大日本帝国 台湾海峡上空 現地時間 中央暦1639年12月22日午前11時
太平洋戦争開戦前には陸海軍共同で大規模な重慶爆撃が幾度となく行われていたが、太平洋戦争開戦にあたって新たな敵である鬼畜米英との戦いに備えるため有力な重爆撃機隊は南方軍等へ動員されていた。
そもそも渡洋爆撃では海軍航空隊が一枚上手で当時としては先進的な電波航法が使用されていた。飛行場という着陸地点が動かない陸軍と違って空母という動き続ける着陸地点に着艦しなければいけない艦載機にとって帰るべき母艦を見失うということは死に等しいものでったため米国のFarchild社製の無線方向探知機を国産化したものを装備していた。
本来、新たな場所に爆撃する場合は電波航法を使える海軍航空隊に支援を頼むべきだが、海軍もそれどころではないため、フィリピン攻撃準備のため台湾の潮州基地に移動していた飛行第14戦隊に白羽の矢が立った。デュロ自体が香港と場所がほぼ同じだったため上海爆撃の経験がある第14戦隊は丁度よかったのだ。また、最近は新型の一〇〇式重爆撃機呑龍への機種転換が行われており試験飛行としても丁度良いと判断された。
陸軍航空隊としては爆撃機には常に戦闘機隊が随伴して、爆撃機編隊を護衛するのが敵地空襲の基本だと考えていた。しかし偵察の結果、敵の空飛ぶトカゲは高度4000m程度までしか上昇出来ないことが判明しており、もし捨て身の一撃を仕掛けられたとしても九七式重爆撃機よりも重武装の一〇〇式重爆撃機であれば十分対処可能であると考えられ、今回は護衛なしでの作戦が立案された。
「あと30分でデュロ上空です。」
偏流、速度、現在位置等を真剣に航空図にプロットしていた河野副操縦士が報告する。
「よし、全員警戒を怠るな!敵のトカゲ野郎は火を吐くって話だ。あと15分で敵が来なければ高度を4000mまで下げる予定だ。それまでは血眼になって敵を探せ!」
田島機長の大声が操縦席に響き渡る。
しかし眼下には雲が多く、仮に敵が飛んでいたとしても見つけるのは難しいだろうと皆思っていた。そもそもトカゲは高度4000m程度までしか上昇出来ないと聞いていたので搭乗員の大半は安心して眼下を眺めていた。
しかし、間もなくして機首銃座兼爆撃手の山本が気づいた。
「い、いた!10時方向!羽ばたいてる!」
「よし、でかした!各機にも通達!戦闘準備だ!」
機長の指示で銃手が配置につくが…
「撃ってこんな。」
クソトカゲ共は編隊の下を追従している
「やはり高度6000mまで届く有効な兵器がないのでは。」
「そうかもしれんな。しかしこれでは高度を下げられん。」
「精度は下がりますが、この高度のまま爆撃するしかないですね。」
「まあ、判断は戦隊長次第だからな。我々は従うのみよ。」
間もなくデュロ上空へ達するというときに、突如、正体不明の敵機が迫っていることに、上部銃座の銃手が気が付いた。
「に、人間だ!空から降ってくる!?」
慌てて銃身を向けたときには、猛烈な勢いで急接近する敵機が既に一撃を放っていた。
機内で何かが炸裂する音と同時に赤い液体がばら撒かれる。
「葉山軍曹!」
操縦席の田島機長は一瞬のことで何が起きたのかほとんど分からなかった。ただ分かったのは後部銃座を担当していた葉山軍曹の頭が無くなっているということだけだった。
「くそったれ!こんな話聞いてないぞ!敵はどこだ!」
「あ、あれです!人が飛んでいる!」
副機長が示す方向を見ると人間が飛んでいた。小銃を構え、ゴーグルと防寒着に身を包んだ人間が飛んでいる。
