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だからもっと感想書いて(強欲)
太陽虫。それはイザリスの混沌が生み出した無機物の生命。誰かの心に寄生し、操り、思想を歪めるためだけに生まれてきた忌むべき存在。そんなもの許されるはずがない。
恐らく元となった物質は太陽のメダルなのだろう。メダルに描かれた像と太陽虫は良く似ている。似ていて、太陽を信仰する者たちに取り付こうとするのだから尚更タチが悪いというものだ。
死して尚光る太陽虫は、被れば暗闇を照らす装備になるだろう。死んでいるから寄生される心配も無い。光を放つ故に熱もあれば虫の毛もある。まさにあったかでふわふわ。だから私は、混沌の本体へと向かう前に祭祀場から北の不死院へと飛ぶ。収集癖と探索の癖は不死の特権だ。
そしてあの可愛らしい姿を見せない鳥娘に、その太陽虫を捧げた。
「オアッ! オアッ! ありがとう、あったか! ふわふわ! オアッ!」
声が響く。そして巣に何処からか投げ入れられたのは一つの古ぼけた指輪。それを手にすれば僅かばかりの
老魔女の指輪
あるとき老いた魔女から送られた古い指輪。人には解せぬ文言がびっしりと刻まれているが、特に効果はないようだ。
目に見えた効果や加護は無いようだ。だがどうしてだろう、この指輪を見ていると、どうにも既視感がある。何かあったかく、そして思い出があるような……そんな感覚。だが私の中にはそんなものはない。誰かの思い出が逆流しているようだ。
魔女といえば、イザリス関連の物だろうか。ならば。
私が次に向かったのは、我が師クラーナの下。指輪を見せ、何か知っていることは無いか尋ねれば彼女は俯いた。
「……イザリスの魔女か。すまんがその話はやめてくれないか」
それは彼女のトラウマに触れたようだ。イザリスが混沌に飲まれた際、彼女は他の姉妹や兄弟を置いて一人逃げてきたのだから。一切合財捨て、何もかもから目を逸らし、そうして生きてきたのだから。
当然の事だろう。人間とは、弱い物なのだから。肉体も精神も、完全とは言い難い生き物なのだ。故に彼女は目を伏せる。だから私は、それ以上何も言わなかった。
「……なぁ、お前。混沌に向かうんだろう?」
「そのつもりです」
すると彼女は私に一つの願いを託す。それは混沌の滅亡と同義、イザリスに巣食う混沌の苗床……彼女の母の殺害だった。
「私には、できない……その力も、覚悟もない。だがお前なら……勝手な事だとは分かってる。だが、お願いだ、皆を解放してくれ」
地べたに座る彼女は、いつものような強気の女師匠ではない。ただ藁にも縋りたい哀れな女だ。だが、それもまた魅力的であると思える。別にそれが私の全てではないが。私を見上げた彼女が、また顔を伏せる。
「母の野望が不遜なものであったとて、もう千年だ……もう償いも済んでいるだろう……」
償いとは。自分で課すだけで人に請うものではない。償っていれば許されるなどと思うなかれ。許すのはいつだって他人、故に自分を許したとて何も解決するわけではないはずだ。
だが、それで師匠の心が晴れるのならば。千年積もった心の荊が取れるのであれば。満更でもない。やってやろう。もちろん条件はあるが。
「いいでしょう、引き受けます」
「……そうか、ありがとう」
「ですが師匠。貴女にも対価は支払ってもらいます」
そう言うと、彼女は少しだけ目を強張らせた。そして何を観念したのかふぅっと一つ溜息を吐く。
「……お前もまた、混沌の禁忌を欲するか。良いだろう、どうせ放浪の身だ。くれてやるさ」
何か勘違いしている。確かに呪術の技が増えるのは戦力的には素晴らしい事だが、私といえばもっと俗物的なものだろう。彼女は知らないだろうが。
私はそっと、自分の手を彼女のか細い手に重ねる。すると彼女はちょっとだけ身体をビクつかせた。まるで初心な生娘のように。それがちょっとだけ嗜虐心を煽る。
「私は、貴女が欲しい」
「……ああ、それは、つまり、そういう?」
