トーパ王国 王都 ベルンゲン
中世のヨーロッパのような城と静かな城下町、悪く言えば田舎の王国であり、良く言えば趣のある王都ベルンゲン。
町を行きかう人々は、人族もいれば、獣人族、エルフと呼ばれる者たちもいる。
多民族国家というより、多種族国家である。
トーパ王国王都、ベルンゲンの王城において、国王ラドスは外交局からの報告を受け、驚愕していた。
あの横暴なパーパルディア皇国が気前よく軍団規模の派遣を決定した。さらに噂の大日本帝国も一個師団規模を派遣してくれるという。
日本の噂は良く聞く。
○ ロウリア王国主力軍を強烈な爆裂魔法で滅した。
○ 列強パーパルディア皇国の三大都市のひとつであるデュロを陥落させた。
しかし我々が要請したこととはいえ絶賛戦争中の二か国を我が国に受け入れても大丈夫だったのだろうか…。国王に一抹の不安が過るが、まずは魔王軍に集中する。
列強国の軍団規模であれば十分に魔王軍を倒せる可能性がある。
幸いにも王国軍は多大な被害を出しながらも城塞都市トルメスで魔王の進撃をくいとめている。
まもなく彼らが我が国の護衛を伴って、城塞都市トルメスに到着する。
急な要請であったから皇国は多分近隣の監査軍や属領統治軍の寄せ集めだろうが…と国王ラドスが想像する。日本軍は戦車を派遣してくれるらしいが戦車とは一体何であろうか。
◆◆◆
城塞都市トルメス
騎士モアと傭兵ガイは、騎士団の命により、城塞都市トルメスの南門へ、間もなく到着するパーパルディア皇国軍と日本軍の案内のために来ていた。
パーパルディア皇国軍と日本軍は、王国軍騎士団の護衛により、南門に到着する。
南門から城までは自分たち、騎士モアと傭兵ガイが案内し、その後自分たちは日本軍に観戦武官として同行する予定だった。
「なあ、モア、パーパルディア皇国が軍団規模の援軍を派遣してくれたらしいが、どういう魂胆だ?あのケチくせぇ皇国とは思えない規模だが。」
「どうせ魔王軍を倒した後、大日本帝国を挟撃して強制的に我々を巻き込む魂胆だったのだろうが日本軍も派遣を決定したからどうなることやら…国王も戦争中の二か国を受け入れるリスクは承知のはずだが魔王軍に国を滅ぼされるよりはマシといったところか…」
「ああ、日本軍も派遣してくれるのはそういうことか。そういえば日本軍ってどんなやつらなんだ。」
「ロデニウス大陸で、ロウリア王国の大軍を超短時間の猛烈な爆裂魔法の投射で滅し、そして列強パーパルディア皇国の都市のデュロを落としたらしい。」
「はえぇ。猛烈な爆裂魔法ってのがどんなもんか分らんが皇国以上なことは確かなようだな。しかしパーパルディア皇国様はいつも人の足元しか見ねぇな。話を聞く限りは日本軍だけでもよさそうだが。」
「まあ、仕方あるまい。騎士団長は援軍は必要ないなどと強気なことを言っておられるようだが世界の扉が突破された時点で楽観的だと言わざる負えない。」
「うーん、でもトーパ王国軍は2万もいるんだぜ。ゴブリンなんて雑魚共は数にも入んねぇよ。」
「あの世界の扉は特殊でな。伝説では世界の扉は魔王ノスグーラが最初に現れた時、太陽神の使いによって魔王軍がグラメウス大陸に押し戻された後、この世界の住人が太陽神の使いと協力して築いたものであるとされている。事実あれには今は無き時空遅延式魔法が掛けられていることは王立大学が確認している。それが破られたのだ。楽観的と言わざる負えんよ。」
「なるほどなぁ。でもだからってパーパルディア皇国軍と一緒に戦いたくねぇなぁ。」
「それは同意見だ。しかしまあ、国賓のようなものだから、嫌いであってもくれぐれも失礼のないようにな。」
「へっ、解ってらぁ」
一時して・・・・
「モア様、見えました!!日本軍とパーパルディア皇国軍の方が来られました」
城門の上にいた衛兵がモアたちに伝える。
ブゥゥゥゥゥゥグオォォォォォォン
奇妙な模様の鉄の魔獣が遠くから近づいてくる。
「ブオォォォォォ」
咆哮をあげながら近づいてくる。
大きい。
!!!!!!
