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グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ 内務省情報局
情報局内はいつも以上に忙しくなっていた。パイスとジェントから監視目標がクーデター計画を立てているという報告が入ったからであった。
そんな情報局内の会議室では多数の人間が出席していた。その中には情報局の長官であるカイブなどの身内以外にも外部の人間であったジークスも会議に出席していた。
「それは本当なのですか?」
ジークスは驚いた表情を浮かべながら質問する。クーデター計画に三人の議員以外にも陸軍のアクニ将軍も加担している事が発覚したからである。
「ええ、間違いありません。間違いなくアクニ将軍です」
ジェントは二枚の写真を取り出してジークスの元に渡した。一枚は現場で撮られたアクニの姿であり、もう一枚は軍の方で保管されていたアクニ将軍の顔写真であった。
渡された二枚の写真を見比べてジークスは唸る。やや画質が荒いものの、現場で撮られた写真の人物はアクニで間違いなかった。
「(やはり陸軍の中にも居たか……)」
ジークスはクーデター計画の存在に対しては強い危機感を感じてはいた。ただしそのクーデター計画に陸軍内にもクーデターに加担する人間がいた事にジークスはそれほど驚かなかった。
「なるほどな……。それで、情報局の方はどういう対応を行う予定でしょうか?」
ジークスはカイブの方を見て尋ねる。
「対応として本日、奴らを逮捕する予定です。そして逮捕した四人を尋問して、他に計画に加担している人物がいないかどうか調べたいと思います」
そう説明すると資料を取り出してジークスに渡した。
「これが現時点で判明した情報です」
その資料にはクーデター計画までの期間や今まで調査した三人以外のタカ派議員の全員が無関係であった事などが書かれていた。
「恐らく他にも共謀者がいると思います。しかしクーデター実行までわずか数日では、普通の調査ではとても間に合いません。よって、その四人を捕まえて吐かせたいと思います」
「なるほど、それはいい考えだな」
ジークスは頷いた。共謀者を特定するために四人を逮捕して吐かせる案に彼は賛同する。会議に出席した人物たちの意見は一致したのであった。
「今度は、情報局の方からジークス殿に協力を求めたいことがあります」
「うむ、内通者の特定の協力か?」
「はい。帝都防衛の部隊に中にクーデター計画に加担していないかの確認の為に部隊員の資料などの提供を求めます」
カイブの部下であるエスピオがジークスに資料の提出を求める。
「わかった。一応、信頼できる者たちを選んだつもりなのだが、念の為にもそちらに調査してもらおう」
「ご協力ありがとうございます。それと帝都防衛の為の部隊はいつ到着するのでしょうか?」
「おおよそ二日後に二個師団が鉄道を使って到着します。そして三日後には残りの二個師団が到着する予定となっています」
部隊の移動を行うにあたってジークスは陸路での移動では時間がかかるため、
大量輸送ができる鉄道を使った方法で部隊を移動させる事を選んだことを告げた。
「わかりました。それまでに調査を終わらせておきますので、部隊展開に関してはそのまま進めてください」
「はい、ありがとうございます」
ジークスが一礼した後、エスピオはジェントとパイスの二人の方に向いた。
「ジェント君とパイス君の二人はターゲット逮捕の準備にかかってくれ」
「えっ、会議の方は大丈夫なのですか?」
二人の内、パイスの方がエスピオに尋ねる。
「大丈夫だ。ここからは私たちだけの話になるからな」
「わかりました。それでは失礼します」
パイスはジェントと共に部屋を後にした。
「それでは、会議を続けましょうか」
ジークス、カイブ、エスピオの三人はクーデター対策の会議を続ける。
一方のジェントとパイスはターゲット逮捕の為の準備に追われるのであった。
・・・・・・・・・・
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ アクニの邸宅
「先輩、もうすぐです」
「ああ、そうだな」
二人の乗った車内は重苦しい空気に包まれていた。彼らはもうすぐでターゲットたちのいる場所に到着するところであった。