私の情熱が籠った翠の瞳を見て何かを感じたのだろう。師匠クラーナはしどろもどろしながらそう言ってみせた。その通りだ、そう言う意味だ。
私は力強く頷く。すると彼女は私の手を払いもせず顔を背けた。不思議と彼女の白い肌が赤くなる。きっと今までこういう事を経験しなかったのだろう。呪術王ザラマンも混沌の魔女と関係を築こうとは思わなかったはずだ。
「……あまり、師を揶揄うんじゃない」
「あら、私はいつだって本気ですわ」
不死になってからは尚更だ。本気でなければ生き残れないものだろう。
師はしばらく、顔を合わせようとはしなかった。その間ずっと私はクラーナ師匠を見つめ続ける。不死が人でいられる理由の内に、その精神力がある。何があっても心は折れぬと、自らに言い聞かせ
だから、混沌の魔女が根くらべで不死に敵うはずがない。
「……もう、わかった。お前の気持ちは、十分分かったよ」
ぷっくらと頬を膨らませて、師は根負けしてみせた。思わず私の頬が緩む。やった、とうとう私は混沌の魔女すらも百合の花の輪に入れることができる!そうなればサッサとイザリスを制覇しなければ。
……いや、そういう言い方はやめよう。
「お前、他の女にもこういう事をしているのか」
そう問われ、ギクッと。私の
「まぁ良い。馬鹿弟子がやりそうなことだ、節操のない……」
「返す言葉もございません……」
本当に。アナスタシアにも冷たい目で見られたし。悪い気持ちはしなかったが、ちょっと心に来るものがある。
「なら……そうさな。これは前金だ」
と、突然。彼女は私の頬に手を添えた。どくんっと心臓の鼓動が跳ね上がる。そして近付いてくる綺麗な白い肌と赤い唇。
その唾液の煌めきは私に触れる。私のエスト混じりの揺めきが、それと交わる。口付けとは契約。約束。心と心の指切り。私は師と、彼女の母を討ち倒す約束をしたのだ。
しばらく、彼女の唾液と唇の膨らみ、そして舌の自由自在の感覚を味わう。慣れていないであろう師は頑張ったのだろう。必死に私を満足させようと舐りつく彼女に、でも私は楽しんで反撃する。
もっと、もっと。吸い付き、舐め尽くし、蹂躙する。だがそれ以上は無い。本当のお楽しみはその後で。だから、これで良い。十分な前報酬は貰った。
久しぶりに彼を見た。
前回会った時は目も当てられないくらいに落ち込んでいて、すぐにでも亡者になってしまいそうだった。だから彼を、恩師をあの子に会わせたのだ。
確かに彼の事を思っての邂逅だったのだが……まさかこんな事になるなんて。
仲間の手助けが終わり、僕と彼は元の世界へと戻れば彼は太陽をいつものように仰いで決めポーズをしてみせた。
「うむ! 太陽は此度も輝いているな! ウワッハッハッハ!」
前までの落ち込みようはなんだったのだろうか。最早ウジウジしていた頃の彼はいなかった。単純なのだろうか、まぁ今の方が余程彼らしい。
僕達は太陽の祭壇でしばし休息を取る。どうやら彼女の診断は余程効いたらしく、やれあの子は太陽だとか是非とも太陽の戦士に入れたいだとかひっきりなしに言っていた。
別に、分かっていたことだ。彼女は誰にでも等しくぶっきらぼうで優しい。その優しさは僕だけに向けられたものでは無いのだ。
だが、そう頭では分かっていても、こうして他人の好意が彼女に向くのは男として快くはなかった。仲間として、一時の相棒としてこれほど仲間の好評が嬉しいことはないのに。
醜い。人は、本心は、人間性は、醜いものだ。性悪説とでも言うべきだろう。だからこそ、人は賢愚とは別にただ善くあるべきなのだ。
「……なぁに、別に君からあの子を取ろうだなんて思ってはいないさ」
諭すように。ソラールは篝火の暖かさに触れながら語る。
「俺は、あの子の中に太陽を見た。大王とも、神々とも似つかないが……あの暖かさは確かに俺を導いてくれたんだ。俺はようやく、何をなすべきか分かったんだ」
「なすべきこと……」
そうだ、と彼は力強く言って。
「俺は、竜になる」
突拍子もなくそんな事を言い出す。
「……人が、竜に?」
