神が巨人すらも従属させていたというのは割と有名な話であるが、まさかその活用方法がセンの古城の試練に用いられているとは思わなんだ。
散々私達を苦しめた鉄球や空から降り注ぐ大火炎壺の数々。一体どうやって操作やら装填をしているのだろうと思っていたのだが、どうやら屋上に潜む巨人達が汗水垂らして働いていたらしい。きっと無給なのだろう、哀れだがそれで罠の数々を許せるほど心は広くない。
とりあえず鉄球を装填していた巨人は私とオスカーで成敗した。巨体は動かすだけでも相当なエネルギーを使うらしく、大振りの肉体攻撃を何度か空振りさせればあっという間に膝をついて疲れていた。まったく神とは冷酷なものだ。
屋上からでも見えるのだが、センの古城屋上の最奥には何やら巨人よりも大きな騎士もどきが鎮座しており、やってくる不死を試そうとしているのが見てとれた。一先ず我々は順路を外れ、崩れた橋を飛び越えて離れの塔にやって来る。
「あ、なんだ? なんだ? お前ら」
そこには未だ亡者になっていない不死がいた。バーニス騎士の防具を纏い、傍には大きなグレートソードと塔の様なタワーシールドを壁に立てかけているその男は、話を聞くにセンの古城にて心を折られたらしい。むしろよくここまで来て心が折れたな。
祭祀場にいるあの騎士を連想させるようなネガティブ思考かつやる気のなさだが、どうやら未だ闘志の尽きぬ我々に商売という形で協力してくれるらしい。彼の戯言を聞き流しながら取引をする。どうやらここで100年も燻っているようだ。
「じゃあ、せいぜい足掻くんだな。俺もそうだった、どうせだめなものを……」
「うっせ」
複雑そうな雰囲気のオスカーを引き連れて離れの塔を出る。ああいう奴の話は聞くべきではない。生き残りたいならね。
そうしてようやく私達はこの古城の主がいるであろうエリアへと繋がる濃霧を前にする。しかし相手はあの大鎧か……オスカーのクレイモアは重いが、それでも硬すぎる相手に対しては有用ではないだろう。
かくいう私の斧槍だって、人間が持つから重いのであってあんなデカブツ相手では歯が立たないかもしれない。そこはデーモンを相手にした黒騎士を信じるか。
「準備はいいかい?」
ふと、オスカーが濃霧に手をかけそんな事を言ってきた。まさかあの若き世間知らずの上級騎士が私を気遣ってくるとは。きっと、ガーゴイルとの闘いで別れた後に色々経験したのだろう。
私は皮肉混じりに鼻で笑い、言葉を返す。
「百年早いよ」
そんな私の回答に、オスカーは笑って、そうだな、とだけ言ってみせた。なんだ、見ない間にちょっとは逞しくなったじゃないか。闘いでもそうであれば良いのだが。
濃霧を潜り、平坦な橋を進んでいく。まだあの鉄の塊とは距離があるにも関わらず、存在するだけで威圧するような重厚感は心理に来るものだ。今はまだ動きがないが、どうせ進めば動き出すのだろう?
あの巨体の背後には大きな石造の門が見えているから、きっとあそこがアノール・ロンドへと繋がる道なのだろう。忌々しい試練とももうおさらばだ。
そしてやはり、奴は動き出した。ゆっくりと、しかし力強い動きで斧を握るその姿はまるでバーニス騎士。念のため左手には杖を握る。転がしでもしない限り近接武器では足にしか攻撃できないだろうから。
「来るぞ!」
オスカーが警告するのと同時に、遠くに居るその巨体……アイアンゴーレムは斧を振り上げた。積み上げてきた経験が警鐘を鳴らす。そしてそれは、正しいものだ。空を斬った斧から目に見えるほどの風圧が放たれる。私は軽快に、オスカーは鈍重に転がってその剣圧をなんとか回避する。
なんという力だろう。まさか斧を振っただけであんな刃のような風が巻き起こるとは。しかし今ので分かった。あのゴーレムは巨人と同じく動きが鈍い。
転がり終えて、私はソウルの矢を大きな頭目掛けて放つ。杖から放たれる青白い一筋の矢は、しかしゴーレムの兜に弾かれる。今の私の理力ではあの兜を貫けないか。
オスカーがクレイモアを両手で担いで走り込む。ガシャガシャと鎧を揺らしながら一気に足元へと入り込み、彼はクレイモアを振り下ろした。アンドレイによって鍛え上げられた大剣は、アイアンゴーレムの足甲をへこませるほどの威力だ。たまらずゴーレムは足を振り上げてオスカー目掛け振り下ろす。
