暗い魂の乙女   作:Ciels

19 / 105
時間が取れたので短いですが投稿します。


公爵の書庫、結晶

 

 

 英雄アルトリウス。古くグウィン王に仕えた四騎士の中で最も勇猛であったと言われる、別名深淵歩き。彼は魂を貪る深淵に対しても一切怯まず、ただ狩りを成したのだという。勇猛とは正に彼のためにあるような言葉なのだと、聖職者達は口を揃えて言う。事実、そうなのだろう。身をもってこのロードランを歩いているから分かるが、あのオーンスタインにしたってとてつもない力を持っていたのだから。それよりも強いとなれば、会っていなくとも強いのだと分かる。

 そんな彼の伝説も、ある時を境にパッタリと途絶えている。かつてウーラシールという亡国に深淵が蔓延ったとき、彼は身を挺して深淵を退けたのだとか。それ以来見たものは居らず、彼がどうなったのかは想像に難く無い。

 

「ごめんなさいね……私も彼と会ったことはほとんどないの。あの人、常にどこかの戦場で闘っていたから……」

 

 跪く私に、王女は困った様に謝る。私はそれを、淡々と聞いていた。神に対する忠義などありはしない。だからこそ、質問も容易にできる。

 

「大王直属であったならば謁見の機会もそれなりにあったはずでは?」

 

「そうね……でも、大抵は四騎士の長である竜狩りが纏めて報告をしていたわ。グウィン王も武闘派だったから、配下の者が戦場で暴れているとなればあまり気にしないのよ」

 

 そんなものなのか。だがそれでは困ったな、彼の逸話にある深淵歩きを求めているのに、痕跡すら見つからないとなれば……王の(ソウル)を回収できない。そうなれば火継ぎどころではなくなるだろう。

 考える私を見かねてか、王女は少し悩んだように唸った。その間もしっかりと豊満な胸元が揺れている。うむむ、最近女性を見るとムラッとしてくる。単純に母性に飢えているのだろうか。

 

「もう封印は解けているはずだから……そうね、公爵の書庫に向かってはどうかしら?あそこなら、かの白竜が残した文献に有益な何かがあるかもしれないわね」

 

 白竜シース。それは古い神と竜の戦いにおいて、唯一竜を裏切ったとされる鱗を持たぬ白い竜だ。鱗を持たぬが故にシースは嫉妬し、竜の不死性の所以である鱗の秘密を大王に密告したのだという。

 その功績故に竜でありながら王より公爵の地位を与えられ、何やら研究に没頭していたと聞く。彼、又は彼女は同時に魔術の祖でもある。彼が産み出した魔術が人に広がり、今の魔術院がある。なるほど、かの白竜ならば深淵を歩く魔術くらい生み出していそうなものだ。

 

 しかし王女は、ただ、と注意を促した。

 

「かの白竜は、研究に没頭するあまりに狂ってしまった。だから貴女、不死の英雄よ。向かわれるのであれば、心してお行きなさい……」

 

 それならばもう、飽きるくらいに体験している。元より神の国に、まともなものなどありはしないのだから。

 

 

 

 

 

 アノール・ロンドの最初の篝火に転送すれば、相変わらず真鍮の鎧に身を包んだ火防女が私を出迎えてくれる。私は一先ず彼女の横に同じように壁に持たれかけると、会話をする事にした。可憐で強い女性と話すのも悪くは無いからだ。

 

「ほう、貴公……公爵の書庫に向かうのか」

 

「そう。ちょっと探し物をしていてね」

 

 そう告げれば、ふむ、と彼女は何かを思案する。その姿のなんと様になることか。鎧越しでも彼女の美しさを容易に想像できるというものだ。

 

「ならば貴公、気をつけろよ。今や書庫は、狂気に満ち、得体の知れぬ者どもの牢と化しているのだから」

 

 曰く、白竜シースは朽ちぬ竜の鱗を探究し狂ったのだという。そのあまりの啓蒙に、まさか古竜である自らが狂うなどと、誰が思っただろうか。大王にしたってそんな事思うはずもない。