「なんだあれは、腹部が光っている?」
よく見ると腹部の水晶玉のようなものが青白く発光しており、ときおり人間を包み込むように青白く光り輝く膜のようなものが波打つのが見える。
「おそらく魔導防壁かと思われますが、敵にあんな兵士がいるとは…」
「おい、感心してる場合じゃないぞ河野!お前、葉山軍曹の代わりに後部銃座につけ!」
「は、はい!」
河野副操縦士が後部銃座に向かうと機体に受けた穴が露わになる。
「おいおい、これはどう見ても20mm以上の威力があるぞ。これでは呑龍の装甲板は役に立ちそうもないな。」
「河野!無駄口叩いてねぇでさっさと銃座につけ!弾幕を張れ!近づけさせるな!」
機長の怒号が飛ぶ
「は、はい!配置つきました!」
「くっそまだ死にたくねぇよ…」
河野副操縦士が弱音を吐いていると
「き、きた!8時の方向!一人!」
「落ち着け!無理に当てようとするな!とにかくばら撒いて敵を近づけさせないようにしろ!」
上部銃座の20mmと尾部銃座の7.7mmが火を噴く
自分の魔導防壁を過信した敵は爆撃機が最も火力を発揮できる後部から攻撃してしまった。基本的に爆撃機の防護火力は敵を撃墜するためでなくあくまでも弾をばらまくことによって敵を威嚇し怯ませ、狙いをつけさせないようにするのが主だ。しかし後部の敵であれば偏差射撃もそれほど必要ないため比較的当てやすい。
「当たれぇぇぇぇ!」
敵が狙いをつけるために爆撃機と速度を合わせたのが命取りであった。爆撃機からは相対的に止まって見える敵に対して20mmと7.7mmが吸い込まれるように向かっていく。7.7mmはある程度耐える魔導防壁だが流石に20mmは耐えられないようで初弾で防壁は破れ7.7mmの雨をもろに受けてしまった敵は意識を手放して自由落下していく。
「あ、当たった!」
慣れない射撃で敵に当たったことに喜んでいる。
「喜んでねぇで警戒しろ!まだそこら中にうようよ飛んでるんだぞ!まあ、敵も馬鹿で助かったな。」
機長も思いがけない成果に内心喜ぶがすぐ現実に戻される。
「あ、一番機が…」
編隊の先頭にいる隊長機が敵に集中攻撃され穴だらけになっている様が見える。漏れた燃料に引火したのか胴体下部かが火に包まれており、火を噴いているはずの防護機銃の射撃が疎らだ。
「護衛戦闘機がいれば…」
機長が悔しがるのも束の間、ついに被弾に耐えられなくなった一番機は炎上による金属疲労も重なり主翼が根元から折れて墜落していく。目標を爆撃する前に散っていった戦友たちの無念さを胸にしまい冷静さを取り戻していく。
「遠藤隊長…」
目標を失った敵はまた新たな目標を見つけ攻撃してくる。
「左から来たぞ!銃手!対処しろ!」
左から敵二人が射撃しながら銃剣突撃を敢行する
「くっそ機体にに張り付いたぞ!」
敵も爆撃機というものの特性を戦いながら掴みつつあり、最も防護火力の薄い側面から攻撃するのが得策だと判断したようだ。銃剣突撃してきた敵が主翼に銃剣を差し込み左翼に張り付くと、拳銃で発動機を攻撃し始める。
機体を揺らすが剥がれそうにない。
被弾する音に紛れて突然の左から爆発音。
発動機の爆発で敵二人の防壁は一瞬で破られ吹き飛ばされたようだ。
「遂に発動機がやられたか。」
機長はすぐさま燃料を遮断し消火に努める。
「敵も巻き込んだが、あと少しだってのにこのままじゃ持たんな。」
田島機長が覚悟を決めているところに河野副操縦士がやってくる。
「2名戦死、1名重症、動ける銃手は尾部銃手の松本と私だけです。胴体後部は穴だらけで…」
