暗い魂の乙女   作:Ciels

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北の不死院、帰郷

 

 

 

 北の不死院。そこは不死となった者が、彼の地へと至る為にやって来る巡礼の場。不死はそこで使命を悟り、門番を打ち倒してロードランへと侵入する事となる。自らが選ばれし不死であると戯言を吐いて。

 

 だがその実態は、世界の終わりまで幽閉されるこの世の底。扉は施錠され、永久に出ることも叶わぬ煉獄の檻。だからだろう、この不死院はあまりにも絶望に満ちている。檻から出られず、出られてもデーモンに挽肉にされる。かつてここから脱出したように、何度も何度も殺されて心を折られる。

 そうして亡者になり、いつしか亡者にすらもなれぬ土塊と化す。人とは何とも哀れで愚かなのだろうか。

 

 大鴉に連れてこられた私は、再びこのクズ底へとやって来てしまった。あの鴉は私を下ろすや否や、どこかへ飛び去っていってしまったからしばらくは祭祀場へと戻る事は叶わないだろう。しかし篝火があれば転送できるだろうから、一先ずは一番最初に灯した篝火へと向かうべきだ。

 

 仕方なく、私は北の不死院を逆走する。本来ならば抜け出すべき場所へと逆戻りするとは、やはり人生とは何があるか分からない。

 

 不死院に囚われていた亡者共も懐かしい。最早言葉を持たぬ(ソウル)に群がる虫と化した彼らは、その手に松明を握り私目掛けて駆け寄ってくる。

 松明の炎は案外馬鹿にならない威力を持つであろうから、安全に遠距離からソウルの矢で屠る。もう亡者風情では私の敵にすらならないのは、ある種悲しみを感じるものだ。

 

 

 不死院の大扉を潜れば、その広間はかつて私とオスカーが戦ったままである。

 門番が屠られたせいかここにまで亡者が群がっているが、そんな変化に一喜一憂する私の心情もどうなのだろうか。ともかく変化とは良くも悪くも心を刺激するものだ。

 

「折角だし、纏めて始末してあげましょう」

 

 それは慈悲に近い。もう動くこともないように、亡者共を徹底的に殺して(ソウル)を奪い尽くす。折れる心も最早無い彼らを、それでも動かすのは僅かな(ソウル)のみ。それすらも奪い取れば、もう復活することはない。

 近寄る亡者を斧槍で両断し、遠い敵には魔術で対応する。そうすれば、この広間は単なる殺戮場へと変化する。

 

 だが、最後の一体を斬り伏せた時だった。不死院のデーモンという巨漢がずっと闊歩していたせいか、はたまた私がデーモンに挑んで何度も大槌を打ち付けられたせいか、床が大きく崩れ去ったのだ。

 

「ちょっと……!」

 

 突然の浮遊感に驚くも、何とか体幹をもってして空中で回転し体勢を整える。そして足に強烈な痛みを抱えながらも着地してみせた。

 何とも不幸な里帰りとなってしまった。ここが里と言って良いのかは分からぬが。

 

「……そういえば、いたわね」

 

 呟き、顔を見上げれば、そこには奴がいる。

 

 捨てられたデーモン。かつてここに閉じ込められていた私は、その足音を聞いたことがある。

 地下牢のすぐ側、確かに丁度あの不死院の門番が居た足下であったはずだ。脱出の際にもちらりと柵からその姿を見た気がする。まぁあの時は脱出が優先だったから考える暇すらなかったが。

 

 何にせよ、ここに捨てられ閉じ込められたデーモン……さながらはぐれデーモンと言うべきそれは、私に驚いたように光る瞳をパチクリさせた。

 

 

 

 一説によれば、デーモンとはイザリスが産み出した異形である。

 かつてイザリスが混沌に飲み込まれる前、彼女達が犯した禁忌によって生み出された、生まれるべきではなかった異形。だがそれは、彼女達混沌の魔女の末裔らしく一定の階位を持った者であれば火の魔術を扱う事もあったそうな。

 

 目の前で杖を振るうこのはぐれデーモンもまた、その内の一体。

 

 振われた杖から炎に似た理力が迸る。火に似ているが、確かにこれは魔術だった。一瞬の出来事だったため、草紋の盾でそれを受ければ簡単に吹き飛ばされる。身体に直撃していれば、そのまま死んでいてもおかしくはなかっただろう。

 

 盾を持つ腕が折れ、仕方なくエストを飲む。暖かいエストは私の腕を瞬く間に修復して見せた。

 

