渡りの凍て地と呼ばれる場所を抜け、本城に侵入すればそこは来客用のフロアだったらしい。神々は通常の人間と比較すれば大柄な傾向にあるらしいが、ここにある扉や廊下はどれも我々が扱うのに適している。
そうして探索がてら一番手前の扉を開けてみれば、そこには質素かつ金のかかっていそうな客室にそぐわぬ篝火が、いつもの螺旋剣と共に燃え盛っていて。
その横には不死人らしく休息をしているソラールがいた。彼らもまた不死の試練を乗り越えたらしい。お人好しの変人同士気が合うのだろうか。気になったのは彼の傍にジークマイヤーがいない事だ。
「ソラール殿、貴公もここにいらしていたか!」
そういえばオスカーはソラールがセンの古城に居た事を知らなかった。太陽の戦士は我々に気がつくと、いつものように笑う。
「おお、貴公らもアノール・ロンドに辿り着いたか! 合流できたようで何よりだ」
そう言えば、私とオスカーのセットで彼に会うのは久しぶりか。と、ソラールはふと私を見て感謝をする。
「それと貴公、あの時は助かった。世界が再び分たれてしまって碌な礼も言えんかったが、ジークマイヤー殿の分も含めて礼をしよう。受け取ってくれ」
立ち上がり、
それを受け取ると、私は改めて先程の疑問を投げ掛ける。
「あのカタリナの騎士はどうしたの?」
そう尋ねると彼は何ら困った様子を見せずに語った。
「ああ、ジークマイヤー殿なら少し一人で探索をするらしい。彼も腕っ節は強いから、そこらの銀騎士共に遅れを取ることはないだろうさ」
だが彼はそう言った後、自らの言葉に疑念を抱く事になる。
「しかしそれにしては遅いな。もしや道にでも迷ったのだろうか……ふむ」
有り得そうな話だ。あの騎士はどこか抜けているから、初めての地で迷うなんてことは十分に可能性として考慮すべきだろう。
私は少し悩んだが、隣のオスカーはいつも通りのお人好しを発動してみせた。彼はあぁ、それならと言えば提案をする。
「我々も先を急ぐ身、ついでと言っては何ですが彼を探してみましょう」
やっぱりこうなったか。一人ならきっと頑張ってね、で終わっていたに違いない。ちょっとばかりのため息を吐いてから、私も渋々頷いた。
「なら私も……」
「ジークマイヤーがここに戻ってきた時のためにあんたは居た方が良いわよ」
すれ違いになっても困る。ソラールはやはり申し訳ないのだろう、彼らしくもなく言葉に困っている様にも見えたが、最後には私達の提案に折れた。
「素直に貴公らの提案に乗ろう。すまないが、よろしく頼んだぞ」
頼まれた矢先で申し訳ないが、エスト瓶だけは補充させてもらう。一回程度しか飲んでいないが貧乏性でね、私は。ついでに
休息を済ませて廊下を進めば、やはり銀騎士が行く手を阻む。だがいかに優秀な一人の兵であろうとも数の暴力には敵わぬ。オスカーが前衛に、私が魔術と呪術で支援すれば呆気なく打ち倒された。
フロアの中央には螺旋階段があるものの、まずは手近の部屋を調べることにする。神の都、それも本城なのだから何かしら特別な物があるに違いない。ついでにジークマイヤーを見つけられれば儲けものだ。
邪魔な銀騎士を倒し、とある一室を調べる。何も無さそうだが……それにしては薄寒い。窓も無いのに風が抜けているのだ。
がめつく部屋を調査し回る私の背後で、ふとオスカーは何か笑った。
「やはり君は、聖職者だな」
「は? 何がよ」
言っている意味が分からない。そりゃそうだろう、いくら欲深くとも私の職業は元聖職者なのだから。今はただの可愛い女の子だが。
「何だかんだと言っても、しっかり皆を助けようとするじゃないか」
その言葉で、私は思わず手を止めて振り返った。何だかこの若造に私の事を言われるのがこそばゆい。
「あのね、私はただ知り合いが私の知らない所で死んだりするのが嫌なだけ。気分悪いでしょそんなの」
「だがそれすらもできないのが人間だ。恥ずかしがる事は何も無い、君は僕の誇りだよ」
まるで恋人に言うような台詞に私は思わず顔を赤らめた。今まで私に甘い言葉を用いて言い寄ってきた男なんて腐るほどいたが、彼は心の底からこの言葉を言っているのだ。
きっと、このバイザーの下の顔はいつものような端正な笑みなのだろう。それを想像して私の顔はもっともっと茹で蛸のように赤くなる。そんな自分が恥ずかしくてフードを深々と被り顔を隠してそっぽ向く。
「いいから!あんたもさっさと部屋を調べなさいよ!」
こんな若造に何をムキになっているのだ私は。自分らしくない、子供も産めぬ不死だろうに。
