの国の者だ!」
ガシャン!
皇帝が近くに置いてあった杯をメイガに投げつける
メイガはそれを避けることなく甘んじて受け、額から血が滴り落ちる
「は!報告よりプロペラらしき物で飛んでいたとの情報がありましたので、ムー帝国かと思い大使館に問い合わせてみましたが、そんな物は無いと一蹴されまして…」
「ムー帝国め、列強4位だからといつも見下しおって!」
「で結局どこの国なんだ!ムーじゃなきゃミリシアル帝国か!」
頭に血が上っていた皇帝がさらに怒ったことで茹でだこのように赤くなっている
「そ、その件と関連して私からも報告があります…」
臣民統治機構長パーラスが今にも倒れそうなほど蒼白い表情で皇帝に報告しようとすると
「何だパーラス!はっきりと申せ!」
ガシャン!
次は近くにあった花瓶をパーラスに投げつけた
「ひ、ひぃ!」
パーラスはとっさに避けてしまった
「本日未明から、東部一帯の統治軍より謎の蛮族と交戦中との報告が次々と入っていまして、現在も交戦中とのこと!」
「謎の蛮族だあ?反乱軍じゃないのか!!」
ガシャン!
皇帝はパーラスにグラスを投げつけた
「ひぃぃぃ!!」
皇帝に避けるのを読まれていたようで、今度は頭に当たり額から血が滴り落ちる
「そ、その蛮族は大日本帝国と名乗ったらしく黄土色の薄汚い格好をしているようで…」
「大日本帝国だと!?」
第3外務局長カイオスが驚きの反応を示す
「大日本帝国など聞いたことも無いが。カイオス、知っているのか?」
皇帝は聞いたこともない国名に不審がっている
「は、実はロウリア王国の大使館より大日本帝国と名乗る蛮族から攻撃を受けているとの報告がありました。突然の襲来ということもありロウリア王国軍は苦戦しているようです」
皇帝は少し考えると
「大日本帝国だか何だか知らんが余に恥をかかせたことは後悔させねばならん!」
「アルデ!やってくれるな?」
「はい、もちろんであります!」
アルデはこの会議で初めて笑顔を見せた
「そして、メイガとパーラス!」
「は!!」
「今回の失態の処遇に関しては保留とする。アルデと協力して大日本帝国とかいう蛮族を討伐しろ。処遇の決定はその後にする。」
「あ・・あ・・あ・・ありがたき幸せ!!!」
「カイオスは監査軍を使ってロウリア王国を支援しろ。ロウリアにはまだ稼いでもらわなければいかんからな」
「は!」
「情報局は速やかに大日本帝国を調べろ」
「は!」
「会議は以上だ。二度と余を失望させるなよ」
皇帝の器の大きさにメイガとパーラスは泪を流して歓喜し、より一いっそう皇帝への忠誠を強くしたのであった。
今回はそのまんまです。次回あたりで陸戦書きたいですね。
(2021,06/01)皇国の描写を追加しました。