 しかしただでさえ圧倒的な剛力に魔術まで扱えるとは。大王グウィンはかつて黒騎士にデーモンの討伐を命じたらしいが、いくら彼らでも苦戦したに違いない。

 

 距離を取るのは却って危ないと判断し、私は黒騎士の斧槍を手に詰め寄る。

 大槌のような杖の薙ぎ払いは驚異的だが鈍重だ。避けるには容易い。そして黒騎士の斧槍とは、かつてデーモン狩りに用いられていた対デーモン武器である。故にその一撃はデーモンに対して有効的。

 

 ざっくざっくと刃先がデーモンの脚や尻を切り刻む。だが分厚い皮膚相手には人間が振るう武器では効果が薄いのだろうか。ならば。

 

 左手の盾を(ソウル)に収納し、代わりに黄金の残光を取り出す。斧槍で斬りつけた傷口からは少なからずの出血が見て取れる。血が流れているのだ、彼らデーモンにも。

 黄金の残光は、その捩れた形状故に大量の出血を強いる暗殺向けの曲剣だ。数度デーモンの背後へと回り込み、左手の曲剣を振るえばその傷口から血が噴き出たのだ。

 

「グゥオオオオオオ……!」

 

 割と無口だったはぐれデーモンが膝を付く。デーモンなど、ロードランやウーラシールで戦った数々の強敵と較べれば赤子のようなものだ。

 俯くデーモンの背に飛び乗り、その首に斧槍を捻り込む。脊髄を穿たれ、しかしまだ死ねぬ生命力を持つデーモンは多少暴れるが、それもすぐに終わった。

 

 斧槍を回してデーモンの首を捩じ切る。

 

 地に落ちるデーモンの首は、それでも蠢いていた。

 

「すぐに死ねぬというのも考えものね」

 

 力を失った身体から飛び降りた私は、斧槍をその頭部へと突き立てる。あれだけ私を殺してみせたデーモンの同族は、特に苦戦するわけでもなく屠られた。

 

 今殺した彼もまた、私と同じだったのかもしれない。生命として出来損ない、同族にも見捨てられ。世界の終わりまでこの地で幽閉される。ただ、人であり救いがあったか否か。それだけしか変わりはない。

 

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、しんみりとしたが勝ちは勝ちだ。引き続き悍しい里帰りは続いていく。

 どうやら今戦っていた下層は梯子で牢のある通路と繋がっているらしく、あっさりと下層を抜ければ亡者の松明以外に変化があった。それもあまり嬉しくはない変化だ。煤臭い黒騎士が数体、どう言うわけか闊歩していたのだ。

 

 黒騎士は強いが、一体ずつならば問題は無い程に成長した私はそれらを各個撃破していく。狭い通路故に斧槍は扱い辛かったが、パリィをしていけば何ら問題にはならないのが救いだ。黒騎士は攻撃がある程度読みやすい。

 

 そうして、通路の行き止まり。かつて私が閉じ込められていた牢へとやって来た時だった。そこにもおかしな変化が見て取れる。

 

「こんな死体、いつの間にやってきたのかしら」

 

 牢にあったのは、殺されすぎて最早動くことのなくなった亡者の死体だ。こんなもの私がここに居た頃にはなかった。私がロードランへとやって来てどれほど経ったのかは時の歪みも手伝って測ることもできないが、不死院の空気や建物の状態から見てもそう経ってはいないはずだ。

 

 と、言うことは。この死体はつい最近ここにやって来て死んだ事になる。

 もしやと思い通路を振り返る。そういえば今戦った黒騎士はすべて牢の方を向いていた。まさかこの不死を狩るために彼らはこの地まで追って来たのだろうか。そうならば何のために?

 

 死体が何かを握っている。見れば、それは奇妙な人形だった。こういった類の人形は外の世界でも見たことがない。

 

 それを手に取り、(ソウル)を読み取る。もしや何か分かるかもしれない。

 

 

 おかしな人形

 

 あまり見ない奇妙な形、奇妙な格好の人形。

 

 ある伝承によれば、忌み者だけがこれを持ち、

 

 世界のどこにも居場所なく、

 

 やがて冷たい絵画の世界に導かれるという。

 

 

 

 忌み者。ある種、不死は忌み者であるがそう言ったのとはまた違うだろう。

 それは人としては不出来だったり、人とは異なる思想を持っていたり。つまりはマイノリティと呼ばれる者達の総称だ。迫害され、故郷すらも追われた哀れな人々。

 仮にそうであるならば私にぴったりだ。不死であり乙女同士の恋に陥るなどと。悪い事とは思わないが、通常の人間であれば嫌悪しても仕方がない。男色が許されるのであれば百合だって赦されるだろう?