まるで笑い話だったが、兜のスリットから覗く彼の瞳はとても澄んでいて、そして強欲な暗い光を伴っていた。それは今の僕に必要なもの。執念に近い。ただ力を手に入れただけの僕には無いもの。
それを彼女から導かれた彼が、とても羨ましかった。
「俺が太陽になるために……俺が、頂に辿り着くために……フフ、笑えるだろう? だが本気だぞ」
僕は何も言えなかった。最早、当初の使命は果たしてしまった僕には王の火を継ぐという使命は第三者から与えられただけのものに過ぎない。
彼女もまた、何かの使命に突き動かされているのだろうか。決して言葉では認めず、だが心の奥底では何かの目的があるのだろうか。だからあんなにも勇猛に戦えるのだろうか。
僕にはまだ、分からない。
そのすぐ後だ。ソラール殿が我々太陽の戦士の前から姿を消したのは。太陽の戦士に明確な長は存在しない。ただ信仰の下の集まりだったが……それでも、彼は戦士達の導き手だった。
それが居なくなり、ならば後は瓦解していくのは必然。だから彼らは、次の纏め役を若き騎士に求めた。
それが自らの糧となるならばと。僕は、太陽の戦士の長となった。僕という器は、しかし相変わらず自分を持たないのだ。
またしても、私は珍妙な玉葱頭と出会う事になる。
混沌の廃都イザリス、その一画で、カタリナの騎士ジークマイヤーが眠りこけていた。その眼下には毒沼と混沌の魔物達が蠢いている……どうやらこの先に行きたくてどうしようか考えている内に眠ってしまったようだ。呑気なものだ。
彼の特徴的な兜を叩く。するとイビキをかいていたジークマイヤーはおお、と起きて私を眺めた。
「お、おお! 貴公か、すまぬ。私とした事が考え耽っていたらうとうとしてしまっていた。どうも温かいところはいかんな……それで、どうしたのだ?」
うとうとというか眠っていただろうに。まぁ良い、今度はなんだと尋ねようとして彼は口を開いた。
「ああ、言わずとも分かるぞ。あの化け物どもに難儀しているのだろう?」
「いや……まぁ、そう言うことでいいわ」
人の話を聞かない親父だ、まったく。娘を見習え。
「なに、恥じることはない。私も同じだからな。……だが、貴公には色々と世話になった」
呟くように彼は言う。その声色にいつものような能天気さは無い。ただあるのは、思い詰めた戦士の言葉。
「時が、来たのかもしれんな」
気が付かない私ではなかった。彼は、死に過ぎたのだろう。今までの能天気さは元来のものでもあるが、その恐怖と苦痛を凌ぐための防衛本能。彼はじきに、亡者と化すに違いない。
私は彼の肩を掴んだ。
「やめなさい。娘はどうするの? 彼女は貴方のためにこの死地に来たのよ!」
「分かっている。分かっているよ……だが、私には何もできない。できなかったんだ。だから、ここで私はなすべきことをなすだけだ」
私の手を振り解いたジークマイヤーは特大剣を担ぐと下の毒沼地帯へと飛び込む。私が制止する隙は無かった。
「私が奴らを引きつける! その隙に貴公は目的を果たしたまえ! うおおおりゃあああッ!!!!!!」
「このッ……!」
すかさず私も飛び込む。解毒用の苔玉はまだ沢山あるから何とでもなる。私は斧槍を振り上げると、近場の異形を切り裂いた。
ジークマイヤーをここで死なせるわけにはいかない。あの子を悲しませるなんて、悲劇なんて、もううんざりだ。
勇ましく戦うジークマイヤーは、勇猛果敢に異形を切り裂く。重い一撃は混沌生まれの異形を屠るには十分すぎた。
だが、うまくはいかない。人生とは悲劇に溢れている。殺すものがいれば守るものもいる。ならば。
━━闇霊 トゲの騎士カーク に侵入されました!━━
あのトゲ野郎がこんな時に侵入してきたのだ。
「ぬっ!?」
異形を倒し息を切らすジークマイヤーに、身軽なカークが迫る。初手の一撃は何とか特大剣で防げたが。すぐに闇霊は転がり、鎧に着いた全身のトゲでカタリナの騎士を傷付ける。
私は未だ迫る異形を一手に引き受けながら、しかし加勢することができない。
「ちょこまかと!」