ソラールのように笑うオスカーには腹が立ったが、二人で部屋を調べるとそれを見つけた。部屋にあった暖炉が何か不自然だったのだ。
暖炉なのに、煙が上に抜けるダクトが無い。それに妙だ、使われた形跡すらも無いし極めつけは暖炉の壁から風が吹いているのだ。
「ははあ、隠し扉ね」
したり顔で私は暖炉の壁を蹴りつける。するとどうだろう、まるで幻のように壁は消え去り、出て来たのは下に繋がる通路だ。光が無い為に真っ暗闇だが、探索できないほどではない。
私達は警戒しながら暖炉の先へと進んでいく。こうまでして隠しているのだから何かあるに違いないだろう。
そして案の定、隠すように宝箱が置かれている。敵もいないようだし良い事だらけだ。やはり丹念に探索しておいて良かった。
「やったやった、お宝よ!」
「うーむ、やはり聖職者らしく無いかもしれないな」
苦笑いするオスカーを尻目に私は並んだ宝箱を開ける。そこに入っていたのは……岩?なんだこれは。
「何だいそれ」
「さぁ。鎧みたいね……岩のようなハベルを模した鎧かしら」
岩のようなハベル。それは神話に登場する大王グウィンの戦友だ。彼は敵の猛攻にも引かず、ただ進み続け手にする大鎚ですべてを粉砕したという。
きっとこの鎧はハベルの信奉者達が用いていたと言われている鎧だろう。そう言えば不死街にも一人いたな、動きは遅いからスルーしたが。
その横にもハベルが用いたと言われる大鎚、朽ちぬ古竜の牙をそのまま武器にしたという武器、大竜牙が宝箱に入っていた。ううむ、防御力と攻撃力は確かに凄そうだが、機動性を阻害するだろう。
「あげる。いらないわ」
「……まぁ、貰えるなら」
何だかちょっと不服そうなオスカーに見つけた装備を渡す。そもそもこれを扱うには人を超えたとてつもない膂力がいるだろうから、実戦向きではないだろう。
何だかがっかりした気分だ。気を取り直して、少し離れた位置にある宝箱の中身を調べに行こう。もう良い加減ハベルのものは出てこないだろう。
足早に宝箱の前に行き、蓋に手を掛ける。何だか妙に宝箱がしっとりしているが、まぁこんなカビ臭い場所に置かれているのだから仕方ないだろう。
「さて、こっちには何が」
刹那、開けてもいないのに宝箱が勝手に開いた。中身は宝などではない、びっしりと悍しい牙を備えた口が、私を飲み込まんとしているのだ。
突然の事に固まる。珍しい宝箱の罠であるミミックに違いなかった。そしてそれが私の頭に齧り付く瞬間、オスカーのクレイモアがミミックを斬り飛ばした。
「無事かっ!」
目を見開いて心臓を素早く鼓動させる私はただ頷いて、心の底からオスカーに感謝した。あと一瞬でも遅ければ私はあの怪物に頭を食いちぎられていただろうから。
吹き飛ばされたミミックから人間のような胴体が生える。なんて悍しいのだろう、人よりも遥かに高いその背丈は、単なる化け物だ。欲深い人間を食い殺せなかったせいかやけに苛立っているようにも思えた。
ミミックが勢い良く跳躍する。そして見せるのはまるで武術の達人のような回転蹴り。私達はそれを転がって避けると、反撃に移った。
オスカーがクレイモアを細い足に叩き込み、その背後から私の斧槍が胴を貫く。それでも暴れれば、私は強引に胴体に突き刺した斧槍を抉って引き裂いた。
耳をつんざくような咆哮と共にミミックが倒れる。どうやらあまり体力は高くはないらしい。宝箱ごとミミックが霧散すれば、そこに置かれていたのは大きな木切れ……粗暴な武器であるクラブだ。
「はぁ、はぁ……心臓止まるかと思ったわ」
「欲は身を滅ぼすな……怪我は無いかい?」
「おかげさまでね。……助かったわ」
どういたしまして、とオスカーが呆れたように言う。あんな危ない経験をして手に入れたのは、少しおかしな力を宿したクラブだけとは。私の運は悪いようだ。
そんな経験もあり、私達の警戒の度はより一層増す事になる。まるで待ち伏せのように佇む銀騎士どもを須く屠り、本城をあっちこっちと探していればようやく彼はいたのだ。
部屋の前でうーん、うーんと悩むタマネギ頭の騎士は間違い無くカタリナのジークマイヤー。彼は近寄る私たちに気がつく事なく一人呟く。
「うーむ……むむむ……どうしたものか」
相変わらずマイペースな男だ。そんな彼に私は話しかける。オスカーはそこまで面識があるわけじゃないし、会ったのも一回きりだから。
「また悩んでいるようね」
