暗い魂の乙女   作:Ciels

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大変お待たせしました


深淵の穴、狼

 

 

 何度も語るが、ウーラシールとは光の魔術で栄えた亡国である。遂にヴィンハイムの黄衣の老人共が辿り着けなかった光の魔術、それを彼の国は数百、或いは千年も前に編み出し、伝える事なく散っていった。

 

 只唯一、一人の乙女を形見に残して。

 

 

 あの素晴らしいチェスターと取引を終え、再びウーラシール市街へとやって来た私達。

 それはとある建物、その壁に差し掛かったときの事。今にも深淵に飲まれ崩れ落ちそうなその石造の建物は、何の変哲もないものであるが。

 その付近にある、誰かが残したであろうメッセージが酷く気になった。それは時折目にする他世界からの特殊な蝋によるメッセージによく似ていて、最初はその類の物かと思ったのだが。

 

「……光、あれ」

 

 私は立ち止まり、思わずそのメッセージに書かれていた文言を読み上げた。たったそれだけの一文だったが、どうにもそれが気になる。

 オスカーも私につられるように立ち止まり、ふむ、と腕を組んでそのメッセージを見詰める。どうやら彼にも何か思う所があるようだ。それが何なのかは、彼が(ソウル)より取り出したものを見て私も知る所になるが。

 

 それは魔術が記されたスクロールだった。古い魔術、ウーラシールより齎されたもの。きっと彼やあのキノコの乳母が知る、宵闇という少女が伝えたのだろう。目の前の上級騎士はここに来て、魔術の伝導者となったわけだ。

 

「これが役に立つかもしれない」

 

 彼はそのスクロールを私に手渡す。受け取って広げてみれば、それは照らす光という使用者の頭上に光を掲げる単純な魔術だった。しかしなるほど、これはヴィンハイムの石頭共が分からないわけだ。この魔術は単純故に、高度過ぎる。故にあの老人共には分からぬだろう。講釈だけ垂れて魔術を振り翳す者共には。

 スクロールの内容を持ち前の記憶力を使って記憶する。大した内容では無いが、常人には思いつかないであろうその魔術はすんなりと覚えられるものだ。きっと理力が低いオスカーでさえ使いこなせるだろう。

 

 結晶の錫杖を取り出し、照らす光を脳内で詠唱する。すると私の頭上に小さな灯りが灯される。それはか弱く、しかし確かに闇を照らす光。

 太陽は未だ光り、しかしそれでもはっきりと見えるその魔術は影に隠れた壁を照らした。

 

 すると、どうだろう。

 

 まるで壁などなかったかのように。今まで目の前にあったはずの壁は消え去り、建物の中へと至る道が開かれる。

 外とは打って変わり、中は漆黒の闇。そして中からは人の気配が空気を伝わって肌にこびり着いてきた。それは人間性が齎す深淵。つまりはウーラシール市民の成れの果て。

 

 突如、中から闇が飛んで来る。それは闇術、深い人間性の塊。

 私達が咄嗟にローリングでそれを回避し、建物へと突入すれば住人達は熱い歓迎をしてくれるものだ。妖艶を思わせる魔術師が闇術を放ち、それ以外の市民達が各々攻撃してくる。

 急いで私は追尾するソウルの結晶塊を展開し、指揮をしている魔術師へと突撃する。まずは指揮官兼魔術師を潰し敵の戦力を減殺する。そうしなければ数で劣る私達の勝率が減ってしまうだろう。

 

 私の突撃に反応してきた市民達が魔術師へと至らせまいと道を阻む。だが伊達に結晶を操る魔術師ではないのだ、私は。即座に障害となる敵へと塊が向かえば、その結晶はあっさりと市民達を破裂させてみせた。

 高濃度のソウルの塊である結晶は、触れるだけで毒である。ましてや人間性によって暴走した化け物など。

 

「他は引きつける!」

 

 オスカーの声が背中に刺さる。彼は他の市民達を一手に引き受けてくれているようだ。ならば邪魔は最早ありはしない。私は魔術師へと肉薄すれば何かされる前に攻撃に移った。

 魔術師が杖を振おうとし、それを斧槍で弾く。何かを呟く魔術師は、しかし私の斧槍に両断された。如何に強い闇術を使おうとも所詮は魔術師でしかない。ならば斧槍で斬り捨てるのは簡単だ。

