きみはかっこいい   作:まなぶおじさん

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「「きみはかっこいい」」

 

 大洗女子学園が大会で優勝して、数日が経過した。

 

 夏休み直前の土曜日だからか、走り専峠は朝っぱらから大盛況だ。駐車場なんてほとんどが埋め尽くされていて、バイクを停めるのも一苦労だったものだ。

 さて。

 特設モニターを覗いてみれば、スズキのトラックが今日もトップを張っている。でかでかと貼られた「自動車部」のステッカーが、日光によく照らされていた。

 

「やるねえ、スズキ」

「あんなデケーのを、よくもまあコントロールできるよなー」

 

 腕を組んでいる竹原と松坂が、実にいい顔をしながらでコメントする。梅宮に至っては、軽やかな口笛を吹いていた。

 フォーミュラトラックはデカい、音だってデカい。そして、廃艦と補習を免れた観客の歓声だって同じくらいデカい。腕を振り上げている者もいるし、スズキの名前を叫んでいる男子もいる。もしかしたらファンか、それとも――

 

「お、来たねー悟ー」

 

 一足お先に着いていたホシノから、手で挨拶をされる。黄池も、同じように手を挙げてみせた。

 

「今日こそ決着をつけるよ。それであんたよりもかっこよくなって、また告白してやるんだから」

「それだけは譲れないな。その権利は、僕がもらうよ」

 

 レースで勝ったら、告白するつもりでいたんだーー

 その事実をホシノから聞かされた時は、それはもう驚いたものだ。だって自分も、そのつもりでいたから。

 

「そういうわけだから、今日もやるか」

「そだね」

 

 黄池とホシノが、にやりと笑いあう。

 周囲のライダーからは、「あいつらほんとお似合いだなー」と言われてしまったけれど。まあ慣れた。

 

「――来た! スズキのトラックが!」

 

 ナカジマの叫びに、黄池とホシノの視線がコースへ集中する。コースのはるか向こう、スズキが駆る黄色いトラックと赤いトラックが、並走しながらでゴールラインへ食らいつこうとする。

 それを見て、すかさず、

 

「がんばれ―――ッ! スズキ―――ッ!」

「いけっ! いけ―――ッ!!!」

 

 黄池が、ナカジマが、ホシノが、そしてツチヤが声を張り上げる。赤いトラックのフォロワーも、負けじとエールを炸裂させた。

 そして爆音とともに、二台のトラックが迫る。あと数秒か、あと少し、あとちょっと、

 

「――っしゃ――――ッ! スズキの勝ちぃ――――ッ!!!」

 

 ナカジマが、あらん限りの声を響かせる。ホシノも黄池も、ツチヤだって同じように歓喜した。

 すこし経って、スズキと赤いトラック乗り――女子生徒だった――が、対面を果たす。

 そして、いやーいい勝負だったねと、互いに手を握り合う。

 

 □

 

 ツチヤとナカジマのレースが無事に終了し、待ちに待ったライダー達が次々とコースへ入場していく。この時ばかりは、誰も口なんて開けない。

 ここまで来たからには、後はバイクを以て表現するのみだ。

 ――ほぼ一瞬だけホシノと目が合うが、すぐにコースのみを見据える。

 エキゾーストパイプから放たれる排気音が、黄池の心を躍らせる。決して健康によくはない匂いが、やはり心地良い。この峠でふたたび走れることを、幸福に思う。

 シグナルの音が鳴る。

 3、2、1、

 

 □

 

 明日こそ、イエローに勝ちます。こればかりは、ライダーとしての義務であり、誓いでもありますから――

 

 スタートと同時にけたたましい爆音が鳴り響いて、つい数センチほど飛び跳ねてしまった。主砲とはまた違う迫力に、世の中って面白いなあと実感するばかりだ。

 最初こそバイクとバイクとが接戦していたが、やがて少しずつ差がついていく。そこでトップを張るのはやはりホッシーとイエローで、追い抜き追い越されを繰り返している。

 なるほど。話の通り、ホッシーはストレートに強くて、イエローはカーブで差を埋めていく感じか。

 これだけのトップスピードを維持し続けるなんて、とてもでないが自分にはできない。

 だからこそホッシーについていけるイエローが、イエローに食らいつけるホッシーが、とてもお似合いに見える。きっと、このふたりでないとだめなんだろう。

 口元が、緩む。

 眼鏡を、整える。

 

 どうか、どうか、末永くお幸せに。

 

 □

 

 ホシノとほぼ同時にゴールラインを越えたあと、黄池はバイクをコース外へ離脱させる。スピードが落ちるまでの数秒が、とてつもなく長く感じた。

 はやる気持ちを抑えながら、黄池とホシノはギャラリースペースめがけバイクを引いていく。やがてナカジマの顔が見えてきて、ホシノが無感情に「どうだった?」と質問して、

 ――結果は、

 

「引き分けだよー!」

 

 緊張感が、嘘みたいにはじけ飛んだ。

 ナカジマの言葉に、黄池はあちゃーと笑ってしまう。ホシノも、そっかーと頭を掻いている。

 なんとなく、こんな結果になる気はしたのだ。

 ――ホシノと、視線が合う。

 

「……やっぱりホシノには、かなわないな」

「……それは、こっちのセリフだよ」

 

 なんとなく、こんな結果になる気はしたのだ。

 だから黄池とホシノは、めちゃくちゃ笑いながら抱きしめあう。ギャラリーが沸騰し始めるが、やめるつもりなんてさらさらない。

 

「ホシノにはかなわないなあ!」

「悟だって速いくせに!」

 

 ホシノに勝つのでもなく、負けるのでもなく、同じくらいにかっこよくなれたことが、ほんとうにうれしかった。

 

 □

 

 抱きしめあう黄池とホシノを見て、ツチヤの顔から苦笑がこぼれ落ちる。二人の間にあったなにもかもがなくなって、実に気分がいい。

 腕を頭の後ろに回しながら、ツチヤは、心の底から思う。

 

 恋か。

 ――私も、いつかしてみたいな。

 




これで、「きみはかっこいい」はおしまいです。
最終回まで書き終え、長らくPCの中に保存してあったのですが、新年になったからと投稿してみました。

ホシノはかっこいいキャラだからこそ、オリ主もかっこよくしてみたかったのです。
こうすることで、「ああ、こいつはホシノに相応しいな」と評価されることを祈っていたのですが、いかがでしたでしょうか。

何はともあれ、ホシノとのメタルな恋愛を書き終えることが出来ました。
評価、ご感想など、お気軽に送信していただければ本当に嬉しいです。
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