大日本帝国 東京 現地時間 中央暦1639年12月17日午前10時
帝都東京。移転して間もないが通りを行き交う人々は相も変わらず忙しない。異界の国の艦隊が来航したとは露程にも思わず旭日旗を振っている見物人。金のにおいを嗅ぎつけた屋台がひしめき対米戦をしているとは思えない賑わいようである。移転前と何も変わらない風景がそこには広がっていた。そもそも対米戦が決定する前から石油等の資源物資の輸入は止められ、輸出も開戦をきっかけに止まっていたので移転したところで庶民の生活は何も変わらないのだ。政府も異世界に移転したと発表しておらず、来航したグラ・バルカス帝国艦隊も旗以外はそのまま大日本帝国海軍の軍艦でしかなかったので見物人も違和感は感じつつも対米戦に向けて東京湾に停泊するだけだろうと思っていた。対してグラ・バルカス帝国外交官一行は国民に歓迎されていると勘違いし意気揚々と交渉に向かっていく。
「大日本帝国へようこそ。歓迎いたします。本来はもっと盛大にお迎えするべきですが、この会談はあくまでも内密なためご了承ください。到着早々で申し訳ないですがさっそく会場へご案内いたします。こちらにご乗車ください。」
「うむ。時間が無いのは我々も同じだ。よろしくたのむ。」
外務省東部方面異界担当課長のシエリア率いる外交官一行と海軍将校は艦隊を残して会場へ向かう。
「しかし十分盛大なお迎えだったように思えるぞ。礼砲は無かったが、国民からあれだけ歓迎されるとは我々も有名になったものだな。」
シエリアが入港した際の感想を述べる。
「ハハ…それはありがとうございます。」
別にお前らを歓迎してたわけではないと思いつつもそう思ってくれた方が都合が良いと思って何も言わない運転手であった。
「しかしなかなか発展した都市ではないか。帝都ラグナとは大分雰囲気が違うがこれはこれで良い趣だな。何と言っても空気が美味い。」
車内から通り過ぎていく風景を眺めながらそう言うと…
「自動車も割と普及しているようですね。デザインも似ているし技術的にも価値観的にも大きく違わないのかもしれません。」
直属の部下のダラスが反応する。
「首都ですからね。大日本帝国内で東京より発展した都市はありません。」
運転手と談笑しながらしばらくして目的地に到着する。
「到着いたしました。首相官邸です。」
昭和4(1929)年に竣工され、昭和7(1932)年の5・15事件。その4年後の2・26事件を経験した首相官邸。正面玄関の上部にはめ込まれたガラスには、直径1センチほどの弾痕が刻まれており今も当時の惨状を物語っている。時の犬養毅首相らが反乱軍の将校たちに暗殺されていることもあって「夜になると公邸に軍服姿の幽霊が出る」という噂が絶えない。
「せいぜい次官クラスの者と会談するものと思っていたが総理とは…」
思いがけない会談相手にシエリアも緊張を隠せない。
「し、しかしこれはチャンスですシエリア様。結果次第では我々東部方面外交部の地位向上は勿論のこと大日本帝国を我々が一括して担当できれば利権は…」
「黙れダラス。事は重大だ。我々に国の命運がかかっているかもしれんのだぞ。」
「も、申し訳ありません…」
シエリアが調子に乗ったダラスを黙らせているとすぐに案内の者が来た。
「皆様こちらへ。既に総理大臣と閣僚が待っておられます。」
外交官一行と将官が会議室に入ると
「ようこそ大日本帝国へと言いたいところだが歓迎会は後だ。早速だが席に着いてくれ。聞きたいことが山ほどあるんだ。」
参謀総長の杉山元陸軍大将が着席を促す。
今回の日グ会談の参加者
日本側
内閣総理大臣兼陸軍大臣兼内務大臣:東條英機
外務大臣:東郷茂徳
海軍大臣:嶋田繁太郎
参謀総長:杉山元
グラ・バルカス帝国側
外務省東部方面異界担当課長:シエリア
同上担当課員:ダラス
同上:エリク
同上:ギリアン
第八植民地任務部隊司令長官代理:アリゴ少将
海軍第82防備隊司令官:セシリオ少将
+補佐の佐官クラス二人
「私が外交団代表のグラ・バルカス帝国外務省東部方面異界担当課長のシエリアと申します。この度は会談の機会を頂き至極光栄と存じます。しかし首脳クラスの方々と会談とは我々も予想外でした。」
シエリアが緊張した面持ちで挨拶をする。