「報告ご苦労、よく生きてたな。」
「後部銃座は装甲板に挟まれておりますから。」
「そういえばそうだったな。とりあえず河野、お前操縦変われ。」
「は、はい!?」
「この機体では高度を下げ編隊から落伍するしかない。さっき発動機がいかれた時から左補助翼がいうことを聞かんくなった。方向舵も穴だらけになったのか知らんが反応が鈍い。このままでは右発動機のトルクを抑えるだけで限界だ。」
「俺が発動機の出力を微調整するからお前は俺の言ったとおりに操縦しろ!わかったか!」
「わ、わかりました!」
「よし!今から発動機の出力を下げる。そうすればトルクも無くなりお前一人でも操縦できるはずだ。そしたら高度を下げて編隊を下から追い抜け!。俺は銃座を操作して敵を引き付ける。とにかくお前は一直線に爆撃目標であるデュロに向かえ!いいな!」
「はい!!」
「よし、その意気だ。じゃあ頼んだぞ。」
機長が発動機の出力を最小にすると後部銃座に向かっていく。
「俺だって若いときは銃手だったんだぜ。まあ、実戦で撃つのは今回が初めてだがな。」
独り言を言いながら後部銃座の20mmが火を噴く。
「やっぱなかなか当たらんな。」
敵も仲間が死んでいくのを目の当たりし、後部に張り付くのは得策ではないと学習したようだ。尾部銃手も撃ち続けているが、たまに当たっても防壁に阻まれる。
「よし、高度が下がって来たな。そろそろ撃つか。」
機長は緊急用の信号弾を取り出し敵に向かって撃ち始める。
「かかってくれ…」
初めて信号弾を目撃した敵は、曳光弾よりもよっぽど強く光り輝く照明弾を脅威と感じたようだ。隊長らしき敵と複数人の部下がこちらに向かってくる。
「よし、かかったぞ!しかし問題はここからだ。」
機長はすぐさま操縦席に戻り指示を出す。
「敵が引っ掛かった!降下して限界まで速度をあげろ!時速500kmまでは出せるはずだ。空中分解ギリギリまで速度を引っ張れ!」
「し、しかし爆撃は!?」
重爆撃機である百式重爆は水平爆撃しか想定されていないため機体の強度的に急降下爆撃は出来ず、搭乗員の能力的にも不可能だ。もし無理に行おうとすれば急降下からの水平飛行時に主翼が耐え切れずに空中分解する恐れがある。
「細かいことは爆撃手の山本に任せるが、速度が足りない場合は緩降下爆撃を行え。速度が足りている場合は低高度での水平爆撃だ。今はとりあえず敵を引き離すのを第一に考えろ。このままじゃ空中分解する前に敵に撃ち落されちまう。」
機長は捲し立てるとすぐ銃座に戻っていた。
「松本!銃座変われ!お前の方が腕が良いだろ!」
「了解!」
「俺はクソトカゲ共を引き付ける。お前はあの空飛ぶ人間を優先的に狙え!いいな!」
「了解!」
後部銃座についた松本が射撃を開始すると田島機長は下部銃座に向かい、下から近づきつつあるトカゲ共に向かって信号弾を放つ。
「いい加減気付け!ノロマ野郎!」
機長が適当に放った信号弾は運の良いことに下を飛んでいたトカゲを操っていた人間に直撃し装備に引火する。
照明弾と言っても構造的には焼夷弾と同じで、1300度以上の温度で燃え続けるので人間に当たれば火傷だけじゃ済まない。
異変に気が付いた周りのトカゲ共がこちらに気づき向かってきた。
「あんなトロイ弾に当たるとは運の無いやつめ。とりあえず弾をばら撒いとくか。」
機長が下部銃座から弾をばら撒きつつたまに信号弾をお見舞いする。
「機長!再装填!」
後部銃座の松本がリロードし始める。
「よし!援護する。」
機長は尾部銃座から射撃し始める。
