暗い魂の乙女   作:Ciels

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大変お待たせしました。


デーモン遺跡、我が師

 

 

「それで、ユリア……何か言い訳はあるかね?」

 

 対面でお茶を飲むユリアに、そう尋ねる。仮面を取った彼女は白肌に、端正で美しい顔をこちらに向けてから笑みを作った。

 

「我が王よ、愚問です。王たるもの、相応しい者が伴侶としているものです」

「そうか? そうかもな。だが、押し付けられるのは嫌いだ」

 

 ため息が出る。彼女は私を火の簒奪者にするためならば、犠牲を厭わない。良くも悪くも、彼女は忠臣なのだ。ロンドールという亡者の国のためならば、きっと彼女は自らの死も望むだろう。けど私がしたいのは、そういうことじゃない。

 ユリアは額を抑え、まるで私が悩みの種であるかのように話す。

 

「王よ、そんな些事のために我が同胞に待てをかけたのですか?」

「うむ。貴公も私のファンならば知っているだろう。私は純愛が好きだ。そもそも、なぜアンリなのだ」

 

 不死の乙女ならば沢山いる。確かにアンリは良い乙女だ。けれど彼女の使命を……我が弟子を屠るという使命を妨害してまで彼女に付き纏うのは、最早白百合を語れない。

 

「彼女が適任だからです。アストラの本当に貴い者が持つとされる剣……人の持つ力を引き出すその剣に見初められた乙女こそ、伴侶に相応しいとは思いませんか?」

「顔に剣を刺す趣味はない。そもそも君じゃダメなのか?」

「え?」

 

 私が尋ねれば、彼女は唖然としたような顔をしてみせた。次第に顔を赤らめ、わなわなと自分を指差す始末。まるで生娘だ。なんだこの可愛さは。

 

「わ、私、ですか?」

「うむ。私のことをよく知り、剣も強く、そして可憐だ。……私としてはどうして君が私の花嫁に立候補しないのか謎で仕方がない」

 

 立ち上がり、私はユリアの背後から彼女の肩を抱く。その雪のように白い頬を、まるで甘菓子を味わうように舐める。ビクッと、彼女の身体が震えた。

 彼女の綺麗な形の耳に、口をそっと近付ける。ふぅっと息を吹きかければ彼女は甘い声をあげてみせた。たまらぬ声で誘うものだ。

 

「ユリア」

「ひゃい」

 

 声には自信がある。私が耳元で囁くように呼ぶと、彼女は気の抜けたように声をあげる。これはもう一押しだろう。

 

「私は、君と伴侶になりたいな」

 

 ルカティエルに見られたらまず殺されている。だが彼女も私のこういう所は許してくれるはずだ。そう信じたい。

 彼女の手に、自らの手を重ねる。さするように、腫れ物を扱うように。同時に、その手の感触を確かめる。華奢なのにゴツゴツとした手。確かに剣士の手だ。彼女の努力が感じられて愛おしい。

 

「我が王ぅ……」

 

 最早私という白百合に飲み込まれ、顔を惚けさせるユリア。彼女がこちらへ振り向いた瞬間、その唇を重ねた。そしてそのまま、祭祀場の一角で私達の百合園は燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で白百合の騎士が頭を抱える。人形ちゃんは無表情ながらも、騎士を見つめる瞳は冷ややかだ。

 私は笑いを堪えながらも、白百合の騎士に尋ねる。

 

「気持ち良かったか?」

「……貴様も知ってるだろう」

 

 それはそうだ。こいつは私。私はこいつ。故に当時、ユリアと燃え上がりお互いを求め合った記憶や感触だってある。けれど今は、こいつの物語なのだ。

 数ページにも及ぶ愛し合う場面を飛ばし、次の展開へと進んでいく。今はまだ、人形ちゃんには今のページを見せられない。まだ子供なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お盛んなのは変わりませんなぁお師匠様」

 

 祭祀場の裏。いつのまにか隠れるように来ていたサリヴァーンが笑いながら言う。私は不貞腐れるように顔を歪めると、犬の死体を闇朧で突きながら言う。

 

「仕方ないだろう、可愛いんだから」

「しかしそれで薄暮の国の騎士に破廉恥と言われてしまっては、元も子もありませぬ」

「見られているとは思わなかった。少しユリアに熱中し過ぎたか……」

 

 私とユリアの情事を、シーリスに見られていた。艶々として祭祀場の中央広場にやって来た私に、彼女は破廉恥です! と声を荒げて言ってみせたのだ。確かに破廉恥ではあるが、まさか今時あんな純情な乙女がいるとは。

 サリーは昔のようにケラケラと笑えば、話を切り替える。

 

