暗い魂の乙女   作:Ciels

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ハム王戦。初回はマジで苦労しました。大体四人の公王


感想や評価下さい。マジで待ってます。


深淵、公王と、異端の魔女と、そして闇撫でと

 

 小ロンド遺跡、その水門を開く。

 

 神々とはまったく酷いものだ。王達を封じ込めるためだけに国ごと水没させるなどと、信仰されている神とは思えない非道さである。事実、その王達に護られていた人々は無実だったはずだ。神共はただ、闇に染まった公王共と配下であるダークレイスを屠れば良いだけなのに。それだけの強さを持っているのに。

 ウーラシールでのマヌスの一件が尾を引いているのは明らかだろう。彼らの最強の騎士、アルトリウスが深淵に侵されたとなれば。まぁ神々は闇に弱いし、ある種仕方の無い事だったのかもしれない。

 

 門から流れ出る水は、まるで深海のようだ。

 

 海は何もかも飲み込む。真実も伝承も、そして呪いも、須く包み込み眠りにつかせる。

 その水が無くなって仕舞えば、残るものは眠っていた呪いだけ。そこにはかつての市民達が、土塊と化している。最早死んでしまって、しかし死にきれない不死もまた眠りの水によってその機能を停止させている。

 

 それでも動けるのは、深海以上の闇。魂喰らいのダークレイス共。高台から見ていても、水が抜かれた小ロンドを徘徊するダークレイスが見える。奴らは眠りから目覚めると、魂を求めてまた歩み出すのだ。

 

 まぁ、邪魔するのならば排除するだけだが。如何に強いと言っても殺せないはずがない。我々は神ですら殺せるのだから。

 

 

 小ロンドの遺跡は地獄だ。最早原型を留めない不死の集合体やダークレイスがひっきりなしに襲いかかってくる。おまけに幽霊まで徘徊しているとなればここは化け物の見本市のようになってしまっている。

 面倒なのは幽霊だ。何せ攻撃が通らない。そして、その対処に必要なのが、一時の呪い、という誰かの呪いが込められた……腕だ。千切られたのかはわからないが、そんな悪趣味なものを用いることで私自身に呪いが掛かって幽霊を攻撃できるようになるのだが、いかんせんこの呪いの効果時間が短い。多分幽霊を攻撃するための呪いではないから、本来の目的に用いられないと呪いが逃げていってしまうのだろう。

 

 水の中にあっても燻らないとても大きな種火を拾い、手当たり次第にダークレイスを屠る。確かに剣技は中々の物だし、防御力も闇に染まった鎧のお陰で高いのだが、それにしては攻撃が単調だ。きっと闇に染まったせいで頭の中まで深淵と化してしまっているのだろう。戦士としてそれではいけない。

 こいつらが楔石の塊や原盤を落とすのは評価する。これで私の打刀を強化できるからね。

 

 

 しかしこれがダークレイスとは。神々が恐れるほどのものだろうか?ただ単に私が闇に近い人間であるという理由からその恐ろしさが分からないだけか?

 

 濃霧を潜り、遺跡の外へと出る。相変わらず薄暗いが、室内にいるよりはマシだ。

 さくっとダークレイスにパリィを決め、幽霊の内側に入り込んで斬り裂くと召喚のサインを見つける。こんな所に書き込むとは、他世界の不死達も物好きだな。

 

「……ビアトリスじゃない」

 

 そのサインを書き込んだ主は、かつて月光蝶と戦った際に手助けしてもらった異端の魔女、ビアトリス。シャイであった彼女とはそれっきり関わりがなかったが、こうしてまた出会えるとは。私は実に可憐な女性に愛されているな。

 あの時はまだ百合に目覚めていなかったからなァ……とりあえず召喚したら抱きしめよう。

 

 サインに触れ、ビアトリスを召喚する。すると彼女は白い霊体として召喚され、こちらに一礼した。私もぺこりと一礼すれば彼女は私がかつて呼んだ者だと理解したらしい。少しばかり驚いた様子を見せていた。