「クッソ、全部防ぎやがる。」
敵は魔導防壁で攻撃を防ぎつつ小銃で攻撃してくる。
「まだ生きてるのが不思議なくらいだな…」
速度が上がり機体が揺れ始める。
「よし、いいぞ。敵も速度を出すので精一杯なのか知らんが攻撃が少なくなっている。」
速度が上がるにつれて敵も攻撃する余力がなくなっていき、速度が限界に達したものから一人、また一人と離脱していく。時速450kmを超えたあたりで隊長とみられる奴も離脱していった。
「最初からこうすれば良かったんだ…」
機長が後悔の念を漏らすとまた操縦席に向かう。
「敵をまいたぞ!あとは爆撃するだけだ。慎重に機首を戻すぞ。」
速度を超えすぎても空中分解。急激に機首を上げても空中分解。ただでさえ数多くの被弾によって機体強度は下がっているはずなので、より難易度は上がっている。機体強度ギリギリの速度を攻めながら、機首上げを行わなければいけない。
「爆弾倉と着陸装置を展開。少しは抵抗が増すはずだ。」
機長が経験に基づいて指示を出す。
「爆弾倉は開きましたが、車輪が出ません!」
「壊れてるか…空気抵抗が大きすぎて開かないか…」
「これでやるしかない!皆覚悟を決めろ!」
機長の言葉で改めて搭乗員皆覚悟を決める。
「皆、何かに掴まれ!」
「450…」
「460…」
「470…」
速度が上がるごとに機体の揺れが一層激しくなり金属の軋む音もますます大きくなっていく。搭乗員は皆体験したことのない速度に突入する。
「480…」
「490…」
「500…」
「510…」
「よし!やったぞ!」
機長が機体を水平にしたころには爆撃目標であるデュロは目の前に迫っていた。
「速度が速すぎるが、山本頼んだ!」
「こんなデカい目標、猿でも外しませんよ!」
爆撃手の山本が爆撃照準機を操作しながら軽口を叩く。
「高度は頼みましたよ!」
「任せろ!」
副機長の河野が珍しく頼もしいことを言う。
「高度ヨシ!高度ヨシ!…」
「投下!」
投下された爆弾は全てデュロの魔導防壁に阻まれるが、確実に色は変化している。
「山本よくやった!あとは味方に任せるしかない。周囲を警戒しろ!」
「了解!」
「河野!ここら辺に着陸できそうな平地はあるか。もう燃料が持たん。」
「陸軍が整地している野戦飛行場がこのあたりにあるはずです。そこへ向かいましょう。」
「よし、緊急着陸だ。帰るまでが遠足なのを忘れるな、気を引き締めろ!」
「はい!」
後続の味方爆撃機によりデュロの魔導防壁は粉砕され、陸軍の第23軍が間髪を入れずにデュロに侵入。無事陥落させることに成功した。山本機の活躍は後日、新聞やラジオで美談として広く報道され反響をよび、壮烈無比の勇士としてその武功を称えられた。軍国熱も高まり映画や歌にもなり、爆弾三勇士以来ともいわれる弔慰金が集まった。
しかし、陸軍内部では想定外の損失の多さに、戦略の見直しが図られることになり、今後の爆撃機開発に重要な戦訓を残すこととなった。
国家:パーパルディア皇国
指揮官:デュロ基地司令官 ストリーム
戦力:パーパルディア皇国軍デュロ基地竜騎団 300名
同上 皇都防衛隊所属第一魔導航空大隊第三中隊 12名
戦死または戦病死:4名
負傷:2名
行方不明:3名
国家:大日本帝国
指揮官:第23軍司令官 酒井隆中将
戦力:飛行第14戦隊(一〇〇式重爆撃機 36機) 288名
戦死または戦病死: 44名
負傷: 84名
行方不明:72名
次回はトーパ王国で魔王軍相手に暇を持て余した関東軍が大暴れする予定です。