近づくにつて、地響きがする。
なんという重さだろうか・・・近づいただけで地面が揺れるとは!!
前を先導する王国軍の兵たちも、顔色が優れない。
「なんだ!!!この世のものとは思えない化け物は!!!!」
つっ!!!
騎士モア、傭兵ガイの前で一団は停車する。
日本軍を先導してきた国軍の騎士が馬から降り、モアに近づく。
「こちらが日本軍の方々だ。奥にパーパルディア皇国軍が後に続いているから案内を頼む」
奥の方を見ると先頭には煌びやかな騎兵、奥には地竜や檻に入れられたワイバーンや魔導砲も確認できる。そして馬車と戦列歩兵の隊列が永遠に続いている。
「はい!!」
日本軍とパーパルディア皇国軍の司令官とその参謀たちは騎士モアの後をついて、何度か角を曲がった後、隊長のいる部屋の前に到着する。
重厚な扉、騎士モアは扉をノックする。
「入れ」
中から命令が聞こえる。
「失礼します。日本軍とパーパルディア皇国軍の方々をお連れしました」
中へ入ると円卓があり、その1番奥の男が立ち上がる。
年齢40歳くらい、身長180cmくらい、筋肉質で白色短髪、白い髭、銀色の鎧を着装し、赤いマントを羽織り、帯剣している男性が立ち上がる。
「おお、日本軍とパーパルディア皇国の方々、よくぞ来て下さいました。私はトーパ王国魔王討伐隊隊長のアジズです。」
「パーパルディア皇国軍トーパ王国特別派遣軍、司令官のアダンだ。よろしくたのむ。」
「大日本帝国陸軍関東軍トルメス派遣軍司令官の西村敏雄中将であります。」
「ではさっそく日本軍とパーパルディア皇国軍の方々はこちらにお座りください。」
一同は円卓に座り、状況の確認を行い始める。
要約すると下記のとおりになる。
○ 魔王軍約20万は突如としてグラメウス大陸からトーパ王国管轄、「世界の扉」へ侵攻、守備隊は全滅した。
○ その後、魔王軍は城塞都市トルメスの北側に位置するミナイサ地区に侵攻し、これを陥落させる。
○ ここにおいて、トーパ王国軍の援軍が到着し、これより先の侵攻を被害を出しながらくいとめている。
○ ミナイサ地区には、まだ逃げ遅れた民間人約600名がおり、彼らはミナイサ地区中心部の広場に、昼間に一度集められ、毎日数人がつれていかれ、魔王その他の餌にされている。
そのため、当初600名いた逃げ遅れた民間人もその数を減らし、現在は200名まで減っている(食されたため)
○ 魔王軍に与えた被害はゴブリン約30000体、オーク100体であり、こちらの損害は騎士約2000名がすでに死亡している。
○ 3回ほど、ミナイサ地区の人質救出作戦が行われたが、広場に至る大通りには必ずレッドオーガもしくはブルーオーガのどちらか1体がおり、多大な損害を受け撤退、細道を行った騎士は各個撃破され、戦線は硬直している。
○ 人質は毎日食されており、早く助けなければならない。
説明を聞き終えたアダンは、トーパ王国は人質を救出したいらしいという事を理解する。
「なるほど・・・我々に人質を救出しろと?」
「い、いや・・・勿論我々が救出は行いますが、日本軍や皇国軍の方々の援護があれば百人力なのです。オーガさえ倒せればなんとかなるのですが・・・。」
「オーガとは?」
西村中将が質問する。
皇国軍が勝てると思ってるくらいだからそんなもんなんだろうと考え全く魔王軍に関して調査していなかった日本軍が今更な質問をする。。
「力は強く、人間の何百倍もありますが、問題は彼らが疲れを知らない事です。食事が出来る限り永遠に力が落ちずに動き続けられます。
さらに、奴の毛は針金のようになっており、剣や槍を受け付けません。魔導砲はたぶん通るでしょうが、素早い動きをする彼らに当たらないのですよ。」
