Besiegeの二次小説   作:Leneria

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本編
起


 

 

 「ふふふ、戦争ですわっ!」

 

 「藪から棒にどうしたんですか、部長」

 

 唐突に備品のパイプ椅子から立ち上がって奇声を発した人物へ、私は冷たい視線を送る。

 

 「ワタクシの身体を流れる戦闘民族の血が滾って仕方がないのですわ、代内(しろうち) 茅乃(かやの)女史!」

 

 はァ――と溜息が漏れる。

 

 何を隠そう、目の前で鼻息荒く仁王立ちを見せるこの残念美女こそが、名門と謳われる毘椎(びしい)女学院でも並々ならぬ影響力を有するBesiege部のボスなのだ。

 

 名を栫夷(かこい) 小雲(こくも)という。

 

 「何故にフルネーム呼びを……? まあいいです。で、今日は何部に喧嘩を売るおつもりですか」

 

 「ちょっ! ワタクシはそんな物騒な人間ではありませんわ。貴女もしや、我がビシ部の活動内容をお忘れでして?」

 

 「そんな訳ないじゃないですか、仮にも副部長ですよ? 不甲斐ない長に代わって群れを統轄するため、部の事は誰よりも把握しているつもりです」

 

 Besiege:ビシージ、べしえげ。

 

 それは英国で生み出された競技で、古来より乙女の嗜みとして受け継がれてきた伝統――――など持つはずもなく。

 まあ、端的に言えばほ(・)ん(・)の(・)少(・)し(・)だけ血生臭いロボコンである。

 

 『ブロック』と呼ばれる特殊な構造部品を組み合わせて機体(マシン)を作り、それを操ってドンパチしたりブンドドするのがこのクラブの活動だ。

 

 「ふ、ふがっ?! ここ、これでもかか、カリスマはずば抜けて高いと自負している所存ですけれどッ。い、いえ、自惚れででワなくてッ、客観的事実としてですね……!」

 

 私の発した『不甲斐ない』という単語に、異様なまでの拒否感を示す部長。ショックを隠す余裕もないようだ。

 

 「清々しいほどの甘々採点ですね……よろしい。自覚の乏しい部長様には、当部宛の苦情文(おたより)を読み聞かせて差し上げましょう」

 

 「おたより? 何かご迷惑をお掛けしたかしら……」

 

 「まずは水泳部より、『プールを自由に使っても良いとは言ったが、設備を破壊する許可を与えた覚えはない』とのことです。十中八九、先週の海戦についてですね。栫夷被告、異議はありますか?」

 

 「あれは事故ですの! マシンのエンジンパワーに比して水槽が狭すぎたのですわ。ですから、勢い余って陸に乗り上げたのは致し方ありません。寧ろ壁に少々穴が空いただけで済んだのに対し、操手の的確な判断と腕前を称賛すべきだと思いますわ」

 

 部長の言い分に、本日何度目かの溜息。

 

 うちの部員は良い意味でも悪い意味でも欲望に忠実だ。特に機体性能に関しては妥協や手加減を知らない。

 

 使える技術は全て使う。グレーなルールは大体ホワイト。

 

 その結果、高速舟艇の最適解が陸地もそのまま走れる外輪型であり、船速が亜音速に達してしまったことは確かに不幸な事故とも言えるかもしれない。

 

 「この件につきましては、既に会計役と私の権限でクラブ活動費から修繕代金を支払っておきました。さて、次です」

 

 「まだありますの?!」

 

 「ええ、そりゃあもう。ワンゲル部より、『装軌車で山を登るのはやめて欲しい。地面が均されて訓練にならない』とのことです。心当たりはありますね?」

 

 「うっ。し、しかしこちらにも実地試験は必要でしてよ。自然地形の利用には、今後互いの理解を深めながら譲り合うしかありませんわね」

 

 ほう?

 蛮族の彼女にしては珍しく、かなり理性的な意見だ。

 ただし、譲り合いの過程とその割合まで保証したものではない。

 暴力的手段によって10:0を強奪してくる可能性は現実的な確率で存在する。

 

 血が流れる前に落とし所を見つけるのが私に与えられた使命だ。

 

 「ええと、他には……生物部より、『私達が大切に育てている羊や鶏を機体に閉じ込めないでください』『火をつけたり殺さないでください』、グライダー部より、『謎加速を利用した大会荒らしはしないように』、弓道部より、『クロスボウの連射で私達の矢が消失――――

 

 「ああっ、もう結構ですわ! 自意識過剰でしたっ! ワタクシが悪うございんした! 以後気をつけますのでこれ以上は勘弁しておくんなまし」

 

 うわぁあん、と哭しながら部長は突っ伏してしまった。全て身に覚えがあったのだろう。これで少しは彼女の侵略者(Besiege)脳もマシになるだろうか。ならないだろうな。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 「……それで、内戦がやりたいとのことでしたが」

 

 部長の子供染みた癇癪も治まり、先の話題に戻る。

 『内戦』とは部内戦争の略で、要するに紅白戦のことだ。

 Besiegeが植民地獲得の対外戦争をルーツに持つことから、仲間同士の試合をそう表現する。

 

 「そうですの。久し振りに本格的な殲滅戦がやりたくなりまして」

 

 「えぇー、いつもみたくお茶飲みながら駄弁って帰りましょうよぉ」

 

 あと10分もすれば他の部員も部室に来るだろう。期末テストも近いし、ポテチでも広げて仲良く勉強会で良いではないか。

 

 「カヤノさん。貴女、本当にビシ部員ですの? あんな色水に現(うつつ)を抜かすのは茶道部とやらだけで結構ですわ」

 