「それで、この後はどこへ?」

「うむ……デーモン遺跡の探索をしようと思う。いくら薪の王になったとはいえ、エルはエルだ。私には及ばん」

 

 あの心優しき聖職者の少年を思い浮かべる。今はどんな姿になっているか分からぬが、きっと碌なものではない。人喰らいなどと。

 私が懐かしさと悍ましさに板挟みになっていると、サリーが何かを思い出したかのように言う。

 

「そういえばお師匠様。深みの聖堂には赴かれたようで」

「ああ。この人形もそこで手に入れた。お前がエルにやったものだろう?」

 

 深みの聖堂で手に入れた木彫りの人形を差し出す。サリーはそれを手に取ると、なんだか照れ臭そうに笑った。私にはまるで分からないが……一体何に対して照れているのだ。

 

「あの地に、どうやら我が故郷の切れ端を持つ者がいるようです」

「……絵画世界の?」

 

 サリーが頷く。サリーの故郷……それは、かつてロードランでエレーミアスと呼ばれていた場所。そして今はもう、修正されて名を変えられた、除け者達が最後に流れ着く場所。私の愛した者がいた……冷たくて暖かい、深淵のような、そんな場所。

 彼女は。半竜の少女は、どうなったのだろうか。愛しておいて、都合の良いことを言っておいて、結局私は戻らなかった。彼女は、どうなったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古き者達がいる。未だ死に切れず、けれど滅びを待つだけの者達が。愚かで、最早終わる者達が。

 けれど、今の世界と何の変わりがあろうか。人と何の違いがあるだろうか。

 今もなお、その者達は郷愁に駆られている。古き良き自分達の時代を、崇めている。最早その栄光に、何の意味もありはしないのに。

 

 

 

デーモン遺跡

 

 

 燻りの湖、そこから隠されたように存在しているデーモン遺跡。サリーが細部の場所を教えてくれなければ気が付かなかったであろう。それほどまでに秘匿されている。

 だが何なんだ、燻りの湖の異様さは。出所の分からん巨大砂虫に、まるでそれの討伐のために作られたと言わんばかりの巨大連射バリスタ。あんなもの、不死にとっては初見殺しも良い所だ。

 おまけにあの砂虫、雷の力を宿していた。殺せば私の知らぬ奇跡を落とす始末。一体あの砂虫は何者だ。

 

 私は今、デーモン遺跡の内部を歩いている。やはりここは元々イザリスなのだろう。時折、懐かしさを感じる。内装はほとんど変えられているが……

 ここにいる矮小なデーモン達にかつての勢いや力はない。その代わり、彼らは生き残るための技術に特化したようだ。時折出くわすデーモン達は皆、武器や呪術の扱いが上手い。アンリがこちらに来ていたら、きっと生きてはいないだろう。或いは、ホレイスはここに迷い込んでしまったのだろうか。

 

 それに、矮小なデーモン達は私を見るや否や、まるで親の仇と言わんばかりに全力で襲ってくる。先程も、未だにデーモンを狩り続けている黒騎士にデーモン達が狩られていたが……奴を無視して、一目散に私へと襲いかかってきた。黒騎士ごと斬り捨てたが、一体なんだというのだ。感情を読もうにも、(ソウル)も磨耗していて読み切れない。

 少なくとも、私はこの遺跡における招かれざる客(Persona Non Grata)のようだ。家主達は全員殺してしまう他ない。

 

 しかし、この溶岩は忌むべき思い出だ。かつてのイザリスのように、地下深くには溶岩が沸いている。それはただの溶岩ではなく、混沌を含んだ歪んだ生命の証。呪術で用いる混沌の炎と同じものだ。

 

「しかし……なんだ貴様は?」

 

 目の前で感謝を伝えるポーズをする、騎士狩りゾリグに多少なりとも困惑する。

 少し前にカーサスで侵入してきた本人が、まさかの実体を伴って目の前にいる。こいつは一言も喋らないが、それでも戦う意志はあるようで、煙の特大剣を構える。ふむ、辛気臭い場所だが少しは楽しめそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怨むべき者がいる。

 貴様を怨む者がいる。

 遺伝子に切り刻まれ。お前を殺すと願う者達がいる。

 気が遠くなるような時を経て。けれど、貴様はどこにもいない。まるでもう、我らに興味がないかのように。

 我らの母が死に、最早我らに未来はない。だが我らは待ち続ける。

 お前の死を。この手でお前を殺す時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾリグが霧散し、私は闇朧を納刀する。

