真、世の中とは面妖なものだ。
たかが一人の不死に過ぎない女である私が伝説に聞く試練へと、成り行き上仕方ないとはいえ赴き鐘を鳴らし、そして偉大なる四人の
そして、物語とは必ずしも華やかな物では無いのだ。そこには苦難や絶望が少なからず待ち受けている。呪われ叩き潰され引き裂かれ、それでも私は心折れぬ。そんなんで心がへし折られているのならば不死院で私は亡者と化していただろう。
だが、それでも。まさか由来も知れぬ大きな手に異次元に連れ去られるなど、誰が想像できようか。少なくとも私には無理だろう。今こうして、どこかも分からぬ洞窟で立ち尽くす私でさえも。
あの腕に捕まった後、意識を取り戻せば私は見ず知らずの洞窟で眠っていたようだった。不死は眠らぬが意識を手放すことはある。目を覚まし、起き上がれば身体に異常が無いことを確認して周辺の探索に移行した。
探索とは不死の、否、人の嗜みに近い。未知を求め、悲惨な結末になろうともしかし人は好奇の熱を抑えられないものだ。
洞窟にさす光を辿り、外に出ればそこは広場だった。あの黒い森とは打って変わって、太陽の光りが暖かい。それは陰りかけた陽の光とは異なる、本来の太陽。私の少しは賢くなった脳が、この場所は私のいたロードランとは少しばかり時空が異なるのだと理解する。
そして、もう一つ気がついた事がある。というよりも、ずっと気づいていたのだが。
誰かが、広場の奥で見たこともない獣と闘っているのだ。
溜息を吐きながら、私はいつものように斧槍を手に歩く。獣と戦うその誰かは、一目見れば理解できる。理想家の上級騎士、オスカーだ。彼もまた、私と同じく引き摺り込まれたか。まあ良い、彼との縁は今に始まった事ではない。
「く、案外やる……!」
その獣はまるで百獣の王のような姿である。毛並みは白く、大きく、しかし半身は牛のように猛々しい。背からは白い翼が伸び、その尾はまるで蠍が如く。つまりはキメラ……混合生物だろう。それでいてある程度の神性を感じることからあれは伝承に聞く聖獣だ。
聖獣は地を這い素早く鋭い牙と爪で攻撃し、時に翼で空を飛びながら雷撃を吐く。そうなればオスカーの持つクロスボウ程度ではどうにもならないだろう。なるほど、近接特化のオスカーとは相性が悪いようだ。
私は師の遺産である結晶の錫杖を左手に取り出し脳内で魔術を詠唱する。ソウルの結晶槍、それは白竜が齎した叡智の結晶。伸びる槍は結晶化し、空中で雷撃態勢に移行していた聖獣を貫き墜落させる。
「!? 君は……」
目の前の聖獣に気を取られていたオスカーはようやく私に気がついたようだった。
「今は目の前の火の粉を払うべきだわ」
感動の再会など、センの古城で果たしている。オスカーもすぐに戦闘態勢に戻ればこちらを睨む霊獣と対峙する。前衛は彼に任せよう、私は新たな魔術を試すべきだ。オスカーがクレイモアを手に突っ込む。あの大剣から神性を感じるあたり、私がアンドレイに預けた種火を活用しているようだ。
そんな事を思いながら魔術を展開する。その名も追尾するソウルの結晶塊。かのビッグハットから授かった、白竜の遺産である魔術だ。脳内で詠唱されたそれは、私の周囲に結晶化したソウルの塊達を浮遊させる。そしてオスカーとかち合う聖獣を指差せば、塊達はまるで火に向かう蛾のように奴へと突撃した。
一瞬、聖獣は突然の横槍に驚き回避しようと横へ飛んだが、塊達はそれでも奴を追っていく。その名の通りこの塊は目標を追尾する。避けた先で、しかし聖獣はその身体に塊を打ち付けられた。純粋な魔術は、触れるだけでその身を蝕む。故に聖獣は大きくよろめき、その隙をオスカーが見逃すはずもなく。
流れるようにクレイモアの大振りを頭に受ければ、脳髄を撒き散らして聖獣は倒れる。
偉大な
結晶の錫杖を
「助かった、見ない内にまた強くなったな」
クレイモアを背の鞘に納刀すると彼は言った。
「どうやらお互いあの手に引き摺り込まれたようね」
「君もか……どうやらここは、僕達の知るロードランではないらしい」
私の抱いていた違和感を彼もまた抱いていたようだ。
「一先ず先へ進みましょう。エストの残りも少ない様だから」