 

「それでは失礼して」

 

 断りを入れて私は彼女を抱きしめる。これは性的行為ではない。ただの戯れだ。

 如何に霊体といえども実体はある。抱き締めれば、その柔らかい感触が腕と身体に伝わってきた。

 暴れる彼女もまた可愛い。内気で陰気っぽい魔女は、しかし私の少女への愛の中に含まれる。良い者だな、少女というものは……

 

 しばらく彼女を堪能すれば、息切れしたビアトリスとは対照的に私は晴々とした気持ちで深淵に挑めるというものだ。

 

「ああ、やっぱり初々しくも自ら百合を受け入れきれない少女も可愛らしいわね」

 

 どこか達観した私がそう言えば、彼女は白い蝋で地面に何かメッセージを書き込む。

 

 

 引き返せ!

 

 

 そんな、説得にも似たメッセージは、しかし私には届かない。引き返す場所などない。私は、白百合は百合の中に芽吹いてこそ輝くのだから。それこそ私の性。

 まぁ、そうやって強情な子を落とすのもまた良いだろう。今までの少女達は皆私に攻められても満更でもなさそうだったしなぁ。

 アナスタシア、レア、クラーナ……。

 

 

「レア……クラーナ師匠……」

 

 

 彼女達を思い出し一人意気消沈する。側から見れば私は躁鬱のようにも見えるに違いない。だがそれだけ彼女達がいなくなってしまったことはショックが大きいのだ。

 二人とも素晴らしい女性だった。私の歪んだ愛を受け入れてくれた彼女達が恋しい。

 

 

 

 

 

 

 

 崩れかけた塔に、濃霧が張っている。その中へと入ればそこは下へと続く螺旋階段になっていた。下へ進めば進むほどにその闇は増していく……どうやら深淵はこの下にあるようだ。

 ビアトリスはどうやら深淵へと至る道を知っているようだ。先導する彼女の背中を追う。するとある段階から螺旋階段は崩れ落ちていて行き止まり。下には深淵があるだけ……

 

「行き止まり?」

 

 そう問えば、彼女は振り返り自らの左手を見せてきた。正確にはその薬指に嵌められた指輪を。それはアルトリウスの契約。深淵へと挑む者に託された、光の遺志。

 私もまた、それを薬指に装備して同じように見せつける。

 

「私達の結婚指輪みたいね、これ」

 

 ニヤける私にビアトリスは呆れたような顔を見せたが、次の瞬間には彼女の手が私の手を引いていた。

 刹那、全身を浮遊感が襲う。彼女は自分諸共深淵へと私を引き摺り込んだのだ。

 

「ちょっとぉおお!!!!!!」

 

 きっとこれが深淵へと至るための正規の手段なのだろう。だがそれにしては無理矢理すぎやしないだろうか。

 落下というのは不死にとってはトラウマだ。私も散々センの古城で落下死したし、彼女だってそうであるはずだ。

 その恐怖を悟ってか、彼女は落下しながら私を抱きしめた。風を受けて赤毛の癖っ毛が揺れている。とんがり帽子は不思議と頭に被さったままだが、それでもツバの部分が浮き上がり彼女の顔がよく見える。

 

 綺麗な、少女だった。

 

 内気で、どこか陰気な彼女はどこにもいない。怖がる私を見て楽しみ、笑顔を見せるどこにでもいるような……可愛らしい子。

 目の前にあるその顔は、侵し難い聖域のようでもあって。きっといつもの私ならばそのまま唇同士でむちゅっとしていたはずだが、それすらも憚られるほど綺麗だ。

 

 異端の魔女と罵られ、しかし本当はこんなにも美しいとは。やはり少女は奥深い。

 

「綺麗よ、貴女」

 

 その声は落下する空気の音で遮られる。これから深淵へと挑むのに、私達は笑っていた。例えこれが二回目の邂逅であろうとも。孤独な不死は、一度共に戦えばそれだけで縁がある。そういう不思議な生き物なのだ。

