DJ少女達との日々   作:変わり者

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 お久しぶりです。まず最初に、更新ペースが不定期で申し訳ありません。ゆっくりですが投稿していきますのでよろしくお願いします。では本編どうぞ。


転校してきた同級生は偶像

  

 

  いつもの占い小屋からの帰宅して、颯は自宅のアパートの扉の前で異変に気付いた。

 

「あれ、鍵開いてる」

 

空き巣かな、とも考えたがいつもの様に合鍵で入ってきているなら、心当たりは1人しかいなかったので平常心を保つ。ほんの少しだけ自然と笑みが出る。

 

「ただいま」

 

 一言だけ言って自分の家に入っていく。返事はない。ただ明かりはついていることから誰かがいることは確かだ。……とは言ってもだらけていて聞こえてないのが大体検討つく。

 

「椿さん……何してんスか」

「は、颯!? 帰っているなら言って!?」

「言いましたよ!」

 

 家に帰ると椿がソファーでくつろいでいた。なんとも無防備な姿で。大学生となった椿は、当たり前だが高校生の時より大人びて、歌に関しても少し落ち着いてきた。この人、数年の付き合いの自分には話しやすい人だけど……本当に大学生として大丈夫なのかと心配になる。

 

颯はふぅ、とため息をついてから椿と同じソファーに座る。

 

「んで……今日もいなかったんです?」

「ご想像通り、誰も来る気配なんてないわ」

 

 椿は連絡すらもない両親に悪態を吐きながらも、もう慣れたようにそのまま項垂れた。颯もこの話は不味いかと気を遣って近況を聞き出す。

 

「そういえば最近、ALTER-EGOでユニットに入ったって本当ですか?」

「ええ、燐舞曲ってユニットよ」

「凄いじゃないですか」

「凄いじゃないですか、じゃないわよ! あなたが言ったんじゃない!」

「え!? 俺なんか言ってました!?」

 

 急にキレ気味になる椿に覚えがないとでも言いたげに驚く颯の前に、椿は黒い上着のポケットの中から少し皺くちゃになった紙切れを突き出した。

 

「このチラシ! あなたが送ってきたんじゃない、私に!」

「ええっ!? これずっと持ってたんですか!? 全然反応ないからてっきり捨てたものだと……」

「うっ……それは……私も忙しかったのよ、その……」

「燐舞曲の皆さんとの活動で?」

 

 話を聞けばここ数日間。

偶然のようで運命のように出会った。クラブハウス、ALTER-EGO専属DJ三宅葵依を筆頭に、思ったことをちゃんと言ってくれる月見山渚。慈愛と包容力でメンバーを支えてくれる矢野緋彩。それにALTER-EGOの方々に出会えて椿自身も成長し、向き合うことが出来たと嬉しそうに今までの出来事を語っている。なんだか明るい表情が増えた気がする。

 

「昔の颯みたいだった」

「あのクールな葵依さんが? 想像つかないです」

「会ったことあるの?」

「まさか、見たことあるだけですよ。動画で何回か。ファンからの人気もあって、その時の対応も素晴らしかった。あれは人気出ますね」

 

 どこぞの熱心なALTER-EGO通いのファンとは違い颯は三宅葵依という人物について詳しいわけではない。話を聞いてるうちに興味が湧き、動画を見て今に至る訳だ。

 

 それにしてもしばらく会わなかった間に、ここまで椿に変化があるとは思わなかった。

 

「何かあったならメッセージくれたらよかったのに」

「だって……私こういうのあんまり使ったことないから、送っていいのかなって思って……」

「乙女か」

「乙女よ!」

 

椿が珍しいツッコミをする。相変わらずコミュニケーションに関しては奥手なのか。

 

そうしてる間にも颯は軽い食事を作っている。もちろん椿の分もある。たまにこうして来る時は食事を出してあげている。何故ならこの人、人が自炊した夕飯を食事している目の前で、コンビニ弁当を食べようとしてくる。なんとも情けない大学生、青柳椿の姿が居た堪れなくなる……。

 

「あなたいつもワンパターンよね」

「文句言うなら自分で作ってくださいよ」

 

かなりの頻度で飯を食べさせてもらっているくせに、文句を言う椿。少しムカっとした颯をよそに話を変えてくる。

 