彼の腰に吊り下げられているエストの中身は半分を切っている。この先に篝火があれば良いのだが。
大きなキノコが、そこにはいた。
聖獣を倒した先、そこは墓所のような場所だった。ロードランでよく見る鬱蒼とした場所ではない、そこは霊廟と言うべきか。手入れされ、死者に対する敬意すらも感じられるそこは冒涜的ではない。
大樹に囲まれたそこは太陽の木漏れ日を霊廟に注ぐ。肌が白く弱い私にはこれくらいが丁度良い。不死となった今では意味もないが。
そしてその大樹のうち、最も大きな樹の根に生える様に、大きな、しかし虚な瞳を持つそれはいたのだ。
「まぁ、珍しい……あなた達、とても先の人ね。それに、とっても人臭い」
そしてそのキノコは、人語を語り出す。口も無く一体どこから声を発しているのだろうか。学者の端くれとなった身としてはどうしてもその事に気が散ってならない。
私達は恐る恐るそのキノコに近寄る。見た所動けないようだし、敵意もなさそうだがあからさまに違和のあるものにそう易々と近付きたくはないのだ。
しかしそのキノコはそんな私達を見定めるようにじっと見つめてくる。
「でも、悪くはないよう。……そこの騎士様、貴方宵闇様の想い人ね」
「え!? ぼ、僕が!?」
宵闇とは一体誰かは分からないが、どうやらどこぞの女に好かれているらしい、この騎士様は。もしやあの奇妙な魔術の持ち主だろうか。
私は思わず少しムッとしたが、すぐにいつものように真顔へと戻る。今となってはあまり嫉妬もしない。きっと、そうだ。少しばかりは現実的になったのだろう。不死人が恋愛などと。それでもあからさまに浮かれている騎士の尻を軽く蹴れば、彼はハッと我に帰る。
「宵闇様の仰る通りだもの。ありがとう、感謝するわ。宵闇様を救ってくれて」
話を聞くに、その宵闇という女をオスカーは一度救っているらしい。
「でも、宵闇様はもういないわ」
「いない、とは?」
食い気味にオスカーは尋ねれば、彼女は答える。
「古い人の化け物、その腕に連れ去られたの」
その腕とは、やはり私達をこの場に連れ込んだ張本人だろう。人の化け物か、なるほど。やはりシースの研究は正しかったようだ。人こそ真に恐るべきものへと変貌するのだ。彼の古竜は、それを調べるために人間性を溜め込んだ聖女達を研究していたのだ。
「だから、貴方……もう一度、宵闇様を救ってくれませんか」
これはオスカーの問題だ。救うも救わないも彼次第。私はただ、この地を出られれば良い。私を引き摺り込んだ腕を蹴散らし、その
まぁ、あれだろう。きっとこの地では彼と共に進むのだろう。彼がこの救助要請を断るわけがないのだから。案の定、オスカーはその頼みを快諾した。どこまでもお人好しだ。不死など、自分の欲のために生きて殺すものなのに。
どうやらここは伝承にある亡国、ウーラシールそのものらしい。深淵に飲まれた彼の国は、ヴィンハイムとは異なる体系の魔術で栄えた黄金の国。そして宵闇とは、そのウーラシールの姫君でありあのキノコは乳母であると。その名をエリザベス……なんと大層な名前か。
霊廟を抜け、進みながら私とオスカーは情報を交換する。
「白竜を倒したのか……先を越されたな」
私の横を歩くオスカーが甲冑を鳴らしながら驚嘆する。
「一回呪われて死んだけどね」
「それでも一人で竜を倒すなんて偉業は聞いた事がない。やはり君は優秀な戦士だな」
「それ褒め言葉よね?」
あまり戦士として褒められても嬉しくはない。女の子はそういうものだ。
さて、過去の世界のウーラシールは現状あまり芳しくはない。最早深淵がこの国を覆い尽くすのは時間の問題だろう。その証拠に、霊廟を抜けた先の森林のあちこちが闇に侵食されかけているのだ。
上を見上げれば太陽が私達を照らしているというのに、何とも奇妙なものだ。光があれば影ができるのは当たり前だが、光の当たる所にも闇があるとは。
深淵は住人すらも蝕んでいるようだ。森林の庭師達は闇に侵され、その身を変貌させ武器を手にこちらを襲ってくる。粗方