 

 一先ず、向かうべきところが増えた。好奇を抑え切れるほどできた人間ではない。アルトリウスの相棒とやらは後で良い。

 向かうべきはアノール・ロンド。丁度あの火防女や王女様にも顔を出そうと思っていた頃合いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オァッ! オァッ! あったか! ふわふわ! オアッ!」

 

 と、その前に不死院の全てを探索する事にした。前には開かなかった扉もあったし、何か有用な物があればと思って。

 手に入れられたのは錆びた鉄輪とかいう指輪に転用できる物くらいだったが、面白いものも見つけることができた。

 

 私は不死院の外にひっそりと作られた崖側の鳥の巣に人間性を置く。すると、オァッ! という鳴き声にも似た喜びの声がどこからか響く。

 恐らく、人では無いのだろう。だが鴉にしてはあまりにも長く生きた存在。鴉は時折人から光り物を盗むと聞いたことがあるが、まさかこんな所でその習性を思い出すとは。

 

 何やらあったかふわふわな物を宝物と交換してくれるらしいこの声の主と、取引に興じる。声は可愛らしいから聞いていて飽きない。

 

「気に入った?」

 

 そう尋ねれば、目にも留まらない程高速で何かが人間性を取り去っていく。

 

「オアッ! オアッ! あったか! ふわふわ! ありがとう! オアッ!」

 

 段々とオアッ!が嗚咽に聞こえてきた。人間性が置かれていた場所に、指輪が捨てられている。きっと交換してくれたのだ。彼女のあったかふわふわの基準はよく分からないが。

 

 この交換は実に有意義であった。使い道が無く気色の悪い頭蓋ランタンは霧の指輪へ。ゴミクズは楔石の塊に。人の価値とはあくまで人だけのもの。彼女達からすれば、使い道のないものこそ真に価値のあるものとなる。

 

「でも、でも、もっと欲しい! あったかふわふわ、もっともっと! オァッ! ねぇねぇ、その(ソウル)、あったか! ふわふわ! 暗くてあったか、オァッ! オアッ!」

 

 ふと、欲張りな彼女が何かをねだる。暗い(ソウル)?そんなものあっただろうか。

 

 あるじゃないか。深淵の主、その(ソウル)が。しかしこんなもの、彼女に渡して良いのだろうか。突然鴉が変異したりしないだろうか。

 だが使い道がないのは事実だった。巨人鍛冶屋曰く、杖を強化すればそれを基にマヌスの杖が作れるとのことだったが、今の私には結晶の錫杖で十分だ。まぁ良い、求めるものでなければ彼女は突き返してくるだけだ。私は暗く澱んだ(ソウル)を取り出し、巣に放置する。

 

「あったか! ふわふわ!」

 

 するとどうやら本当にお目当てのものだったらしい。またもやマヌスの(ソウル)を取り去れば、代わりに置かれていたのはスクロールだった。

 

 酷くボロボロのスクロールは、随分と古いものらしい。手にとって広げてみれば、どうやらウーラシール原産の魔術であるようだが……

 

「……闇術じゃないこれ! どこで手に入れたの?」

 

「あったか! ふわふわ! オアッ!」

 

 だが彼女は答えてくれない。余程マヌスの(ソウル)が気に入ったか。

 

 追う者たち。それはウーラシールの魔術師、そして王であったマヌスが産み出した禁忌だ。

 人間性の塊をまるで追尾する(ソウル)のように産み出し、仮初の意思を与えて息絶えるまで相手を追尾する……スクロール曰く、そこに与えるのは人への羨望や愛。ただの攻撃手段としてしか産み落とされなかった人間性、それを利用した悍しい術だ。今までの闇術とは、ある種根本が異なる。

 

 だが、これこそ私に相応しいのかもしれない。今はまだ理由は分からない。しかしどうしてかこの人間性達の事を他人とは思えぬ自分がいる。

 

 そして、ならば闇とは何なのだろう。人間性とは。愛や羨望を欲するのであれば、悍しいものでは無いのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 その火防女は、相変わらず大理石の上に佇んでいた。まるで私が戻ってくるのを待っているかのようだ。

 不死院から転送され、アノール・ロンドの篝火へとやって来た私はまず彼女に会いたいと思ってしまった。どうやらレア嬢とのアレコレで欲求が止まらなくなってしまったらしい。

 

「貴公、戻ったか……なんだ、そんなジロジロ見て」

 

「いや……なんでも」

 

「ふっ、鎧の下が気になるか?やめておくことだ、この鎧の下は悍しい人間性で一杯だよ。貴公も知ってるだろう」

 

 火防女のその皮膚の下には、沢山の人間性が蠢いているという。火防女とは、人間性の苗床だ。そして長く生き、人間性を溜め込みすぎた火防女というものは見るも無惨な姿をしているのだと伝承にはある。そしてそれを隠すものだと。

 ならば彼女の鎧の下でも、その人間性が蠢いているのだろうか?

