DJ少女達との日々   作:変わり者

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時間軸的には中編にあたりますが、PeakyP-keyは出てきません。

申し訳ありません。


歌に関してはピーキーですから……。


孤高の歌姫を添えて

 木々から落ち葉が冷たい風で飛んでくるこの季節。陽葉学園の学生達は衣替えにも慣れ、次第に冬に適応していく。休日、響子は今もどこかで自分を磨いている。

 

日向颯は平日は由香の元へ体力面を鍛えに、休日はもっぱら歌やダンス、DJなどの技術面に力を注いでいた。

 

「くっ……仕方ない、今日は外で練習するしかない」

 

 颯は自分の財布の中身を見る。まるで盗難にでもあったかのように現金がない。年下の小学生でももっと持っているだろう。

 

何故ここまで所持金がないのか? それはここ最近の颯の練習方法のせいだ。まずは歌を練習しようと思った颯は近場のカラオケやレッスン場を借りまくっていた。中学生のお小遣いでそんなことをしていたら、大体察しが付く。

 

「はぁ……結局それほど得られるものはなかったし」

 

公園で一人呟く切なさに心折れそうになる。それもそのはず、音楽の授業でしか学んだことがない子どもが、ネットで得た付け焼き刃の知識で歌が上手くなるだろうか。

 

答えは否、ただの趣味の延長線に過ぎない。プロならアップ程度の内容だ。

 

「歌には歌のコーチが必要……」

 

例え自分が陽の光を浴びることがなくても、響子には少しでも力が必要だ。下らない成長しか出来ない自分が、颯は情けなかった。

 

「迷惑になるけどここで独学のまま続けるかそれとも優秀で知識や経験に長けたコーチに見てもらうか」

 

打つ手なしという現状もまた事実だった。このまま進んでも響子との差は開くばかり。いっそのこと誰かに教えを乞うしか……。

 

「ん?」

 

歌声が聞こえる。そういえばここは教会の近くの公園だった。あの教会には聖歌隊がいる……。歌……聖歌隊……。

 

「……そうだこれだ!!!」

 

颯は急いで教会へ向かった。このピンチをチャンス変えてくれる人がいる事を信じて。

 

 

♤♡♢♧

 

 

 

「すみません! 今の歌声……あっ」

 

 思いっきり扉を開けた颯は、まるで結婚式で待ったをかける人ぐらいに注目を浴びていた。聖なる歌声を高い天井まで響かせる聖歌隊の中、一人だけ異質な黒髪の少女に目がいった。

 

「えっ!? だ、誰ですか!?」

 

驚かれるもここで怯んではいけないと思い、聞き返す。

 

「すみません、今の歌を聴いた通りすがりです! その歌声の人に聞きたいことが……!」

 

聖歌隊の人達は一斉に黒髪の高校生に振り返る。どうやらこの人で間違いないようだ。

 

「え!? えっと……その、ごめんなさい!」

「あっ……」

 

制服を着た高校生は耐えきれなくなってしまったのか、入り口にいた颯の横を走って通り過ぎてしまった。

 

(間違いない、この人だ……俺に足りないものをこの人は持っている!)

 

 

 

 

 一週間後、颯は公園で歌うま高校生を待ち続けた。約束もない、確証もない。もしかしたらもう来ないかも知れない。それでも根気で待ち続けた。そしてある日……。

 

(いたっ……!)

 

高校生が近くを通った。もうこの機会を逃したら次はない。

 

「あ、えっと……青柳(あおやぎ)さん!」

「え……? あなたは……!? どうして名前を?」

 

向こうからしたら当然の疑問だ。この前あった変人が今度は名前を言ってきたのだから。青柳椿(あおやぎつばき)、この人の名前だ。

 

「教会の方たちから聞きました。勝手なことをしてすみません」

 

警戒させないようにも事実を述べていく。颯はこの人から教わりたいのだ。この人からは自分と似たものを感じるのだ。

 

「あっ、俺は日向颯って言います。ごく普通のその辺にいる中学生です」

「ごく普通の中学生が、いきなり教会に突撃してくる?」

 

颯の発言に椿はおかしな子と自然な笑みが溢れる。

 

「それより日向くんは公園で練習を?」

 

「颯で呼び捨てで良いですよ。俺はあんまり歌上手く無いので……練習にも手を抜かないで独学で色々試してるんです」

 

暖かい日差しの中、颯と椿の間の緊張が解け始める。

 

「でも独学には限界があって、俺も自分自身に何が足りないのかわからずじまいでスキルアップ出来ないんです。何かが足りない気がして……」

「歌の、練習を……?」

「はい、それで試行錯誤の末、迷っていたその時青柳さんの声が聞こえて……」

 

事の経緯を話している彼は本気で悩んでいるように見えた。だからこそ椿は自分には向いていないし、荷が重いと思っていた。自分にのしかかるプレッシャーに耐えきれそうにないのに、他の人の期待なぞに応えられないと考えていた。

