DJ少女達との日々   作:変わり者

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更新遅くて本当に申し訳ないです。

時系列が高校生に戻って参りましたので、かなり慌ただしい日常が戻ってきます。


唯一無二の存在

 可愛いぬいぐるみの飾られたキュートでメルヘンチックな少女の部屋から、液晶画面にコツ、コツ……とペンで何かを描く音が響いていた。集中出来るからか真っ暗な部屋の中、モニターと液晶の光だけで描き進める。

 

「はい! 今日のイラスト投稿完了〜!」

 

今日の仕事の終え、機嫌を良くした絵師、おんりー先生はSNSのディグッターに作品をアップして、軽く体を伸ばした。するとすぐに多くの反応があり、うんうんと頷きながら眺めていく。

 

「休憩したら軽くエゴサでもしようかしらねぇ……」

 

お菓子や飲み物を取りに行き、早速袋を開けて口の中にお菓子を放り込みながら、もう一度ディグッターにのめり込む。

 

 その途中、オススメの人が出る欄が目に入る。ディグッターやSNSにありがちの人脈を広げるためのアレだ。

 

 

このむにちゃんにオススメするんだから優秀な人なんでしょうね。そう思いながら気まぐれに一人のプロフィールを開いてみた。

 

「なっ……!?」

 

 日向颯。その名前には見覚えがあった。だからこそ大鳴門(おおなると)むには腹が立ってきた。しかも日向颯は本名でSNSでやり、一桁のフォローに対して四桁のフォロワーがいた。ごく普通の高校生の日常の呟きなのにここまでファンがいるのは可笑しい。それこそイラストレーターでもなければ、なかなかこうはならない。

 

「有名人気取り? ふん……」

 

こうなったらとことん調べてやろうじゃないの。コイツについて聞きたいことがたくさんあるわ……心でそう奮起して、むにはとりあえず誰をフォローをしているかを調べた。

 

「Peaky P-keyって……陽葉の超人気ユニットじゃない!? しかも全員にフォロバされてるし!?」

 

後は燐舞曲という名前が見えたが、むにはまだDJについて詳しいわけではないのでわからなかった。

 

「陽葉なら……今は二年生よね、教室で待ち伏せ……はダメね。きっと逃げられる」

 

接触するにはどうしたものか。この日向颯が本当に自分の知っているあの颯なら。会えるならそれだけで嬉しい。

 

何故なら大鳴門むには日向颯に……

 

 

数年前、フラれたから。

 

 

♤♡♢♧

 

 

 暖かい日差しと少し冷たい風に乗って花びら舞う春。日向颯はカーテンの隙間から入ってくる日光に照らされて目が覚める。なんだか長い夢を見ていた気がする。

 

「寝覚めの悪い俺にしては良い夢を見たな」

 

身体を起こし、部屋の中を見る。整理した荷物の中には大切で思い入れのある物ももちろんあり、飾ってあるのは二つの写真立て。それとトロフィーと綺麗な貝殻の入った瓶だった。

 

「懐かしい……」

 

 一つ目の写真はPeaky P-key、通称ピキピキの四人が初めて行ったオーディションで優勝した時に五人で撮った写真だ。みんな輝いている。いつもトロフィーはしのぶの家に置く事が多いが、どうしてもこれだけは颯に持っていて欲しいみたいだった。

 

そして横に置いてあるのがそのトロフィーだ。少しでも役に立てたなら良かったと颯は今でも誇りに思う。

 

 

もう一つは幼馴染二人と颯、三人で海辺に行った時に撮った写真だ。その写真の横には貝殻のたくさん入った瓶が置いてある。

 

「あれ……なんで俺、こんなの持ってきだんだろう」

 

 颯は実家から一人暮らしを始める時、何故かこれだけは手放せないと思った。これを捨ててしまったら、自分は何か失くしてしまう気がしてならなかったのだ。

 

瓶を開けて手に一つとってみる。特になんてことのないよくある貝殻。

 

「……りんくちゃん」

 

そう呟く。その名前を口にした。それでも全く思い出せない。思い出せていない。もどかしさで頭が痛くなりそうだ。

 

「……俺今、なんて…………やばっ! もう時間だ!」

 

颯は貝殻を元に戻し、陽葉指定の鞄を肩にかけ、いつものように陽葉学園に登校するのだった。

 

 

♤♡♢♧

 

 