 背後を見ればオスカーも襲いかかる市民を全て撃退している。ふぅっと一息入れた後、私達はこの部屋を調べる事にした。

 

 

 

 それは、あの英雄の残滓。

 

 紛れも無く神々が産み出した宝具なるそのペンダントは、深淵に挑む英雄アルトリウスに贈られたものだった。私はそれを握り、胸に想いを馳せながら考える。

 部屋を一掃した私達は、そこに潜む宝の存在に気がついた。何事かと思いそれを拾い上げれば、あったのは銀のペンダント。闇を祓い、しかし主を護れなかった哀れな宝。あの英雄は闇へと堕ち、そして私達に殺された。

 

「これはアルトリウスの……」

 

 オスカーが横で呟けば、私はそれを手渡した。私に神の宝具は似合わない。これを持つのは、彼の英雄の魂を引き継げるような者でなければならないだろう。

 継承すべきもの、してはいけないものがある。その中で、あの英雄の身を顧みない献身的な姿は継承されるべきに違いなかった。そしてそれは、オスカーこそ相応しい。

 

 彼はそれを受け取れば、残留した(ソウル)を感じ取ったのか俯く。英雄に相応しい彼にしか分からぬこともある。そしてより闇に近い私にしか分からぬ事もある。それで良い。

 

「あんたが持っておくべきよ、それは。私じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇術とは、より人間性の本質に近い魔術なのだろう。そして人のソウルとは、人間性とは、より実態に近付くものなのだ。

 信仰無くして生きられぬ神とは違い。人はそのまま、人であり続ける。例え忘れ去られようとも。消える事はない呪いなのだ。故に人の本質に近い闇術は、物理的な威力を持つのだろう。

 

 先に進んだ市街にて、私は闇術のスクロールを手に入れた。それは大切に、まるで封印されているが如く保管されており。ウーラシールの人々が闇に抱いていた感情を彷彿とさせる。

 

 まず一つは、闇の玉。深淵の狂気に飲まれたウーラシールの魔術師が闇の中に見出した闇術。一見すればただ小さな暗い玉を撃ち出すだけのちっぽけなものだが、一体どれ程の生命が深淵に打ち勝てるというのだろうか。故にこの玉は重く、そして沈む。

 もう一つは、闇の霧。人を蝕む暗い霧を発生させるその術は、毒によく似ているが。しかし本質は人の魂に近しいものだ。

 人とは人を蝕むものだ。例え同じ存在であろうとも、闇で闇を打ち消せはしない。ならばそれは、深淵とて同じ事だろう。故にこの霧は全てを蝕む。

 

 市街は下に行けば行くほどに暗くなる。増えていく異形に闇術を試す私の背後で、オスカーは拾った何かを地面に投げて遊んでいる。

 

「あのね、私ばかりに任せっきりにしないでほしいんだけれど」

 

 ハロー、と砕かれ呟く謎の木彫りの人面で遊ぶオスカーに私は苦言を呈する。

 

「仕方ないだろう、魔術師相手じゃ僕は良い的なんだから」

 

「だからといって遊ぶのはどうかと思うわよ」

 

 今度はいいね、と叫ぶ人面を投げるオスカー。こんな深淵に近い場所で遊ぶ彼の精神も中々にイカれている。いや、肝が据わっているのか。それにしたってその人面、なんか腹が立つな。

 

 しかしこのウーラシール市街には様々なものが落ちている。オスカーが遊んでいる人面然り、紋章の刻まれた鍵然り、闇術然り。魔術師であり呪術師であり、探索者である私からすれば興味深いものだが、その興味を打ち消すくらいにはここの闇の気配は凄まじい。

 そしてようやく、市街から地下深くへの道が開けそうな場所へとやってきた時のことだった。

 

 そこは広い、神殿のような場所だったのだろう。もしかすれば墓所かもしれない。入り口を守る大量の異形達をオスカーと葬り、中へと入れば奥には暗い道が続いていた。感じるのは、深い闇。きっとこの奥こそ、深淵に近しい何かなのだろう。

 

 だが、それ以上に。厄介かつ理解のできぬ何かが現れる。

 

