Besiegeの二次小説   作:Leneria

3 / 5
転

 

 

 

 ――――カチャっ……

 

 ブロック同士の接続が確定した音。

 

 ぐうぅぅん……と全身に重圧が襲い、大気が水飴のようにねっとりと絡みつく。

 その中で思考だけが急激に、異様に冴え始める。1秒が何倍にも引き伸ばされ、視野が肉体の埒をはみ出したように拡張される。

 

 リンク完了。私は愛機と同化する。

 武装は我が腕となり、足となった車輪は地を踏み締める。

 

 陶酔すら覚えるほどの興奮。

 

 「……っと。まずはセオリー通りに、ツーマンセルで行きましょうか。鶴城さん、どちらか希望はあります?」

 

 試合前の軽い打ち合わせで、私は指揮官を任された。

 襲い来る狂気を振り払い、部隊の方針として妥当な作戦を平面の向こうにいる彼女達へ提案する。

 何はともあれ、個別に動くのはマズい。というのも、チーム編成に無視できない偏りがあるためだ。

 

 妖精からの情報で、敵軍の構成は栫夷、福留、荒洲のベテラン二年生組に一年生1人ということが分かっている。

 こちらにはフィールド設計者の桐山がいるので、そのバランス調整と考えられるが、戦闘に関してはまだ我々上級生のフォローが必要なレベルだ。

 

 《じゃあキリちゃんに回るよ。位置的にも近いし》

 

 端的で明確な返事。既に彼女の搭乗した戦車は桐山の高機動工作車へと向かっている。

 

 「おけです、飛行場へは私が。烏丸さんは出撃準備をしておいてください」

 

 これを受けて私は近接航空支援を担う烏丸と合流することになった。

 小回りの利くこの戦闘車なら、鶴城の装軌車より攻撃機との連携が円滑に行える。航空優勢の確保は難しいだろうが、これで敵も好き勝手には暴れられない。

 

 《ROGER! 制限解除され次第、離陸します!》

 

 この演習場は、フィールドとしては緩やかな起伏と遮蔽物の点在するスタンダードな地形だが、システム面においては設計者の趣向(こだわり)が多く散りばめられている。

 

 その一つが陸上機と航空機の差別化だ。

 

 圧倒的に速度に勝る航空機は一定時間、高度制限という形で空に上がることが物理的にできない。

 可能にしてしまうと、機動力に劣る陸上機は為す術がなく、結果として空戦機だけになってしまうからだ。

 無論、陸戦枠でSTOL機を使ってもルール上の問題はないが、弾薬の補給や得られる恩恵の違いを考えると、素直に適した枠を選んだ方が強い。

 

 《こちら鶴城、合流完了。補給線の維持に移行する》

 

 趣向その二、陣地防衛要素。

 

 各チームには守るべきエリアが設けられており、ここをメンバーが占領していないと機体の弾数やリロード速度が大幅に下がるシステムになっている。

 桐山曰く、兵站を疎かにする軍隊が満足に動けるはずなかろうとのこと。

 

 「了解。桐山さん、陣地構築お願いします」

 

 彼女の機体は物を運ぶこと、あらゆる地形を素早く踏破することに特化している。確か、新フィールドでの試走に使っているのがあの工作車だったはずだ。

 その能力は演習場に配置された非地形オブジェクトを集め、迎撃を有利に進めるために活かしてもらおう。

 

 《任せてください、先輩。ここは私の庭ですから》

 

 頼もしい返事に口角が上がる。

 逆に我々の分隊は自陣の空を守りつつ、敵の補給線を遮断しに攻めていくのが仕事だ。

 

 《制限解除ォ! 烏丸愛波、発進します!》

 

 管制塔を模した建物に近付いてきた頃、視界がジェットの雲を引きながら猛スピードで上昇する機体を捉えた。

 無骨ながらも必要な装備を携えた戦闘攻撃機だ。

 

