暗い魂の乙女   作:Ciels

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言うまでもなくオスカーさん生存ルートです。そしてそうなった場合、皆さんは言うまでもなく結末が分かるはずです。


祭祀場、心折れた騎士

 

 

 死にかけの辛気臭い騎士を助けたら変なお願いをされた代わりに色々貰えた。どうやら生まれの良い騎士だったらしく、着ていた鎧は上質なもので剣と盾もそんじょそこらの兵隊が持っていいものでも無い。あれはアストラの国のものだろう。

 貴族の国アストラ。聞こえは良いが、個人的にはあまり好きでは無い。修行の旅と偽って世界を放浪していた身からすれば、どうにもお人好しが多く肌に合わなかった。本当に貴い者だか知らないが、そんな夢物語が横行しているような国だ、大方あの坊ちゃんもそんな話に騙されてここまで来たのだろう。

 物語に出てくる綺麗な使命など、ありはしないのに。

 

 エスト瓶を口につけ、ガブ飲みする。味は何とも言えないが、効き目は抜群のようだ。見る見るうちに鉄球によってズタボロにされた傷が癒えていく。本当ならばあの奇跡は私に使う予定だったが……これでチャラだろう。

 俗世に塗れ世界に絶望した聖職者であるこの私にも、少しくらいの良心は残っていたようだ。一瞬奇跡の文言を忘れかけたが。しかし喋れるほどに回復したは良いが、酷い声だ。どうにか元に戻らないものか。

 

 階段を登り貰った鍵で扉を開ければ亡者達が私の行手を阻んだ。折れた直剣を振り回し迫る彼らを撲殺する。あのデーモンに比べれば、このくらいの亡者は朝飯前だ。

 一通り亡者共を殺しきった後、また濃霧が掛かっている。どうやら先程デーモンと戦った広場へと繋がっているようだが……ここはその上階か。

 とてもとても行きたく無いが、どうやらあのデーモンをどうにかしないと自由は手に入れられないようだ。それならば腹を括ろう。

 

 濃霧を抜ければやはりそこはあのデーモンがいる広間で。悔しそうにあのデーモンは私を見上げている。あの背丈でもこちらには届くまい。私は馬鹿にしたようなジェスチャーで彼を煽る。

 

「バーカ」

 

 我ながら口が悪い。だがそれに激昂したのかデーモンは勢いよく跳躍した。その跳躍力は凄まじく、一瞬で私の目線にデーモンの大槌が迫る。

 叫ぶ間もなく、大槌は私が立っていた床を打ち壊した。同時に空中に身を投げ出される。数十メートル下の床に身体を打ち付けられると、すぐ目の前でデーモンが笑っていた。いや、表情は分からぬが。きっと笑っているに違いない。

 すぐさま私を挽肉にしようと振りかぶる槌を、私は転がって避けた。床を伝わる振動が私の脳を揺らすがそうは言ってられぬ。起き上がると、急いで私はデーモンの太い足にメイスを打ち付けた。

 

 まるで痛がるような素振りを見せるデーモンに、私は勝機を見出す。これならば勝てるかも知れない。死んでもまた挑めば良い。死ぬ程痛いが。

 距離を取ると私は息を整えてデーモンと対峙する。どうやら彼の闘志にも火がついたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オスカーはあの聖職者の女不死を追っていた。彼女がここを出ようとしているのはわかっているから、階段を登り濃霧が出ているフロアまではあっさりとやって来る。

 道中の敵は尽く粉砕されているところを見るに、あの聖職者は見た目によらず随分と好戦的なのだろう。それに戦い慣れている。死体のほとんどが急所を叩かれている。

 それにしても、先程から地鳴りが凄い。まるで何かを打ちつけるような音と衝撃がオスカーの足を揺さ振る。もしかすると、ここの番人であるデーモンと彼女が戦っているかも知れない。そうなれば一大事だ。あのデーモンは恐ろしく、そして容赦無い。あんな乙女はすぐに殺されてしまうだろう。騎士として、彼女を守らねば。

 

 そんな勇ましさと清らかさを抱きながら青年騎士は濃霧を潜る。そして、落下した。

 

「うおぁああ!?」

 