 それは何かの肉塊。闇に溶け、混ざり合い、それでも形を持ってしまった哀れな異形の末路。

 鎖に繋がれ、しかしその鎖すらも引き千切り武器とし、頭部のような場所に生える鉄の塊は人を殺すことなど容易い。

 真にそれが何であるかなど分かるはずもない。分かりたくもない。ただ闇がそうさせたのだと(ソウル)が呟く。

 

 強敵と言っても差し支えはない。振われる鉄球は近寄る者を叩き潰し、生える鉄塊は目にした者を叩き斬る。魔術に耐性があるようで、結晶化した(ソウル)でさえも受け付けない強靭さは深淵の恐ろしさと奥深さを私達に教唆してみせた。

 しかしそれでも多勢に無勢。数十分もの戦いは、オスカーが叩きつけたクレイモアの一撃で終わりを迎える。

 

 一体何だと言うのだ、闇とは。深淵とは。

 

 こうも冒涜的な生命など生み出して、何様だというのだ。

 

 人の魂が闇に近いと言うのならば、一体人が持つ人間性とは何なのか。冒涜的かつ神秘的。故に白竜は人間性の先に古竜を求めたのだろう。

 人の持つ可能性が、いつか種族を超えて古竜へと到るその時まで。あの白竜は狂気の先に自らの世界を夢見た。けれど。きっと人間性は、竜にすら過ぎたものだったに違いない。

 

 

 

 深淵の穴。そう形容するのが相応しい。

 

 ウーラシール市街を経た先、不自然に設置されたエレベーターを降ればそこはある。

 光など届かない。上を見上げれば王家の庭の真下なのだろう、見知った割れ目から地表と光が見える。だがそれも意味をなさないほどに闇がこの場を支配している。

 まるで洞窟のようなその場所は、しかしただ暗いだけでは無いのだ。鬱蒼としているのは当たり前だが、それ以前に闇の気配が濃すぎる。まるでこの深淵の穴から闇が生まれでたかのような錯覚に陥る。

 

「悍しい……これが深淵だと言うのか……? 一体ウーラシールは何を暴いたのだ……」

 

 隣でオスカーが呟く。だが、闇などそんなものだろう。むしろよくもまぁこうしてわかりやすい形で深淵なんてものがあるものだと、少し呆れている。でもきっと光さえ届かないからこそ闇という意味と言葉ができたのだろう。

 

 ここに潜む敵は、今までとは大きく異なっている。今までならば闇に侵されたウーラシールの民が襲いかかってきた程度だったが。

 ここでは、闇そのもの。つまり人間性が私達を闇に引き摺り込まんと迫ってくるのだ。

 

 人間性。人の輪郭を持った説明ができぬ精霊のような黒い物体。質量はなく、しかし暖かいそれは不死である私達が自己を保存する上で無くてはならない物質だ。

 本来ならば目に見えた意志を持つことはなく、その大きさも手のひらサイズなのだが、どういうわけかここにいる人間性の大群は巨大だ。人か、それ以上のサイズを伴う大きさでユラユラと近づいて来ては闇に引き摺り込もうとする。

 攻撃らしい攻撃はしてこない。だが、触れれば内なる人間性が拒絶反応を起こして傷つくのだ。それが痛く無いわけがない。

 元は同じ人間性であり闇から生まれでた者だというのに、なぜこうまで反発し合う?まだ私の知らない何かがあるに違いない。

 

 それらを退け、時折見かける魔術師と市民を蹂躙しながら二人で進む。道中色々有益なものも落ちていた。闇術のスクロールがその最たる例だろう。

 

 その一つは、黒炎と呼ばれる闇術。

 スクロールに染み付いた(ソウル)を読み取れば、かつてここに迷い込んだ呪術師が闇の中で見出した闇術のようだ。呪術師は最期に、炎ではなく闇の中に故郷を見出したのだろうか。故にこの炎は重く、しかし温かい。

 

 もう一つは闇の飛沫。

 ウーラシールの魔術師が狂気の内に見出した深淵の魔術だ。試しに用いてみれば闇の玉を数発一気に打ち出す殺意に満ちた術だった。そしてやはりこちらも魔術らしからぬ質量を持った重い技。

 人とは、やはり闇に近づくほどに……否、人間性に近づくほどにその実態に近づくのだろう。忌々しいが、これは使えるはずだ。

 