 

 

 

 そうして深淵の底にたどり着く。ただ当たり前のように何もない無に着地し、私は周囲を見渡した。

 暗闇。何もない、本当に何もない。マヌスと戦った深淵の穴とは違い、地面すらもないこの場所で、私とビアトリスは輝いている。それは谷に咲く華のように。白百合とは、やはり闇に咲いてこそ輝かしい。

 

 だが何もない場所などない。ましてやここは、闇そのもの。ビアトリスは隣でずっと警戒している。まるでこの場所に出てくる誰かを知っているかのように。

 

 それは、確かに現れた。

 

 最早人としての形を保てず、辛うじて手足と顔だけが人であった証である、枯れ木のような長い身体。ただ左腕は最早変質しきっており、意味を成していない。

 一人、何も無い闇から生まれたそれは咆哮をするとこちらに浮遊してきた。あれが公王なのだろう。だが一人とは。公王は四人と聞いていたが。

 

 何にせよ戦いを望むのであれば剣を向けよう。私は左手に打刀、右手に黄金の残光を握り公王へと向かう。

 

 ビアトリスのソウルの大矢が私の横を掠め、公王に当たる。だが闇に属するものというのは魔術に滅法強いらしい、効いているようには見えない。

 公王は魔術を無視して私に剣を振るう。とても長く、まるで枝のような剣だが鋭さは持ち合わせているようだ。それをローリングで回避すると打刀で突き、連続して黄金の残光を振るう。黒い森の庭で得た技術、二刀流。短く斬撃に優れた残光と打刀の長い突き。一長一短だが、互いにその不利を打ち消している。

 

 取り付かれたのが余程嫌だったのか、公王は何とも言えない顔をして剣を左右に薙ぐ。随分と表情が豊かだ。最初なんて凛々しい顔だったのに。

 横薙ぎを転がって回避すれば、最後に突きをして来る。だが動きは単調で遅い。跳躍してそれを回避すれば、私は剣の上に乗って一気に公王に駆け出す。公王は驚いたような顔を見せた。

 

「首、貰ったわ」

 

 両手の刀と曲剣で首を斬り落とす。公王は案外呆気なく(ソウル)へと霧散してみせた。闇だなんだと言っといて随分と弱い。だったら四人って何なのよ。

 

 

 だが、すぐにその違和感の正体に気がつく。ビアトリスが何もしていないなと思っていれば、後方で彼女は新たな公王と戦っていた。

 どうやらいつの間にか二人目が現れていたらしい。なるほど、どうやらこのまま四人倒さないといけないのだろう。私はすぐに左手に結晶の錫杖を取り出すと、闇術を発動する。

 

「追う者たち。行きなさい、あんたらと同じ闇よ」

 

 闇に与えた仮初の命が、強大な(ソウル)目掛けて突っ込んでいく。闇には闇を。闇の強大さには、同じく深淵の魔物であろうとも耐えきれないはずだ。

 

 ビアトリスを執拗に攻撃していた二人目の公王は、迫る闇の落し子に気がつくとギョッとした表情をしていた。瞬時に剣で防御するも、幾つかの闇が剣をすり抜け直接当たる。絶叫している辺り、かなりのダメージを与えたようだ。やはり闇術が有効だ。

 

「ちょっと!なんでそんなにボロボロなのよ!」

 

 苦しむ公王から距離を取ったビアトリスに怒鳴る。そんなに時間は経っていないはずだが、彼女はもうボロボロにやられていた。それもそうだろう、杖以外の持ち物はこれまたボロボロの木の板で出来た盾なのだから。

 

「あのね、もうちょっとその盾何とかならなかったの?魔術師って本当に変わってるわね……」

 