 大味な戦いかと思いきや、中々に血が踊るような戦いだった。だがいかんせん前と戦い方が同じ過ぎたな、此奴は。

 戦利品として貰った煙の特大剣を(ソウル)に収納し、その場を立ち去る。

 それから私は、バリスタを破壊したり黒騎士とデーモン達を屠ったり。この遺跡を練り歩く。

 練り歩いて私は。

 

「思えば、貴女はずっと妹を心配されていた」

 

 最早時が経ち過ぎて土塊のようになり、それでも妹であった大蜘蛛の残骸を護るように寄りかかるその人に、私は手を添える。

 私と愛を交わした、呪術の師。愛するクラーナ、その人の亡骸。きっと、サリーが言っていたのはこの事だったのだろう。

 

「我が師クラーナよ。貴女の優しさに、救われた乙女からの手向けです」

 

 呪術を展開する。混沌は使わない、それはきっと彼女は望まない。炎の大嵐を唱えると、彼女達の骸が燃えていく。二人の最期はどんなものだったのだろう。苦痛無く逝けたのだろうか。

 分からない。分からないけど。それでも祈らずにはいられない。

 

「君の愛した人達は、既にいない」

 

 揺らめく炎が止まる。隣にはいつかぶりの騎士が立っていた。

 

「僕と同じように。あの頃愛した君はもういない。時は誰にでも平等に、残酷にやってくる」

「そんなに説教したいならば神父にでもなれば良い。私相手には意味がない」

 

 今こいつの相手をしている気分ではない。私はただ、彼女達を弔ってやりたいだけだ。

 

「一つ、君に教えてあげよう」

 

 騎士が大蜘蛛の妹の亡骸を指差す。

 

「彼女の亡骸。おかしなところはないかい?」

「なに?」

 

 そう言われ、彼女の亡骸を見る。

 気が付いた。大蜘蛛の上、グロアーナの本体はどこへ行った? 大蜘蛛の上部には大きく穴が穿たれている。あの穴は、まるで彼女が抜け出したかのような……

 

「僕が言えるのはここまでだ。君が何を思おうが、何を継ごうが自由。では、白百合……また、どこかで会おう」

「……」

 

 奴は消える。

 愛しき人が、また燃えていく。私は疑問と哀悼を抱き、しばらくそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女との別れを済ませ、私はデーモン遺跡の最深部……とはいっても、そこには何もなかったために一度湖へと戻る。そして、足を運ぶのは大きな門のような場所。

 初めて来た時も見えていたが、行き止まりのようだったから入らなかったのだ。残りの探索場所はもうここしかない。

 

「……はぐれデーモンらが居たから想像はしていたが。親玉はここにいたか」

 

 最早、私の知るデーモンの荘厳さはない。圧倒的な巨体、敵を轢き潰す怪力……それがデーモンの恐ろしさだったはずだ。

 けれど今対峙しているのは、風前の灯とでも言えば良い老いたデーモンだけだ。

 そのデーモンは、力無く地面に平伏し、最期の時を待っているかのよう。けれど、私を見た途端にその老体に鞭打って、大杖を支えに立ち上がる。余程外敵が嫌いと見える。

 

 ──見つけたぞ、我らが宿敵。

 

 不意に、デーモンが慄き咆哮した。

 最早咳にも似た叫びは、けれど分からないはずなのに私の脳は理解する。こいつ、私を探していただと?

 同時に、私は理解した。なるほど、このデーモンはロードランが健在であった時代からの生き残り。と、なれば、私が混沌の苗床を抹殺した事を知っているのだろう。

 母を殺された痛みを抱え生きてきた。私を殺す、そのためだけに生きてきた。この薄暗い洞窟で。

 

「ほう……あの頃の私を知る者がいるとは。真、このロスリックは奇妙だな」

 

 ──貴様は我らの種族を滅ぼす悪だ。ここで貴様を殺さなければ、散って行った者達に顔向けできん。

 

「ならば貴様は、永久に顔向けすることはない。ここで狩られるのだから」

 

 ──戯言を。我らの怒りを喰らえ。

 

 私は闇朧を抜く。デーモンを滅ぼす。それは、我が師との約束だ。そのためならば私は修羅となろう。

 

 

 

デーモンの老王

 

 

 刹那、デーモンの老王が杖を振るう。まだ距離はある、けれど杖から伸びる炎は私を焼くのに充分な射程を持っていた。

 それをステップで避けながら、接近する。こいつらはその性質上呪術の効きが悪い。遠距離なら魔術か奇跡で倒す必要がある。

 左手に聖鈴を取り出すと、即座に奇跡の文を脳内で唱える。

 

「雷の槍」

 

 瞬間的に形成された雷は、槍となって老王に迫る。数多のデーモンを殺してきた雷。しかし老王はそれを杖で防御する。流石にあの大杖を貫通はできなかったようだ。

 だが時間は稼げた。接近した私はそのまま闇朧で足元を斬りつけようとする。

 だが老王は、まるで転倒するように転がると私の斬撃を回避してみせた。その様は、あまりにも無様だ。だが生にしがみついているようにも見える。

 

 ──グゥ!