石の騎士もいるようで、なるほどかつて対峙したあの石の古騎士はウーラシールの名残なのだ。だがオスカーと私の前に敵はいない。須く彼らの襲撃を退け、先へ進めば橋に出た。どうやらこの先に市街へと繋がる道があるようだ。
驚愕とは、突然やって来るからするものだろう。その時も、唐突にやってきたのだ。
突如空から見たこともない黒竜が橋に舞い降りた。その衝撃で橋を渡る私達は片膝をつかされるが、しっかりとその姿を瞳に押さえる。
それは、古竜の一つなのだろうか。黒く深淵を思わせる躯に赤く光る単眼。そんなもの、聞いた事がない。
その竜は私達を一瞥するも興味がないのだろう、あっという間に飛び去ってしまった。私個人としてはあの竜の
「竜狩りがまだ健在の時代か……恐ろしいものだ」
オスカーが呟く。確かに、あんなものがうじゃうじゃいた世界など地獄以外の何ものでもない。
さて、エリザベスから聞いた話には続きがある。それはこの時代、そしてこの場所にあの英雄アルトリウスがいるとの事だ。確か伝説ではウーラシールの深淵を打ち倒し食い止めたのだったか。シースの文献曰く、彼はこの場で共倒れしたらしいから、もしかすればアルトリウスの
私の知らぬ間にオスカーも随分と力をつけていたらしい。気がつけば彼は色々と奇跡を用いるようになっていた。信仰など、上げたところで神々は何もしてくれないのに。
そうしてたどり着いたのは、小川の見える大きな石造の建物。建物というより、闘技場だろうか。円形の建物の入り口には、白い濃霧が掛かっていて奥に強敵が潜むのが見て取れる。
一先ず私達は篝火を探し、小川の方へと進む。魔術機構が施されたエレベーターを発見したので、これで霊廟へと戻れるから死んでも安心。
さて、小川へ行こうとした私達は奇妙な男に出会った。
「ん? ……貴様ら、もしや私と同じ境遇か?」
何とも珍妙な格好だ。見慣れぬ黒いコートに身を包み、頭には前衛的なトップハット。そして何よりも、不敵に微笑むマスク……怪しすぎるだろう、こんなの。彼のコートは珍しく、とても上質で手入れもされているが実用的に見える。かなり腕が立つようだ、その佇まいからも想像できる。
オスカーですら怪しんでいる所を見るに、私の感性はおかしくないようだ。
「貴様らもあの手に引きずり込まれこの時代に迷い込んだのだろう?」
そして、目の前の不審者も私達と同じく化け物に連れてこられたのだろう。
「その通りだ。貴公もか……しかし、一体どこの出身だ?」
オスカーの問いに、しかし目の前の男はふむ、と私達を見回して何かを吟味する。
「話してもわからんさ。貴公らとは時代が違うようだからな……だが、お互い慣れぬ時代に不便しているだろう。どうだ、助け合おうじゃないか……クックック」
助け合おうと言ったその男は、しかしどう見ても怪しいが。それでも物の売買はしてくれるらしい。彼が持ち物を広げれば、確かに商人としてはある程度充実している。私達は十分に警戒しながら彼と取引する。とりあえず緑化草は買っておこう。
「支払いは……ふむ。ソウルで良いぞ」
「むしろそれ以外あるのかしら」
「いいや……ククッ」
どうにも匂い立つ奴らが来たと思えば。なるほど、この時代の奴らが言う所の不死という輩か。どうにも地底臭い、やはり元はあの遺跡の有象無象と同類なのだろう、聖職者共が喜びそうな話題だ。
俺達と相容れぬどころか、似た物同士じゃないか。何かに囚われ死ねぬなどと。哀れな事だ。おまけにどうせ最期は同じように落ちる所まで落ちるのだろう?
騎士はどうにも純粋そうな優男だが力量は確かなようだ。今となっては骨董品に近い装備に身を包んだ男は、しかしそれなりに苦労もしているのだろう。
そして、連れの女は……クク、いいじゃないか。中々に見所がある。狩りを楽しんでいるくせにそれを認めようとしない捻くれ者。いつか自分の本性に気がつくのが楽しみだ。
不死の二人は取引を終えれば、あの哀れな英雄が待ち受ける塔へと向かう。俺はマスクの下で卑屈に笑いながら見送るのだ。
良い狩りを、同類達。いくら綺麗事を並べようとお前らは同じ穴の狢だ。それを忘れるなよ、クク。
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