かなりディープな百合表現がありますので注意。ぶっちゃけ飛ばしても大丈夫です。
祭祀場に戻れば、見知った玉葱頭が二人いる。一方は毎度お馴染みカタリナのジークマイヤー。何やら篝火の前に座り唸っている。いつも通りといえばいつも通りなのだが、ここは危険度も少ない祭祀場。何をそんなに悩んでいるのだろうか。
もう一人は公爵の書庫にて結晶ゴーレムに囚われていたジークリンデだ。彼女は父とそっくりの鎧と大剣を携え、こちらに気付くと手を振った。その健気な姿は地下墓地で荒んだ心を安らげるものだ。
「お久しぶりです、またお会いできましたね」
ぺこりと一礼する彼女に私も微笑みかける。無事に親子が再会できて何よりだ。この悲劇ばかりのロードランにおいて唯一心温まる話だろう。
「お父さんと会えたのね」
「はい。聞けば貴女に何度もお世話になったそうで……ありがとうございます」
できれば兜越しではなく美しいであろう表情をこの目で見たいが、彼らの丸みを帯びた鎧は誇りなのだ。故に早々脱ぎ捨てたりはしない。
だがそんな下心も彼女の次の言葉でかき消される。その言葉はあまりにも重過ぎた。
「お陰様で、母の言葉を伝えられました」
それがどういう意味か分からぬ程無粋ではない。その声色から察せられる後悔と達成感は、彼女の母がどうなったかを容易に想像させた。
こんな底抜けに明るくて、寝ている事が取り柄のような男が抱えていたものは、とんでもなく重くて苦しい使命だったのだろう。詳細は分からぬも妻を助けるために尽力し、しかし報われる事はなかったのだと。そして神は何もしてくれないのだ。
私は座って唸るジークマイヤーを盗み見た。彼はまだ唸っている。こちらの存在も気づかぬほどに。見た目と声色からは想像できぬ心苦しさ。私はジークリンデの手を取った。
「よかったわね、伝えられて」
「……はい。ありがとう、ございます」
けれども私はこの家族に何ができるわけでもない。単なる聖職者崩れの私には何もできない。ただ殺すことだけに特化してしまった。
「父の代わりに、重ねて御礼を申し上げます。これを御受け取りください」
ジークリンデが何かを取り出す。それはスクロールだが、魔術のものではない。奇跡の物語が記されたものだ。私の戦い方を知らない彼女だからこそ渡せるものだろう。信仰心が低過ぎて私には使えん。
ちょっとだけ引き攣りながらお礼をしてスクロールをしまう。まぁ、コレクションとでも思っておけば良い。
だがどうやら、使命を果たせなかったジークマイヤーの旅は終わらぬようだ。彼女が言うには最後の探索がまだ待っているとの事。一体これ以上ロードランに何を求めているのだろうか。
「ああ……貴女ですか。お嬢様を助けられたのですな」
その男は自らから溢れる邪悪さを隠すこともせずにほくそ笑んだ。
ソルロンドのペトルス。守るべき聖女を見捨て、我欲に支配された愚かな聖職者。パッチが聖職者を憎むのは、こういった輩がいるからだ。そして私も同じく、聖職者でありながら聖職者を嫌う。神など、心では信じてはいないのに。どいつもこいつもその腹には一物抱えている輩ばかりだ。
「何のつもりかわかりませんが、無駄なことでしたな。あんな小娘、家柄でもなければ生きて役立つ事もありませんからねぇ……ククク……」
あのロートレクですらも拒絶した悪。
「正体を表したな、外道め」
「外道? それは貴女も同じことでしょう。他者から
「去れ。貴様に益のあるものはもうなかろう。次に姿を見せれば斬り捨てる」
剃刀のように目を尖らせれば、ペトルスはその気迫に圧倒されかける。
ペトルスは、しかしうすら笑いを浮かべて言う。
「そうしますとも。元よりこんな場所、長居するつもりもありませんからなぁ……」
気色の悪い笑い声を浮かべる奴を背に、城下不死教会への昇降機へと足を踏み入れた。奴にすべきことは最早ロードランには無い。あの聖女にも利用価値は無いはずだ。故に、無害ではあった。
害を成すなら殺すだけだ。
不死教会へと辿り着けば、あの聖女が祭壇で祈っている。
