鴻池 翔(おおとりいけ しょう)
・本作の主人公。女神から「ある物」を転生特典として貰い、異世界「ヴァリクラール」に転生する。
リクラール
・翔に転生特典を渡した女神。美少女。
ドレイク
・荒くれ者のような見た目をした男。
受付ちゃん
・みんなのアイドル()
「貴方は死にました」
「…は?」
目を覚ますと薄暗い部屋にいて、目の前には美少女が佇んでいた。
「え、ここどこ…?」
今の状況が飲み込めず、暗くて何も見えない周りを見渡す。
「ですから、貴方は死んだのですよ。─鴻池翔─」
美少女が俺の名前を言う。その時、頭の中の膨大な知識がこの現状に既視感を覚えていた。俺のこの現状は…まさか…。
「…もしかして、"異世界転生"…」
「! 察しがいいですね」
美少女は少し驚いた顔をした後、直ぐに普通の顔に戻った。
「そりゃ分かりますよ。あんなあからさまな死に方すれば、ね。異世界転生ばかりさせてるトラックはそろそろ休ませてあげるべきだと進言しておきます」
「死の直前の記憶も残っているのですね。珍しい。ここに来た人間は皆、その強いショックからか死の直前の出来事を忘れているのですよ」
「ま、小さい頃から記憶力だけは良かったもんで。それで、貴方様はさしづめ神か天使って所ですか?」
少し茶化すように言うと、美少女はクスッと笑う。
「そうですね。私は別の世界…ヴァリクラールの女神、リクラールです。貴方がこれから行く世界の神をしています」
「かなりオーソドックスな展開で心底安心しましたよ。で、ここに呼んだ理由はなんなんすか?」
リクラールは両手を左右に広げ、神々しい姿で言う。
「選ばれし者、鴻池翔よ。貴方にはこれより、異世界ヴァリクラールに転生してもらい、世界を守って頂きたい」
「わかりました。それで、女神様はなんかしてくれるんすか?」
「ええ、その為に一度ここに呼びました。…翔、貴方に一つ「女神の加護」を授けます。何でも一つだけ、願いを叶えます。ただし、願いを増やす事は出来ません」
「おーまたありがちなのが来たな…分かりました。そういうことならもう決まってる」
「では言ってください。貴方の望みは…」
「俺の転生特典は…」
真っ暗な暗闇。しかし爽やかな風が身体を包んでいる。目を開くと目の前には生い茂る芝生、木々。自分のいる場所が森の開けた丘である事が分かる。丘の下に目を向けるとそこには、巨大な城壁に囲まれた街があった。
「んー!よし、そんじゃ異世界転生ライフを張り切って行きますか!…ん?あの街…漫画とかアニメでしょっちゅう見る街だ…ま、いいか」
こうして、俺の新しい人生が幕を開けた。
街には簡単に入れた。「見慣れない服装だな!」等のイベントは特に無く。恐らく女神様がそういう街に飛ばしてくれたのだろう。街の内部は中世の建物が並んでいて、多くの人々が大通りを行き交っている。一番期待してた亜人や魔族の姿は無いようだ。
「まずはギルドとかに行って冒険者登録をするのが鉄則だよな。でもどこにあるのかわかんねぇな」
店先に書いてあった文字は大体読める。というのも、これも女神様の力なのだろう。転生者に激甘なシステムである。壁には色々な物が貼られていた。迷子の猫のチラシや、賞金首のポスター等。黒と白のコントラストが可愛らしい猫ちゃんの横に賞金首のポスターって…温度差激しすぎだろ。
「よう兄ちゃん。もしかして余所者か?」
しまった。周りを見ずに考えていたせいで裏路地に入ってしまっていたようだ。柄の悪そうな男に話しかけられた。
「あ、ああいや、あはは。まぁ余所者…ですかね」
怖ぇ!異世界怖ぇ!転生物の主人公とか結構ズバズバ意見言えたけど、これなんも言えねぇわ怖ぇ!いや普通に考えてみてくださいよ!俺みたいな学校は帰宅部、家に帰ってネット三昧の男にこんな実戦で体鍛えましたって筋肉が囁いてくるような男、話しかけられただけで卒倒ですよ!?
「…はっはっは!驚かせちまった見てぇだな。悪ぃ。俺はドレイクってんだ。この街の見回りをしてる。裏路地に見慣れない服装の兄ちゃんが入っていったから話しかけただけだ。その様子で悪人なんて思わねぇから安心しな」
「え、あ、は、はい。すみません…」
良かったァー!悪い人じゃなくて良かった!裏路地ってのはヒロインの女の子との出会いのシーンであったり、柄の悪い3人組に刺されたりする場所だからなァ!あー良かった!
