二回目のワクチンで朦朧としてるので初登校です。
人と竜に、一体どのような関係性があるのだろうか。人は何故、あの悍ましくも荘厳な古竜にこうも魅入られるのだろうか。その理由を、一介の不死であるこの私は少しばかり知っている。
人は竜へと至る事ができる。我が魔術の師である賢者ローガンは、かの白竜の書庫においてその真理に辿り着いた。彼は書物で得た知識とその優れた啓蒙により、不完全ながらも竜へと至ったのだ。そして私に屠られた。
種族を超えた子孫の繁栄は存在しない。いくら人が犬や猫に偏った愛情を傾けようが、それで自らの遺伝子を残すことはできないことは明白だ。そんなもの、教えられずとも理解している。
だが、竜と人ならば。元より同じ存在であるかもしれない我々ならば。或いは、残せるのかもしれない。そして人に近しい神々であるならば尚更だろう。人はそれを半竜と呼ぶに違いない。
目の前で、私を着せ替え人形にしている大きな少女もまた半竜である事は明白だった。そしてその白さとは、かつて私が葬ったであろう白竜と瓜二つ。つまり彼女の親とは……
「うふふ、どうでしょう。似合ってますよ」
気がつけば、満面の笑みを浮かべた半竜プリシラが私を眺めていた。余程娯楽が無かったのだろう、彼女曰く優しい絵画世界の人々は皆が皆正気ではないから遊び相手にはなるはずもない。なるとすれば、それは狂っている。
私は両手を広げて自らの装いをじっくりと眺めた。着させられたのはまるで聖女のように真っ白な装束。絵画守りの長衣。
あの悪名高いアノール・ロンド梁渡りにおける障害ナンバーワンのあの白装束共の衣装だ。頭巾は被らない。その代わり、前に火防女より回収したうす汚れた上衣のスカーフを首回りに掛ける。
元々私はスレンダーだが、このピッタリとした衣装は良く似合う。流石は半竜のお姫様だろう、良い見立てをしている。ただ無い胸が目立ってしまうからスカーフは外せないが。
手甲はゴツいものは付けない。黒革の手袋でモノクロ感を出しつつスマートさも併せ持つ。何より動きやすい。
そしてパンツは黒のタイツ。かなり厚手のタイツだが、ベルカ由来のこれはかなりの魔術耐性があるとのことだ。細くて長めの脚には映えるだろう。
何故絵画世界にまで来てファッションショーなんて事をやっているかと言えば、プリシラのふとした一言が原因だ。
「長く苦しい旅をして来たのですね……御洋服が痛々しいですから。そうだ、折角女の子なんですもの。私、こんなに大柄だから今まで着られなくて……」
という気遣いにより、彼女が貯蔵していた衣服を着させられる事となった。確かに今までずっと聖職者の服装だった。最早信仰する神など居らず、擦り切れた服を着ているのも見窄らしい。故に私は彼女の案に乗った。そして着せ替え人形と化した。数時間はずっと彼女の膨大な衣装を着る人形と化していたのだ。
「ふむ……これは悪く無いわね。動き易いし」
「リリィ、貴女はもうちょっと顔以外も磨いた方が良いと思いますよ」
耳が痛い。あまりお洒落とは無関係な人間だった故にこうして着飾ろうなんて考えたことも無かった。これからは武器や魔法類以外にも楽しみを覚えた方が良いのかもしれない。
さて、お着替えも程々に私はプリシラに背後から抱かれながら絵画世界の景色を堪能する。モフモフと抱かれ甲斐のある毛皮は寒さを感じ難い不死にも温かさを与えてくれた。人の本質が寒くて暗い闇であるとしたら、やはり暖かい何かに心惹かれるのだろう。人は他人の芝生が青く見えるのだから。
だが、時間が経つにつれて私は彼女の由来についての探究心が増していく。学者として開花しつつあった私の一面が疼く。
「ねぇ、プリシラ。貴女は半竜なのよね」
そう問えば、彼女は麗しい声で肯定した。そこに嘘偽りは無い。
「貴女の親は、誰なのかしら?」
その、あまりにも不必要に踏み入った質問にプリシラは私を撫でる手を止める。
「……他意はないわ。答えたくないならば、今の質問は忘れてちょうだい」
「……貴女は、私の生命狩りの力を求めて来たのではないのですよね?」
私の質問は、しかし異なる質問で返される。
「ええ。ここへ来たのも話した通りこの人形を拾ったからだもの」
「……こうして、貴女は私に寄り添ってくれるのですもの。たかが力のために殺そうだなんて思っちゃいないわ。そんな安い奴じゃないし」
そう。運命とは自らの力で開くものだ。あの薄暗い不死院に囚われようが、しかし運命はいつも自分で切り開いてきた。不死院のデーモンに挑み、死に、しかし諦めず。そしてオスカーがやって来た。私は運命に打ち勝った。だから、生命狩りの力など要らぬのだ。
その意志を感じ取ってくれたのだろうか。プリシラはより一層私を抱きしめる。骨が軋もうが関係無い。この痛みすらも、少女の抱擁であると考えれば愛おしい。この孤独だった少女に、真の意味で寄り添えるのは同じく孤独な乙女である私だけなのだ。