 

 老王は尻餅をついたまま、大杖を地面に何度か打ち付ける。すると炎の輪が老王を中心に広がり、私へと迫ってくる。だがそれは、あまりにも二次元的な炎だ。

 跳躍し、それをあっさりと回避して見せれば私はウィップを取り出し投擲。鉤爪の付いた先端が、老王の大杖に引っ掛かる。

 一気にウィップを引けば、私は超高速で老王へと迫る。複眼の顔が歪んだ。

 

 ──なにっ!?

 

「死ね」

 

 右手には闇朧ではなく白百合の杖。私はくるくると周りながら脳内で呪文を唱える。絶対的な一撃。それを、与えてやる。

 

(ソウル)の奔流」

 

 回転しながら、極太の(ソウル)が迸る。それはビーム状になり、所構わず周辺の空間を穿っていく。

 老王はその奔流を一身に受けると、苦痛な悲鳴をあげながら倒れ込んだ。その巨体を通り過ぎ、私は地面に着地する。もう勝負は決したように見える。

 

「貴様の敗因は……私という存在を上書きしなかったことだ」

 

 再度闇朧を握り、ゆっくりと引導を渡すように老王へと歩いて行く。奴はもう、足を潰され私から逃げるように這いずっている。そこにデーモンの誇り高き老王の名残はない。

 淘汰されるだけの、哀れな生物。ここで朽ち果てる存在だ。

 

 ──此奴は、不味い。我らデーモンは、此奴に殺される……!

 

「そう。私はデーモンを殺す者。貴様もここで死ぬのだ」

 

 左の掌を浅く斬り付け、闇朧の刀身に怨嗟を迸らせる。この怨嗟は不死だけを殺すものではない。全てを喰らい、焼き尽くす炎。デーモンの混沌すらも浄化する。いや、闇に落とす。

 だが老王は振り返り、そんな私の姿を見て逃げられないことを悟ったのだろう。

 

 ──あとは、頼む。

 

 老王は突然、這いずるのをやめて座り込み、私に対する。すると大杖を掲げ祈るような姿勢をとった。何かしらの呪術をしてくるに違いなかった。

 私はそれを、止めはしなかった。命が燃え尽きようとした者の悪足掻き。それに水を差すほど落ちぶれてはいない。

 

「見せてみるが良い。デーモンの最期の意地を」

 

 老王が大きく咆哮すると、天盤から燃える隕石が降って来る。物理を無視した、ある種の奇跡だ。ここに空も何もないだろうに。

 私は駆けると、それらを回避し接近していく。これが最期の炎であるなら、興醒めだった。

 

 ──死ね、不死よ! 儂と共に!

 

 不意に、老王が脚から血を吹き出しながら立ち上がり、私目掛けて倒れ込んできた。その身体はまるで全盛期のデーモンのように燃え上がり、今にも爆発しそうだ。

 こいつ、自爆して私を道連れにするつもりだ。

 

「哀れだよ、本当に」

 

 そう。不死ではないのに特攻とは。

 真、不憫でならない。

 

 老王の巨体が私を飲み込むと、爆ぜる。老王の手足が吹き飛び、舞い降りた隕石すらも巻きこんで辺りが爆ぜて行く。

 だがそれでも、老王は生きていた。或いは、死に損なっただけか。少なくとも、もう生きていられるような状態ではなかった。

 

 ──……しくじっ、た。

 

「残念だよ」

 

 私は、押し潰されてなどいなかった。

 百合舞踏。老王が押し潰したのは、私の生み出した幻影。本物の私は空中で、天盤にウィップを引っ掛けて逃げ延びていたのだ。

 そしてそのまま落下し。不死斬りで老王の首を斬り落とす。

 

「だが、覚悟は見事だったよ。それは誇ると良い、最後の王よ」

 

 

 

━━HEIR OF FIRE DESTORYED━━

 

 

 (ソウル)へと霧散した老王を見送り、私はこの場を後にする。デーモンは、既に未来が無い生き物だ。この遺跡にいる雑魚どもも、そのうち朽ち果てる。

 だが、まだ強敵となるデーモンは生き延びているのだろう。老王の口振りから推察する。それと対峙するのはいつになるやら。

 

ダークソウル3のリリィは

  • 暗い方が良い
  • 暗くても多少明るい方が良い
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