私がそう問い掛ければ、ジークマイヤーはようやくこちらに気が付いたようで驚いた様子を見せる。これが敵だったらどうするつもりなのだろうか。
「お、おお!貴公か! うむ、恐らく貴公と同じ状況よ。銀の騎士達から逃れてきたのだろう」
どうやら何か勘違いしているようだ。道中の敵は全て狩った。二人もいれば銀騎士など恐るるに足らないのだ。私が訂正しようとすれば、ジークマイヤーは何かを汲み取ってゴツい手甲をした手で制した。
「うむ、うむ。恥じる事はない。私も同じだ、無謀は阿呆の仕業だからな!」
「いや……まぁいいや」
いいのか、と背後のオスカーが困惑する。話が進まないのだ。
どうやらジークマイヤーは一人探索している所を銀騎士達に追い立てられ、ここに逃げ込んだそうだ。だがそこはある種の袋小路、目の前の扉の先には複数の銀騎士が待ち受けているそうだ。突入されない辺り、持ち場以外の場所は銀騎士の仕事ではないのだろうか。職務怠慢だ。
「なら、私達でとっとと突破しちゃいましょう」
さも当然のように提案すれば、ジークマイヤーは難色を示す。
「うーむ、だが如何に不死と言えども女子の力を借りるのは……いやそれも差別というべきか……うーむ」
「面倒ねあんた」
もう良い、彼が行かぬのならば私達が先に攻め込んでしまおう。私はジークマイヤーを横目に勢い良く正面のドアを蹴り破る。神の都がなんだ、立ち塞がるのであれば全員斬り伏せる。できるなら。
ダイナミックエントリーに銀騎士も驚いたのか、銀の鎧をびくりと動かして剣を抜こうとしていた。だがその前に、手近な銀騎士の胴を貫いて壁にぶち当てる。
「オスカーっ!」
「もうやってるさ!」
突き刺されて苦しむ銀騎士から背後へと目をやれば、既にオスカーも二体の銀騎士を相手に剣技を披露していた。大振りのクレイモアではなくアストラの直剣を選ぶのは室内では優れた戦術だ。
私は斧槍を突き刺したまま左手に絵画守りの曲刀を召喚し、一気に相手の首を切り裂く。神の軍勢といえども血は流れる、想定以上の苦しみを味わうことになった銀騎士は断末魔をあげてその場に倒れ込んだ。鎧を貫き壁に突き刺さった斧槍を抜けば、オスカーに加勢する。
「なんと豪気な……このカタリナのジークマイヤー、助けられてばかりではいられぬ! うぉりゃああああああ!!!!!!」
私達に触発されたジークマイヤーがクレイモアよりも大柄なツヴァイヘンダーを振り上げながら突貫していく。そして私達の横をすり抜ければ、勢い良く銀騎士を盾ごと斬り潰した。その出来事に最後の銀騎士もギョッとしたのか固まっている。
隙だらけの銀騎士の兜に、オスカーの直剣が突き刺さる。バイザーの隙間を狙った巧みな技だ。即死だったらしく、銀騎士はその場に崩れ落ちるように倒れる。
綺麗だったはずの客室は、一瞬で血みどろの事件現場に変わってしまった。これは掃除が大変そうだ。
「はぁ、はぁ……無茶をするものだ、貴公ら」
息を切らすジークマイヤー。あまり持久力はないのだろう。
「だが助かった。これでソラール殿と合流できるというもの。礼を言おう。センの古城の分も含めてな」
タマネギ頭の騎士は私に何かの指輪を渡す。謝礼のつもりだろう。だがそんな彼にも思うところはあったらしい。
「だがな、貴公らが心配で言うが、あまり豪気なのも考えものだぞ。無事だから良かったものの、私の策を待つ事もできたのだからな」
どうやらオスカーも同じ事を考えていたらしく、うんうんと私の横で頷いていたので肘で小突いた。
「考えるよりも叩き伏せた方が早いしベストでしょ。さ、早くソラールと合流しなさいな……もう私達とも長くいられないでしょう?」
私の言葉通りだろう。既にジークマイヤーの姿が霊体の如く薄れている。きっと世界が再び分たれようとしているのだ。幸い私とオスカーはまだしっかりと繋がっているようだが、いつ途切れるかも分からない。だからこうして、分たれないように一緒に行動しているのだが……なるほど、目の前にいてもこうして分たれる事があるのか。
ジークマイヤーはうむ、と頷けば奥の扉に手を掛けて立ち止まった。
「今度、時間がある時にでも特製の酒をご馳走しよう。では、
そう、大声で景気付けるジークマイヤー。ふむ、酒か。不死となってからは一切飲んでいないから少し楽しみでもある。だが不死人は酔えるのだろうか。どちらかと言えば
次はオンスタとスモウに行ければいいなぁ
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