「まあ、普通はそうだが我々も時間が無い。いつまでも移転したことを臣民に隠しているわけにはいかんしな。」
「あ、私は外務大臣の東郷茂徳だ。でこちらが内閣総理大臣兼陸軍大臣兼内務大臣の東條英機。あちらが海軍大臣の嶋田繁太郎。そして参謀総長の杉山元だ。」
各大臣が会釈する。
「申し遅れましたがシエリアの部下のダラスです。こちらが同じく。」
「エリクです。」
「ギリアンです。」
「隣が第八植民地任務部隊司令長官代理のアリゴ少将と海軍第82防備隊司令官のセシリオ少将です。」
各将校が会釈する。
「あ、貴方であったか機動部隊と交信したのは。」
海軍大臣の嶋田繁太郎大将が反応する。
「はい。我々も本当に出会えるものとは思っていませんでしたがたまたまレーダーに引っかかり見つけることが出来ました。あの時はどうなるかと思いましたが無事平和的に事が進み安堵しました。そちらの海軍の練度には素晴らしいものがありますな。」
「いやいや、異なる世界の国の国際儀礼が我が国と同じで良かった。もし違っていたら結果は変わったかもしれない。」
「…交信内容を聞いた時から気になっていたが、そもそも何故あの海域に我々がいると知っていたのだ?」
嶋田大将が根本的な質問をアリゴ少将にぶつける。
「それに関しては私が。」
シエリアが話を遮る。
「ダラス、例の写真を。」
グラ・バルカス帝国でも最新技術であるカラー写真を複数枚取り出す。
「こ、これは日の丸!?」
「しかしこの兵器は何だ?こんなのうちにはないぞ。」
各閣僚は驚きの顔を隠せない。
「この写真は我が国の情報部がとある遺跡の中で撮影したものです。技術部を派遣したところ我が国のおよそ40年~50年程進んだ科学文明であるという見解を得ました。」
風防と座席が無く片翼はもがれているが、20世紀後半に米国のF-16を元に日米共同で開発され、鮮やかな洋上迷彩が印象的な「平成の零戦」や「バイパーゼロ」と呼ばれるF-2戦闘機の姿がそこにはあった。
「F-2と呼ばれる戦闘機のようですが、文字が異なるため解読に時間が掛かっています。」
「どういうことだ!日本ではないということか!?」
「し、しかし、機体に日本語が書いてあるぞ。」
「確かに、"この機体にはGRADE JP-4Aの燃料を使用せよ"と書いてあるな。初めて聞く燃料だが」
日本の国旗が描かれているにもかかわらず誰一人として心当たりがないことに奇妙な感情を抱く。皆珍妙な表情で写真を見るが何もわからない。予想外の情報に本題を忘れているがそれどころではない。
「これだけでは我々もこれを誰が作ったもので何故残っているのか分かりませんでしたが、我が国の周辺を海洋調査していたところ、潜水艦が見つかりまして、比較的浅瀬でしたので引き揚げて調査いたしました。」
またダラスが写真を取り出す。
「巡潜甲型ほどの大きさではないが奇妙な形をしているな。」
「これも我が国の潜水艦なのか!?」
表面が苔だらけで艦尾の特徴的なX舵が折れ曲がっているが、通常動力型潜水艦の中では世界最強と名高いそうりゅう型潜水艦の姿がそこにはあった。
「艦尾の機関室は完全に水没していましたがその区画以外は無事で遺体もなかったことから乗組員は脱出できたものと思われます。」
「そして重要なのが船内から発見された書類や書籍です。こちらをご覧ください。」
一際大きい荷物を抱えていたエリクが数千ページに及ぶ青焼きの紙束を机に置く。
「ジェーン年鑑だ!」
「ワイヤー軍艦年鑑もあるぞ。それも1982年版か。こっちは2010年だが」
「航空機版や軍用車両版もあるのか。時代がばらばらだな。」
1898年にジョン・F・T・ジェーンが創刊して以来、毎年英国より発行されているジェーン年鑑は各国の海軍などに配備された軍艦の船種ごとに性能・装備などがまとめられている。当初は軍艦のみを扱っていたが、1909年には航空機を扱った『Jane's all the world's aircraft』が刊行されるなど、徐々に対象分野が広がっていき、兵器だけでなく、商船や鉄道、都市交通システムなども扱うようになった。(種類にもよるが1冊10万円近くする。)
紙束の内訳
・ジェーン海軍年鑑(2014-2015)
・ジェーン航空機年鑑(2011-2012)