「みだりに部下を減らしたくない。人質には申し訳ないが我々の任務はあくまでも魔王討伐。狭い通路で各個撃破されると厄介だ。魔導砲で建物諸共吹き飛ばして一網打尽にするのが良かろう。」
西村中将も司令官に同意見だった。どう考えてもこれは敵の罠だ。敵が最も恐れているであろう魔導砲を使えなくすることで損失を最小限に我々を各個撃破するつもりだろう。
「私も司令官に同意見ですな。人質には申し訳ないが、わざわざ敵の罠に乗っかりいたずらに兵を失うのが得策とは思えません。」
「そ、それは分かっておるのですが…」
隊長のアジズも純軍事的には何をすべきかわかっているのだが、今まで民を見捨てるような命の選別をした経験がないので自分のプライドが納得できず決断ができない。
「トーパ王国軍は民の避難誘導に努めるが宜しい。日本軍も後方支援に徹しておればよい。魔王軍は我々だけで撃ち滅ぼしてやるさ。」
司令官は強気な発言をするが、そもそも装備も練度も異なる他国の軍との共同作戦は難しく、事前の綿密な擦り合わせが必要となる。それであればパーパルディア皇国軍のみで魔王軍に対処した方が無用なトラブルも避けられ指揮統制もしやすいのだ。
「状況の確認も終わったところで作戦の協議を行いたいと思いますが。」
タイムキーパー代わりのモアが発言する。
「では、1時間後に協議に入りたいと思う。地図等準備するので、1時間待たれたい」
会議は一旦休憩に入る。
皆が席を立とうとしたその時、黒い物体が1体、窓から飛び込んで来た。
◆◆◆
モア視点
会議は続いている。人質を何としても助けたいがパーパルディア皇国軍も日本軍は援護もしてくれそうにもない。やはり我々だけでやるしかないのか。
オーガの動きは速く、そして強く、疲れを知らない。
我々の騎士団が、あの速い動きについていけるとは思えない。やはり皇国軍の言う通り魔導砲をもって面制圧するほかないのだろうか。
オーガが疲れを知らないのは、おそらくその有り余る魔力で微弱な回復魔法をかけ続けて筋肉の疲労を除去しているのだろうと言われている。
回復魔法の連続使用であれば、中途半端な傷であればすぐに回復してしまう事を意味する。
古代の勇者たちは、あの化け物をどうやって退治したのだろうか。
ん?
会議が一旦終わり、次は作戦会議か・・・。
パリン!!!
天窓のガラスが砕け散る。
入ってくる黒い物体。
物体は漆黒の羽を生やし、白い服を着て会議室に降臨する。
あ・・・あれは!!!
「魔王の側近、マラストラス!!!」
誰かが叫ぶ。
剣を抜き、マラストラスへ向け、構える。
私が剣を構えたところ、会議室にいた他の騎士たちもすでに剣を抜いていた。
パーパルディア皇国と日本軍の者たちは手にピストルのようなものを構えているが私が知っているピストルとは異なるようだ。
「ホホホ・・・人間の頭を討ち取るために、我が足を運ばねばならぬとはな・・・。
永き時をへて、なかなか進化したようだな、人間どもよ」
マラストラスはそう話すと、騎士隊長へ向かい、手を向ける。
手の先は、魔力により空気が歪み、黒い炎が現れる。
「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
副騎士長が距離を詰め、魔族マラストラスの横から斬りかかる。
気持ちの悪い笑みを浮かべ、マラストラスは手を副騎士長へ向け、魔法を発動する。
「ヘル・ファイア」
黒い獄炎の炎が副騎士長に襲いかかる。
「ギィアァァァァァァァァ!!!」
黒い炎は彼を焼き尽くす。断末魔と熱風が辺りを支配する。
パーパルディア皇国と日本軍の者たちは、あせった顔をしている。
マラストラスから離れようとしているようだ。
やはり、数々の伝説は噂だったのか?