 今回の方針としては、荒洲の得意な旋回戦に挑むのではなく、一撃離脱を心掛けながら致命傷になりそうな攻撃を的確に阻止していく感じ。

 その要望通り、彼女は双発ペラエンジンとの複合動力で速度性能の高い機体を選んでくれたらしい。

 

 「こちらでも確認しました。先行してバンディットとの交戦に備えてください。ウェポンズフリー、ただし私が到着するまで格闘戦は禁止」

 

 《COPY!》

 

 取り敢えず無事に離陸を済ませることができた。

 後の展開はおよそ想定できているので、この機体もブーストを蒸しながらフィールド中央へと急行させる。

 

 《敵機発見しました! 機数は1、空戦仕様です!》

 

 間もなく報告が入る。

 カナード翼を持った推進式の単発プロペラ機。コストは明らかに規定を大きく下回っており、出来合いのものだと分かる。

 この殲滅戦では火力が些か足りない。少なくとも、私を倒すことはできない。

 

 ハンデなのか実力を発揮するためなのかは知らないが、彼女が好んで身を投じている、空戦専用にカスタムした機体だ。

 

 「了解。陣地に向かいそうならちょっかいを出しつつ、速度、高度、距離を保って待機してください。あと10秒で到着します」

 

 後ろには鶴城がいるから陥落はそうそう考えられないが、野放しにしていれば綻びが生じて行動の選択肢が狭まる。

 

 《WILCO! 既にガンギマってやべぇですから、なる早でお願いします!》

 

 幸いにして侵攻する様子は見られず、敵機は烏丸を少し追いかけては煽るように曲芸飛行をしてを繰り返している。

 あの重力と慣性を無視した動き。やはり、荒洲だ。

 

 私は主砲と対空機銃両方の照準に荒洲を収め、射程圏内に踏み入る。

 

 「発砲! 交戦を許可します!」

 

 本当ならここで仕留めたかったが、彼女もこちらを待っていたようで、初弾はひらりと躱された。

 

 《ENGAGE! それじゃあチノ先輩、アシスト頼みますよっ!》

 

 高空で旋回していた烏丸は機体を反転させると、位置エネルギーを捨てて荒洲へと急降下した。両翼のキャノンが火を噴く。

 やはり加速と最高速ではこちらが勝っているらしく、相手も回避に専念せざるを得ない。

 

 《攻撃中止! これより再上昇に移ります!》

 

 アプローチが終わり、高度を稼ぐために機首が上を向く。そしてこの間だけ、彼我の速度的優位が逆転する。

 その隙を見計らって、荒洲は烏丸に追い縋った。

 

 「させませんよっ!」

 

 それを妨害するのが私の役目だ。二機へ割って入るように機銃を撃ち込む。かひゅんッという空気を裂く間の抜けた音と共に、焼夷効果を持った細長い弾体が弧を描く。

 

 牽制とはいえ、こちらは堕とすつもりで照準しているのに、なかなか命中しない。

 妖精の影響で、弾速よりも知覚の方が速いためだ。

 

 《攻撃再開します!》

 

 ともあれ、烏丸を無傷で上空まで辿り着かせることには成功した。

 攻撃の間に私は位置取りを有利な地点に変更し、次の対空砲火に備える。

 

 回数を重ねるごとにこちらが有利になっていく。これを続ければ、あと3回以内で何らかの損傷を与えることができるはずだ。

 

 尤も、それを許してくれるほど敵は甘くない。

 

 《チノ先輩! 爆撃機ですっ、退避してください!》

 

 重爆撃機。

 条約の定める機体サイズを翼の折り畳みによってクリアし、大量のハードポイントにボムを搭載した陸上機の天敵。

 

 「因みにですけど、撃墜できますか?」

 

 制空戦闘とはそういうものだ。邀撃機は敵の爆撃を阻止しなければならない。

 

 《ふぇ……NEGATIVE! 直掩から逃げるので精一杯ですぅ!》

 