「……貴女は、友達、ですよね?」
「……会ったばかりだけど、その通りよ。種族なんてものは関係が無いもの」
そう、関係が無い。私は孤独で、どこまでも独善的だが。私を心から必要としてくれる人には報いたい。それはきっと、聖職者だった私の唯一聖職者らしい心なのかもしれない。それを偽善と言いたければ言うが良い。私は私だ。やりたいようにやるだけだ。
「……私の母は。母と言えるかも分かりませんが。かつて古竜を裏切り、大王の外戚となった白竜でした」
彼女が語り出す。やはり、そうだ。私が殺され、そして殺し返したあの白竜は彼女の親だ。
なんと言う運命の悪戯だろうか、まさか親を殺した相手が唯一の友とは。
「父は……分かりませんが。でも、神であったと聞きます。そして大王は……私に……」
言いながら、次第に俯く彼女の表情は暗い。
かの大王はその偉業と同じくらいの好色漢だったと聞く。きっと、彼女もそんな下衆な大王の被害者の一人だ。やはり神は信用ならない。
振り向き、見上げながら私はそんな彼女の頬に手を添えた。
「もういいわ。ごめんなさい、そんな事聞いてしまって」
「いいえ……こちらこそ、申し訳ありません。こんなこと、貴女に言うべきでは無いのに」
どうしてこんな純粋で孤独な少女を穢す事ができるのだろうか。神とは偉大で、膨大な
その身に余る尊大さは、一人の少女にトラウマを植えつけたのだ。それを許すわけにはいかなかった。仮にも少女を愛するようになった者として。……かく言う私も聖女を穢してしまったが。それはそれだ。
「……憤ってくれるのですね。こんな、出会ったばかりの半竜に」
「……そうね。だからでしょう。聖女達を攫い、そして魂までも穢したあの白竜を、許せなかった。そして殺したわ」
私も告白した。彼女がそうしてくれたように。彼女の親を殺したのは私だと。だが彼女はそれを責めることはしなかった。
「……優しいのですね、貴女は」
その声が、どうにも異形と化した聖女達を屠った際に聞こえたものと重なった。あれは幻聴だろうが、それでも私を慰めているように聞こえたのだ。
ああ、私も随分と罪深いようだ。如何に理由があろうとも、可憐な少女の親を殺すなどと。
「昔、兄と慕っていた方も、貴女のように優しい方でした」
優しい思い出を、プリシラは語った。
「太陽のように暖かく、そして大らかな方でした。彼は竜であろうとも分け隔てなく接し、しかし故に大王へと異を唱え、今ではその名すらも残されてはいないのです……」
「それって……」
太陽の長子。かつて大王グウィンに追放された神。今ではその記録はほぼ残されてはおらず、ソラールといった太陽の戦士だけが信仰する戦神である。
まるでオスカーのような神だ。熱く、そして優しい理想的な神。だがそんな神も、大王の意向には逆らえない。やはり権力を持った神はゴミだ。
「だから、リリィ。貴女はそうはならないで。あの人のように消えてしまわないで。私は、怖いのです。また、一人になってしまうのが……独りよがりの願いですが、それでも友達になったんですもの」
それは細やかな願いだった。半竜として長く孤独だった少女の、しかし暖かい願い。
絵画世界を脱した私は廃都イザリスへと向かう前にレアの下へと足を運んでいた。あの後プリシラとは別れたが、また戻ると約束をした。下心が出て我ながら浅ましいが、あんな美しい少女と二度と会えないのはゴメンだ。そのうち絵画世界で彼女とも愛を育もうと思う……好色家なのは私もだろうか。
さて、城下不死教会で今も尚亡者となった者達に祈りを捧げる聖女レア。彼女は私を見るや否や、その儚い笑みを私に向けた。
「御無事で何よりです。……お着替えになられたのですね」
「どう、似合うかしら?」
ポーズを取って凄む。長くロードランで戦い続けていたからか、どうにも変なポーズになってしまう。職業病とでも言えば良いか。
そんな私を見て彼女はくすりと笑う。そんなにおかしかっただろうか。
「ふふ、いえ……あんまりにも似合っているものですから」
「あら、なら良かった。一瞬笑われたせいで本気で落ち込みそうだったから」
勝気な私にも繊細な所はあるというもの。彼女はその一言を真に受けすぎたのか、薄い笑みを一転させると謝罪した。
「あぁ、申し訳ありません。そんなつもりでは……」
「……冗談よ」
そんな彼女がどうにもおかしくて私も笑う。これでお相子だ。
しばし聖女レアと触れ合い、私は火継の祭祀場へと向かう。いつの間にか居なくなったペトルスはどうでもいいが、やはりグリッグスも師を探すために旅立ったのだろう。見つかるはずもないものを探す事ほど哀れなことは無いが、それでも軽蔑はしない。彼は自分の力量を知っている。センの古城を抜け、アノール・ロンドに至れぬという事など。