「あ、そういえば……颯に聞きたかったのだけど、どうしてあなたはDJをしているの?」

「え? そうですね……元を辿れば……結局は幼馴染みとD4FESかもしれないですね」

「D4FES……」

 

 良い意味でも悪い意味でも人生のターニングポイントは、8年前のあそこだろう。今でも景色だけは鮮明に覚えている。DJの一大イベントなだけあって、フェスらしく。子どもから大人まで大勢の人が見に来ていた。

 

(俺も……幼馴染みと……)

 

「……D4FESに行ったことあるのね、意外だったわ」

「行くつもりはなかったんですけど、幼馴染みと……たまたま」

 

 いつになったら帰ってくるの? あなたの幼馴染みは。よく想ってられるわと言葉だけなら冷たく言い放つ様に聞こえるが、颯に気を使いながら言っていた。椿ならそうするって颯にはわかっていた。

 

 

「常に一緒にいるから仲良しってわけではないですよ。心で繋がっているなら互いを想い合えるものです」

「……10年近く、幼馴染を待ってる颯が言うからこそ重みがあるわね」

「その一人に会いましたよ」

 

 バイナルでの出来事を話すと、椿は一瞬目を開けて驚いたが、すぐに安心した顔になる。

 

「そう」

「詳しく聞かないんです?」

「あなたの顔を見ればわかるもの」

 

椿はそう言うが、自分自身の事のように嬉しそうだった。他人のことを自分のように喜んでくれる椿を、その綺麗な顔を見て颯もなんだか誇らしくなった。

 

 

♤♡♢♧

 

 翌日、颯はむにとの約束通り一年生クラスの教室がある階層にいた。

 

「どこのクラスにもいないな……」

 

しかし、どこのクラスを探しても肝心のむにの姿はない。先程から下級生の視線がとてつもなく気恥ずかしい。

 

「あれ、もしかして颯先輩ですか?」

 

 一年生の教室を覗き込む颯に声をかける後輩はそう多くない。声の方へ振り向くと、金色のメッシュを入れた髪色の女の子がいた。

 

「あ、真秀(まほ)ちゃんか。久しぶりだね」

「はい! 颯さんはどうして一年の教室に?」

「知り合いを探してるんだ。兎みたいな小動物な女の子」

「小動物……?」

 

何とも言えない特徴を教えられ、頭の上にハテナマークが浮かんでるのがわかりやすい。

 

「見た感じ教室にはいなさそうだし出直す事にするよ」

「そうですか? もしそれっぽい人いたら教えますね!」

「うん、ありがとう」

 

 明石真秀(あかしまほ)。出会いは中等部、ピキピキの活動が順調になり始めた頃、そこそこ運動出来るようになっていた颯は輝くように活躍していた。そこに運動神経の良い真秀が話しかける感じで出会った。運動はもちろん、料理も少しだけなら颯も話せていた。認識としては可愛い後輩に近い。

 

 

「ところでDJにハマったらしいね、どう? 楽しい?」

「それはもちろん! 元々、DJには興味あったんですけど、颯さんがやっていて更にやりたくなりましたよ」

 

ビシッと決める真秀。颯は元々由香と運動して鍛えている傍ら、その腕を見込まれいろんな部活の助っ人として頼れることも少なくなかった。だからこそ運動部の友人も出来たのだ。真秀も例外ではなく、こうやって気軽に話し合えるまでは打ち解けている。

 

「そうなんだ、真秀ちゃんならきっと上手くやれるよ」

「はい!……あ、あの! もし私が本格的にDJ始めるってなったら、颯さん……教えてくれますか?」

 

 それは颯にとっては意外な提案だった。

 

「え、いや……教えてあげたいけどその時になってみないとわからないかなー。今はピキピキの仕事もあるし」

 

 真秀の申し出は颯直々のサポートだった。真秀からしてみれば、自分の目標である陽葉学園の昼の放送、リミックスコンテストはしのぶがここ何度か一位を取っていた。何回目かは数えてないけど。

 

「そう……ですよね。わかりました」

 

颯は真秀がDJに深く興味を持ってくれたことは嬉しかったけれど、今、自分が人に教えられるほどの余裕がなかった。

 