 陽葉学園は今日もとても騒がしい。高校生二年生が始まって少し経った。その頃にはクラスメイトも話に花を咲かせ、会話に夢中になっている。その中でも……颯はクラスメイトで話相手など奏助ぐらいしかいない。その奏助もサボりぐせが凄く、何日も学校にいないのはよくある。そんな時、颯はいつも暇潰しに校内を散策していた。

 

 

 

 誰もいない音楽室、一人ピアノを弾く。開いた窓から春を感じる涼しい風と、昼時の賑やかな声が聞こえる。スマホで楽譜を適当に調べて楽譜の代わりに置いた。初心者用から弾きやすいのを探して手を慣れさせる。一通り準備が終わったら、誰に聞かせるわけでもない演奏が始まる。

 

 

「____……ふぅ、ピアノもいつか役に立つ時が来るかもしれないからな」

「そうですよね」

「うん……うん? 君は?」

渡月麗(とげつれい)です、よろしくお願いします」

「あ、どうもご丁寧に……日向颯です」

 

ピアノに熱中していたら気付かぬうちに横に、大和撫子の四文字が似合う清楚な女子生徒がいた。赤リボンから見て後輩なのだろう。

 

「どうして君はここに?」

「私もこの音楽室をよく利用させてもらってます。今日も近くを通ったらたまたま颯さんが」

「なるほど、これはちょっと俺が恥ずかしいやつだ」

 

くすくすと可愛い笑いをする麗を見て颯もまあいいかなと和んだ。

 

「珍しいですよね、音楽室でピアノを弾いているなんて」

「ああ、そうだよね。陽葉にいるんだからDJやれって話だよね」

「いえ! そういうわけじゃないんです。陽葉学園に在籍いる方でも、DJをやらない生徒はたくさんいますから」

 

 麗の言う通りだ。陽葉にはDJユニットが数多くいるが、あくまで活動が盛んなだけでほとんど普通の学校だ。大きさは普通じゃないかもしれないけど。オーディエンスに徹する生徒だっているのだ。

 

「ふふ、実は私、颯さんの事を絵空さんから聞いていたんです」

「絵空が? 麗ちゃん、絵空と知り合いなんだ」

「はい、絵空さんとは昔からのお付き合いで、最近は颯さんの事ばかり話してますよ」

「何やってんだ絵空……」 

 

絵空の事を信用していないわけではないけれど、何か変な事を言っていないか時々不安になる。ふと時計を見て時間を確認すると、時刻は12時半を過ぎていた。

 

「そういえば話は変わるけど、昼は食べた?」

「お昼ですか? 一足先にいただきましたよ」

 

両手を合わし微笑みながら答える麗。なんだかそのひとつひとつのやりとりが心地よくって仕方ない。

 

「じゃあちょっと昼休み終わる前に食べたいから食べながら話していい?」

「もちろんです、どうぞゆっくりお食べになってください」

「ありがとう」

 

 ゆっくりと食事を開始し、二人だけの空間が出来ている。麗はただただ颯を見るばかりだ。食べずらいよと言うと、ボーッとしていたようで恥ずかしがりながらもすぐに目を移した。

 

「昔からピアノをやっていて、たまに弾きたくなるんだ。陽葉の子は最近の子が多いからピアノなんてダサいと思ってるかもしれないけど、俺はそうは思わない」

「まあ、素敵なお考えをお持ちなのですね」

 

 颯の持論に、麗は感心したようだ。互いに笑顔を少し見せ合う。そのまま颯は喋りを続ける。

 

「うちの親が厳しい人でね、DJをやりたいって言っても無理やりピアノを習わされていたよ。今となっちゃ当時はこれが良かったのかもしれないけどね」

「颯さんも家族のひいたレールに乗ってたんですね……私もたくさんの習い事をさせてもらっていました」

「よくある話さ」

 

 麗の許しを得た所で、今日は適当に買ったパンを口に運ぶ。絵空といる時は凄く騒がしく、楽しい時間だ。それとは反対に、麗と過ごす時間は落ち着いていて、会ったばかりだというのに謎の安心感を得られる。麗自身の包容力なのだろうか。

 

そろそろちゃんとした食事を摂りたいなと考えていると、麗に声をかけられる。

 

「あの、もし良ければ一緒にピアノを弾きませんか?」

 

またも両手を合わせて、提案なのか頼み事なのか。麗は颯の腕を見込んだようだ。

 

「いいね。二人だけのコンサートだ」

「はい!」

 