さて、大沼のラレンティウスは相変わらず暇そうに呪術の火で遊んでいる。火を恐れよと言ったのは自分だろうが、しかしこのロードランは殺戮と冒涜以外のものが少なすぎる。こうでもしなければ暇は潰せないのだろう。不死は暇に弱いのだから。
「お久しぶり、アナスタシア」
檻の前に座り込み、いつものように俯く彼女に話し掛ける。
相変わらず俯き祈る姿は変わらないが、それでも少しばかり反応したのか顔が動く。ただ薄暗い牢の中ではその表情も窺い知れないが。
そんな彼女の組んだ手に、私も手を重ねる。土と灰で汚れた手は決して触り心地の良いものではない。だがそれで良いのだ。それこそ彼女が歩んできた道のりだろう。私はそれを受け入れ、触れるのだ。
するとどうだろう、アナスタシアは少しびくりと震えたが、そのうち握り返してきたでは無いか。ああ、やはり私が抱く少女達への愛は伝わるようだ。素晴らしい。
隠す事などない。私は女の子が大好きだ。
「……英雄様。いけません、こんなこと」
「ちょっと……無駄にそうやって煽らないでよ……」
ドキッと、心臓が跳ね上がる。ただ手を握っているだけなのに卑猥な事をしているみたいじゃないか。下心は丸出しだが。
スッと、アナスタシアが面を上げる。その顔や髪は煤に塗れていたが、それでも元はきめ細やかな美しい美肌。紅潮した頬は隠せなかった。
彼女は困ったように眉をハの字に曲げると、何かを求めるような目付きで……それこそ可愛らしい犬や猫が甘えるような目で私を覗いた。
これが火防女の力……いや違うけれども。
「……その扇情的な表情、火防女に有るまじきものよ」
「……申し訳、ありません」
謝る彼女を、柵越しに引き寄せる。柵で遮られても手は、口は届く。ぐいっと彼女の背中に手を回すと、私たちの顔はお互いの吐息が触れ合うほどに近付く。
不死とは熱と火を求めるものだ。そして今の私は、彼女の体温と愛の炎を求める乙女である。そこに何の違いがあろうか。
人間性とは、闇とは、実は愛なのかもしれない。ならばそれに狂うは人の性。許される事だ。
互いの口が触れ合う。灰被りの唾液は、それすらも感じさせぬほどに暖かい。
幾度も重ね、そして離れれば橋が掛かる。淫らで、そして美しい。まるで芸術作品のような美しさだ。
息も絶え絶えの私達はお互いに熱った顔を見詰める。
「……もし。もし、あのアストラの騎士が火を継いで不死の呪いが解けたのならば」
そして、私は告白する。私の思いの丈を。
「一緒にここを出て、旅をしないかな?」
その提案に、火防女として捕らえられた乙女は紅潮した顔に羨望を浮かべた。
しばらく、沈黙している中で彼女は俯く。きっと燃える炎の中と自らの使命を天秤にかけている。火防女とは、世界の終わるその時まで火防女なのだから。人を投げ出すことは許されない。
だが、そんなもの犬にでも食わせておけば良い。君は人で、暖かい心を持った乙女なのだから。
「……私は、火防女です」
彼女の口が言葉を紡ぐ。私は何も言わずにただそれを耳にしていた。
最早、声を聞くことも愛おしい。
「火防女は、使命を守り続けなければいけません。不死を、彼らを見守り、火を守らなければなりません。……けれど」
けれど。私は、その先を心待ちにして耳を澄ませる。
「本当に、不死が居なくなったのであれば……私は、貴女の、貴女だけの火防女になりたいのです」
その瞬間、私はまた唇を彼女の唇と重ねた。そこに理性などありはしない。燃え盛る篝火の炎は一層燃え、私達の心情を映し出すようだった。
浮気などしていない。私は少女が好きで、大好きで、隠しようもない愛を抱いていて、故に皆を愛する。不死に常識などありはしない。そんなもの、外の世界に捨ててきた。
そんな光景を眺める鉄板のパッチは、気付かれぬように鼻を鳴らして篝火の傍に座りこんだ。
恋慕などと、まさか不死になってまで見るとは思わなかった。それも女同士。
それは狂ってはいるのだろう。だがここロードランで狂わぬ者などいるだろうか?そもそも、狂うとは何であろう。そんなものはこの時間と時空澱んだ世界にありはしない。
あるのは事実だけ。起こった事が正義である。そして正義とは強いものが織り成す物語である。
なら、別にいいのだ。あの不死は強く、そして正しい。パッチは柄にも無く真面目な面持ちで篝火の火を見詰める。
人を愛する事など忘れてしまった彼だが、どうにもその情景は心地悪いものではなかった。
順調に百合ルートを築いていくリリィさん。狂っていようが端折ろうが、しかし愛は無限に有限であり近くも遠くもあるのです。だからこれも正しいのです。
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