ジェントが運転する灰色の車の後ろを三台の車が続いていた。いずれも情報局の職員が乗った車であり、ターゲットの四人を逮捕するために彼らも派遣されたのだ。
「この辺りに駐車するか」
四台の自動車はアクニの邸宅から少し離れた適当な場所に駐車すると、作戦に参加する職員の全員が車の中から降りて来た。
「よく聞けよ。事前の打ち合わせ通り、B班とC班は建物の傍で待機だ。D班は俺たちA班と共に行動し、ターゲットを逮捕するぞ。いいな?」
ジェントは事前に打ち合わせていた作戦を話し、全員に再確認させる。その再確認に全員は威勢の良い返事で答えた。
「よし、それでは作戦開始だ」
ジェントの作戦開始の声に従い、B班とC班の八人が動き出した。
「お前たち、準備はいいな?」
ジェントがパイスとD班の二人に問う。B班とC班の八人は邸宅の周囲に到着すると近くの遮蔽物に身を隠した。
「よし、行くぞ」
手順通りに四人は走り出す。ジェントは走っている間に門前にターゲットたちの乗っている車を見つけた。
「(報告通り、ターゲットたちは中にいるようだな……)」
少し距離があったものの、あっと言う間に邸宅の門前までたどり着いた。四人は息を整えてから、邸宅のドアの傍まで近づく。
「(異常なし)」
ジェントが近くに隠れていた諜報員の方を見てハンドサインを送る。少し遅れてから、その諜報員からハンドサインが送られてきた。
「(異常なし、突入せよ)」
そのハンドサインを見たジェントは三人の方を見渡した。
「いいか?これから突入する。三を数えたらドアを蹴破るぞ」
全員が息を飲む。当のジェントは深く深呼吸をしてから、三を数え始める。
「3……」
全員の心臓が高鳴る。全員が深く息を吸う。
「2……」
口の中が乾く。緊張により頭がおかしくなりそうだ。
「1……」
もう後には引けない。全員が覚悟を決めて次の瞬間を待った。
「0!」
ジェントは叫ぶと同時に、目の前のドアを目一杯に蹴りを入れる。ジェントの力強い蹴りにドアは蝶番から外れた。
「突入!」
パイスが叫ぶ。最初にD班の二人が外れたドアを乗り越えて、部屋の中に迅速に滑り込んでいく。その二人に続いてジェントが室内に入っていく。
「動くな!」
D班の一人が居間の中に居る四人に向かって叫ぶ。四人は驚愕の表情を浮かべていた。
「この野郎!」
一人の諜報員がエヴィンを羽交い絞めにして取り押さえる。取り押さえられたエヴィンは唸り声をあげて振り払おうとするが、諜報員の圧倒的な力には勝てなかった。
「くそっ!」
三人の議員の内、ベームが手元にあったコップを別の諜報員に投げつける。投げつけたコップは中に入ってあったコーヒーをまき散らしながら空を舞う。
弧を描いて飛んできたコップを諜報員は頭を下げて回避した。だがしかし、その一瞬の間にアクニ将軍は拳銃を取り出して諜報員に照準を合わせていた。
「くらえっ!」
叫ぶと同時に銃声が部屋に轟く。放たれた銃弾は諜報員の右の脇腹を貫いた。
「っ!?」
ジェントは驚愕する。その一瞬でアクニはエヴィンを羽交い絞めにしていた諜報員に対して発砲し、諜報員を打ち倒した。
慌ててジェントは拳銃を取り出そうと懐に手を差し込む。その瞬間、アクニの拳銃の銃口と目が合った。
「(しまった!)」
次の瞬間、アクニの左胸に風穴があいて血飛沫が舞う。よろけたアクニは椅子の傍に転倒した。
「先輩!」
後ろからパイスの叫び声が聞こえる。パイスの手元には拳銃が握られており、その銃口からは煙がたなびいていた。
「くっ、くそっ!」
左手で左胸を押さえて口から血を吐きながらも、アクニは銃口をパイスの方に向けようとする。その銃口がパイスに向く前にパイスの持っていた拳銃が火を吹いた。
部屋一面に銃声の音が響いた。パイスの放った銃弾はアクニの心臓を正確に貫き、彼の命を刈り取った。
「っ!?」
その様子を見ていた三人の議員は驚愕する。アクニは死に、部屋は一面が血液によって赤黒く汚れていた。
「にっ、逃げるぞ!」
ベームは体当たりで窓をぶち破って外へと逃げ出した。その後をエヴィンとソムが後に続く。
「先輩、追いますよ!」
パイスがジェントを追い抜いて走り出す。ジェントは撃たれた諜報員を置いていくことに戸惑いがあったものの、今は任務が優先であるために置いていくことにした。
「すまない」
