異世界でも大東亜共栄圏   作:えなかま

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 香港攻略当日、各中国戦線から戦闘の報告が続出する。何と戦っているのかも分からない支那派遣軍は翻弄されつつも目の前の問題に対処していく。


第四話 中国戦線異常あり

大日本帝国領 南京 現地時間 1941年12月7日 午前二時

 

支那派遣軍総司令部

 

 中国大陸では華北を担当する北支那方面軍と、華中を担当する中支那派遣軍が活動していたが、1939年9月に発令された大陸命第362号により、二大方面軍を統括。陸軍最大の支那派遣軍が誕生した。司令部は南京。満州国を除く中国全土に対する政戦略の統括、敵重慶政府への工作促進などを目的としていた。

 

 「すまんが時間がない。先ほど中国戦線各地で同時多発的に戦闘が始まったとの報告があった。」

 

 集まった参謀たちに動揺が広がる。それもそのはず、2か月前まで加号作戦が行われており、苦戦しつつも中国軍を撃退したばかりだというのにそんな大規模な反攻作戦を受けるとは思っていなかったのだから。

 

 「予定していた香港攻略作戦の時間も刻々と迫っている。早急に対応を決めねばならん。」

 「宮野参謀。現状の報告を頼む。」

 

 支那派遣軍総司令官である畑俊六大将は香港攻略作戦の予定が狂ったことに少し苛立ちつつもそれ以上に何が起こったのか不思議で仕方なかった。

 

 「は!げ、現在、中国戦線各地で小規模な戦闘が多発しており、これは香港攻略作戦を担当している第23軍も例外ではありません。」

 「しかしあまりにも急なことで情報が錯綜しており、共通しているのはカラフルな古めかしい軍装の騎兵の白人に日本語で話しかけられ、蛮族扱いされ攻撃されたという点で…えー…何というか荒唐無稽な情報も…」

 

 宮野大佐が部下のよこしたメモ書きを見ながら報告しているととある単語を見て固まってしまう。

 

 「どうした?続けたまえ。」

 

 総参謀長の後宮中将が訝しんで声をかける。

 

 「も、申し訳ありません!そ、空飛ぶトカゲや、宙に浮く人、妖術で攻撃してきたなどとあまりにも荒唐無稽な報告ばかりのようでして…」

 

 

 信じられない報告に会議室の時間が止まったように誰も口を開かなくなった。重い空気の中、畑司令が口を開く。

 

 「とりあえず現状は戦線は破られてはいないのだな?」

 

 「は!現在戦線を破られたとの報告は受けておりません。敵の主力武器は先込め式のゲベール銃であるらしく火力では我が方が優勢なようです。」

 

 「それを早く言わんか!」

 

 

 総参謀副長の野田中将が声を荒げる。

 

 「も、申し訳ありません!ま、また、戦線を見張っていた各部隊より風景が変わったとの報告もあり、第23軍からは香港があったはずの場所に別の大きな都市があり、敵の拠点である可能性が示唆されています。」

 

 

 「大本営からは何かないか?」

 

 畑司令が質問する。ある程度の独断専行が許されているきらいがある支那派遣軍と言えども大まかな方針は大本営に依るところが大きい。(関東軍みたいなのもいたけど…)

 

 「大本営からは”現状を維持せよ”との指令のみで本土も混乱しているようです…ただ関東軍や朝鮮は繋がりますので何かあれば相互に連携をとることは可能かと思われます。しかし、いつもなら聞こえる中国軍やソ連の定時連絡の通信がありません。」

 

 宮野大佐が不安げな表情になりながらも報告を続ける。

 

 「ふむ…我々は神隠しにあったのかもしれんな。わっはっは。」

 

 司令が軽口を叩く

 

 「畑司令、軽率な発言は控えてください。部下の士気にかかわります。」

 

 総参謀長の後宮中将が司令を諫める。

 

 「そうだな、すまん。」

 

  畑俊六大将が柄にもなくシュンとするがすぐに気を引き締める。

 

 「とにかく我々で出来ることをしよう。時間がない。先ほど香港があるはずの場所に敵の拠点と思われる別の大きな都市があるといったな?」

 

 「は、はい!。報告によれば城塞都市のようになっており、城壁には大砲のようなものも確認されているようです。」

 

 「ふむ。報告を聞く限り敵は17世紀頃の欧州並みに思える。妖術や空飛ぶトカゲというのが解せぬが…少し偵察は必要かもしれんが香港攻略作戦を少し弄ればそのまま使えるんじゃないかね。」

 

 畑司令が参謀たちに意見を乞う。

 

 「報告を精査する必要はありますが、1から作戦を練る時間はありませんし、現状は小規模な戦闘でも敵に援軍を呼ばれ戦域が拡大するのは避けたい。」

 「ここで我々が敵の拠点を攻撃すれば敵は守りに動き我々は攻めに戦力を割くことが出来る。」

 「とりあえず序盤は香港攻略作戦に沿って動いて時間を稼ぎ、その間に情報を収集して作戦を修正していくしかないでしょうな。」

 

 総参謀長が冷静に淡々と司令の期待に応える。

 

 「うむ。信じられないような状況だが我々が攻撃されていることには変わりない。我々がここで踏ん張らなければ守るべき臣民に被害が及ぶことになるのは明白だ。部下も不安だろうがまずは目の前にある脅威への対処に全力で当たるほかない。」

 「参謀には苦労を掛けるがよろしく頼む。」

 

 司令は各参謀の目を見ながら話終えると次の指令を出した。

 

 「では指令を伝える。」

 「現在中国戦線で戦闘中の各師団、旅団は司令部のもとに相互に連携しあい現状維持に努めよ。」

 「参謀は香港攻略作戦を基に速やかに敵拠点侵攻作戦を立案し、第23軍をもってこれにあたれ。以上。」

 

 

 指令を受けた参謀達は直ちに行動へ移り、支那派遣軍総司令部は盧溝橋事件並みの熱量で動き始めた。各師団、旅団に電文が飛び交い、報告を整理していった。時間とともに各戦線の詳細な状況を司令部は把握していく。どうも敵はパーパルディア皇国と呼ばれる国で目標の都市はデュロと呼ばれ敵にとってかなり重要らしい。判明した情報を本土の大本営に伝える。未だ大本営では意見がまとまっていないらしい。どうせまた海軍が駄々をこねているに違いないと思う宮野大佐であった。

 

 

 




次回はデュロ侵攻です。パーパルディア視点で描こうと思っています。

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