すると突然
パンッ!
耳を塞ぎたくなるような大きな音、一人が撃ち始めるとまわりの日本軍の4人と皇国軍4人も撃ち始める。
「わっはっは、そんな豆鉄砲が私に通用するか。」
銃撃によってマラストラスの攻撃は止むも魔導防壁で攻撃が一切通用しない。
すると銃撃を聞きつけた日本軍と皇国軍の兵士たちが部屋に入ってきた。
「司令!ご無事ですか!」
「こいつを攻撃しろ!」
すかさず指示を出す。
「う、撃て!全力射撃!」
三八式歩兵銃の6.5mm弾とマスケット銃の球形の弾がマラストラスへ襲い掛かる。
「おお!なかなかの威力だ!もっと私を楽しませろ!」
依然として攻撃が効いているようには思えないが皆撃ちまくる。トーパ王国の騎士たちは成す術もなく眺めているしかない。
「良い!目的は果たせなかったが偵察としては十分だろう!次会えるのを楽しみにしているぞ人間どもよ。」
マラストラスは捨て台詞を吐くとまたどこかへ飛んで行ってしまった。
静粛があたりを支配した。
◆◆◆
マラストラス、魔王の側近であり、こいつには散々苦労させられた。
変温動物であるワイバーンは、寒いトーパ王国には存在しない。そんな中、空中から何度も打ち下ろされる魔法には、本当に苦労した。
こいつ1体のせいで死んだ騎士は100人を超えるだろう。
しかし、奴は騎士団のトップを狙って単体で攻撃を仕掛けてきた。
彼の強大な魔力は飛ばなくても十分脅威である。
しかし、日本軍と皇国軍の軍人が魔獣マラストラスを退かせた。
「日本軍と皇国軍の皆さん助かりました。礼を言わせてください。」
「しかし・・・判断が遅れたために、副騎士団長が・・」
西村中将が判断の遅さを悔やむ。
「何をいいますか。日本軍がいなかったら、我らは全滅していました。それほどまでにこいつは強力な魔獣なのですよ。」
隊長のアジズは副騎士団長の死を悲しむも魔王の側近相手にこの程度の損害で済んだことに驚きを隠せない。
「しかし皇国軍の銃は時代遅れの前装式の銃しかないと思っていたが、金属薬莢の回転式拳銃があるんだな。」
日本軍の参謀の一人が皮肉を込めて驚きを口にする。
「こ、これは…ムー帝国より購入したものだ。お前らに文句を言われる筋合いはない!」
「いやいや、助かりましたよ。前装式の拳銃ではこちらも危なかった。しかしムー帝国か…」
同じ科学文明国家であるムー帝国が商売敵なことが判明し、後で報告が必要だなと考える日本軍将校一同であった。
1時間後、魔王軍掃討作戦の会議が始まり、会議は深夜まで続いた。
2日後―早朝
大日本帝国陸軍関東軍トルメス派遣軍とパーパルディア皇国軍トーパ王国特別派遣軍が作戦を開始する。
◆◆◆
(怖い・・・怖い・・・誰か、た す け て )
城塞都市トルメス、ミナイサ地区で飯屋を営んでいたエレイは恐怖に震えていた。
魔王の侵攻で生き残った者たちは、昼間に一旦広場に集められ、夜には魔物に管理された建物内へ移動させられる。
広場では、周囲を魔物が警戒し、逃げ出せない。
現に逃げようとした人はいたが、すぐに捕まり、民衆の前につれてこられ、その場で料理されてしまった。
魔物たちは料理される被害者を指差して、「生き踊り、はっはっは」などと笑っていた。
毎日、何人かが料理のために連れて行かれた。
「今日は・・・おばえと、おばえと・・・おばえだな。」
隣に住んでいた幼馴染の少女メニアも昨日連れて行かれた。
メニアの両親は娘を連れて行かれまいと、必死に戦ったが、3人そろって連れて行かれてしまった。
生き地獄。
何故今、魔王が・・・御伽噺に載っていたような恐怖が復活したのだろうか。
神様がいるなら、助けてほしい。
幼馴染で、傭兵になったガイ君、騎士モア様がいたな。助けに来てくれないかな。
モア様は、世界の扉に勤務していたから、もう死んじゃったかも。