「僕はそんな禍々しい魔術を使おうとは思わないが……ここを出たら、少し魔術を勉強してもいいかもな」

 

「あら、なら私が教えてあげるわよ。安くしておくわ」

 

「やっぱり(ソウル)は取るのか……」

 

 

 そんなやり取りも早々に、先へと進む。相も変わらず暗い場所だが、ふと何か光るものが見えた気がした。それを不審に思いながらも近付けば。それはなんと、大きな猫。

 その猫はブサかわいいとでも言えば良い表情で私達を見ると、大きく鳴く。一瞬敵の待ち伏せや術を疑ったが、特に何も起こらず、気がつけば猫も消えていた。もしかすると、あの猫は幻影だったのかもしれない。個人的にああいう猫は好みなのだが。モフモフしてやりたかった。

 

「何だったんだあの猫は?」

 

「さぁ。もしかすれば何かを伝えようとしていたのかもね」

 

 そんなメルヘンチックなことを言ってみる。化け猫というのは聞いたことがないが、あったらそれは素敵な事じゃないか。猫のいた痕跡を私は探る。やはり実態ではなかったようだ、(ソウル)の名残が濃すぎる。

 不意に、横から微かに何かが聞こえた気がした。気になってオスカーへと振り返れば、彼も何かを聞いていたらしい。だがあるのは岩壁だけだ。一体何だろうか今のは。

 

「……もしかして、隠し扉じゃないか?」

 

 そんな事をオスカーが言い出す。そういえばアノール・ロンドにもそんなものがあったが、果たしてウーラシールの深淵に飲まれた民が隠し扉を使うほど理性的だろうか。だが仮に隠し扉であったならば、彼らがそうでもして隠したい何かがあるという事だ。新しい闇術かもしれない。

 試しに斧槍の切先で岩壁を突いてみれば、秘匿は破られた。あの時のように壁は払われ、横穴が続いているではないか。これは大当たりだ。

 

 オスカーと顔を見合わし、警戒しながら横穴へと進んでいく。仮に待ち伏せにあったのなら一本道のここでは逃げるのが難しい。ウーラシールに着いてから死んでいないので、できれば死にたくはないし。

 

「あれは、犬?」

 

 光の魔法陣に囲まれた犬が、そこにはいた。

 

 何やら弱っているのだろう、酷く怯えた様子で身体を震わせているその犬は、かなり大きめだ。そしてその犬を囲うように、人間性共がいるではないか。どうやら犬を攻撃しようとしたが魔法陣に阻まれているらしい。だが、これではあの人間性が突破するのは時間の問題だろう。

 私とて人の心を持つ不死だ。ロードランで襲いかかってくる犬共には殺意しか湧かないが、あんな毛皮モフモフで瞳を潤わせているワンちゃんが襲われているのは心苦しい。私はやる気満々で斧槍を脇に構え、突撃する。

 

「まさか……あれが、相棒だと?」

 

 その私の背後で、オスカーは一人何かを呟いた後に加勢に入る。数は多いが、この程度の人間性など私たちの敵ではなかった。あっさりと一掃してやれば、わんちゃんは私達を怯えた様子で見てくぅーん、と可愛らしく鳴く……よく見たら、これ狼だ。

 わんちゃん改め狼は、敵が居なくなった事を確かめると大きく吠えだす。その足元には深淵に侵された盾が転がっていた……あの紋章は、アルトリウスのものだろうか。

 狼は吠えた後、転送の奇跡を用いてこの場を去ってしまった。せめて触らせて欲しかったのだが……貴重な癒しが。

 

 狼が去った後、オスカーが深淵に浸された盾を拾い上げる。

 

「やはり彼はアルトリウスの……」

 

「あんたが探していた相棒かしら。あれを殺して(ソウル)を奪うのは、なんていうか……罪深いわね」

 

 殺意マシマシの犬を殺すのとは訳が違う。私は乙女だからあんな可愛い狼に剣を振るえないだろう。

 だが、彼こそがオスカーが求めていた剣の魂の持ち主。この時代では未だ足りぬだろうが、きっと元の時代に戻れば異なるのだろう。故に彼は為さねばならない。あの狼を殺さなければならない。

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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