ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン 常怠常勝の智将と戦場の幽霊(ゴースト)   作:naosi

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 原作の文を少し変えて、投稿していきます。


第3話 たそがれの帝国にて

カトヴァーナ帝国の領土には、基本的に四季が存在しない。熱帯なのだ。

 春も、夏も、もちろん冬もない。夏将軍が本気で攻め込んで来る時期と、ちょっと手を緩める時期があるだけだ。帝国の歴史の半分は、この猛暑との戦いの歴史と言っても差し支えない。

 なので、すらりと背の高いフタバガキの木の間―――吊り下がったハンモックに体を預けて、ぐぅぐぅ熟睡している誰かの姿は、夏将軍に対する人類の勝利の形と言えなくもなかった。

 

「イクタ。起きてください、イクタ」

 

 寝息に合わせて上下する誰かの胸に、小さく愛らしい人型をした「何か」が乗っかって、懸命に身体を揺さぶっている。大きな頭と短い手足、丸っこいフォルム、胴体に備わった『光洞』。その姿は人類の善きパートナーたる四大精霊の一柱、光精霊のものに間違いない。

 

「・・・・・んうぅ・・・なにさ、クス・・・卒業式は寝飛ばすって言ったじゃないか・・・」

 

 日除けに顔を覆っていた防止を取り払い、誰かはクスと読んだ光精霊を両手に抱き上げる。眠たげな目をした黒髪の少年だ。身にまとったシャツと紺色のズボンは、見る影もなく着崩れているが、帽子と合わせて何らかの制服にように思われる。

 

「ですから、終わりました」

「・・・・・・ん?」

 

 抱き上げた精霊を上下で見つめ合いながら、寝ぼけ眼の少年、イクタは首をかしげる。

 

「進行が予定通りなら、つい先ほど帝立シルガ高等学校の第131期卒業式は終了し、今は卒業生と保護者を交えた会食に移っているはずです。ここで食事を摂っておかないとまずおのでは?」

 

 言われてイクタは兄に貰った懐中時計を懐から見ると正午を過ぎていた。

 

「確かに、こりゃ大変だ。せっかくのご馳走を食べ逃してしまう。レイ兄の料理ほどじゃないけど」

 

 ハンモックから体を下ろし、地上に立ったイクタは大きく伸びをした。ボキボキと背骨がなり、眠っていた意識が目覚めた途端、空腹と喉の乾きがいっぺんに襲ってきた。

 

「うっ、頭痛がする・・・。軽い脱水症状かな?」

「この暑さの中で、長い時間眠っているからです。まずは井戸に寄って水を補給しましょう」

 

 そう忠告したクスの身体を、イクタは自分の腰に備え付けられた専用のポーチへ両手を持っていき、そこにすっぽり収めてやった。足が遅い精霊にとって、それが移動時の定位置なのだ。

 

「いや、少しだけがまんしようか。ぬるい水で喉を潤すのはもったいないかなね」

 

 手早く木の幹からハンモックを回収し、近くに立て掛けて置いた打刀と脇差を腰に携え、頭痛に顔をしかめながらも、イクタは意気揚々と林の中を走り出した。

 

「体育教諭のヤーグだ、卒業おめでとうミス・イグセム。高等士官試験も目の前に近づいてきたな。君ならば合格間違いないと思うが、ゆめゆめ油断してくれつなよ?」

「ご忠告ありがたく承ります、ヤーグ教諭。ここで学んだことを本番に活かそうと思います」

 

 卒業式の終了後、猛暑とがっちり手を組んだ学校長の長口上が、実に8人もの生徒を医務室に送り出していた。ようやくスケジュールは大天幕の下ので会食に移ったものの未だに彼女―――ヤトリシノ・イグセムはろくに食事も取れず、優等生ならではの煩わしさを味わっている。

 

「おお、ヤトリシノくん、卒業おめでとう。生活指導のコバックだ。主席とはさすがだな。高等士官試験でも同じ結果を期待しても?」

「ありがとうございます、コバック教諭。期待に沿えるように全力を尽くしたいとおもいます」

「それにしても君の婚約者でもあるイクタ・ソロークはどこで何をしているのか、全く、成績は良くても普段の態度が」

 

  イクタ後で覚えておきなさい、絶対にこの恨みをぶつけてやる!