そのまま二人はしばらく連弾を楽しんだ。昼の終わりを告げるチャイムにも気づかないまま。

 

 

♤♡♢♧

 

 

 昼休みが終わり、放課後になる。自然といつもメンバーが集まっていた。

 

相変わらずしのぶはゲームばかりしているし、由香も話題のスマホゲームを始めたらしい。絵空は面白いことがないかよく観察しているし、響子はそんなみんなを見守っている。しかしずっと見ているわけにもいかず、颯は立ち上がる。

 

「俺、そろそろ帰るわ」

「あれ、今日はやけに早いね。用事?」

「いや、今日からバイトだから」

「あー! ディグッターで言ってたやつ?」

 

 響子との会話にさっきまでスマホをいじってたはずの由香が入る。そもそも颯はディグッターに関しては全く興味がなかったのだ。やり始めたのはピキピキの活動を見るため、みんなに誘われたのが大きな理由だ。適当に投稿しては爆速で身内から評価が来る。なんだあのラブリー担当。

 

あとはたまにニュースを見るくらいか。

 

「そうそう、喫茶バイナル。時給いいし、オシャレだし、何より面白そう」

「いいね、何事も挑戦だ」

「もうハヤテ! 私に言ってくれればお金ぐらい渡してあげるのに」

 

話を聞いていた絵空は腰に手を当て少しムッとしていた。数秒考えてみて、絵空が困ったら助けるのにという意味で言ったことに気づく。直球すぎて何言ってんだろうと思ってしまった。

 

「え、マジで? いくらくれるの?」

「そうね〜……とりあえず何億ぐらい欲しい?」

「ごめんやっぱいらない」

「あ、カードの方が良かった?」

「違うそうじゃない」

 

ダメだった。普通友達同士での貸し借りに万ですらかなり躊躇うのに億とか言ってきやがった。

 

「えーー?」

「えーー? じゃなくて……絵空、お前を大切に思ってるからこそ言うぞ」

「嬉しいわぁ〜」

 

本当に聞いているのかこのお嬢様は。確かにピンチに陥った時に何もしてくれないのは、中等部時代からの友情としては悲しい限りだ。でもだからといってこれはやりすぎだ。

 

「友達にお金貸す時に国家予算レベルで出さないでくれ」

「ハヤテぇ……わかったわ、あなたがそこまで真剣に言うなら考えてみるわ」

「そうそう、是非そうして。それじゃー」

「ん、いってらー」

 

しのぶがやっとこさ口を開いた。挨拶だけで気持ちが分かり合える辺りに信頼を感じる。

 

 絵空に伝えることだけ伝えると、鞄に荷物を詰めてそそくさと颯は出て行ってしまった。絵空には困ったものだ。Peaky P-keyみんなでいる時は、まだ響子やしのぶの抑え……言わばストッパーがいるため、絵空もそこまで大きな事はしないのだけど。(それでも平気でリムジンや飛行機を呼ぼうとする)

 

颯一人の時は彼女を抑えられる気がしない。先程ももし颯が本気で肯定したら、本当に颯が一生働かなくてもいいぐらいの金額をポンっと出しただろう。

 

「うん、絵空にはより一層注意しよう」

 

絵空に負けないための教訓を得た、これでよし。そんなことを考えながら歩いていると何やら変な二人組がいた。

 

「離してください!」

「うるせぇな! 黙ってついてこい」

 

 校門前で1人の少女ととても学園関係者には見えない男性が言い争っている。険悪な雰囲気であった。

 

「どんな関係か知りませんがそろそろいい加減にした方がいいですよ」

 

近づいて声かける。少女の方は腕を掴まれて今にも連れ去られそうだった。声をかけても無視をされる。少女が必死にアイコンタクトで助けを求めているのがわかる。

 

「どけっ! このガキ!」

「うわ!」

 

間に入ろうとしたところ、中年の男に弾き飛ばれされて尻餅をついた。その反動で眼鏡が遠くへ飛ぶ。

 

「あはは……困ったな。法律って知ってますか?」

「なんだと……?」

 

すぐさま立ち上がり、男に睨みを効かせる。

 

「相手の合意のないのはダメです。しかもわざわざ学園にまで……。あくまで提案やお願いなんですよ。決まってるんです、最近では親族を騙して無理やり従わせるグレーゾーン寄りのブラックもあるみたいですが」