何回か、王国騎士たちが助けに来ようとしたけど、今広場と城門を結ぶ大通りに立っているレッドオーガにやられてしまった。
昔話では、魔王軍とエルフの戦いで、エルフの神の祈りを聞き届けた太陽神がその使いをこの世に降臨させたとあった。
私はエルフだ。
神ではないけれど、祈ろう。
神様!神様!どうか皆を、そして私たちを助けて下さい。
魔を滅して下さい!!再び太陽神の使いを降臨させて下さい。お願いします!!
祈るが、何も起きない。
「ええと、今日の肉はと・・・」
また、魔物が料理のために各種族を見ている。
「魔王様は、今日はあっさりしたものがいいと言っていたな」
「今日は野菜をメインにして・・・」
皆に安堵の雰囲気が流れる。
「味付け程度に、エルフの女くらいが丁度いいだろう。おばえな」
魔物がエレイの右手を掴む。
「イヤァァァァァァァァァ神様ァァァ助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「ゴラ、暴れんな」
その時だった。
ドッッッ!!!
一瞬の轟音と共に青空が広がる。
ああ…空はこんなにも綺麗だったのね…
次の刹那には意識は手放されていく。
そしてそれはレッドオーガも同じだった。
◆◆◆
大通りに陣取るレッドオーガ付近が突如爆発した。
「効果確認!レッドオーガ消滅しました!」
日本軍の弾着観測班が報告する。
皇国兵は驚きの顔を隠せない。皇国軍が標準装備している魔導砲ではこんな威力は無いし、そもそも間接照準射撃自体が皇国軍にはまだ無いものだった。
「これが大日本帝国軍か…」
指揮官はこれが終わった後戦わなければいけない相手の戦力の一端を目撃したことで戦慄を覚える。
「グゥゥゥゥゥグォォォォッォ!!!!!」
「別のが来たぞ!」
オーガは従道路の小道に向かって走りはじめる。
速い!!
「総員構え!!」
小道をオーガが走ってくる。
「てーーーっ!!!」
ドンドンドンドン!!!
戦列歩兵のマスケットが咆哮をあげる。
中隊の一斉射撃も空しく魔導防壁は破れることなくそのまま突っ込んでくる。
兵士たちに動揺が広がる。
「くそ。魔導砲撃て!」
1門だけ用意していた魔導砲が火を噴く。
キャニスター弾の750発の散弾によって魔導防壁は一瞬で破れオーガの体に大穴が多数あき、糸人形の糸が切れたかのように鬼はその場に倒れ込む。
即死。
休む暇もなく他の魔物の群れが突進してきた。
「装填急げ!休む暇はないぞ!」
◆◆◆
日本軍は後方から野砲によって皇国軍を砲撃支援することになっていた。
砲兵陣地で75mmの九〇式野砲24門と九一式十糎榴弾砲12門が射撃準備している。
「各隊!準備ヨシ!」
野砲兵連隊は野砲3個大隊から成り、さらに1個大隊は3個中隊12門で編成されている。各隊の指揮官が連隊長に準備完了報告を行う。
「異常なければ報告!」
各隊の指揮官は野砲一門につき17名編成の1個分隊ごとに報告を求める。
「分隊準備ヨシ!」
「駐鋤( ちゅうじょ )を強固にしろ!」
発砲時に砲もしくは車体を安定させるために地面に食い込ませて用いる脚のような物を駐鋤( ちゅうじょ )と言う。これの固定が甘いと射撃時に砲が動いてしまう。
「本隊は広場と城門を結ぶ大通りに立っている敵指揮官らを撲滅する!」
「各人は城塞都市トルメスを指呼の間に臨み、遺憾なく砲兵精神発揮すべし!」
「わかったか!」
指揮官が部下を鼓舞する。
「試し撃ち方準備!」
各砲兵は自分の役割に応じて気を引き締める。
「方向998!」
「瞬発信管! 装薬3号! 」
「砲正56!」
「3600!」
「目標! 大通りの敵指揮官!」
指揮官が砲撃諸元を伝える。各分隊長が復唱する。各砲兵は諸元に応じて操作を行う。
「第一射!撃ち込め!」
「撃て!!」
ズドーン!