ステンドグラスから差し込む光は白い聖職者の服装を一際輝かせ、その光景は絵画のようにも見える。だが華やかさは無い。目に写るは哀れな少女がただ神に縋っているようにしか見えないのだから。
彼女に歩み寄れば、祈りに熱心な彼女の横へと腰を据えた。細い彼女の手先と華奢で整った貌をしばし見詰める。
「……貴女は、あの時の方ですね」
ようやく気づいた彼女は祈りをやめて悲しげな顔で私を見据えた。
「よくここがわかりましたね」
「貴女の
世間知らずの箱入り娘。そんな彼女が不死になり、救いの無いロードランへと赴くなど、どんな心境なのだろうか。私には分からない。分からないが、きっと辛いはずだ。名家の娘がたった三人の家臣と来るなどと。心細いはずだ。
聖女は少し俯いて、自嘲気味に言う。
「貴女がいなければ……私はニコもヴィンスも救ってあげられませんでした。本当に、感謝しています」
「別に感謝の言葉が欲しいわけじゃないわ。私はただ自分の魂に従って動いているだけよ」
その言葉に偽りは無い。最早常人では集め切れぬ程の
少女を助けるのは、私の下心である。感謝など、もってのほかだ。
「それでも、貴女は彼らを救ってくれました。……私はソルロンドのレア。感謝の言葉で足りぬなら、奇跡で良ければお助けできると思います。それ以外知らぬ不出来な身ですから……」
こんなにも卑屈で、愚かな少女ではあるが。私の魂は彼女にとても惹かれている。折れた清らかな心を見て、嗜虐心でも刺激されたか。となれば私はとんだ性悪だろう。分かってはいるが。
私は彼女のフードにそっと手を掛ける。
「奇跡なんていらない」
ゆっくりとフードを脱がせば、少し驚く彼女の素顔がすべて露わになった。
光が彼女の美しい顔を照らす。成人になったばかりの少女は、金色の髪を背後で束ね、前髪は仕立ての良い髪飾りで垂れぬように留めていた。
無垢で、穢れを知らぬ少女に顔を近付ける。男勝りな私の気持ちが前面に出て、小悪魔気味に笑う表情を見せつけた。
「本当に助けになりたいのなら」
青い瞳をまん丸に見開き驚く彼女の顎を、優しく人差し指と親指で押さえる。
「私に抱かれなさいよ、聖女様」
自分で見ていて恥ずかしくなる光景だが、欲求とは素直なものだ。そして知らぬ欲に身を晒す彼女も赤面し硬直している。
生娘なのだから、それはそうだろう。これはあくまで冗談だ。嗜虐心のせいで少し悪戯したくなってしまった、一人の不死の悪戯心。だから私も本気ではない。大体私だってこの身は不死だが穢れてはいない。だって元々聖職者だし。
だが、予想だにしない事が起きた。聖女レアは、赤面したまましばらく固まっていたが次第に瞳をぎゅっと閉じて何かに耐えている。もしや本気にしたのだろうか。
「……そ、それが望みであれば、私は、貴女に……この身を捧げましょう」
「マジで?」
思わず素が出た。まさか冗談で言った言葉が了承されるなどと思う輩はいまい。
瞳を閉じて何かを待つ聖女を前に、私は慌てふためく。まずい、この先どうしていいか分からない。顔は悪くなかったから男共に言い寄られたりもしたが、それを良しとしなかった私に恋愛の経験なんてものは無いのだ。一度は惚れたオスカーも、私は不死だから、恋なんて不毛だなんだと思ったが。
不死が自らの魂の赴くままに生きるのであれば、それはそれでいいんじゃないだろうか。
「後悔はしない?」
「……後悔など、ずっとしていますから」
震える唇が言葉を紡ぐ。私は、少し潤った自らの口をそれに重ねた。
まるで
ロードランに来ていつからか女しか愛せなくなった私はとうとう禁忌を犯した。だが、禁忌など今更なんだと言うのだ。
しばらく彼女の口を貪ってから、唇を離す。私と彼女の口に唾液の糸が橋をなしていた。蕩ける彼女の貌は何と艶やかなものか。その欲情を煽る表情に、我慢し切れるものなどいるはずもなかった。いるとするならばそいつは亡者だ。
気がつけば、私の手は彼女の服に手をかけていた。レアもそれに抵抗せず、ただなすがままに蹂躙される。
