DJ少女達との日々   作:変わり者

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PeakyP-keyとの馴れ初め回です。あまりにも長くなりすぎたために前後編形式にさせていただきました。


ピーキーな思い出(前編)

 いつの記憶だろうか。陽葉学園だからそんな前ではないはずだ。

 

颯は自分の夢の光景を見ていくうちに、その事実に慣れていってしまった。自分の視点のまま過ぎ去る夢。夢は記憶の整理と聞いた事がある。しかし自分に至ってはただの夢を追うだけでしかない。

 

 

(中等部の頃の教師。自分はこの状況に覚えがある。今でも鮮明に覚えている。何故ならこの教師の授業といえば……)

 

颯は状況を整理する。中等部の頃だ。綺麗にまとめてあるノートから顔を上げ右を向く。そこには長い髪を後ろで結んだ、浮かない顔をした少女がいた。席替えして今日隣になったばかりの女の子。名前は山手さんだったと思う。この子とは会話をした事がないし、どんな人かも知らない。

 

山手さんは一年生で一個年下だ。陽葉学園中等部では特定の教師が全学年合同で授業をすることがある。今まさにその状況だ。

 

何に悩んでいるか知っている今だからこそ、颯は苦笑いしてしまった。すると見ているのがバレたのか、颯と目を合わせた途端にとても驚いた顔をされてしまった。

 

一度気になったら、なんだか授業に集中出来なくて話をすることにした。困っているなら……見過ごすわけにはいかないじゃないか。

 

 

♤♡♢♧

 

 

(初めて日向颯という少年を見た時は、表情の無い勉強ばかりしているつまらない人。そんなイメージだった)

 

 わたしはここ最近、憧れの人にどうすれば届くのか。いつでもそんなことばかり考えていた。それ以外の事を考えていなかった。ふと視線を感じて視線の先を追うと、真面目な学生という印象が一番似合いそうな彼がこちらを優しげな微笑みで見ていた。

 

……わたし、そんな変な顔してたかな。

 

ボーッとしていたら授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。あれ? さっき始まらなかった? もしかして自分はそんなに上の空だったのか? と山手響子(やまてきょうこ)はなんだかショックを受けた。

 

なんだか変に疲れたなと自分自身に呆れていると、真面目な学生こと日向颯に話しかけられた。

 

「山手さん、だよね。大丈夫? なんかずっと考えていたみたいだけど」

 

わたしにとって日向さんの発言は予想外だった。常に勉強ばかりしているこの人の事だから、授業に集中していなかっただろう。とか言われるのかと思っていた。もしかしたらわたしは日向さんの事を誤解していたのかもしれない。

 

「大丈夫だよ。ありがとう、日向さん」

「そうなのか?もし困った事があったら言ってくれ。年上だからな」

「あはは、優しいね。なら今日一緒に昼食でもどう?」

 

そこまで言ってからわたしはある事に気付いた。勝手に話を聞いてもらうつもりでいたけど、もしかしたら日向さんには日向さんの用事があるかもしれない。

 

「あっ! 別に他の用事があるならそっち優先してくれていいよ」

「いや、いいんだ……俺に友達はいないから」

「…………一緒に食べようか」

 

もしかしたらわたしはいきなり彼の地雷を踏んでしまったかもしれない……。

 

 

♤♡♢♧

 

 

 昼休み、颯達は食堂で昼食をとることにした。この学園は本当に広い。食堂といっても一流企業、もしくは高級ホテルぐらいの広さだ。2階やテラスのような中庭はここにしかないと言っても過言ではないだろう。この設備は中々無い。

 

颯は辺りを見回す。響子とは先程まで別の授業だったから食堂で合流することになっていた。響子はまだ来てないようだった。いたらすぐにわかるだろう。特に響子は制服を少しアレンジしてるからわかりやすい。

 

 

「うーん……」

「ん?」

 