 あると思っていた足場は崩されているのだから仕方ない。オスカーは叫びながら眼下を見る。そこにはデーモンが無防備に頭を曝け出していた。

 それは騎士としての能力か。すぐ様正気に戻り、オスカーは剣をデーモンの脳天に突き立てる。剣は鈍では無いはずだが、それでも中腹ほどしか刺さらない。それで良い。それだけで、デーモンはあり得ないほどに悶えたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 突然降って来たあの騎士が、デーモンの脳天を剣で突き刺した。それなりに善戦していた身とすればこれまでに無いくらいのアシストだ。あの騎士も辛気臭い割にやるものだ。

 頭を突き刺されたデーモンは堪らず片膝をついて蹲る。その間にもあの騎士は剣を脳天に突き刺し捻っていた。これはチャンスだ。今ならばあのデーモンの顔面にメイスをぶつけられる。

 

 私は全力で走り込み、その勢いでもってデーモンの鼻っ面をメイスで打ちつける。デーモンも鼻血は出すらしく、あの悍しい顔から大量に出血する。おまけに脳震盪を起こしたらしく、フラフラと頭を揺らせば騎士が耐えられず剣ごと落下した。

 

「ぐあ!」

 

 無様だが、良い行いだ。これならば神も喜ぶだろう。何の神が喜ぶかは知らぬが。

 蹲るデーモンの頭をタコ殴りにする。まるで太鼓を叩くが如く、それでいて全力の殺意を持って。聖職者だが牙を向けてくる相手に容赦はしない。ただひたすらに殺すべく殴る。

 どんな生き物も、頭は弱点だ。デーモンでも変わらない。気がつけば私をあれだけ殺したデーモンは倒れ、今度こそ死んでみせた。呆気ない、それでいてスカッとする死に方だ。これぞ神の怒り。デーモンは神によって殺される。

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 さて、憎きデーモンは消え去りそのソウルを私とその協力者である騎士に吸収された。私はよろめき立ち上がろうとする騎士に手を伸ばす。彼は驚いたように私の顔を見つめていた。そんなにこのしわくちゃな顔が悍しいのだろうか……そんな風に思って、差し出した手を引っ込めようとすれば、彼は慌ててその手を取った。

 グイッと引き寄せれば、彼は何とも言い出し辛そうな感じで咳払いをした挙句言う。

 

「その……無事で良かった」

 

 騎士らしい物言いだ。それも善人の。

 

「そう。じゃ、またね」

 

 礼も言わずに立ち去ろうとすれば、彼は慌てた様子で私の肩を掴む。金属の手甲が肩に食い込んで痛い。

 

「待ってくれ!」

 

「エスト瓶なら……」

 

「いや、それはもう良い。君が使ってくれ……君は、これからどうするんだ?」

 

 そう問われ、私はふと考えた。確かに自由は手に入れた。だがこれからの事はまったく考えていなかった。あまりにも外に出れる事が嬉しすぎたのだろう。もし今故郷や他の国々へ行こうものならば、きっとまた牢屋行きだ。それ程までに不死という存在は禁忌されているのだから。

 考え込む私に、かの騎士は言う。

 

「もし良ければだが……共にロードランの地へと行かないか?」

 

「不死の使命を果たしに? ハッ、冗談。そんなもの、きっとどこかの誰かが適当に言った夢物語よ。あんたみたいなのを騙すためのね」

 

 さも当然のように私は嘲笑う。それでも彼は言った。

 

「それでも良い。だが、君に行く宛は無いのだろう。それならばここで考え込むよりも一歩進む方が良いのでは無いか?例え使命が嘘でも……何もせず、亡者になるよりは」

 

 確かに。その通りだった。どうせこのまま世界が終わるまで腐っているよりは、それなりに嘘でも目的があった方が刺激があるといったものだ。呆け老人にならないための秘策は刺激であると、聞いたこともある。

 私はしばらく考え、そして皺くちゃの顔を彼に向けた。兜から覗く彼の目は青く、そして輝いている。絶望を知らぬ目だ。そんな好青年を……知らぬ間に亡者にしてしまうのも、後味が悪い。

 

「……使命はどうでも良いわ。でも、そうね。良いじゃない。乗ってやるわよ」

 

 これは、そう。気紛れだ。どうせ何もやる事がないのだ、観光がてら旅がてら、神々の地へと赴くのも悪くはない。

 私の言葉を聞いた彼は、嬉しそうにそうか、と言って兜を取る。別に期待していた訳ではない。それでも。

 

 私の荒んだ心を射止めるくらいには、彼の顔は素晴らしく。思わず見惚れてしまった。

 

「僕はアストラのオスカー」

 