 狂った彼は、それでも探求を止めず。人を攫い、非道な探求をし、気がつけば書庫は異形渦巻く牢と化した。今から足を踏み入れるのは、そんな悍しい場所なのだ。

 

「狂っているのはどこも同じよ」

 

「それでもだ。貴公にはあの騎士とは違った見所がある故に……私としても狂ってほしくはないさ」

 

「あら、口説いているのかしら?」

 

 くすりと微笑む私に暗月の女騎士もまた笑う。

 

「ふっ……貴公との火遊びもまた、楽しそうだ」

 

「本気にしちゃうわよ? ふふ……じゃあ、またね」

 

 互いに濃い人生だからか、こうして同性であろうとも躊躇いが無くなるのだろう。それにしたって最近の私は同性に対して理性が効かないが。これも不死になって幽閉されていた故だろうか。

 まぁ良い、今は公爵の書庫に向かうことを優先しよう。彼女とはそれからでも遅くはない。

 

 

 

 

 公爵の書庫への道はアノール・ロンドの最初の篝火を出てすぐの所にある。

 相変わらず巨人騎士達が道を塞ぐように襲いかかってくるが、今の私には然程驚異にはならない。それらを退け、林道のような場所を抜ければそこはすぐに見つかった。普通の石造の門があり、中は長い通路となっている。

 どうやら不死教会手前に居たあのデカい猪も公爵の書庫産らしく、全身を鎧で固めたアーマードタスクとでも呼べば良い猪が突貫してくる。だが直線的な動き故、機動力で勝る私の敵ではなかった。時間は掛かったがそれでも無傷で倒せば、玄関口に出る。

 

 白竜の息吹とは、結晶を生み出す。伝承にそうあるように、この書庫を守る兵隊達も身体のあちこちから結晶が飛び出ていた。きっと彼らも白竜に身体を弄られたに違いない。

 元は不死人であるそれらは鎧に加えて結晶で身を守られているせいか無駄に硬い。斧槍よりもメイスの方が打撃力がありそうだが、生憎と私のメイスは最近鍛えていないせいで威力不足だ。

 

「嫌な場所……」

 

 それに加え、頭痛も酷い。何やら誰かの声も聞こえてくる。得体の知れない者がいる場所に長居するのは良く無いだろう。

 よく分からない結晶でできたゴーレムを打ち倒しておかしなペンダントを拾うと、玄関の大昇降機を起動して上層へと向かう。そして目にしたのは膨大な量の書物と棚、そして敵。まるで侵入者が来ることを予想した配置だ。

 

 結晶化した兵士達が剣と弓を手に襲いかかってくれば、私も物陰に隠れながら対応せざるを得ない。複数を相手にするのはいくら強くなったとはいえ手厳しい。元より只人である私には一対一がせいぜいなのだ。おまけに彼らを指揮しているのか教会にいた六目の伝導者もいるではないか。奴め、白竜の回し者か。

 一体ずつ丁寧に処理すれば、私も無傷ではいられなかった。数回エスト瓶を飲み傷を癒した私は死体だらけになった書庫で書物を漁る。

 数時間、いや数日そうしていたに違いない、時間の概念が薄れたこの地で気にしても仕方がないが、それでも疲労が溜まった私はある程度流し読みして近くの椅子に腰掛ける事にした。

 

「ふぅ……」

 

 足を組み、休憩する。どうやらこのフロアにある本は全てありきたりな伝承や魔術を纏めたものらしい。アルトリウスの伝承もあるにはあったが、私が求めている情報は無さそうだ。

 それにしても、白竜はかなりマメなのかしっかりと本棚が整頓されている。おかげで本を探すのが楽だった。

 

 しばらくそこで休憩した後、私はさらに上層へと向かう事にした。ご親切に大きな昇降機が奥にあったし、まさかかの偉大な魔術の祖の所有する書物がこれだけなはずがあるまい。