大振りの一撃は、しかし機動性に勝るカークに届かぬ。それどころか背後に回られその直剣を背に突き刺されてしまったではないか。
致命の一撃。バックスタブとも呼ばれる一撃は、トゲの出血効果も相まって殺すには十分過ぎた。
兜のスリットから血が噴き出る。彼の名を叫べば、しかしカタリナの騎士は倒れぬ。剣を引き抜こうとしたカークに、ジークマイヤーは反撃を試みた。
「カタリナの騎士を、舐めるなよッ!」
左手にタリスマンを。唱えるは、神の怒りを。
全てを吹き飛ばし押し潰す一撃は、カークを一気に弾き飛ばした。それだけではない、物理に依存しない衝撃波は内側の身体を、中身からシェイクするものだ。
一転して死にかけるカークに、ジークマイヤーはまるで窮鼠猫を噛むといった様子で特大剣を打ちつけた。
両断される赤い身体。闇霊はまたしても返り討ちにあったのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ……なんだ、貴公。まだ逃げていなかったのか」
エストを飲み傷を癒すジークマイヤー。だが、どうにもその効き目が薄いようにも見えた。
「いや、むしろ助けられた、のだろうな。だが、良かった……」
「毒消しならまだあるわ。使いなさい」
無理矢理彼の手に苔玉を掴ませる。すると彼は安心したのか自嘲気味に笑ってみせた。
「貴公には世話になりっぱなしだ。……私は少し眠る事にするよ」
「こんな場所で?」
「なぁに、どこでもいつでも眠るのは私の特技さ。ハッハッハ……」
もう、彼は助からない。今は死なないが、今度死んだらもう終わりだ。どうにかしたい。だが、もうどうにもできない。悲劇が、先に待っている。
私はただ立ち尽くした。毒で身を侵されながら、私はどうにかしたくて、しかし出来なくて何もできない。私は無力だ。
「……貴公。貴公は、恩人だ。貴公が気に病むことはないさ」
「……娘はどうするの」
「ああ……最期くらい、顔を合わせるさ」
ありがとう、と。受ける資格もない。私は何もできず、しかし進まなくてはならなかった。
「……姉さん? どうしたの?」
どうしたらいいのか分からなくて、たまたま立ち寄った蜘蛛姫様にそう言われた。
驚く暇なんてなかった。彼女の姉は私が殺したのだから。無垢で健気で、誰よりも人思いの彼女の肉親を。私は殺してしまった。
「私なら大丈夫だよ、姉さんがいるもの……今、あんまり卵が痛くないの。だから大丈夫」
この指輪が、目の見えぬ彼女を惑わしているのだろう。私が姉であるという欺瞞だ。
私は声すらも発せられなかった。ただ膝から崩れ落ち、自分が犯した過ちと虚しさと無力さに打ちひしがれる。
「姉さん、泣かないで。私なら大丈夫だから。ね?」
優しい、彼女の手が私の頬を支える。最早痛覚や触覚すらもあやふやな彼女では、私と姉の区別はつかなかった。
世界は、悲劇だ。悲劇が溢れ喜劇になる事は無い。私はその悲劇を、死ぬ事なく見続けなくてはならない。それが不死。人が与えられた罪の印。
どれだけ私は図太いのだろう。これだけ打ち拉がれながらも亡者になることが無いなんて。人間性が摩耗しないなんて。
神よりも欲深くて、闇よりも暗い。私とはそういう人間なんだ。
だからこうして、最初の呪術の師であるラレンティウスをいつものように殺せるのだ。憧れを求め病み村へと向かい、しかし成し遂げられず亡者と化した大沼の師。
それは斧槍を突き立てれば、土塊のように消えて行く。ちっぽけな
ああ。全て、私のせいだ。私が魔女の火を見せつけなければ。彼はこうして、朽ち果てる事もなかった。私が彼の魂を殺したのだ。
私は殺すことしかできない。殺し奪うことでしか自分を表せない。
そんな、哀れな女。
「……混沌を、殺さなければ」
それでも進まなければならない。悲劇の果てに待ち受ける野望のために。理想のために。
そのためならば神すらも殺す。
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