 卒業式をさぼり、何処かで寝ている婚約者の姿を想像し、表情に出さないように心の中で怒りを燃やしていた。

  あんたたちに言われなくても主席は獲るっていうの。だからもう私を解放しなさい!

 スキのない対応を続けながら、実のところ、彼女は心の中でそればかり繰り返していた。

 卒業祝いに来るだけならまだいい。教師たちが祝の言葉の後、いちいち自分の名前を付け加えるのが、彼女には不愉快で仕方がない。しかもその手の輩は大抵、今までの学校生活でヤトリとの関わりが薄かった連中なのだ。

 忘れられるのが怖いから、最後に少しでも印象を残そうとする。馬鹿馬鹿しいことだ。それでも知勇に品性を兼ね備えた主席卒業生として、彼女はレイを尽くした態度を取らねばならない。

 

「おっ、よっしゃあ!氷菓のお代わりが来たぞ!」

 

 すぐ近くで他の生徒が叫んだ内容にヤトリの耳がピクリと動いた。―――氷菓!

 帝立高等学校での卒業祝いだけあって、会場のテーブルにはそれなりに見栄えする料理が並んでいる。たっぷりの香辛料をまぶした魚の丸揚げ、山ほどの香辛料で煮込んだ肉のスープ、死ぬほどの香辛料と一緒に炊き上げた混ぜご飯。消毒、味付け、代謝の促進を目的とした香辛料での味付けはカトヴァーナのお国柄だ。それ自体にヤトリもなれているし、構わない。

 しかし、今は校長の長口上を乗り越えたばかりだ。汗なんてとっくに出尽くして、唇はカッラカラのカサカサ、体温だって平熱を軽く二度は超えている。こんな時までスパイスたっぷりの料理を食べて代謝を促進、汗をかいて涼を得る、なんてまだるっこしい工程を踏んでいられない。もっとダイレクトな「冷たさ」を、ヤトリの身体は欲している。

 どうにかキリの良いところで教師たちとの会話を打ち切り、彼女はさっきの声の方向に向かって早足で歩き出した。氷菓―――それはこの国では誰にとっても最高に魅力的な響きに違いない。雪どころか霜さえ降りることのないカトヴァーナにあって、氷という名の宝石を作り出せるのは水精霊たちだけ。それも一度にたくさんは作れず、大半は冷却材に回されてしまう。「氷を食べる」贅沢は、特別めでたいことがあった日だけの楽しみなのだ。

 案の定、大皿に山ほど盛り付けられていたのだろう氷菓は、ものすごいスピードで人々の手に渡り、残りのは風前の灯火のようだった。走り出したい衝動を辛うじて堪えながら、自分の分残っていることを祈りつつ、ヤトリは皿の前にたどり着く。

 手を伸ばそうとした瞬間にその僅かな量は見知った人物に取られてしまう。

 

「やぁ、ヤトリ。卒業おめでとう。主席とはさすがだ。次席としては少し悔しいな」

 

 空々しい惨事を述べながら皿に取った氷菓を口に運んだ。

 それと同時にイクタの背後から誰かが切りかかった。それに気がついていたイクタは持っていた皿から手を離し、素早く刀を抜き、相手の刃を受け止めた。

 それに気づくのが遅れたヤトリも同じようにサーベルとマンゴーシュを抜いたが切りかかってきた人物を見て警戒をといた。

 それ以外の人々は、いきなり卒業生に切りかかった人物に驚き、困惑していた。

 