 おもむろに昇降機のレバーを引けば、柵がしっかりと上がって昇降機が上り出す。白竜もこの昇降機を使っていたのだろうか。やはり飛ぶよりも便利なのだろうな。技術というのは有難いものだ。

 

 長く駆け上がる昇降機で暇を持て余していれば、ふと目に異なる階が入り込む。どうやら昇降機では行けない場所もあるようだ。アノール・ロンドといい、向かうのが面倒な場所が多くないか。

 

 昇降機で辿り着いた階は……なんと言うか異質な場所だ。結晶は先の兵士達で見慣れたが、それでも驚いてしまった。昇降機より先、フロア一面に侵食するように結晶が蔓延っているではないか。おまけにこのフロアに本はなく、あるのは狭い通路だけだ。

 とんでもない場所だな、なんて簡単に思いつつ、私は先へと進む。すると、前方から結晶だらけの亡者がやって来た。

 

 最早元の姿も分からぬ程に結晶塗れなその騎士は、手にする盾や剣すらも結晶と化してしまっている。だが動きは外の亡者共と変わらない。いつものようにパリィして斧槍を突き立ててやれば、多少硬かったがあっさりと死んでくれた。最早斧槍が強いのか私が強いのか分からないな。

 警戒しながら通路を進めば、今度は濃霧にぶち当たる。どうやら強大な(ソウル)の持ち主がいるようで、目にしていないにも関わらず空気がざわついている。もしや例の白竜でもいるのではないだろうか。

 

 意を決して霧を潜る。目に入るは夥しい結晶と本棚の数々、そして。

 

 

「白竜、シース」

 

 

 背を向けた鱗の無い白竜が、充血した目を向けこちらを振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コレ、無理。(ソウル)無い」

 

 

 巨人の鍛冶屋が無慈悲にもそう告げる。上級騎士装備に身を包んだオスカーはそうか、と残念そうに言って折れた直剣を(ソウル)へと仕舞い込めば途方に暮れたようにため息を吐いた。

 アンドレイが言っていたように、巨人の鍛冶屋は確かに強大な(ソウル)を武器へと変換できる技術を持っていた。持っていたのだが、流石に適合した(ソウル)が無ければ武器は生み出せない。そしてそれを持っていないとなれば、できる事は何もなかった。

 

「どうしたものかな……それなりに強大な相手を打ち破ってきたと思っていたのだが」

 

 しかし思えばロードランで対峙した強大な相手は彼のように直剣を扱う者など無に等しかった。どれもこれも大きな武器だったり、そもそも肉弾戦だったり。かの四騎士の長オーンスタインも槍だったわけで。

 

「あれなら、合うかも」

 

 と、そんな騎士様に巨人の鍛冶屋は提案する。

 

「あれ?」

 

「アルトリウスの……相棒」

 

 巨人の脳裏に浮かぶのは、偉大な騎士の友である人外。その人外は主人が消えた後、彼の持っていた剣を受け継いでいた。決して直剣ではないが、それでも一番近いはずだ。

 

「英雄アルトリウスに相棒が?」

 

 鍛冶屋は頷く。

 

「どこいる、知らない。でも、(ソウル)大きい」

 

 なるほど、とオスカーは思案する。だがかの英雄の相棒の(ソウル)を奪うなど、冒涜では無いだろうか。そもそもそんな強大な相手を倒せるだろうか。ましてや自分一人で。

 様々な想いを汲み取ってか、しかし巨人の鍛冶屋は言うのだ。

 

「竜に挑むは、騎士の誉れ」

 

「……」

 

「昔、じっちゃん、言ってた」

 

 口下手な彼なりにオスカーを気遣っているらしい。またもや騎士は考える。そして後悔した。確かにそうだ。強大な相手に挑んでこそ、騎士として大成するものだ。怖気付いている場合ではない。

 うん、と彼は頷いて巨人の鍛冶屋に礼を言う。

 

「ありがとう、その通りだ」

 

 ならばやる事は分かった。一先ずその英雄の相棒とやらを見つける事だろう。そして自らの分身である直剣を蘇らせるのだ。

 




エルデンリング楽しみ

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。