「それで兄ちゃんは何をしてるんだ?」
「じ、実はギルドを探してて…」
「ギルド…?あー、冒険者組合の事か?なら俺が案内するぜ。ついてきな」
ドレイクさん…あんた良い人だよ…。
そんなこんなでドレイクさんは俺に冒険者組合がある場所まで案内してくれた。ドレイクさんはまた見回りに戻って行った。
窓の外から見た冒険者組合の風体は大きな宿屋の一回に酒場があり、そこにカウンター兼受付があるような作りになっていた。昼間だと言うのに屈強な体つきをした男達が酒を片手にどんちゃん騒いでいる。
「…よし」
意を決して組合の扉を開ける。バタンと大きな音を立てて扉が開く。開いた瞬間、分かった。男達の視線が、こちらを向く。
「…失礼しました」
今度は扉をゆっくり閉めた。
いやいやいや!またこんな感じかよ!確かに?酒場は荒くれ共が集まるって決まってるよ!?でもキングオブもやしの俺には少しハードルが高すぎるんじゃないかな!?…てかどうすんだよこれ…入れねぇじゃん…。
「…兄ちゃん」
「ひひぃん!」
驚きすぎて、馬になった。
声のした方向を振り向くと、そこには屈強な体つきをした男が立っていた…しかし、その顔には見覚えがあった。
「どれいくざぁぁぁん!!」
「な、なんだよその死に別れた戦友に喜びで泣きつくような感じは…別れてから5分と経ってねぇぞ」
ドレイクさんは心配して俺の事を影から見ていたらしい。そりゃそうだ。ドレイクさんにさえ腰を抜かしていた男が組合に入れる訳が無い。
「俺が着いてってやるからよ。な?」
「ず、ずびばべん…」
「…兄ちゃん、一度顔を拭いてくれ」
「ばい…」
ドレイクさんに布を渡され、それで顔を拭う。
「さてと、じゃあ行くか兄ちゃん」
「…はい…」
ドレイクさんが優しく微笑みながら手を差し出す。おい、見てるか。異世界転生志望者諸君。これが異世界だよ。俺達は、夢を見すぎてたんだよ。きっと。俺、この世界に来て初めてヒロインと呼べる存在に出会っちまったもん。…男だけど。
ドレイクさんが俺の手を引き、組合の扉を開ける。すると中にいた男達がドレイクさんの方を見て、少し喜んだような表情を見せる。
「お!ドレイクじゃねぇか!街の見回り依頼の達成にゃまだ早すぎるんじゃねぇか?」
「ああ、ちょいとそこでこの兄ちゃんを拾ってな。冒険者になりたいみてぇだから手伝うだけだ」
「成程な!それでそこの兄ちゃん、さっきはなんで入らなかったんだ?」
「え!いや…その…えっと…」
突然話しかけられて、動揺する。悪かったな!コミュ障で!
「…兄ちゃんはこの街に来たばかりで、まだ不慣れな事が多いらしいんだよ」
ドレイクさんが助け舟を出してくれた。すみません…コミュ障で…。
「ははは!ドレイクは相変わらず面倒見がいいな!兄ちゃん、冒険者になるんだろ?せいぜい頑張って俺に酒を奢ってくれや!」
「はい…ははは…」
緊張しすぎて顔が強ばって不自然な笑顔になってしまった。
ああ、女神様の時は普通に話せたんだけどな…。あれは女神様が女性だったからか…?それとも異世界転生でゲーマーズハイならぬ転生者ハイになってたからか…?
「そんじゃ、兄ちゃん連れて受付まで行ってくる」
「おう!今日も仕事が終わったら呑もうぜ!」
「お前はずっと呑んでるだろ…行くぞ兄ちゃん」
「はい…」
ドレイクさんに着いていくと、カウンター席のような場所に案内された。受付の人は奥にいるようで、ドレイクさんが人を呼ぶ。
「おーい、受付ー!冒険者手続きをしたいんだがいるかー!」
すると奥から駆けるような音がして、人影が見え始める。こういう場合の受付ちゃんって可愛い事多いんだよなぁ。その受付さんがメインヒロインになったりする転生物もあるくらいだしなぁ。
「はぁーい!お待たせしましたー!」
奥から人影が姿を現す。緊張して俺は顔を伏せてしまう。ゆっくりと顔を上げると徐々に受付ちゃんの姿が目に映る。フリフリのスカートにコルセットのような見た目をした服、そしてサラサラの紫色の髪が背中の後ろに見える。そしてパッチリとした目に赤い唇、そして髭。…ん?髭?
「貴方が新しい冒険者かしらぁ?可愛い顔してるわねぇ!キスしてあげたいわぁ」
「ほら兄ちゃん。冒険者手続きだ。…兄ちゃん?」
「…うぷっ…」
唐突に来た嘔吐に、堪らず口を覆う。しかし噴火の如くやってきたソレは俺には止める事が出来なかった。
「おろろろろろろろろ!」
「兄ちゃん!?」
「あらぁ、坊や、具合でも悪いのぉ?」
ドレイクさんが優しく背中を撫でてくれる。
「…あ…いか…」
「ん?どうした兄ちゃん」
「カマバーじゃないかぁ!!!」
「…カマバー…?」
受付ちゃんは、どぎつい格好をした異世界のオカマだった。
第一話です。ゆっくり投稿していきます。