・ジェーン軍用車輌年鑑(2010-2011)
・ワイヤー軍艦年鑑(1982/83)
「これらを大日本帝国の皆様に訳して欲しいのです。我々も解読を試み、それによってあの戦闘機や潜水艦が日本という国のものであることが判明しましたが、写真や図面付きでの解説だったのでまだ兵器の性能等詳細な部分は分かっておりません。」
シエリアが大日本帝国側にお願いをするが、何もしないで40年~50年も進んだ軍事技術を拝めるとなれば断る選択肢はない。
「勿論、翻訳には協力しよう。進んだ軍事技術を手に入れることは我が国の国益に叶うものだ。しかしこれだけではそもそもの何故あの海域に我々がいると知っていたのか。そして何故我が国は移転してしてしまったのかは分らんではないか。」
総理大臣の東條英機が疑問をぶつける。
「申し訳ありません。最初に話すべきでしたね。実は我が国もあなた方と同じようにこの世界に移転して来たのです。」
最初にグラ・バルカス帝国の紹介をしようと思っていたシエリアだったが話の流れですっかり忘れていた。
「そうか我が国だけじゃないのか。」
「この世界は移転国家の集合体なのか?」
「移転直後から隣国と戦争になってしまってこの世界のことがまるで分らんのよな。」
閣僚から様々な疑問が噴出する。
「そうですね、まずこの世界の成り立ちを説明しましょう。我々が調べた限りの内容ですが。」
シエリアは古の魔法帝国と太陽神の伝説。そしてこの世界特有の魔法の存在と文明圏という考え方について話した。
「う~ん、なるほど道理でなめられるわけだ。」
「同じ日本語を話しているのに話が通じない訳がわかったわ。」
「そうか、他にムー帝国があるのか。」
「しかし魔法が厄介なことに変わりはないがな。」
閣僚どもがそれぞれの感想を述べると
「我が国の情報部では太陽神の伝説を元にいくつか仮説を立て、移転した理由を検討しました。こちらの資料をご覧ください。」
シエリアの部下のギリアンが資料を配り始める。
グラ・バルカス帝国の国家転移事象における要因検討
1、この世界の言語体系は大陸共通言語に統一されており、転移国家もこの世界特有の魔法によって自動的に大陸共通言語に変換される。しかし文字体系は国によって異なり、これは古の魔法帝国に支配されていた頃の名残か、魔王軍侵攻に伴う種族間連合が発足した際に出現した太陽神の使いの言語に影響されたものと推測される。
2、国家やそれに準ずる組織が転移される条件としてこの移転先の世界(以下、新世界)を根本から覆すような事態(例:魔王軍侵攻)。または元の世界で国家を揺るがす重大な事象(ムー帝国:大陸水没、グ帝:ケイン神王国との開戦)
3、伝説では古の魔法帝国が再び新世界に転移する可能性が示唆されており、その際はそれに対抗できる力を持った国家、またはそれに準ずる組織が転移される可能性がある。
4、グラ・バルカス帝国は太陽神の使いの所属である日本国との共通点が多く、特に大日本帝国時代の言語体系、技術体系には類似点が多くみられる。
上記より、グラ・バルカス帝国は超常的存在に太陽神の使いの代わりとして転移させられた、又は超常的存在が日本と勘違いして転移させられた。
追記
魔王軍侵攻の際は日本国そのものではなく、我が国よりおよそ40年~50年程進んだ技術を持つ日本国軍の1個軍団規模が召喚された。技術的に劣る我が国が転移されたのは、国家転移規模であれば我が国レベルでも問題ないと超常的存在が考えたのかもしれない。しかし魔王軍規模なら兎も角、古の魔法帝国相手であれば我が国と新世界の国々が束になっても劣勢は免れないため日本国も転移される可能性がある。日本国が転移されるとすれば船内より発見された歴史書より太平洋戦争開戦時、米国による原爆投下、キューバ危機、ベレンコ中尉亡命事件、東日本大震災、2015年以降の重大事象等のタイミングが考えられる。
「おい、しれっと我が国の未来の片鱗が書いてあるが。」
「移転した理由よりこちらの方が重要じゃないか。」
「これ我々が知っても大丈夫なのか?」
「転移した時点で既に理から外れている。関係なかろう。」
閣僚たちは転移した理由よりも大日本帝国の未来の方が気になっているようだ。