一言そう言った後、ジェントは割れた窓から外へと飛び出した。
「痛てっ!」
足を貫くような鋭い痛みに襲われる。ジェントはすぐに原因を察した。恐らくは割れたガラスが靴を貫いて足に刺さったのだろう。
だがジェントは走り出した。運悪く足にガラスの破片が刺さってしまったものの、彼はその痛みを我慢して、逃げようとしているターゲットの方へと向かっていく。
「待て、この野郎!」
パイスと他の諜報員たちが、逃げようとしている三人に対して叫んでいる。だが、三人はそれを気にすることなく車の中に乗りこんだ。
「パイス、撃て!撃つんだ!」
三人に逃げられると思ってたジェントが叫ぶ。あくまでも逮捕が目的だったのだが、逃げられる場合は射殺する事も許可されていたゆえの判断であった。
車のエンジンがかかった時、パイスは片手に持っていた拳銃を向けた。彼の拳銃の照準は運転席にいる男に向いていた。
三度ほど銃声が響く。車は動き出し、方向転換して道路の方向へ向く。
「くっ!」
パイスは再度、拳銃の照準を合わせる。今度は窓の向こうに居る運転手では無く、タイヤを狙う事にした。
二度銃声が響く。車のタイヤは二発の銃弾を受けて轟音と共に破裂した。だが同時に、拳銃のスライドが後退した状態で停止し、弾倉の中に入っていた銃弾が底を尽きた事を告げる。
「逃げられるぞ!」
四人の諜報員が車へと飛びかかり、一人がボンネットへとしがみつくことに成功した。だが彼は、車の急な動きによって簡単に振り払われてしまった。
パイスは彼が稼いだ僅かな時間を使って弾倉の交換を済ませる。車はそのまま立ち去ろうと速度を上げて道路に出た。
「させないっ!」
パイスは走り去る車に対して全弾を撃ち込んだ。七発の銃弾はもう一つの車のタイヤを破裂させ、サイドガラス越しの運転手にも一発の命中弾を叩きだした。
エンジンの唸る音と破裂したタイヤが地面に引きずる音とが混ざり、断末魔のような不気味な音を立てる。その音は車が速度を上げるにつれて更に大きくなった。
車はふらふらと尻を振りながら、道路を走っていく。逃げ切れたかと思った次の瞬間、彼らの運は尽きる事となった。
「あっ!」
車は勢いよく曲がり角にあった大木へ激突する。その衝突音は静かな町一面に轟き、鳥たちはその音に驚いて飛び立っていった。
衝突音の後には短時間の静粛が訪れた。全員があっけに取られる中、ジェントが真っ先にその静粛を破った。
「パイス!追うぞ!」
「はっ、はい!」
他の諜報員たちも我に返る。
「C班は俺とパイスについてこい!B班は建物の中で負傷したD班の二人を助けに行くんだ!いいな!?」
「了解!」
ジェントは負傷した足を引きずりながらも、大木に衝突し大破した車の元へと駆け寄る。同時にB班の四人は建物の中へ向かって、撃たれた二人の諜報員を助けに向かっていった。
ジェントは足の痛みに耐えながらも何とか大破した車の元へたどり着いた。その車は窓ガラスが全て割れ、ボンネットが大木と衝突した所から大きく二つに割れていたものの、居住空間は辛うじて原型をとどめていたのが見えた。
「先輩……」
パイスが首を横に振った。ジェントは割れた窓ガラスから中を覗いてみた。
「あぁ……。死んでいるな」
中には三人の遺体が見つかった。いずれも頭から大量の血を流しており、衝突時の衝撃で頭を打って死亡しているのが一目でわかった。
ジェントはパイスの肩を叩いた。
「よくやったぞパイス。別に気にするな」
パイスはただただ俯いていた。仕方のない事であったものの、ターゲット四人を誰も逮捕できなかった事に強い責任感を感じていた。
「大丈夫だ。責任は俺が取るから安心しろよ」
悲しい表情を浮かべるパイスをジェントは必死に励ます。もし彼が撃たなければターゲットを逃がしてしまうところであった。良くはないものの、最悪の状況は避けられた以上、ジェントは彼を責めたりはしなかった。
昼にもかかわらず、太陽の光を遮るほどの厚い雲が空を覆っていた。諜報局はクーデター計画について知っている貴重な情報源を失う事となったのであった。
いかがでしたでしょうか?
前書きに書いたように、私事情によって更新が遅れるかもしれません。
その際、作品のクオリティも下がるかもしれませんが、なるべく維持できるように努力していきたいと思います。
誤字報告を行ってくださりました
ぴょんすけうさぎ 様
この場を借りてお礼申し上げます。