「イクタ。訓練はサボってなかったみたいで安心したぞ?」

「サボったらレイ兄に殺されるって、分かっているからね?」

 

 イクタに切りかかったのは、カトヴァーナ帝国の軍服を着た白髪で褐色の肌をした青年だった。イクタの義理の兄であり、イクタに様々な武術と学問を教えたもう一人の師匠でもある。レイ・ソロークだった。

 二人はしばらく鍔迫り合いをするとお互いに距離を取った。それとほぼ同時にレイが風銃を抜き、イクタめがけて引き金を引いた。銃口から飛び出て銃弾をイクタはそのまま真っ二つに切り裂いた。それを確認したと同時に二人は刀をさやに戻した。

 

「皆様驚かせてしまって申し訳ありません。私の義弟の腕が落ちていないか確認するためにこのような事をしました。そのことについて謝罪させていただきます」

 

 突然現れた軍人が卒業生に切りかかり、風銃まで撃って、本気の殺し合いかと思った周囲の人々はその言葉を聞いて安堵の息を漏らした。

 

「イクタ。僕が見にきているのによくサボろうと思ったな?」

「いやぁ、・・それは・・その・・・・」

 

 必死に言い訳を考えるイクタだったが思いつかずに本心を結果的に喋り、レイに拳骨を貰っていた。

 

「ヤトリも悪かったなこんな弟で、これはお詫びと卒業祝いだ」

 

 そう言うと肩にかけていたバックからアイスを取り出してヤトリに渡した。

 氷菓がイクタに目の前で食べられたヤトリは、アイスが乗った容器を受け取った。

 

「・・・ん〜〜〜〜〜〜っ」

 

 口の中に広がる冷たさと甘さ、鼻から抜けるシナモンの香り、体温で溶けた氷が喉へと滑り落ちていく感触。それらの官能にヤトリは思わずスプーンをくわえたまま身震いした。

 

「生き返るわ。やっぱり最高ね、レイさんの作る料理は」

「褒めてもらえて嬉しいよ」

「レイ兄、僕の分は?」

「ちゃんとあるから慌てるな」

 

 保冷仕様のカバンからもう一つのアイスを取り出し、イクタに渡すと直ぐに食べ始めた。

 

「3年ぶりのレイ兄の料理だ。やっぱり美味い!」

「そこまで美味しそうに食べるなら作りがいがある」

 

 2人が幸せそうな顔をしながら持ってきたアイスを食べるのを見ながらイクタにとある事を聞いた。

 

「イクタ、帝国の状態はどう思う?」

 

 その質問にイクタは、顔つきを変えて答えた。

 

「年々味が落ちてる。品数も減ってるし、氷菓に使われてるミルクと蜂蜜の値段も高騰している。戦線が危うくなっているんだと予想できる」

「あたりだ。東域鎮台の戦線では天空兵による攻撃で補給基地や拠点、村や穀倉地帯が攻撃され、避難民にも物資が何とか行き割ったいるのが現状だ。対物エアライフルの試作品で何とか凌いでいるが持って、2ヵ月が限界だ」

「さすがレイ兄。情報収集はお手の物だね」

 

 東域鎮台の状況をイクタに求めたところ的確に戦線の状況を予想してみせた。その情報はレイが調べた限りではイクタが言った予想とほとんど一致していた。

 

「それよりもイクタ。もうすぐある高等士官試験は大丈夫か?ヤトリの婚約者なら落ちないようにしろよ」

「分かっているって。間違いなく合格してみせるよ」

「イクタに落ちられたら私にも迷惑がかかるわね」

 

 高等士官試験についてイクタに聞くと自身があるようで笑いながら答えたがヤトリに突っ込まれて苦笑いを浮かべていた。

 その後、しばらくイクタとヤトリと話した後、レイは会場から離れて言った。それとほとんど同時に2人も会場から退場し、高等士官試験に備えた。

 

 

 

 

 




夢中で書いていたら4000文字超えてました。
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