「ごめんね。まださ、高校生活始まったばかりだと思うし、焦ることはないよ。それにここ最近の流行だと4人ぐらいのユニットが人気だから、真秀ちゃんも組んでみたらどうかな?」

「ユニット…………ですか、考えてみます!」

「うん、まあ教えるって件も期待しててよ。繋ぐのがDJの役目だからね」

 

 後輩に格好悪いところは見せられないねと勢いよく言ったはいいものの、問題は何一つして解決していない。昨日の様子ならむにはバイナルに来るだろう。

 

 

「……うん?」

「どうしたんですか?」

 

 違和感を感じ、辺りを見回す颯に真秀が心配する。

 

「……なんでもない。勘違いかも」

「ならよかったです」

 

 

 颯はそのまま真秀に別れを告げ、自分の教室へと戻っていく。その背中を遠くからぴょこっと柱から一人の少女が顔を覗かせていた。咲姫だ。

 

そう、颯の感じた違和感の正体とは咲姫の視線だったのだ。

 

 

♤♡♢♧

 

 

 教室に戻った颯はいつもとは違うざわめきに、少し疲れていた。何故なら今日は自分の学年に三人も転校生が来ていたからだ。

 

 個人的に転校してきた三人には凄く興味があった。新島衣舞紀(にいじまいぶき)花巻乙和(はなまきとわ)福島ノア(ふくしまのあ)。彼女達三人は、あの姫神紗乃(ひめがみしゃの)がオーディションで選考結果で残った三人らしい。

 

DJのライブならまだしも、日常生活で騒がしいのはごめんだ。颯はまだ時間がある事を確認すると、中庭に出ることにした。

 

 陽葉学園名物、硬い椅子にでも座ろうとしたら先客がいた。まさにターゲットだった。

 

「新島。新島って確か前の学校では陸上部だったよな。体力がつく走り方を教えてくれないか?」

 

 新島衣舞紀。食事をしているお姉さん気質の女の子。颯の予想が外れてなければ、彼女は一部の界隈では有名人だったはずだ。

 

「あ、日向。なんでそのことを?」

「そりゃあ新島衣舞紀といえば中学時代に伝説を作り上げた、利根川中のエースだ。陸上に詳しくない俺でも知ってるよ」

 

衣舞紀はそこで食べる手を止めて、不敵な笑みで颯を見据えた。

 

「あら、奇遇ね。私もあなたのこと知ってるのよ。日向颯。動画でね」

「動画?」

 

颯が聞き返すと、衣舞紀は制服からスマホを取り出し、動画投稿サイトを見せてきた。

 

「これ、あなたでしょ?」

 

 そこにはPeaky P-keyのライブ映像や、裏方にもバッチリ颯が映っていた。VJ講座以外にこんなの投稿しているなんて聞いていない。えそらん、許すまじ。

 

「あーーー……うん」

「やっぱり! 気になっていたのよ! この身体!」

「……えっ?」

 

(もしかして……もしかするけど、新島って由香タイプなんじゃ……)

 

 聞き間違いかと疑うがそんなわけもなく、颯の思惑も知らずに、心なしか目をキラキラと輝かせてる衣舞紀は話を進める。

 

「そして陽葉で今再びあなたを見た時、確信したわ。あなたは普通じゃないって! その裏は努力の積み重ねがある」

「いやそんなことは……」

「これでも人がどのようなパフォーマンス出来るかはわかってるつもりよ」

 

 自信満々な衣舞紀のその顔は、かなりの信頼を寄せられそうだった。やはりあのオーディションの合格者だけはあるのだろうか。

 

「私の筋トレメニュー、試してみない?」

「え、いや……俺は新島と話したかっただけ……」

「話したいならやってみてからってのはどう?」

 

 突然急にノリノリになる衣舞紀に颯は自分の中のクールなイメージが崩れてきた。見るからに運動好きな彼女は中身も熱血のようだ。

 

(多分アレだな……新島は同じ趣味の人が現れたら勝手に盛り上がっちゃう人だな……)

 

「じゃあ、少しだけ」

「よし、乗ってきたわね!」

 

別に乗ったわけじゃない。乗ったわけじゃないぞ。と颯は心に言い聞かせていた。

 

 