 ローガンと言い、優秀な魔術師ほど癖が強い。まぁ彼女の場合それもまたドジっ子みたいで可愛いが。

 不意に、公王が放った魔術から草紋の盾でエストを飲んで回復する彼女を守る。元々盾としてはあまり良い性能では無いからかなり腕が痛いが、木の板よりはマシだ。盾っていうのはこういう物の事を言うのだ。

 

 回復したビアトリスは、またしても珍しい杖で魔術を放つ。できれば闇術で攻撃してほしいが、まぁ闇術自体殆ど知られていない秘技だから仕方ない。案の定、彼女のソウルの太矢はあまり効いている様子はなかった。

 

「これじゃどっちが助けに来たのか分からないわね」

 

 無鉄砲なのは愛らしい事でもある。私は闇の玉を撃ち出す。それは単発で遅いものだが、それ故強力でもある。

 公王は余程闇術が恐ろしいのか、それを全力で回避する。横にスライドするだけで避けられてしまうのはやはり難点か。

 

「でも、もう遅いわ」

 

 その時にはもう私は公王の懐に入り込んでいた。すぐ様闇の飛沫を詠唱すれば、その全てが拡散する前に公王の身体を消し飛ばす。これで二人目。

 

「何だか無駄に強い雑魚って感じね」

 

 気がつけば三人目が現れていた。おまけに四人目までいる始末。だが奴らを倒せば最後だろう。不安だが二手に別れれば複数戦にならずに一対一で戦える。

 

「ビアトリスは右側をやりなさい!」

 

 そう言って可愛らしくとことこ走るビアトリスの横を追い抜く。ほんと可愛いわねこの子、是非この後本体と会いたいわ。

 左側の公王もまた同じ見た目で同じ攻撃をしてくる。もうちょっと個性とか無いんだろうか。

 

 闇術はもう飽きたから、斧槍で始末する。大王の僕である黒騎士の斧槍を見た公王は、それだけで怒りを顔に出す。どうやら神は好きじゃないみたいだ。その強大なソウルは神である大王から与えられた物なのに。

 

 不意に公王が縮こまり、何か魔力を溜め出した。直感的にそれが範囲魔術である事を悟る。分かりやすいその動きは、やはり予想した通りのもの。

 公王から溢れる魔術と闇術の波動は周辺を吹き飛ばした。まぁ範囲外にいた私からすれば何ともないのだが。

 

I’m invincible(私は無敵故),I’m unavoidable(逃げる事は叶わぬ),I’m undebatable.(その余地すらない)……やっぱり弱いわよ、あんたら」

 

 魔術を放って隙だらけな公王を好きなだけ斬り刻む。回転斬り、突き刺し、薙ぎ払い。一撃与える度に怯む公王はサンドバッグのようなものだ。

 それでも反撃してくる根性は認めよう。剣を振るう公王は最早やけになっていた。

 

 振り下ろしをステップして避ければ、その腕を斬り落とす。多少木のように硬いが関係無い。限界まで強化された斧槍であれば容易く斬り落とせた。

 顔を歪めて叫ぶ公王の胴を斧槍で貫けば、奴は死滅する。残るは一体。

 

「……って、苦戦してるじゃない」

 

 ビアトリスの方を見れば、彼女は公王の木のような左腕に拘束されていた。何やら闇術をそのまま放たれてダメージを受けている……その姿が、やけに、こう、欲情させるものだ。

 

「……まぁ、そういうのもアリなのかしらね」

 

 言いながら、こちらに気がついていない公王の左肩をバッサリと斬り捨てる。拘束が解けたビアトリスはもう瀕死だ。

 

「ほら、今のうちに回復しなさい」

 

 彼女のタフさには敬意を表するが、それにしたってもうちょっと賢く戦えないものか。

 公王がもがき苦しむ隙にビアトリスはエスト瓶を飲む。何だかんだ守ってあげたくなるのはおかしい事だろうか。

 