各門が分隊長の号令の下、順次射撃を開始する。鉄の筒が咆哮し砲兵陣地に煙が立ち込める。砲兵は休むことなく速やかに次弾を装填する。
「装填ヨシ!」
「第二効射!撃て!」
ズドーン!!
ドカン!
「第三効射報告!!」
指揮官が射撃効果を観測班に求める。
「砲正56!」
副官が現地の観測班からの報告である弾着場所を指揮官に伝える。
「良し!!」
「撃て!!」
指揮官は報告の弾着場所から敵に有効弾を与えられると判断。試射から効力射準備射撃へ移行する。
ドドン!ドカン!
ドン!ドン!
各門は諸元そのままに連続射撃を開始。
「よし!!、3秒左へ撃て!!」
「3秒左へ撃て!」
弾着報告から右へ少しずれていると判断した指揮官は諸元を修正する。
「準備良し!」
「順砲! 連続各個に撃て!!」
指揮官は効力射準備射撃は十分と判断。本格的に効力射へ移行し、部下に準備完了次第射撃を開始するよう号令をかける。
「撃て!」
「てーーーっ!!!」
ドン!ズドーン!!
各分隊長は射撃準備が出来次第号令をかけ効力射を開始する。
ドカン!ドン!
九〇式野砲24門と九一式十糎榴弾砲12門の合計36問が連続射撃を開始し、毎分2トン近い砲弾の雨が城塞都市トルメスの大通り付近に降りだす。
砲撃の度に城塞都市トルメスの家屋が破壊されていき火の手も上がる。
◆◆◆
エレイは死を覚悟した。
魔王の食事の肉にされるため、化け物が私の手を引く。
「イヤァァァァァ」
「ゴ・ゴラ、暴れるな」
なおも手を引こうとされたとき、大通りにいた鬼が吹っ飛んだ。
次の瞬間、私は意識を手放した。
ドガン!
ガシャン!
どれくらい時間がたっただろうか、大きな何かが破壊される音が聞こえる。
朧気ながらも魔獣たちが音のする方向へ走っていくのが見えた。
私の手を握っていた魔物はどこへ行ったのかしら。
すると1人の剣士が駆け寄ってきた。
彼は・・・私の良く知る人物だった。
「よ・・・よぉ、エレイ、大丈夫だったか?」
幼馴染の傭兵ガイだ。
彼は、良く私の店にも食べに来てくれた。
3年前には付き合ってほしいと告白されたが、丁重にお断りした。
だって、現実を見たら、傭兵って安定していないんだもん。
でも・・・私が死にそうな時、助けてくれた。
こんなに怖い魔物がいる戦場に、私を助けに来てくれた。
(ちょっぴりカッコ良かったよ・・・)
そう思って、ガイに話しかけようとした、その時、
「エレイさん、大丈夫ですか?」
後ろから声がする。この声は!!!
