夢を、観た。
それはもう、数えきれないくらい遠い記憶。
まだ何も知らなかった頃の、私の遅れた青春。
聖職者崩れの迫害者。
王になり損なった流浪の戦士であり探求者。
長い眠りから醒めた薪の王。
そして、夢に囚われた狩人。
長く眠っていたのだろうか。らしくはないが、人とは夢の中で記憶を整理する生き物だ。ならばその事もまた、人らしいではないか。人でない獣など、最早夢すらも見ないのだから。
明るい月の光が網膜を照らす。ゆるりと私は胸に乗る本を取り払い、傍のテーブルに置いて背伸びした。すると揺り籠のような揺り椅子が静かに同期するように揺れる。
白い花が咲き乱れる庭の中、私は一人居眠りとは。未だに私にもそんな少女らしい一面があるとは驚きだ。真、世界とは未知に溢れている。故に飽きないものだろう。
朝日の代わりに照らされる月の光を浴びながら、不意に誰かが隣にいる事に気がついた。ここではどうも安心し切ってしまうのだろう。
「お目覚めになったのですね」
静かに、ともすれば小川を流れる水のような美しさも兼ね備えた少女の声が耳に入る。そちらを首だけで見て取れば、いつものように可愛らしい長身の彼女はいた。
うん、と前置きして彼女を手招きすれば、その球体関節の手先を優しく握る。愛らしい手だ。強く握れば壊れてしまいそうなそれは、しかし愛でるためにある。私は彼女の手をそっと自分の頬へと当てた。
しばし、目を閉じる。その間も彼女は甲斐甲斐しく何も言わない。ただその硝子細工の透き通る瞳だけが私を見ている。それでよかった。それが癒しだった。
「懐かしい、夢を観た」
その言葉に、聡明な彼女は言葉を紡いだ。
「とても安らかに眠っておいででした」
頷く私は、全てが愛おしそうに語る。
「どれも、私の大切な一部だ。甘く、苦く、けれど塩っぱい、そんな記憶」
どれもこれも、大変なことばかりだった。けれど全部が楽しく、辛く、私だけのもの。
愛おしい人の血を分けた彼女はゆっくりとしゃがみ込むと、私の頬に自らのひび割れた粘土造りの顔を擦る。その様は娘のようで、愛犬のようで、愛人のようであり、やはり愛しい事には変わりはない。
甘い記憶は今でも作り続けられている。故に人は止まらない。先を生きていける。それが人に与えられた特権であり呪いなのだ。
「私も、いつかこの記憶が愛おしく思えるでしょうか」
産まれて間もない、人とも言えぬ脳裏の感情を彼女は問う。
「思えるさ。これからいっぱい、一緒に作っていけば良いのだから」
白百合が咲く。神秘の風を受け、揺れ乱れる。
今こそ思い返す時なのだ。あの頃の自分を。
あの時代と土地を生きた、私の思い出を。
共に生きた彼らと、その遺志を途切れさせないために。
“私達”は、紛う事なく人なのだから。
一話だけ、最初に追加しました。ここまで辿り着くまでに何年かかるかわかりませんがよろしくお願いします。
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