 さて、最早公王は死に体だ。咄嗟に左手に呪術の火を灯し、混沌の大火球を生み出す。それを一気に公王へと投げれば、彼は混沌から生まれた溶岩に身を焼かれた。

 闇の中でも燃え盛る混沌は目に悪い。焼かれ、溶ける公王はそのまま火の中に消えて行く。

 

「ふん、たかが深淵に飲み込まれた王なんてそんなもんよ」

 

 こちとら深淵の主と戦ったんだ。彼らなど敵では無い。ただ数が多いだけの雑魚。

 

「……おかしいわね。もう一人見えるんだけれど」

 

 だが、雑魚も数だけは多い。四人倒したはずなのに、公王がもう一人現れた。四人の公王じゃなくて五人の公王じゃないか。いや、大体四人の公王と言うべきか。

 

「ほら、サポートしてあげるから一体くらいは倒してちょうだいな」

 

 横でボーッと立ち尽くすビアトリスの背中を押す。すると彼女はどこか惚けたような、それでいて泣きそうな顔でこちらを見ていた。何だろうか、そんなに強く言ったつもりは無いのだが。

 だがすぐに彼女は公王へと走る。そして浮遊するソウルの塊を詠唱し、公王へと攻撃した。

 

「最後くらいは私も魔術師らしくやりましょうか」

 

 そう言いながら、私は結晶の錫杖でソウルの結晶槍を生み出す。

 結晶化するほどに濃縮されたソウルの槍は、如何に深淵の魔物であろうとも無視できるものではない。ビアトリスのソウルの塊と、私の結晶槍が当たったのは同時。するとそれだけで、最後の公王は消し飛んだ。まさか私の結晶槍がそこまでの威力だったわけではあるまい。彼女の、浮遊するソウルの塊が、全身全霊を掛けた一撃だったのだ。

 

 そうまでして、公王を倒そうとする彼女の意図が、今は分からない。

 

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 最早公王は死んだ。奴が持つ偉大なる(ソウル)も私の中に流れている。そのうち役目を果たしたビアトリスも元の世界に帰るだろう。

 

「やるじゃない! 最初からそれやってくれれば良かったんだけど」

 

 彼女の後ろからそう言葉を掛け、その肩に手を掛ける。

 

 

 彼女は、泣いていた。

 

 不死が泣けるはずもなく。そして、悲しみではなく泣くほどに嬉しいという、感情。

 

 もう、察してしまった。

 

 

「……、やったじゃない。貴女の戦いは、無駄じゃなかったんだよ」

 

 そんな風に、ありきたりな言葉をかける。彼女は静かに頷いていた。

 もう消え行く彼女は、涙を流しながらこちらにお辞儀をする。私も自然と、丁寧に御辞儀を返した。

 

 彼女の口が、動く。

 

 確かにその口は、感謝の言葉を述べていた。

 

 

「私も、ありがとうね。深淵でも、心細くなかったわ」

 

 

 感謝には感謝を。だから、異端と呼ばれた魔女は最大の感謝を最期に贈るのだ。

 

 

 彼女に手を引かれる。そして、そっと抱きしめられた。きっと私が少女を愛する事を理解したのだろう。故に、その唇は私の頬に触れた。

 恋人に贈るものではない。それは親愛の証。たった二回、それだけしか彼女と関わらなかったが。

 それでも彼女と、何かを結べた。私は一人、頬の感触を確かめる。良いものだ。こういう形の愛も。人とは、直球なものだけが最上ではない。だからこうして私は愛を受け入れた。

 

 一人私は、去り際に彼女が残した杖を拾う。それは決して、優れた杖ではない。だが彼女の生き様と、誇りは私が受け継いだのだ。継承、真私は人の遺志に生かされている。

 

 小ロンド。そこは亡霊と無念に溢れる呪われた亡国。だが、それはきっと救いようのないものだけじゃない。

 ビアトリスのような者も、その遺志を残せる。だから、私は彼女に愛を貰えた。良いじゃ無いか、それで。

 

 

 

 

 

 ビアトリスの杖

 

