これはとある能力者の仮初めの物語
決まったと思ったのだ。……しかしそうは
ならなかった。いかに恵まれようが俺は所
詮は凡人だったということである。
サー・クロコダイル
BaNN!!!
開閉音ッ。居酒屋の玄関扉が勢いよく開け放
たれて、人ひとりが走り出ていったッ。
「なッ!!ちょ!?おい待てッ!!」
それが彼女ことニコ・ロビンであると理解し
たのは遅れて数瞬のことであるッ。俺ことサー
・クロコダイルを自らの手で対処するには不可
能だと即座に判断しての行動か、見事な食い逃
げであるッ。あまりの意外な行動力に俺ことサ
ー・クロコダイルは呆気にとられるしかなかっ
たッ。
しかしそれを見て、食い逃げダァアアアッ、
とバーの主人が怒鳴り散らすッ。怒るのも当然
であったッ。
俺ことサー・クロコダイルも慌てて彼女こと
ニコ・ロビンの後を追おうと駆け出すッ。だが
しかし、途端にその腕をガシリと強く捕まれ引
き留められたッ。バーの主人であるッ。
アンタの知り合いならアンタが代わりに払っ
てくれよとのことであるッ。いやなんで俺がで
ある。つか別に知り合いってわけじゃないんだ
が……。
説明はするがしかしバーの主人は取り合わな
かったッ。しまいには通報するぞと脅され、善
良なる俺ことサー・クロコダイルはしぶしぶ折
れるしかなかったッ。なけなしのお金を財布か
ら取り出すッ。
「ちきしょう……、なんで俺が……」
支払いを終えた俺ことサー・クロコダイルは
店を出たッ。
「あんのやろー、許さねぇ。きっちり払った分
は返してもらうぞ……ニコ・ロビン」
俺ことサー・クロコダイルは設定とは異なり
秘密結社を作ってもいなければ社長でもないの
だッ。余裕はないため金の貸し借りについては
厳しくさせて頂くッ。
俺ことサー・クロコダイルは地面に手を置い
たッ。砂であるッ。砂漠国である以上、地面が
砂にまみれているのも当然であったッ。
スナスナの実。砂人間である俺ことサー・ク
ロコダイルにとってこれほど都合の良いことは
なかったッ。
全ての砂は俺の味方であるッ。
「……グラウンド・リスポスタ(砂漠の反響探知
)」
砂の地面を歩くことによる発生する足音を捉
えることで、相手を捕捉する技であるッ。砂の
地という砂漠国だからこそ行える、まさに環境
が味方してこそ使える技であったッ。
目をつむり視界を閉ざすッ。視界を閉ざした
真っ暗な世界ッ。国中に広がる砂漠の上を人々
が歩くため、足音が波紋のごとくそこらじゅう
に点在しているのが伝わったッ。歩く人などそ
こらじゅうにいるのだから、足音が多発して伝
わるも当然であったッ。
そんな中、俺ことサー・クロコダイルはしか
と捉えたッ。 ここからそう遠くない場所ッ。
俺から少しでも距離を離そうとしているかのよ
うに常に走り続ける不規則な足音だッ。
「……そこか」
確定するように呟くッ。居場所が分かれば後
は行動あるのみッ。そこに向かうだけだッ。重
い腰を起こすッ。 無論、わざわざ走って追い
かけようなどと俺ことサー・クロコダイルは思
わないッ。
能力者とは、常に自らの力がいかに便利に働
くのか考えているものだッ。俺ことサー・クロ
コダイルもまたそうであるッ。
砂の力があるのだッ。それを使った方が断然
早いッ。
風が舞ったッ。自らの身体を砂埃のこどく粒
子と化すッ。俺ことサー・クロコダイルは風に
溶け込むようにしてその姿を消した。
これはとある能力者の仮初めの物語
食い逃げは重罪だ。身に染みて実感した。被
害を被るのはなにも店側だけではないのだ。
そう、……俺の財布である。
サー・クロコダイル