「ククク……そんな法律にビビるとでも? この私を誰だと思っているんだ」

「知らないです。誰でもいいので気色悪い手を離してあげてください」

 

颯はこのおっさんが誰だとか心底どうでもよかったのでさっさと受け流した。というか今でもこんな事言う人がいるんだ。逆に感心した。

 

「馬鹿が、そう簡単に離せるか。この出雲咲姫(いずもさき)は前々からウチが目をつけていたんだ」

「そうですか、残念です。校門前での騒ぎ、映りに映った監視カメラ、多数の目撃者、放課後の大胆な犯行だとしても無理というなら仕方ないです」

 

このまま耐えれば大丈夫。そう確信があった。

 

「引き抜きだかスカウトだか知らないですけど彼女は合意してないみたいですけど。合意してないのに連れて行くなんてただの誘拐です。とりあえずその手を離してください。ちょっと変態っぽいです」

「平民のガキが……。大手プロダクション社長の私に指図するというのかね?」

 

 颯は無理やり中年の男が掴んでいた手を引き離す。それと同時に女の子は颯の後ろに隠れる。こういう大人って自分勝手だから聞いてもいないのにベラベラと喋る。

 

「どういうつもりだ、ガキ。まさかそんな小娘一人のために邪魔をし続けるつもりか?」

「いえ、そういうわけでは。スカウトはどうぞお好きに、でもやり方が気に食わない。あなたが本当に偉くて凄い人なら筋ぐらい通しましょうよ、まあ……時間切れなんですけど……」

 

さすがに時間をかけ過ぎたか、それともこの時を待っていたのか。騒ぎが大きくなっていた。生徒だけでなく、人が集まり、教師陣も走ってくるのが見える。

 

「現行犯じゃ無実を証明する方が難しい」

「なんだと……!? ヒーローのつもりか! くだらんプライドで人生を台無しにすることだってあるんだぞ……!」

「おーい!! 日向! 出雲! 大丈夫かー!?」

 

 タイミング良く、教師が校門へ走って駆けつけてくる。流石に校門前で長時間知らない人と生徒の接触があるのはおかしい。颯が御託を並べて時間を稼いでいたのはこうなることを予想していたからか。

 

「貴様、ネビュラプロダクションの者だな……? その顔覚えたぞ!」

 

このままだとまずいと思ったのか、中年の男は悪態をつきながら走っていった。なんともスッとした気分だ。

 

 

「先生! こっちです! ……よく見ていなかったけど、君って一年生? 知らなかったからさ」

「……? あ、ありがとうございます」

 

 咲姫は違和感を感じた。今の今まで咲姫を誰か気付いていなかったみたいだった。リボンの色を見たら何年生かわかると思うのだけど……。眼鏡をかけてから認識したように思えた。咲姫の中で何か引っかかるような気持ちにさせられた。

 

「あ、あの……お礼を」

「そんなつもりはないから気にしないで。君ももう帰ろう、人目が集まってきた」

 

これ以上言っても引き下がらないならさっさと逃げよう。颯は話しながら決断を下した。

 

「えっ……! で、でも」

「あ、ごめんバイトだ。それじゃ!」

 

居づらくなった颯は後のことは教師達に任せ、人の合間をすり抜けて走って行ってしまった。

 

「私だけがわかる。あの人は……私が求めていた人だ」

 

 もしかしたら私は、あの人を感じるためにこっちへ来たのかもしれない。私にとてもよく似ている。咲姫はそう感じていた。あの人が発する音を、色で見て尚更必要な存在だと強く思えた。遠くへ小さくなっていく颯をただ……ずっと見つめていた。

 

 

「……ネビュラプロダクションの者だな? 確かにそう言ってたよな……。どうでもいいか」

 

男の言ってた事を特に気にも留めず、ひたすら学園から離れていった。

 

 

♤♡♢♧

 

 学園から少し歩くが陽葉の生徒も多く見られる小洒落た喫茶店。その店の前に颯はいた。思い切って扉を開ける。

 

「こんにちは! 今日からここで働かせてもらう日向颯です!」

「ああ、君か! よく来たね」

「いらっしゃい、待ってたわよ!」

「お世話になります」

 

 喫茶店の扉を開くと、ベルの音と共にマスターの小舟柳人(こふねしゅうじん)と美人な店員の天野愛莉(あまのあいり)に出迎えられる。ちょうど今はジャズのような曲が流れていたので、大人な雰囲気で出迎えられたような気がした。