 

「……はっきり言って私に教えるのは無理です。大体、男性と女性じゃ……きっと歌い方も違うと思うし……とにかく! 本当ごめんなさい!」

 

頭を下げて断る椿に、颯はもう無理なのかなと内心諦めた気持ちだった。それでも平静を装っている。

 

「それじゃ、また……」

 

そんなに悲しそうな顔をしていたのか、椿も居づらくなってしまって離れていってしまう。今も何処かで山手さんは曲を作っているのだろうか……。自分の不甲斐なさばかりが頭をよぎっている。

 

自分は出来損ないではないのか____。

 

ゾワリ、ゾワリと差が広がっていくのを感じる。このままでいいのだろうか。

 

……いや、むしろそのような考え方をしている時点で追いつく事は出来ないではないか。

 

(……山手さんは一度だって諦めていないんだ……俺だけ諦めるわけにはいかない!)

 

 

♤♡♢♧

 

 

 薄暗い霧の中、今にも大雨が降りそうな雲が空を隠し始めた。

 

「今日は良いことなかったな……」

 

あれから数日経った。椿の前に颯という少年が現れる事はなかった。幸運だとも感じていた。何故なら縛られる事なく練習に集中出来るからだ。椿は自分の思った通り、自身の歌に集中出来ていた。

 

練習後の帰り道、椿の顔は晴れない。学校で聞こえた言葉が頭から離れないからだ。今まで信じて疑わなかった自分の歌。自分の存在意義がわからなくなり、自分自身に問い続けている。

 

例えこんな大雨が降って濡れていたとしても、何も感じれない程に弱っていた。

 

無意識のうちに歩いていく椿の前に突然、人が出てきて椿が濡れないように傘で雨を防いだ。

 

「雨、凄いですね」

「えっ……? 颯……?」

 

それは一瞬の事で、誰と判断する事も遅れ、今更雨が降っている事に気がついた。

 

「びっくりしましたよ。学校の帰りにカラオケでも行こうとしたら青柳さん、雨に濡れながら歩いてるんですもん」

「本当だ……びしょ濡れだし髪もぐしゃぐしゃ……」

 

まるで今雨降っていることを知ったような口ぶりの椿をつい心配してしまう。今の椿を例えるならキンセンカの花のように見えた。可憐であるも、悲しいエピソードや花言葉ばかりの切ない花だ。

 

「この辺は俺の家に近いので雨が止むまで雨宿りしてってくださいよ」

「そんな……悪いわ。私の不注意なのに。それに用事があったんでしょう?」

「カラオケぐらいいつでも行けます。このまま傘もささず不注意な青柳さんを放っておけっていうんですか? 遅かれ早かれ青柳さんが風邪を引くのが目に見えてます。こういう時は人に甘えてください」

 

颯の純粋な親愛の眼差しとと熱意の籠った意気込みに椿は先程学校で言われた事、それに対する客観的に見た持論が頭をよぎる。

 

『青柳さん、頑張ってはいるんだけど……このままだと結果は出ないですよねぇ……』

『ええ、本当。応援してあげたいのは山々なんですけど、本人があんな感じじゃあ、ねえ?』

 

(どんなに頑張っても結果が出なければ要らない……)

 

『歌は上手い。ただ……それだけじゃあ青柳も可哀想だよ』

 

歌に賭けた高校生活。椿は決して下手ではなくとも、その努力が他の人に認められることはなかった。だからたまに呼ばれる聖歌隊が好きだった。ここでは誰に気を使うことなく自由に歌が歌えたからだ。

 

「…………」

 

椿は黙りこくってしまう。どうするべきか。どうしたいか。次第に雨は弱まり、しっとりした空気を吸う二人。

 

「あの……青柳さん? 大丈夫ですか?」

「……ねえ、颯。あなたはもし私に教わったとして上手くいかなかったら?」

 

 

この前より真剣な眼差しで颯を見据える椿。心なしか、冷たい風が吹き抜け凍えてくる。椿にとってもこれは賭けなのだ。もしこの少年に自分の持つ、歌の全てを教えてあげられれば、少しは救われるのではないか。椿は本当に颯がついてこれるのか。

 

「それどころか、貴重な時間を無駄にしてしまうかもしれない」

 

(もしあなたが私にあるものを知ってるというのなら、私でもあなたのように歌を楽しむ人の力になれるなら。私は……)

 

「俺は、歌が上手くなりたいんです……! 俺のせいで大事な人達に恥かかせたくないんです! だから俺に歌を教えてくれませんか! お願いします! 青柳さんじゃないとダメなんです!」

 

颯は必死になって言いながら思った。きっと椿さんにとって断る理由はいくらでもある。

 