 

「そうかな。見た目が悍ましくとも、心が美しければ良いと思うけれど……」

 

「……貴公、本当にどうした?私に欲情しているのか?」

 

 一歩、彼女が下がる。どうやら私に引いているらしい。それはそれで傷つくなぁ……まぁ自覚はあるけれど。

 

 

 

 太陽の女神は相変わらず憎らしいほど豊満だ。どことは言わないが、女の私でもあの豊満な何かに埋もれたいと思ってしまう。いや、今の私だから尚更だろうか。

 一体どこで私の性癖は曲がってしまったのだろうか。確かに男は信用できない生き物だったが、まさか聖女を穢すようになるとは思わなかった。あの色白できめ細かく、ふわふわで……

 

「……そんな目で見られても、困るわ」

 

 気がつけば、太陽の王女グウィネヴィアは困ったように笑いこちらを見ていた。しまった、いつの間にか下心満載で彼女の胸元を見ていたのか。

 私は咳払いをし、ある疑問を投げかける。

 

「……少し、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

 

「はい、私で応えられるならば」

 

 だがそんな困惑した様子も一瞬の事、彼女はまた柔らかい微笑みに戻る。

 

「あの絵画について、御教えいただきたい」

 

 そう問えば、しかし一転して彼女の表情はまたも困惑した様子になる。

 

「貴女も、あの世界に興味があるのね」

 

「世界?」

 

 それは冷たい絵画の世界というやつだろうか。すると彼女は語った。

 

「あの絵画はね、どこにも居場所がない者が向かう最後の土地」

 

 優しく、しかし儚げに語る彼女の気持ちは分からぬが。

 

「だから貴女、止めはしない。けれど、貴女には居場所があるでしょう? 不死の英雄よ」

 

 それは忠告。彼女は何かを絵画に隠しているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アノール・ロンド梁渡り。それは許された者だけが知り得る競技だが、今は関係ない。オスカーがビビり散らかしたあの梁の下、絵画が飾られた大広間。そこへと足を運ぶ。

 相変わらず白装束の不気味な絵画守りが陣取っているせいで絵画への接近は容易ではないが、新たな闇術である追う者たちを用いれば苦戦はしなかった。

 

 今や絵画守りの血で汚れた広間に生きて闊歩するのは私ただ一人。

 

 前に梁渡りの際に落としたシャンデリアに何故かくくりつけられていた死体から魔術のスクロールを回収すると、絵画の前で立ち止まった。さて、来たは良いがここからどうするか。

 

 ふと、部屋の隅に目が行く。そこには絵画守りとは異なった遺体が放棄されていた。その遺体の鎧に、見覚えがある。

 

「……こんなところまで飛ばされて、カッコつけても死んでちゃ意味ないわよ」

 

 それは、センの古城で出会った心折れた騎士の遺体だった。辛うじて残っていた(ソウル)は既に尽き、物言わぬ死体と化してしまっているが、確かに彼である。

 名も知らぬ騎士は、死んでようやくアノール・ロンドへと辿り着けた。そして助けられた私達はその使命を全うする。彼の死は、無駄ではなかった。

 

 形見のタワーシールドを取り、再度絵画を調べる。そしてその、絵の具で固まった表面に手を触れた瞬間だった。

 

 

 まるで水面のように絵画の表面が揺らぎ、私の手が埋まる。

 

「うわっ! 何それ!?」

 

 そして抜けない。抜けないどころか、どんどん身体が吸い寄せられていく。

 騒ぎ立てながら私はもがくも、意味はない。静かな広間に静寂が響き渡る。

 

 忌み者が棲まう世界。きっと、それも運命だったはずだ。暗い魂、遠い未来にて求めるそれは、今ここには無いが。そのきっかけが生まれてしまった。

 

 ずっと寒くて、暗くて、とても優しい絵。

 

 エレーミアス絵画世界。

 

 

 

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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