 うん、荒洲相手にそれは酷だね。

 

 「じゃあ全速力で逃げてください。こちらは何とかしますので」

 

 実を言うと、ここまでは想定内だ。

 あちらの滑走路に物々しい機体がタキシングしているのは見えていたので、あとはどこに向かうかだけが問題だった。

 その上で陣地を狙われるのを防ぐため、敢えて誘いに乗った形である。

 

 《……くっ、ご武運を!》

 

 烏丸は回避機動をとりながらフルパワーで遠ざかっていった。

 

 さて、ここからが正念場である。

 

 単独行動となった私は、爆撃のコースであることを承知して敵陣地に真っ直ぐ走る。

 ボムの投下が始まった時点で停車し、対空戦闘用意。

 

 機銃を構えたが、本体はギリギリ射程外の高度を飛んでいる。主砲は緩やかな弾道を描くため、全て装甲の厚い機体上面にしか着弾しない。

 

 ならば、すべき事は一つ。自分にとって脅威となるボムだけ迎撃して処理する。

 

 視界には等間隔で並ぶ黒い丸。

 この物体には空気抵抗がな(・)い(・)。すなわち鉛直方向には等加速度運動を、水平方向には等速運動をする。

 弾道を読むのは容易い。

 加害範囲を考慮しながら弾を置いてやれば、着発式のそれは勝手に破裂していく。

 

 《チノ先輩――――ッ!!》

 

 爆炎に呑まれた私を見て、烏丸が叫ぶ。うん、多分叫んでいるはず。テキストでしか伝わらないけど。

 

 「……安心してください、生きてます」

 

 《チノちゃんせんぱあぁぁぁあいっ♡》

 

 返事をするとまた絶叫が轟く。何というか……分かりやすくて可愛い娘だね。

 

 「私のことは良いです。烏丸さんにはあと数分、それを続けて貰わねばなりません。よろしいですか?」

 

 爆装を消費したとはいえ、あの巨鳥は対地攻撃機として依然厄介な存在だ。ここで潰しに行く。

 

 《AFFIRMATIVE!》

 

 頼もしい。

 そう答えてくれると思って、私も準備をしていた。

 

 コンテナのハッチを開き、ドローンを射出する。

 ロケットブースターで一瞬にして加速した子機は、高度を上げて爆撃機に向かう。

 通常なら圧倒的な馬力の差で追いかけることすら能わないのだが、アレは爆撃の密度を高めるため、一時的に速度を落としていた。

 わざわざ私が前進したのも、そうすれば相対速度を保つため更に減速してくれるだろうという予測のもとだった。

 

 結果的にそれは上手くハマり、加速し切る前に背後をとることができた。

 

 旋回砲塔から放たれる弾幕をバレルロールで回避しながら機関部を目指す。飛行枠のキャノンはリロードが段違いに速く、近付くのも一苦労だ。

 しかしこの好機を逃せば、こんなオモチャは荒洲に堕とされて、空の優勢は一気に敵へと傾いてしまう。今しかない。

 

 燃えろ――――!!

 

 ドローン唯一の武装である火炎放射器が作動する。

 航空機に使われるブロックは可燃属性のものが多く、引火すれば炎に包まれるのはあっという間だ。

 

 左エンジンを中心に翼を伝い、全体へと火が回っていく。

 水砲による消火でエンジンだけは助かったようだが、フラップやエルロン、ラダーといった操作系統が次々と脱落し、最後は戦闘エリアの端に設置された壁に激突して砕けた。

 

 《警告:損傷率3%です》

 

 妖精からダメージの報告。ドローンが爆撃機と共に燃えてしまったからその分だ。

 少なくない代償だが、それでも脅威を排除できたことは大きい。

 

 「敵爆撃機、撃墜しました。皆さんは無事――――」

 

 《マズい! キリちゃんがやられたっ!!》

 

 安否確認の矢先、鶴城の緊迫した無線が入った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。