颯は先にメニューでも見て待ってようかなと思い、学食のメニューの前へ向かった。しかしその前に、顰めっ面をした女の子がいた。何を頼むか悩んでいるのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもなく困っているようだった。

 

「どうしたの?」

「ッ……別に……」

 

困っているならば。と声をかけた颯、でも要らぬ世話だったのか驚いた顔をした後にそっぽを向かれた。

 

「まさか……!」

「な、なんだよ! お前には関係ねーだろ!」

「君お腹空いてるね?」

「……は?」

 

 

 場所を移して外にある小さなベンチに颯と女の子は座った。女の子の名前は犬寄(いぬよせ)しのぶというらしい。

 

「でさ! うちのじいちゃんがなんて言ったと思う?」

「え、なんだろう。DJの仕事が来てるからやらないか?」

「お前よくわかったな……! そうなんだよ、曲を作り始めた中学生に仕事なんてやらせるか普通!どんだけ孫が可愛いんだっての」

 

呆れながらに言っているが、表情が緩々である。話し始めた最初は鬱陶しそうにあしらっていたしのぶも、趣味のDJの話には凄く食いついた。本当、水を得た魚のようだった。

 

「日向……だっけ? 変なヤツだよな。その天然ぽいとこもそうだけど、何よりDJの知識がなかなかある」

 

肘を膝の上につきながら、会話の中で自然と試されていたのか。と不敵な笑みと共に聞いてみる。

 

「なかなかってどのぐらい?」

「アタシの一歩手前ぐらいある」

 

話しているうちに、犬寄さんがかなりの自信家であることがわかった。DJという共通点を見つけてからは打ち解けるのにそこまで時間はかからなかった。

 

「そっか。俺も犬寄さんに追いつけるようもう少し努力しなければ」

「おう、しろしろー。ってか犬寄さんとか堅苦しいっての。そういうの苦手」

「じゃあ何て呼べばいい?」

「普通にしのぶでいいよ。お前とは対等でいたいからちゃんもさんも無しだ。その代わりアタシは颯と呼ぶ」

 

これでいいだろう? と話しながら手の平を空に向けるように腕を出す。その姿はステージで見たら宛らDJだろう。

 

「わかった。よろしくしのぶ」

「ああ。そうだ颯、連絡先交換しよう。お前には完成した曲を一番最初に聞かせてやる」

「え、いいのか?」

「今日話した感じいい意見をくれそうだからな。言っとくけど、アタシの曲パクんなよ?」

「しないってか俺には出来ないって」

「わかってるよ」

 

いくつかやり取りを繰り返し、颯はしのぶと連絡先を交換した。アタシもう行くからと言ってしのぶはとっとと行ってしまった。

 

(何か忘れているような気も…………)

 

「……あっ!山手さん!」

 

颯はしのぶとのDJ談義に夢中になってしまって時間を忘れていた。気が付けば昼休みも半分は過ぎてしまっている。急いで食堂へ戻った。

 

 

♤♡♢♧

 

 

「山手さん! 遅れてごめん!」

 

 いきなり戻ってきていきなり謝られた響子は颯の行動に小さく口を開けて驚いてしまっていた。それもそのはず、響子も今来たばかりで謝ろうと思っていたところだったからだ。

 

「謝らなくてもいいよ、わたしも今来たところだからさ」

「なんて優しい……!」

「いや、本当だよ?」

 

面白い人だな、と響子は微笑んでしまった。

 

 

 

 響子達は遅めの昼食をとりながら座って話をした。響子は自分には好きな作曲家がいて、リミックスも上手いということ。自分自身も素人ながら曲を作り始めていること。いつかはその人に認められて一緒に活動してみたいということ。

 

「なるほどなぁ……」

「実際さ、良かったでしょ?今の曲」

 

颯は響子の音楽プレイヤーから曲を聞くため、片方のイヤホンを貸してもらって聞いていた。

 