 

店の奥に入ると、この店のイメージである落ち着いた茶色のエプロンを、ホワイトシャツの上から着る。

 

「よし! 頑張るぞ!」

「ちょっと……アンタ!」

「はい?……げっ……」

 

まさか、嘘だろと。冗談であってくれと。颯は驚愕していた。なんでここに……大鳴門むにがいるんだ。

 

「……こんにちは! いらっしゃいませ! お客様、今日はどういったご用件で?」

「営業スマイルやめなさいよ! アンタいまげって言ったじゃない!!!」

「むにちゃん……なんで……」

「ずっと探してたんだから、本当に」

 

むにの真剣な声色に何故か颯はちゃんと視線を合わせる事ができない。

 

「そ、それは……」

 

逃げたい。逃げ出したい、あの時のように。無意識に足を動かして身体を引いていた。

 

「待ちなさいよ!? さすがに仕事中は逃げられないわよね……!」

 

全くむにの目を見ない颯は困惑と焦りが隠せないでいた。

 

「愛莉さん! ヘルプをお願いします!!!」

「なっ……!?」

 

綺麗に手を挙げ、必殺、『新人だけに許された助けを多用』を使う。呼ばれた愛莉はすぐさま颯に近寄ろうとするがむにの激しいボディランゲージに何かを察し、素敵な笑顔で帰っていった。

 

「愛莉さぁん……この客なんとかしてください」

「ふん……これでゆっくり話せるわね」

 

エプロンを掴まれる。小柄の彼女の力はそこまで強くはない。ところでマスター、変な曲流してないで助けてください。

 

「聞きたいこと、たくさんあるの……何してたかとか……」

「……とりあえず、ご注文は?」

 

 やっと出会えて複雑な表情をするむにに、颯は諭すことを優先しようと決めた。注文を尋ねると、むには顔を顰めた。颯も覗くと、コーヒーの欄を見ていた。ああ、そういえばと思い出す。

 

「甘いのがいいんだっけ、メニューのもっと下のほうだよ」

 

気遣って言うとちょっと悲しげに言葉を発した。

 

「覚えててくれたの?」

「うっすらと……だけど」

 

そう返すとむには視線を颯から外し、下を向いて嬉しそうか恥ずかしそうか。頬を緩めていた。

 

「偏食なのは今に始まったことじゃないでしょ」

「うん……そうね、わかってるじゃない」

 

 少し間を置き、むにが好きそうな飲み物を選んでくる。前に研修を受けてたからある程度の機械の動かし方やコーヒーの淹れ方。何がどこにあるかはわかっていた。

 

「オレンジジュースでいい? あとこれ飲んだら帰ってね」

「いやよ! 話したいこといっぱいあるんだから!」

 

話したいの一点張りのむに。無理もない、颯は何年も会ってない幼馴染なのだ。積もる話もたくさんあるだろう。

 

「仕事中だしダメだよ。今日が初日だから失敗出来ない。明日、陽葉でいい? 俺が一年の教室向かうから」

「……絶対よ! か・な・ら・ず! 来るんだからね!」

 

勢いよく言われる。そんなに信用ないのか。悲しい。

 

「そんなに心配ならこれからもバイナルに来るといいよ」

「ほ、本当……? いいの?」

「良いも悪いも大切なお客さんだし……」

「じゃあ……これからも……来るわね」

「うん」

 

 明日、ちゃんとした話をしよう。そう納得させて、むには注文した飲み物を飲み干して帰った。しかし初出勤はずっと頭がぼんやりしていた。集中出来ないまま仕事を覚えてはこなしていた。

 

 

♤♡♢♧

 

 

「今日の颯クンの運勢を占ってあげるわ」

 

 暗いカーテンで仕切られたこの部屋は相変わらずどんな気分で居ればいいのかわからない。

 

「君は過去のしがらみのせいで昔の友人をひどく傷つけてしまうわ」

「…………」

「でもね、予言は絶対ではないの。あなた自身の行動で運命は変えられる。些細なことでも変わる未来はあるの」

 

ずっと聞いていた。耳から頭に残るように言葉を聞いてた。静かに暗い部屋の中で座っていた。今度は逃げないように。颯は心に誓った。

 

 

 

 




☆10 ならやサブ様 

☆9 咲野皐月様 nbar様 ドスメラルー様 海龍のビルゲニア様

☆8 ディザスターレオ様

評価ありがとうございます!
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