 あれから数十分後。颯は衣舞紀のメニューを一通りこなしていた。途中までなかなかハイペースで順調ではあったが……。運動経験の差か、颯は明らかに衣舞紀よりバテてきていた。そんな颯を見てか、衣舞紀は何故かしんみりとしながら声をかけた。

 

「それじゃあそろそろ終わりに……」

「いや、まだだ」

「えっ……?」

「こんなものじゃない。新島、もう少し付きあってくれない?」

 

 颯は自分がここまでだと決められた事実に、負けず嫌いな部分が出てきた。衣舞紀は衣舞紀で、過去からの教訓を得て無理やり付き合わせないことにしたのに、颯の諦めの悪さに逆に燃え上がってきた。

 

「おっ……ふふっ、えー? 日向から何もお礼がないのはなぁー」

 

颯の発言を聞いて、衣舞紀は目を丸くして颯を見ていたが、途端にハッとした顔をした。

 

「何? じゃあ今度一つだけお願いを聞こう」

「あはは、嘘だよ嘘!冗談」

 

 衣舞紀はお手上げだよと陽気に笑ってみせた。颯は衣舞紀が冗談なんて言うと思っていなくて、面食らってしまった。

 

「それで話って何かな?」

「効率的な身体の動かし方。あと新島のこと知りたい」

「うんうん、まさか日向が走りに興味を持ってくれるのは予想外だったよ。私の知識だよね、もちろんいいよ」

「ありがとう、新島は優しいな。借りを作る」

 

言いながら衣舞紀はベンチに座る。横にスペースがあり、颯はそこに座る。いいよいいよと衣舞紀は言うが、そうもいかないのだ。

 

「でも何かは言ってくれよ、気が済まないからさ」

「うーん、ならあなたのオススメのジムとかないかしら」

「あるよ」

「そ、即答ね」

 

 それならまさにオススメがと颯は由香の実家を紹介する。思えば衣舞紀は転校してきたばかりでこの街のこと詳しくないだろう。今度紹介してもいいかもしれない。

 

「今度ちゃんと紹介するよ」

「本当? ありがとう」

 

衣舞紀はじっくりと颯の身体を見回した後に腕をふにふにと触り始めた。

 

「あなたの場合、肉体面や運動神経よりも意識して生活しているかどうかの精神的な話になりそうね」

「せ、生活?」

 

思っていたのと違う返答がきてびっくりしてしまった。そんな颯を気にしないで答え続ける衣舞紀。

 

「そうねぇ……健康な体作りには食生活が大事なんだけど……日向はいつもお昼は何を食べているの?」

「コンビニ飯だけど」

 

 一瞬衣舞紀と颯の時間が止まった気がした。

 

「夜は……?」

「カップ麺」

 

ぶっきらぼうに答えてると衣舞紀が呆れてしまっている。

 

「もう、ダメよ。栄養が偏っちゃうじゃない」

「そうは言ってもバイトもあって家事なんてとても……」

 

とても出来ない。颯としてはよく颯の家に滞在している椿に、せめて少しだけでもやってほしいのだが、全くもって期待できない。何故だ。怒りがふつふつと湧いてきそうだ。

 

「こう見えて、私。料理作れるのよ」

「たしかに新島はデキる女性って感じだ」

「あら、嬉しい。なら頑張っちゃおうかな」

 

ぐっと腕をまくり力を入れている。契約成立ねと。一体彼女が何に張り切っているのか理解が追いつかない。

 

「頑張る? 何を?」

「これからお昼は一緒に食べましょう、あなたの分も作ってあげるから!」

「ほ、本気?」

「大丈夫! 一人も二人もそんな変わらないわ」

 

 衣舞紀はいくら言っても聞かなそうなので颯は放置することにした。

 

「そうか……まあ、程々にな? 助かるけどさ」

「期待してていいわよ!」

 

 

「例えば……本とか?日向は勉強好きなイメージがあるし、そういう覚え方ならわかりやすいんじゃない?」

「本か……読者は好きだぞ。わかった、ありがとう。帰りに本屋で探してみる」

「ええ!」

 

 そういって颯は衣舞紀と別れたのだった。颯が開いた携帯には、新島衣舞紀という新たな繋がりを残して……。

 




次回、天然キュートとかわいい好き

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