颯爽とオスカーがそれを回避すれば、彼に気を取られているゴーレムの逆足に、今度は私が斧槍を振り下ろした。
「硬っ!」
ガンっと弾かれた斧槍は、しかし刃毀れなどしない。古くデーモンを屠って来た伝統のある武器は、しっかりとゴーレムにダメージを与えているようだ。良かった、足手纏いにはならなそうだ。
ゴーレムが斧を私目掛けて振り下ろそうとしているが見えたので、一度下がる。どうやらそれなりに知能があるらしく、アイアンゴーレムは私とオスカー両方を警戒するように斧を構え出した。
「武器が通じるようで良かった」
軽口を叩いたかと思えば、オスカーは再び直線的に走り出す。
「僕が奴を引きつける! 君はその隙に!」
「へぇ、やるじゃない!」
ガーゴイル相手に苦戦していた時とは別人だ。もしかすれば、今のあの騎士様は私よりもずっと強いのかもしれない。
盾を構えゴーレムの真正面に陣取るオスカーは、ゴーレムの斧を回避するとおちょくるようにクレイモアを振るう。今がチャンスかもしれない。
そっと走り出し、大きく迂回するようにゴーレムの側面に回り込む。目はないから分からないが、きっと兜の視界は広くはない。奴の視界外から、私は飛ぶように跳躍し斧槍と身体の重さを伝えるように武器を振るう。渾身の一撃だ。
想定外の攻撃だったのか、ゴーレムの身体が一瞬揺らいだ。意外と足元が弱いのかもしれないが……考えてみれば、あれだけ大きな身体を二本の足だけで支えているのだから納得だ。
もう一発斧槍の回転切りをぶち当てれば、ようやくゴーレムの注意を引いたようだ。苦し紛れに私目掛けて斧を振るうも、軽量な私にそんな鈍い攻撃は当たるはずもない。
「こっちの足も貰った!」
勇ましくオスカーが叫べば、反対側の足にクレイモアの一撃を叩き込む。するとあろう事かアイアンゴーレムは後ろに倒れ込んでしまった。
「今だッ!」
そうオスカーが叫ぶよりも先に、私は仰向けのアイアンゴーレムの身体に飛び乗る。そしてブンブンと掲げる様に斧槍を振り回して勢いを付けると、奴の首元の鎧の繋ぎ目を薙ぎ払う。生命体ではないようだが、それでも私の一撃が致命傷となったのは確かなようだ。
だが流石不死の試練、ゴーレムはそれでも息の根を止めずに左手で私を掴んで見せた。
「うぐっ!?」
「リリィ!」
万力のような握力。身体の骨と内臓が音を上げて軋む。オスカーが助けに入ろうとしているが、その頃には私の身体はゴーレムによって放り投げられてしまった。
幸い橋から落下せずにいられたが、それでもすぐに立ち上がれなくなるくらいには身体に深刻なダメージを受けてしまう。オスカーが攻撃しようとした矢先、ゴーレムは立ち上がり、クレイモアは分厚い鎧に阻まれた。
「危ない、避けろ!」
倒れたままエスト瓶を取り出そうとしている私に、オスカーが叫ぶ。痛む首だけを動かしゴーレムを見れば、奴は斧を振り上げていた。距離はある、きっと剣圧で今度こそ私を殺そうとしているに違いない。
焦り、状況判断に迷う。立って逃げるべきかエスト瓶を飲んでからギリギリ逃げるべきか。そんな葛藤は隙にしかならない。
放たれる剣圧に、私は死を覚悟した。死ぬのは構わないが、仮に死んでしまったらまたオスカーとまた離れ離れになってしまうかもしれない。つまり私は一人で戦うことを強いられる。そうなってしまったら、果たして私は奴を倒せるだろうか?倒せなければ、挑み続けるしかない。だが、そのうち心が折れるかもしれない。
あの騎士のように。
誰かが、私の横を駆けた。黒い影、それは私の前に立ちはだかると塔のようなシールドで難なく剣圧を受け切る。それはまるで、岩のような騎士。
先程まで、心折れて燻っていたバーニス騎士だった。
「早く立ち上がれ!」
振り返りもせずにそう叫ぶ騎士。斧槍を杖代わりに立ち上がり、エスト瓶を飲む。
「フン……言ったろう、お前らでは無理だと」
「その割には良い所で現れるじゃない。……助かったわ」
礼を告げ、一人ゴーレムを相手取るオスカーに加勢する。だが転ばされたのが余程応えたのか、奴は慎重に、私達を追い払うように斧を奮っているせいで近付けない。