「うん、なんというか……荒々しい盛り上がりの曲の中、見事にみんながついて来れるように編曲されている」

「そうなんだ。それでつい最近気がついたんだけど、この曲を作った人。ここの学校なんだ」

「陽葉に?」

 

陽葉学園に在学しているということは、颯達と年はあまり変わらない。元からDJ活動が盛んな学校ではあるものの、ここまでハイレベルな曲を作れる人はそうはいない。

 

「素晴らしい才能の持ち主かも」

「わたし、今日その人に会って一緒に組んでください! って言ったよ」

「見つけたんだ、それで?」

「断られた。もちろん最初から全て上手くいく、なんて思ってなかったし、実力の低いわたしと組んでくれる理由なんてなかったしね」

 

その人がどんな人か知らないけれど、確かにいきなり組めと言われても頼み込まれたら困るだろうな。と颯は響子の真っ直ぐさに感心しながらも残念な気持ちになった。

 

「山手さんはどうしたい?」

 

暗い顔になってしまった問いかけてみる。颯の想像通りの人ならここで諦めないはずだ。

 

「一緒にDJ活動出来るまで諦めない、かな」

「そっか……なら俺も協力するよ」

 

この人なら間違いない。きっとどこまでも突き抜けて進んでみせる。その意思が明確だった。自分に足りないモノを持っている気がしたのだ。

 

「えっ……それは嬉しいけど……どうして?」

「それは……

 

 

『はやてくん! 好きです! これ受け取って貰えますか……?』

 

 

「……山手さんとその人のチームが最長点に行くところが観たいからかな。俺で良ければ協力したい」

 

あながち間違いではない。嘘偽りない本当の気持ちだった。変な考えが頭をよぎったがさっさと消してしまった。

 

「協力って……日向さん、DJ出来るの?」

「今は出来ない! だから俺はダンスを頑張る!」

 

目を見開きながら意外そうに颯に聞く響子。響子が絶対に諦めないように、颯も何も出来ないからと諦めたくなかったのだ。

 

「DJが上手くないからって協力出来ないことはないはず! ……多分」

 

気迫と気合いだけは十分な颯である。

 

「手伝ってくれるなら嬉しいよ、むしろ歓迎」

「よし、とりあえず踊ってみるから見ててくれ!」

 

 

決して足手纏いにはならないことを証明するために、颯は立ち上がり、曲もないまま勢いで踊りを見せた。

 

 

 

踊ること数分後……

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……どうだ……」

「おお、即興で踊ったにしては動き自体に変なところはないよ。悪くないね。ただ……」

「はぁ……はぁ……そう……だろう!?」

「あまりにも体力が無さすぎる」

 

 運動をしない男、虫の息である。響子は運動は苦手ではないうえに、何度かDJとしてステージに上がっている。運動不足の颯とじゃあえらい違いである。仮にどっちがダンサー? と聞かれても答えは一目瞭然だ。

 

「数分踊ってこれじゃあ……しかも顔も常に辛そうだったし、ステージで披露したらお客さん逃げちゃうね」

「それは……それで、はぁ……面白くないか?」

「わたしは嫌いじゃないけどね」

 

呼吸を整え、苦笑いした響子から水を貰って飲み干す。ここまで身体が衰えているとは思っていなかった。

 

「これは鍛えないといけないな」

「せめて一曲分は踊れるといいかな、日向さんがステージに出れるかわからないけど運動するのは大事だからね」

 

颯の今後の方針を決めた所で、昼休みを終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

「おっと、もう終わりだね」

「食後の運動には丁度良かった」

「言うねぇ、なら次はもっとハードなやつでも……」

「やめてください死んでしまいます!」

 

笑い合いながら颯達は教室に戻る。今日はなかなか濃い昼休みだったなぁと考えに耽っているとそんな颯をよそに響子はさっさと行ってしまう。

 