 青い目に、ブロンドのオールバック。一体いくつもの女性が彼に惚れて来たのだろう。今まさに私もその一人になる所だった。

 

「せっかく共に旅をするのだ、君の名を聞かせてもらえないだろうか?」

 

 若く、きっとまだ成人になったばかりの笑顔は汚れきった私の心を震えさせる。

 

「……リリィ」

 

「リリィ……白百合か、良い名だ」

 

 同時に、自身の醜い顔がとんでも無く恥ずかしい。釣り合わない皺くちゃの顔を隠すように背を向けると、何を勘違いしたのか彼は兜を被り直し、先へ進む。

 私は俯き、フードを被ると重い足取りで彼を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鴉に持っていかれる宝石の気持ちが良く分かった。人は昔から大空を飛ぶ事を夢見ているが、哀れかな、そんなもの気持ちの良い物ではない。いつ落ちるかも分からぬ恐怖と鴉の脚で掴まれる痛みに耐え、錯乱しながら私達は空を旅した。

 不死院から出た不死はかのロードランへと到る資格を得るとは聞いていたが、その方法がこれか。一体どこの誰が大鴉を用いて輸送するなんて考えついたのだ。神か、神なのか。やはり神とは野蛮だ。

 

 オスカーは男の子らしく終始興奮していたが、その横で私は絶叫していた。ロードランへと辿り着いた時には既に声は枯れ果て、楽しかったと言っていたオスカーに掛ける言葉すら出てこない。

 

 火継ぎの祭祀場。オスカー曰く、ここはロードランにやって来た不死が最初に辿り着く場所だそうだ。それにしては寂れ、建物は朽ち果てあるのは篝火とそれを見てぼんやり座る素性の知れぬ騎士くらいだ。

 

「ようやく……僕達はやって来たんだな」

 

 感動するようにオスカーは呟く。その横で、私は掴まれていた肩をほぐす様に腕を回した。掴まれていたせいで痛いのだ。

 

「よく楽しめるね、男って単純」

 

「そうかな。そうかもしれない」

 

 本当は知っている。不死など、なりたくてなる物ではないのだから。ただダークリングが現れ、その業と罪を身に知らされ、辛く重い未来を与えられるのだ。だからこうやって感動に打ち震えたり、楽しいと思える事は何よりも大切な事なのだろう。それは正しく、人であると言う事なのかもしれぬ。

 けれど私はやはり、そんなに素直で器用な人間ではない。だからこうして感動に打ち震える事もなければ困難を楽しむ事もできはしないのだ。

 

 

 

「よう、あんたら。新しい奴らは久しぶりだ」

 

 オスカーとは異なり、えらく実用的な衣装に身を包む男は隣の上級騎士が声をかけるとそう言った。だが歓迎の言葉とは裏腹にその男の瞳は酷く濁り、そして表情は皮肉に満ちている。

 それからの会話で、この男の事がよーく分かった。

 

「どうせあれだろ?不死の使命がなんだとか、そんなんで来たんだろ?呪われた時点で終わってんのによ。不死院でじっとしてりゃ楽なもんを……ご苦労なこった」

 

 つらつらと喋る男に、しかし私は何も思わなかった。きっとこの男はその使命とやらを果たす前に心が折れてしまったのだろうから。そんな人間に構っていられるほど私の神は心優しくはない。嫌いの反対は無関心であるとは、よく言った物だ。

 だがオスカーは。若く、そして純粋な彼は違う。兜越しにもムッとしているのが分かる。彼が一歩前に踏み出したのを見て、私はその金属製の肩を掴んだ。それでもまだ彼の怒りは治らないようで……言葉だけで目の前の心折れた騎士に挑む。

 

「例えそうであろうとも、僕はここで終わるつもりはない」

 

 それが彼なりの反抗だった。だが騎士はそんなオスカーの瞳を兜越しに見れば、鼻で笑った。それはある種、自虐的な物でもあるに違いない。

 

「そうかい、まぁどうでも良いさ。だがそうだな、そんなお前達に暇だから教えてやるよ」

 

 頼んでもいない。だが彼はやけに詳しく、その使命に必要な事を私達に語る。

 

 曰く、使命とは鐘を鳴らす事。

 曰く、その鐘は二つあり、一つはこの祭祀場の真上にある不死教会の鐘楼に。もう一つはこの地下深くの底にある病み村の古い遺跡に。両方鳴らせば何かが起きるのだと。

 それはある種、御伽噺のような物だが。それでもオスカーは真剣に聞いていた。

 