「実は先ほど紹介した書籍以外にも複数の書物や書類を入手しておりまして、その中には歴史書もありました。与える影響が大きいことを鑑みて今回の会談では紹介しないつもりでしたが、この資料自体が直前に電文で届いたものでして精査が足りておりませんでした。申し訳ありません。」
シエリアが謝罪するが閣僚たちはそんなことはどうでもいいといわんばかりに話を続ける。
「これは御前会議にて天皇陛下のご聖断を仰がねばならん。」
「そうだな。我々の一存では決めかねる事案が多い。」
「では明日には御前会議を行えるよう取り計らいましょう。」
閣僚たちが相談し終えると
「シエリア殿、今回はご足労感謝する。とりあえず翻訳の件に関しては了解した。出来るだけ早く翻訳出来るよう取り計らおう。従ってグラ・バルカス帝国側より言語に詳しい者を何名か出して欲しい。」
翻訳を担当することに決定した参謀本部の参謀総長である杉山大将が決定したことを伝える。
「ありがとうございます!言語に関しては私の部下であるエリクとギリアンが専門家でもありますので自由にお使いください。」
当然だが近代国家における外交員はエリート集団なので様々な専門家が所属している。シエリアは前もって言語学の専門家と国語学の専門家を連れて来ていた。
「あと我が国としてグラ・バルカス帝国に使節団を派遣したいと思う。詳細は明日の御前会議のあと追って連絡する。それまで観光なり自由にするとよい。案内の者をつけよう。また、今日そちらの艦隊の乗組員も含めて歓迎会を開きたいと思うが宜しいか。」
「格別のご配慮、痛み入ります。乗組員も喜ぶと思います。」
軍人や役人で目上の者の誘いを断る奴はいない。
「あの、もし歓迎会の会場が決まっていないようでしたら我が国が誇る戦艦であるオリオン級戦艦3番艦アルニラムを会場にどうでしょうか?。海軍屈指の腕利きコックがグラ・バルカス帝国の料理を振舞うのを楽しみにしています。」
アリゴ少将が歓迎会の会場場所を提案する。実はグラ・バルカス帝国側でも歓迎会を開く準備をしていた。
「確かにグラ・バルカス帝国の料理は興味が湧く。それに臣民にばれる心配もない。」
「いいんじゃないか。あの金剛型に似た戦艦には興味があったんだ。」
「うむ。準備した料理や酒は持っていくこととしよう。」
閣僚たちも乗り気だ。
「そうと決まれば早速船に連絡します。おい、電信機持ってきたよな。」
アリゴ少将が部下に指示を出す。
その夜、会場に停泊する戦艦アルニラムで大日本帝国とグラ・バルカス帝国の邂逅を祝して歓迎会が開かれた。双方が料理や酒を持ち寄り大いに語り合った。この歓迎会を通してお互いが尊敬に値する軍人であることを認め合い、後の条約締結に大きく貢献することとなった。そして次の日、御前会議では以下のことが決まった。
・若杉要を全権大使とする使節団をグラ・バルカス帝国に派遣し、国交樹立させる。また、グラ・バルカス帝国に仲介を要請しムー帝国と接触、可能ならば国交樹立を目指す。
・帝国臣民に我が国が新世界に転移したことを発表する。なお混乱を避けるため発表原稿は慎重に検討する。
・新世界の隣国に独断で侵攻した司令官は転移に伴い指揮系統が混乱しており大本営に指示を乞える状況ではなかったため不問に付す。
・ロデニウス大陸を資源供給地として開発重点を置き、すでに占領統治が始まっているロウリア王国は元のクワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国に分割し大東亜共会議へ招待する。
・パーパルディア皇国は飽くなき侵略と搾取を行い、我が国を隷属化する野望をむきだしにし、ついには大東亜の安定を根底から覆そうとしており、この脅威を排除することによって大東亜の平和と安寧を取り戻す。
・新世界においても列強が富と技術を独占し、周辺国が搾取され続けている現状を鑑み、この地においても大東亜共栄圏構想を立ち上げるものとする。
勢いで書いていたら割と長文になってしまいましたがやっとタイトル回収が出来ました。今回の話で原作との設定の違いが色々明らかになりましたが、もしかしたら原作と矛盾する部分があるかもしれません。矛盾点や質問等あればお気軽にコメントください。
次回の話はまたアンケートで決めたいと思います。