 「ん? 今日の戦争相手は茶道部でしたっけ」

 

 「そんな予定はございませんわ」

 

 ナチュラルに喧嘩を吹っかけるな。こっちの気が保たん。

 

 「とりま、内戦についてはグループでアナウンスしておきました。……あ、早速レス。福留さんは参加できるそうです」

 

 「モチ子さんですわね、了解しましたわ」

 

 福留(ふくどめ) 望子(もちこ)は例の会計役であり、スタメンに名を連ねる猛者だ。

 彼女がいてくれるのは、試合での活躍もさることながら、数少ない部長のストッパーという点でありがたい。

 

 「あら、ハジメさんは欠席ですか……彼女の重戦車を楽しみにしてましたのに」

 

 「お琴の稽古なら仕方ありませんよ。由布さんは部長と違って本物のお嬢様なんですから」

 

 由布(ゆふ) はじめ。室町から続く旧家のご令嬢である。

 彼女の家はこの毘椎女学院に多大な寄付をしているらしく、それがビシ部の権力に拍車をかける一因となっている。

 

 といっても、はじめ自身はその立場を振り翳したりしない。

 寧ろ人柄は好ましく、また何処ぞの部長みたいなエセお嬢様語でない、ちゃんとした上品な日本語を話される。

 

 「本物って……まるでワタクシが偽物みたいではありませんの? あまりに無礼、無礼でしてよ」

 

 「いや、部長はバリバリの庶民じゃないですか」

 

 「お嬢様とは――ッ!! 自身がお嬢様であることを認識した時点で既にお嬢様なのですわ。即ち概念。ワタクシは概念お嬢様なのですわ!!」

 

 オーッホッホと、今時テレビでも見ないような模範的な高笑いをする彼女に、他人ながら将来が心配になってきた。

 

 「そんなだから竜塚君との仲が進展しないのでは?」

 

 「なな、何の話ですのッ? ムツメさんは今関係ありませんわよ!」

 

 「いやね、部長がもう少し真人間に近づけば、愛しい彼も振り向いてくれるんじゃないかと、そう愚考した次第です」

 

 竜塚(たつつか) 睦梅(むつめ)は隣町の名門男子校、勇霜(ゆうそう)高校に通う青年である。背は低いが筋肉質でスポーツ万能、部長の幼馴染みであり意中の人。

 

 そして、ぶっ飛んだ性格の彼女を受け止めるポテンシャルを持つ、おそらく最初で最後の人だ。

 

 「あ、あっ! ほら、オウカさんが参戦されるようですわよ。これは空が忙しくなる予感!!」

 

 通知の更新にこれ幸いと、部長は声を張って誤魔化す。

 私も他人の恋路に口を出すほど野暮ではないので、この流れに乗るとしよう。

 

 話に出てきた荒洲(あらす) 凰華(おうか)は航空機を専門とする、いわゆる空戦民だ。機体設計、操縦技術共に比類なく、「お前の飛び方はおかしい」とは部員の総意である。

 

 「これは対空火器を準備しておきましょうかね」

 

 「あら、主砲で撃ち落としても構わなくてよ」

 

 そんな馬鹿なと思うかもしれないが、ことBesiegeにおいてはそこまで過激な思想ではない。

 競技の特性上、交戦距離が短いからだ。

 リアルの現代戦のように、射程外から飛んできたミサイルで一方的にボコられることは殆どない。

 

 つまり、『弾が届くのならば、撃って中らぬはずはない』という、至極シンプルで明快な理論である。

 特に部長は戦闘センスに限れば紛れもなく天才なので、彼女が言えば説得力が増す。

 

 「あとは一年生達の返事待ちですわね。今日は学年集会で遅くなるそうですわ」

 

 三年生の先輩方は夏休みの終わりと共に引退してしまったから、今の時期はどこも人が少なくて寂しい。

 

 「宿泊学習の説明会でしたっけ? 懐かしいですねぇ、私は農家さんの所に豆の収穫を手伝いに行きました」

 

 この学校は社会経験にと、一年生の秋に職業体験も兼ねたホームステイを実施する。

 これがまた『女の子だから』などという容赦は一切ないもので、苦しみ喘げとばかりに3Kの職種を宛てがわれるのだ。

 

 「ワタクシは桃でしたわ。でも獲った実は全て作業後に我々へのご褒美として振舞われましたから、お力添えと呼ぶには烏滸がましいものでしたわね」

 

 「あははー、実はうちもそうでした。やっぱり素人が扱うと品質に影響するからでしょうね」

 

 ところで、噂によると金の採掘に派遣された班もあったそうだが、彼女らはやはり山吹色の何を貰えたのだろうか。

 

 ――――ゴーン、ゴーン……

 

 そんな話をしていると、16時を告げる鐘の音がスピーカーから流れてきた。

 いつもならここでミーティングを始めてその日の予定を確認するところであるが、今日は都合が悪く部員が揃っていない。

 

 「時間ですわね……仕方ありません、我々だけでも移動しましょう。施錠しますわ」

 

 「お願いします。電気切りますね」

 

 ぼーっとしていても無意味なので退室の準備をする。

 慣れた手付きで施錠を済ませた部長は、ドアに下げられているホワイトボードに『1700 桐山演習場』と記す。

 

 「職員室に鍵を返却してきますので、先に行って頂いてもよろしいですわ」

 

 「あ、私は少し『ガレージ』で作業してから向かいます」

 

 「そうですの? では遅刻だけ無きようにお願いしますわ」

 

 「承知してます」

 

 私達は軽く言葉を交わした後、別れて各々の目的地へ足を進めた。

 

 

 

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