ローブを剥ぎ取り露わになる下着に顔を埋める。汗混じりの少女の甘い匂いが鼻をくすぐった。私が息をする度に、聖女は声を震わせる。
息を荒げ、私は自らを覆う服も脱ぎ捨てる。
生殖機能が失われたから愛し合えないなど、誰が決めた?私はただ、失望していただけだ。子を成せず、子孫を残せぬ不死がそんなことをするなど、生産性が無いなどと。
したければすればいいじゃないか。だって、愛し合えるのは人の特権だろう? そこに性別などありはしない。
昇降機を降りる私は、眩し過ぎる太陽に目が眩んだ。身体の水分が不足している。怪我はしていないのに酷く身体が怠いのだ。消えぬ傷は負ったが。
ペトルスは最早姿を眩ませていた。それは良いことだ、あんな奴いるだけ無駄だから。
祭祀場に戻ればカタリナの親子はもう旅立っていたようだ。そして見知らぬ気配がして祭祀場を探索すれば、あのハゲ頭が太々しく座り込んでいた。
「よう、あんた……どうした?」
パッチはてっきり憎まれ口か睨まれるか、その少女に会った時点でそうされると覚悟はしていた。無論それくらいで心折れる彼ではない。彼は鉄板なのだから、ちょっとやそっとでへこたれない。それこそ記憶が無くならない限り。
だがやって来た少女が覇気も無く、気怠げに手を挙げているとなれば話は別だ。何だか腑抜けたような顔で、パッチの前で座り込む。
「ああ、パッチね……はい。いやね、私も結構人生経験豊富だと思ってたんだけどね」
「何の話だよ」
攻撃の意思もなく語り出す少女はどこか上の空だ。何か良いことでもあったんだろうかと、なら集めた品を高値で売りつけてやろうかと考え。
「女の子って、素晴らしいわね」
「へぇ!?」
何やら爛れたものを見た気がして、彼は声をあげた。商売することも忘れて、彼は、はぁ……と何やらベラベラと喋る元聖職者の少女の話を聞き流す。
よく分からないが、彼女は大人になったらしい。深い意味で。
「寝る」
そう言って私はパッチの下を去る。何やら呆気に取られている彼はそうか……とだけ言って私を見送った。別に罠を仕掛ける気も無いようだ。
寝ると言っても不死は眠れぬ存在だ。だが身体を休める必要もあるだろう。篝火は……ちょっと、祭祀場のは使いたくない。その、あれ、アナスタシアを裏切ったわけじゃ無いんだけど……ね。今の私には彼女が守る篝火を使う資格が無いように思えて。
後ろめたい感情を胸に、なら近場で休めるところはどこだろうかと探せばそれはあった。
最初に不死院から祭祀場に私達を連れて来た大鴉、その巣だ。
祭祀場の遺跡の上に作られたその大きな巣は、ベッドとまではいかないがふかふかな枯れ枝を幾重にも重ねられて作られている。
まさかここで身体を休めようなんて思う日が来るとは。今日のこの経験は、私の心身を大きく疲労させた。それは今、不死教会で健やかに眠る彼女も同じだろう。
大きな卵の横で寝転びながらさっきの情景を思い返す。肌と肌の重なり合い。美しくきめ細やかな肌が、私と触れ合う瞬間。
「あーやっちゃったぁ……」
らしく無く、乙女心が湧き出る。不死だから見てくれは少女だが、魂的には百年近く生きている。老婆に近い何かが悶える姿はさぞかし滑稽だろう。
けれど。とても、良かった。満たされた。一人で戦い続ける私の心が、少し暖まった。それは殺す事では得られぬ尊い感情。
蹲り、一人物思いに耽る。それはまるで卵のように丸い。
だからだろう。大鴉もまさか自分の巣で少女が悶々と蹲っているなどと思うはずもない。
唐突に音もなく現れたそれは、私を卵と誤認した。少し混乱している様子も見てとれたが、それに気づいた時には大鴉の足は私を掴んでいた。
「ちょっ」
あの時のように身体を浮遊感が襲う。私の絶叫など風で聞こえてはいない。大鴉は空を舞った。
向かう先は始まりの地、北の不死院。だが、その寄り道は今後の私にとって重要な分岐路だったに違いない。
百合が散りました。次は北の不死院。
感想お待ちしております。
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いやぁそうでもないっすよ