だが、バーニス騎士はそれをものともせず盾で受けながら進んで行く。けれどそれも、長くは続かなそうだ。何度も斧を盾受けしている内に彼の身体は段々と後ろへと後退していくのが見て取れた。
「は、早く!」
焦るバーニス騎士の言葉で私達は我に帰った。盾となる彼を追い越し、斬撃の合間を縫って二人で左右の足元へと滑り込む。
そして渾身の力で足を攻撃する間際、なんとバーニス騎士がゴーレムに掴まれている事に気が付いた。悲鳴をあげる騎士を助けるには、早くこいつを殺さなければならない。
足に私達の攻撃が当たるのと、バーニス騎士が投げられるのは同時だった。まるでボールのように投げられたバーニス騎士は、門を軽く通り越して消えていく。投げた張本人であるアイアンゴーレムは投げた直後という事もあり簡単に体勢を崩してみせた。
そして、尻餅を着こうにも背後は崖。ごろんと転がり落下していくゴーレムは、そのまま地上へと打ち付けられると遠目でも分かるほどバラバラになってその
「クソ、後味の悪い……」
オスカーが悪態を吐く。その通りだった。颯爽と現れ私の命を救った張本人は、きっと死んだに違いない。それも全て、自分の力を過信した私のせいだ。
「……行きましょう。もう、終わってしまった事だもの」
だが、立ち止まれないのだ。立ち止まるにはもう人間性を磨耗し過ぎたのだから。謝りもしない。謝る人もいないのだから。
門は、どうしようもない程に閉ざされていた。老朽化のせいか動く気配は無い。ようやくアイアンゴーレムを倒したのに、これではあんまりだろう。
一先ず私達は橋の広場で考える。まさか私がジークマイヤーのように悩む日が来るとは。即断が私の良いところなのに、選択肢すらないとは思わなかった。
「ふむ……一度戻ってフラムト殿の判断を仰ぐか」
「逆戻りするわけ?祭祀場までに何回死ぬのよ」
「いや、いけるだろう? 確かに古城の罠は恐ろしかったが死なずに来れたぞ」
「……あっそ」
腹が立つ。この上級騎士様はかなり運が良いらしい。私なんて人間性なくなりそうなくらい死んだのに。
そんな風に二人して途方に暮れていれば、不意に何かの音がした。それはまるで、鳥の羽音のよう。しかし鳥にしては随分と大きな音だし、何よりも段々と近付いているようにも思えた。
何かしらと二人して上を見上げた瞬間、その音の主達は唐突に姿を現した。
それは、小さなデーモン。俗に言うレッサーデーモンと呼ばれる、人間大の魔物だった。それらが私たちを囲うように降り立ったのだ。
「敵か!?」
瞬時に背中合わせで構える私達を他所に、レッサーデーモンは武器こそ持ってはいるものの何もしてこない。それどころか、何やらヒソヒソと互いで話しているではないか。彼らにも独自の言語があるようだ。
と、そんな時。また新たなレッサーデーモンが現れた。そいつらは私達の目の前、すぐ触れる位置に降り立つと私達の身体を掴む。
「離しなさいよ! このッ! 離せ!」
いきなりのセクハラに、目の前のレッサーデーモンの股間を蹴り上げる。するとどうやらかなり痛かったのかその場で蹲ってしまった。
しかし左右にいたデーモンが慌てて私を抱えながら浮遊し始める。もしかして落下死させるつもりだろうか。それにしては回りくどい。
「待て! もしかしたら彼らは神々の使者かもしれない!」
「デーモンなのに!?」
同じように浮遊させられる彼曰く、どうやら一部のデーモンはアノール・ロンドで使役させられていたらしい。つまり、このデーモン共は私達をかの都へと運ぼうとしているのか。
先程蹴り上げたデーモンが少し怒ったように私の背中を抱き上げるも、そこは仕事人らしくちゃんと私を輸送してくれた。
しばらく飛んでいただろう。まさかこんな風に飛ぶ日が来るとは……とも思ったが、よく考えれば祭祀場に来るときにあの化けガラスに運ばれていたな。オスカーは相変わらず楽しそうだ。
そして見えてくるのは、何とも感想に出来ぬ光景。今までの朽ちたロードランは何だったのかと思う程、美しい黄金の都。
神々が住まう王都、アノール・ロンドである。
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