「ほら、たまにはダッシュで移動ってのも悪くないんじゃない!」

「え、ちょっと! はや……」

 

今の颯は小柄な女の子にも勝てなかった。置いてかれてどんどん小さく見える響子を見て情け無さが笑えてきた。

 

「協力するもう一つの理由か。DJに対する罪滅ぼし……かなぁ」

 

自分自身を嘲笑するようにボソッと呟いたその一言は、誰の耳にも届く事はなかった。

 

 

♤♡♢♧

 

 

「すみません、初めてなんですけど行けますか?」

 

 響子に協力すると伝えて数日後。あれから休日となり、颯はここから近いジムに行くことにした。最初はジムは甘えかなとも思ったのだが、プロの意見をしっかり取り入れて運動すれば効果も高まり、やる気が起きると思って来てみた。決して手抜きではない。手抜きではないのだ。

 

「はーい! あれ、そのジャージ……」

 

(どこか服装がおかしかったのだろうか。陽葉学園指定の青いジャージのまま来てしまった。もしかしてジムって家からジャージで来るもんじゃない!?)

 

「ああぁ……由香ぁー! 由香ぁーー!!!」

「えっ?」

 

颯の服装を見た鍛えられた女性は、突然由香という名前を叫び始めた。奥から外国人? の女性が現れた。

 

 

 

 あれから数十分後。どうやら外国人風の女性の名前は笹子(ささご)・ジェニファー・由香(ゆか)というらしい。珍しい名前と外見をしていると思ったら、お父さんが海外の人らしい。先程は颯が陽葉学園のジャージを着ていたから由香の友人だと思われたのだ。

 

「だから中学生の由香さんが来てくれたってわけか」

「あはは、早とちりもいいところだよね。でもせっかく出会えた訳だし、私がトレーニング見てあげるよ!」

「え、いいの? 自分で言うのもなんだけど、俺本当に初心者だよ」

「いいよ! いいよ! 友達なら私が見てあげないとだし! ……えっと、名前は?」

 

なんとフランクで付き合いやすい人なのだろう。友人だという勘違いですら前向きに考えてくれているみたいだった。名前も知らない友人とは変な話ではあるが。

 

「日向颯です、よろしくお願いします由香さん」

「おーけぃ! 颯! 早速だけどこれが初心者用の筋トレメニューだよ!」

「はい! ……はい?」

 

 

にっこり笑顔が素敵だなと颯は思ったのだった。手元の紙を見るまでは……。

 

「き、キツ………」

「いい感じよ! 颯、もっともっと! そう! あと少し!」

「これなんて拷問……???」

 

明らかに初心者用のメニューではなかった。否、颯のハードルが低すぎたのも原因の一つだろう。そんな颯も構わず、由香はどんどんスピードアップを促す声かけをしている。美人に応援されてやる気は出るものの、身体に限界が来ていた。

 

「……終わったッ! ふぅ……いい運動をしたぜ。今日はこのぐらいで……」

「よくやったじゃない! 颯! ワンセット終了よ!」

「は、え?」

 

現実は甘くない。非情なのだ。むしろ、少しの筋トレで体力ついた気でいる颯が問題なのだが。

 

「同じのをあと20回を3セット!」

「嫌だぁぁぁあああ!!!」

「ゆっくりでいいからね!ちょっとカメラとってくる〜」

「撮るなぁぁ!!! 死にたくなぁぁぁあい!!!」

 

※この程度で人間は死にません

 

颯がこの後筋肉痛になったのは言うまでもない。ここで逃げても由香とは同じ学校なので颯は考えるのをやめた。それと由香とは友達になれました。

 






響子の手伝いをするかどうかの時に聞こえた声は、今までDJの事を自然と避けていた颯が、DJに興味を持つきっかけとなった幼馴染の印象的な所を思い出したと思っていただけると嬉しいです。

もし宜しければ評価と感想をよろしくお願い致します。
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