光の速さで振り返る。
「モ・・モア様ん」
(いかんいかん、一瞬気が迷ってしまった。戦場まで助けに来てくれたのは、モア様も同じ。やっぱりモア様は、私の白馬の王子様よ。絶対に逃がさん)
「私のために来て下さったのですね。エレイ、カ・ン・ゲ・キ!」
救われない傭兵ガイだった。
◆◆◆
広場にいた魔獣は駆逐された。
トーパ王国騎士団は、その動きに呼応し、城門から出発、市民の避難誘導に向かってきている。
城門までの距離、約1.5km
近いが遠い距離。
民を交え、彼らは移動する。
約500m進んだ所で皇国軍と合流、共に城門に向かう。
その時だった。
「グォォォォォ!!!」
雄叫びが聞こえる。
「ちくしょう!ブルーオーガだぁぁぁぁ!!」
民たちはパニックになった。
◆◆◆
レッドオーガは砲撃によって倒されたらしい。
そして、皇国兵たちは、付近の魔獣を排除し、民たちは城門へ向かう。
その時、北方からブルーオーガがオーク400体を引きつれ、走ってくる。
城門までには必ず追いつかれるだろう。
オークは、騎士10人でようやく1体を討ち取れる。
オークが集団で襲ってきたら、単純に10倍の騎士で勝てるものではない。
そのうえ、今回はあの伝説の魔獣、ブルーオーガも向かってきている。
しかし列強国である皇国兵であればもしかしたら…
ん?
皇国兵たちが、私たちの逃げる後方、オークの群れをオーガが向かってきている方向に並ぶ。
数は500名ほど。
数では上回っているが時間稼ぎにしかならないだろう。それとも勝算があるのか。
どちらにしても有難い。パーパルディア皇国はろくでもない印象しかなかったがこういう奴らもいるんだな。
トーパ王国騎士団は民と共に城門へ向かう。
他国の兵を捨て駒にしてでも、自国民を守るということか。
その心意気は理解出来るが、捨て駒にされた国の兵はどう思うのだろうか?
皇国兵は、横列に並び、銃口を魔物に向ける。
「てーーーっ!!!」
バババン!!
弾がオークたちに吸い込まれる。
しかし魔導防壁の前に全て防がれる。
ババン!バン!
攻撃は続く。
「日本軍の砲撃支援が来るまで何とか足止めしろ!」
「魔導砲!撃て!」
ドン!
流石に魔導砲の直射は耐えられないらしく、魔導砲の射撃の度にオークが倒れていくが…
「グォォォォォ」
ブルーオーガ!!!
彼らの攻撃はほとんど効いていない。ダメだ!!!
いったいどうすれば・・。
その時だった。
「最前列!魔導防壁展開!」
「2列目は擲弾用意!」
指揮官の号令とともに最前列の兵士がが魔導防壁を展開する。前方のみの可視化された防壁だ。
2列目の兵士たちの手が光りだす。
「目標!目前に迫るオーク共手前!遅延1秒!」
「投擲!」
放り投げられた光弾がオークたちの前に転がる。
光弾の輝きは増していき1秒後に爆発する。
ドカン!
ドバン!ドン!
先頭付近にいたオークたちの魔導防壁は破られそのまま破片によってボロボロになる者や、吹っ飛ばされるものなどで浮足立っている。
「よし!いいぞ!このまま足止めさせろ!」
「3列目!擲弾用意!」
指揮官が再び擲弾を号令した時。
「グォォォォォ!!」
ブルーオーガが邪魔な部下のオーク共を投げ飛ばしながらこちらへ突っ込んでくる。
「突っ込んでくるぞ!前列耐えろ!」
身構えた最前列に対してブルーオーガがタックルで突っ込んできた。
「ぐんのぉぉぉぉぉ!!」
「おおおおおおお!!」
最前列が必死の形相で魔導防壁を何とか維持しているが既に危うい。
「後列も前列に魔力を送れ!何としても通すな!」
約500人が最前列へ魔力を送り続けなんとか魔導防壁を維持しているが…
「クソ!オーク共は立て直したか!」
「砲兵!死にたくなかったら早く装填しろ!」
浮足立っていたオーク達がブルーオーガ渾身のタックルに遅れまいとタックルに加わる。
「皇国擲弾兵の意地を見せろ!」
「ここが踏ん張りどころだ!」
しかしブルーオーガ一体で釣り合っていたバランスがオーク達の参加によって崩れ始める。
「も、もう駄目だ…」
「後は…頼んだ…」
魔力の限界を迎えた兵士たちが次々と倒れていく。
「も、もう限界だ」
指揮官も諦めかけたとき
「初弾!来ます!」
日本軍の観測班が報告に来た。
ドカン!ガシャン!