「少なくとも俺はその先の話は聞いた事はねぇがな……まぁいい。さぁ行けよ。その為に来たのだろう?この呪われた不死の地に」

 

 乾いた笑いが木霊する。私達は、もうその場を後にした。ここですべき事は今は無いだろうから。

 だが、忘れてはいけない。あの騎士は、あの姿は。きっと私達の未来の姿になり得るのだから。特に、この上級騎士は。

 

 

 

 

 祭祀場の裏に行けば、その男はいた。分かりやすい虚構の笑みをこちらに浮かべるそのボブヘアーの男は、こちらを見ると不自然なまでに丁寧に対応してみせる。

 

「やぁ、どうも。初めまして、ですな」

 

 その声にオスカーもまた礼儀正しく一礼して返答する。対して私は一歩引き、じっとその男の動向を見守っていた。

 この男からする臭い。それは私に近しい物だ。神など信じておらず、穏やかな物言いの裏には何かどす黒いものを抱えている……いくら私でもそうはなれない。せいぜいがセコくあるくらいだから。

 

 どうやら彼はソルロンドの者らしく、名前をペトルスと言うらしい。そして待ち人を待っているのだとも。

 

「御用が無ければ、お互い関わらない方が良いでしょう……」

 

 実にその通りだと、私は思う。今はまだなりを潜めてはいるが、彼はきっと悪人だから。ただの悪人ならまだ良い、こいつは口先で相手を油断させるような不死に違いないと私の直感が警鐘を鳴らしている。

 特にこの、世間知らずであろうオスカーには彼に近づいて欲しくは無い。

 

「あぁ、でも。お連れの貴女。人間性をお持ちなら、早く亡者から復活した方が良いでしょうね……」

 

 だが。その男、ペトルスは唐突に私を見てそんな事を言った。

 

「復活?」

 

「あぁ、あなた方は不死となって間も無いのですかな。篝火に触れ、人間性を捧げてみなされ。そうすればその醜い……おっと、失礼。その亡者姿も元に戻りましょう」

 

 それは実に、驚きだった。まさかこの皺くちゃな身体から元の人らしい身体に戻れるのか。人間性ならば持ち合わせている、先程撲殺したデーモンが落としたのだから。私はオスカーと互いに顔を見合わせた。

 とにかくオスカーが礼を言い、奴から遠ざかると私は篝火に人間性を翳す。

 薄らとだが。その半透明な人間性に、懐かしい顔がぼんやりと浮かんだ。

 

 私の、本来の顔だ。

 

 燃えた人間性を握り、それを吸収すれば何ということか。私の中に人間性が巡り見る見るうちに若返る。否、元の人へと還っていく。

 

 灰のような銀髪。白い肌。その性格とは真逆である人形のような顔立ち。そして翡翠の瞳。懐かしき我が麗しの美貌が手鏡に映る。

 震えた。不死となり殺されてからはずっと皺くちゃのままだったから。もう二度と、あの頃のような自慢の肌と瞳に逢えないと思っていたから。

 女にとって美とは望むべきもの。それこそオスカーにとっての不死の使命と同様に。私はつい嬉しくて隣の騎士に笑みを向ける。

 

「聖女だ……あ、いや! 何でも無い。それが君の本来の顔なのか」

 

 見惚れていた坊やは、すぐに取り繕う。まぁ無理もない。これでも昔は村の男どもに求婚されまくったものだ。ヤンチャだった私はそれを全て蹴って修行の旅に出たのだが……あの頃が懐かしい。村中の女に恨みを抱かれたものだ。だから不死になったのだろうか。

 

 

 

 

 私の復活の儀も程々に、城下不死教区へと向かう。あのペトルスのそばにあった昇降機はどうやら最上階で止まっているらしく使い物にならなかった。あれがあれば一気に教会まで行けるのだが、仕方あるまい。地道に町を抜けて行くしかなさそうだ。

 それにしても、やはりというべきかこの地には不死が溢れ返っている。それも亡者が。祭祀場を出た途端に亡者達が歓迎するかの如く襲い掛かり、私とオスカーはそれを粉砕して行く。一人ならば苦戦したに違い無いが、二人ならば心強いのは確かだ。それにこの騎士様は意外と腕も良い。きっと剣術を学んできたのだろう。それが貴族とやらの嗜みだからか。

 