「あなたじゃないと俺は前に進めない! 勝手な都合を押し付けてるのはわかってます! それでも椿さんと歌を歌いたい!」

「わかった! わかったから……あなた声大きすぎ……」

 

颯の熱狂的なアプローチに椿は顔を赤くし、手で隠そうとしていた。それもそのはず、椿は今の今まで誰かにここまで求められた事が無かった。今日また声をかけられた時、断ろうと当たり前の様に考えていたはずだった。

 

「それじゃあっ……!!!」

「私で良ければ颯の足りない所を伸ばしてあげる」

「本当ですか!?」

「その代わり! 私の歌もあなたに支えて欲しいの。師弟として互いに足りない所を伸ばしていきましょう。いつかどこかで歌えるのを願ってね」

 

降り続いた雨がほんの少しばかり止んだ気がした。

 

「全く……あなたを見てるとあの子を思い出すわ……」

 

諦めの悪さ、諦めない事の重要さ。この1ヶ月間。颯は椿を見放さなかった。その活動的な部分は椿が小学生の時に出会った少女に似ていた。

 

「本当に風邪を引かないうちに、一回うちで暖まりません? なんか俺も寒くなってきちゃって……」

「そこまで言うなら、甘えようかしら……」

 

♤♡♢♧

 

「ここが俺の実家です。さ、中に入って」

「お、おじゃまします……」

 

 颯と椿は雨が止むまで颯の実家で休憩する事にした。椿は他の人の家に入ること自体の経験が少ないので緊張しまくっていた。

 

「あ、兄さん……」

「……フン、お前はそうやって普通に学生してろ。そうするだけでいい」

 

今から仕事に行くであろう颯の兄は颯に振り返りもせずに玄関から出てってしまった。仏頂面で不機嫌そうな外見から人が寄り付かないのも納得出来るだろう。颯にとっては見慣れた光景で相変わらずだった。

 

「何?あれ……」

「気にしないでください、兄はいつもあんな感じなんです。それより先にお風呂入って暖まってくださいね」

 

 颯は服を着替えるために自室へ、椿は浴室へと向かった。数十分ぐらいした頃か。暗い顔をして雨に濡れた椿はすっかり元通りの美人に戻った。風呂上がりで颯の服を着た椿はリビングの椅子に縮まるように腰を掛けた。リビングでは颯が必死にドライヤーで椿の制服を乾かしていた。

 

「あ、青柳さん。すみません俺の服しかなくて……制服乾くまで我慢してください」

「ええ、制服は別にいいのだけど……」

「……? 本当はクリーニングに出したかったんですけどね。代用出来る服が無いので」

「そうね……。ところでその、颯……この服ちょっと大きくて……合わないんじゃ……」

 

男物の服装は来たことない椿は、大きめのシャツと緩めのズボンに慣れずにいた。

 

「そ、そんなモジモジしないでくださいよ!? そうだ! ずっと見てるのもアレですし、映画でも見ましょう!」

「……!? これ、有名どころからマイナーなやつまで……こんなたくさんの洋画」

「あ、興味あります? 良かった」

 

颯が時間潰しに用意したのは海外の映画ばかり。その積み重なったパッケージ達は椿にとっては興味の惹かれるものばかりだった。

 

「どうしてこんな洋画ばかりあるの?」

「昔、幼馴染が海外に行っちゃったんです。ティオティオ島って場所に。それでもしいつ帰ってきてもいいように、俺も英語学びたくて……あ、くだらないって笑わないでくださいね?」

「笑わないわよ……。幼馴染が海外に……そうなの。でも洋画とは颯と趣味が合いそう」

 

いつ帰ってくるかもわからないですけどね、手紙もやめちゃったしとだけ伝えてこの話は終わった。そこからはしばらく椿と映画を鑑賞していた。

 

「……雨の音しなくなった」

「分かるんですか?」

「まあ、耳はいいから」

「流石青柳さん」

「名前でいいわ、私だけ颯なのも変だし」

「わかりました」

 

 椿は帰る準備を進める。映画を一つ見終わる頃には制服も乾いていた。帰る前に颯は椿と連絡先を交換し、見送ろうとした。

 

「明日からは歌の指導するわ、連絡無視しないでよ」

「そんなことしませんよ。椿さん、本当にありがとうございます」

「……ええ」

 

日向家の扉を開けて雨が止んでいるうちに帰ってしまおう。椿は足早に去っていった。

 

「お礼が言いたいのはこっちよ、ありがとう颯。私が腐る前に助けてくれて」

 

少しだけ出てきた家を見つめた後、また自宅へと歩みを進めた。

 

 




 キンセンカ。花言葉は寂しい、悲嘆等。

キンセンカの別名、カレンデュラ。カレンデュラはラテン語で1ヶ月という意味。颯は椿に1ヶ月間かけて出会い、歌を教わった。

今でもその関係は続いています。

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