右前方の家屋に落ちたらしく数体のオークが瓦礫に巻き込まれる。
突然の爆発にオーク達は攻撃を止め浮足立っている。
ボカン!
「グハッ!」
「がぁぁぁぁ!」
次弾は運悪く目の前に着弾してしまい。ブルーオーガ一も吹き飛ばされるが最前列の皇国兵も吹き飛ばされてしまった。
「クソ日本軍の野郎味方に当てやがった!退避だ!退避!余裕のあるものは負傷者を運べ!」
敵は指揮官が吹き飛ばされたことでオーク達は右往左往しているが皇国軍は指揮官が健在であったのですぐに統制された行動をとることが出来た。
ガシャーン!ドン!
最初は的外れな弾も多かったが観測班の報告によってだんだんオーク達に降り注ぎ始める。
「ギャアアアアア!」
「ゴォォォォォ!!」
砲撃から逃れるためにオーク達は散り散りになるが皇国軍の魔導砲によって各個撃破されていく。
「ゲホッ!ゴホッ!」
「グアアアアアア!」
気絶していたブルーオーガが起き上がる。
そこへ見計らったかのように九一式十糎榴弾砲の榴弾が直撃する。
ブルーオーガはとっさに魔導防壁を張るが大口径105mm榴弾の威力など想定しているはずもなく一瞬で魔導防壁が破られる。
次の瞬間、伝説の魔獣、ブルーオーガはあっけなく爆散した。
◆◆◆
魔物の侵攻を何とかくいとめた皇国軍と日本軍は敵の混乱を見逃さず反転攻勢に打って出る。
しかし、危なかった。あのブルーオーガという魔物は、小銃が全く通じなかった。伊達に鬼を名乗っていない。
まさか、小銃が通じない生物がいるとは・・・。
そういえば、ワイバーンにも銃は通じなかったな。
つくづく異世界だ。
敵の大半を引き付けてくれた皇国軍のおかげで日本軍は楽をすることが出来た。感謝せねば。
「とりあえず、損害もほとんどなく目的を果たせて良かった。」
西村司令は、満足に頷いたのだった。
その日のモアの日記より
私は今、歴史の中にいるのを実感している。
神話に記されし伝説の魔王軍、フィルアデス大陸を瞬く間に制圧したとされる恐怖の魔王軍と今、正に戦っているのが、精鋭トーパ王国軍だ。
現在城塞都市トルメスにおいて、多大な犠牲を出しながらも魔王軍の侵攻を防いでいる。
かつての種族間連合よりも、地の利を含めて我々は遥かに強力なのだろう。
しかし、精鋭トーパ王国軍に多大な犠牲を与えていた魔物、レッドオーガとブルーオーガだけはトーパでは討ち取れなかった。
かつての勇者たちはどうやったのだろうか。
そう思っていた。
しかし、今日、歴史的な事件が起こる。
レッドオーガとブルーオーガが、皇国軍と新たに出現した新興国家である日本軍によって倒されたのだ。
皇国の装備は知っていたが、日本軍の使用する魔導砲は我々の常識では計れないほどの威力を有していた。
伝説にまで謳われた魔獣たちを、日本軍は魔導砲だけでいともあっさり倒してしまった。
とりあえず原作で言う前編と中編を投稿しました。後編はもう少々お待ちください。