 下水を登り、町に入ればそこはある種の迷路のようで。高低差のある建物を出たり入ったりしながら先へと進む。道中亡者がいたのは最早お約束だ。

 さて、どうやらある程度町の上に来たようだ。そしてこの町は、既に町では無い。廃墟に近い。当たり前だ、いつか亡者になる定めの不死がこれだけ寄り添えばそうもなる。故に今では建物や道路は手入れされず、所々崩れている。落下死の危険性は捨てきれない場所だ。

 

「なんだ……危ない!」

 

 そんな考察をしていれば、唐突にオスカーが叫んで私を抱きしめながら転がった。何をする、と非難する前にどこからか飛んできた赤い飛竜が先程まで私がいた場所に轟音を発てながら着地し、また飛び去る。

 もう少しであの足指に踏みつけられて死ぬところだった。

 

「何なのよあれ!」

 

「飛竜だ……まさかあんなのがいるなんて」

 

「これも不死の使命なの? 最悪だね」

 

 そうとしか言いようが無い。これから先、もしかするとあんな物と戦わなければならないのだろうか。そうなればまたあのデーモン戦のように何回も死ぬ羽目になる。死ねば、亡者に近付く。今思えば、あの時によく亡者にならずに済んだ。昔から運は良い方だったが……いや、不死になったのだから運は悪い。きっと悪運が良いのだ。

 篝火を見つけ、しばし休憩をする。亡者から奪ったソウルを糧に、私は自身を強化してみせる。これぞソウルの業。集めたソウルを自らに蓄え、人を超える。と言っても、こんな事をしたのは初めてだったが。ロードランの外ではこの行為はある種禁忌だ。他人を殺して奪ったものを自らのものとすれば、誰だってそう思うに違いない。

 そしてそれを平然とやってしまうくらいには、この地は危険だった。

 

「君は何にソウルを使ったんだ?」

 

「体力と技量」

 

「そうか、僕は筋力と信仰に……待て、君は聖職者だろう。なぜ信仰にソウルを捧げないのだ?」

 

 その言葉に、私は訝しんだ目を向けた。

 

「私が神を信仰しているように見える?」

 

「いや、まったく」

 

 怒りが溢れそうになるが、きっとこの男は悪気はないのだろう。相手にするだけ労力の無駄だ。

 

「なんで貴方は聖職者でもないのに信仰に?」

 

「神を信じているからね」

 

 あ、そう。それだけ言って私はエスト瓶を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 亡者共の妨害を打ち破り何やら塔のような場所へと来れば、私達は上を目指す。下に降りても目的の場所からは遠ざかってしまうから当然だし、何より何がいるか分からない所に行きたくもない。

 結晶に包まれた蜥蜴を狩り、よく分からないが貴重そうな石を回収すれば外へ出ようと濃霧を潜る。この濃霧は一体何なのだろうか。不死院にもあったが……まさか強敵が出る予兆ではあるまいな。

 

 霧から出れば背後の上には弩を持った亡者兵士が私達を射抜こうとしていたのでさくっと殺す。そうして頂上の通路を渡って行く。

 なんと景色の良い事か。いくらか旅はして来た身だが、それでもこれほどの景色は中々見れぬものだ。しばし私はその光景に目を奪われ、オスカーが先行している事にも気付かずに辺りを見渡す。

 

 絶景が好きだ。人の業や使命など、どうでも良くなるくらいに壮大な景色が好きだ。その間、頭に纏わり付くものを忘れる事が出来るから。

 旅に出て、私はその事に気がついた。だから平穏であろうとも村にはほとんど帰る事をしなかった。あの瞬間は、私は素の私でいられた。聖職者として旅していたが、それでも私は私だった。

 

 不死になるまでは。

 

 

「そんなに気に入ったのかい、その景色が」

 

 その問いに私は珍しく素直に答えた。

 

「そうだね……この景色は、好きだよ」

 

 そんな、素直に答えた私がそんなに珍しかったのか、オスカーはあっけらかんとしていた。まぁ良い。いつかその使命とやらが終わったら、またこういう景色を求めて旅をするのも良いかもしれない。きっとまだこの地にも絶景はあるはずだ。

 今はただ、先へ進む。私はようやく前を向く。

 

 そしてオスカーの背後に潜むものに絶句する。

 

 

 

 

 デーモンが、私達の行手の塔の上でこちらを見下ろしていた。

 

 




あけましておめでとうございます。始めといてなんですが、一月の最初から三月の最後まで更新できないかもしれませんのでお願いします

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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