 異端の魔女ビアトリスの杖。

ヴィンハイムのそれとは異なるもの。

 

杖自体古く、また古い魔術様式の跡も見える。

代々受け継がれてきたものだろうか。

 

 異端の魔女は一人深淵に挑んで散っていった。だがその怨念はとある少女との邂逅を齎し、最期には救われたのだろう。少女はそう、信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人と闇は、切っては切れぬ間柄。であるならば。何故神々は人の英雄に最初の火を継がせようとする。

 その答えを、目の前の世界蛇は知っている。

 

 突如、深淵に現れた篝火。そしてその傍に潜む、フラムトによく似た蛇は……自らをカアスと名乗った。

 

「ようこそ……不死の英雄よ。我は世界の蛇、闇撫でのカアス」

 

「……フラムトも胡散臭かったけれど。あんたも大概ね」

 

 見ただけで分かる。こいつは光を望むフラムトの対、闇の申し子だ。口も臭い。

 

「奴と同一視するでない。……まぁ良い。我は貴公ら人を導き、真実を伝える者だ」

 

 ほら、胡散臭い。導き手なんて自分で言う奴に碌な人間はいなかった。こいつは人ですら無いが。

 

「何でも良いけどね。フラムトは火を継げっていうなら、あんたはさしずめ火を消して闇を齎せなんて言うんでしょう?」

 

 臆せずそう言えば、彼はカッパカッパと口を鳴らして感嘆した。

 

「ほう……貴公、見事だ。ならば我も包み隠さず真実を話そう。知りたくはないか?貴公ら人と、不死の真実を」

 

 真実。真実など、あるはずがない。あるのは事実だけだ。真実は人によって変わる。真実は嘘であるし真である。

 だがそれを分かってはいても、学者に足を突っ込んだ私は知りたくて仕方が無かった。愚かな好奇というものは、猫をも殺す。それほど甘いものなのだ。

 

 秘密というものは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の、真実。不死の真実。どちらでも良い。

 それは人を絶望に叩き落とすだけの力がある。言葉には、力がある。

 だからこそ、本当ならば不死の勇者であれば絶望に打ち拉がれていたはずだ。

 

 けれどそれは、私からしてみればいくつかある推測の一つに他ならなかった。だから大して絶望もしないし、ああやっぱりか、という諦めの方が大きいのだ。

 

 

 蛇は、言ってみせた。人の祖先、その話。

 

 人の祖先であるという名も知らぬ小人。それは王たちが最初の火から偉大なソウルを見出した後、僅かに残ったそれを見つけたのだ。

 

 ダークソウル。暗い、暗い魂を。

 

 そして小人たちは火の終わりを待った。火が消えれば闇の時代。即ち人の時代。であれば、それは当たり前の事。

 だが大王グウィンは火の時代の終わり、そして闇を恐れ、人に封をしてしまったのだ。

 闇の王、その誕生を恐れて。

 

 その封こそ、人の死という概念。人が死ぬというのは、ダークソウルに封をするという事だ。つまり私達が外の世界で正常だと思っていたことこそ、人にとっては異常だったのだろう。

 

 だが、死ねぬ事以上に苦しい事があろうか。そんな正常、最早狂気に他ならぬ。

 

 不死が生まれるというのは火の封が翳り、人の本性が表れているという事に他ならぬ。

 亡者もまた、その弊害。不完全に封が解け不死となってしまった人間は、その不完全さ故に亡者となってしまうのだろう。

 

 とにかく神はそれを恐れ、火を継いで親族である神々に人を導かせた。それこそ当然であるように。人とは真、愚かである事を逆手にとって。

 

 

「我は、世界蛇」

 

 彼は低く抑揚の無い声で告げる。

 

「正しい時代を、王を探す者。だがもう一人の蛇であるフラムトは、理を忘れ王グウィンの友に堕した。よいか、不死の勇者よ。我カアスが貴公に正しい使命を伝えよう」

 

 蛇は、人を堕落させるものだ。

 

「理に反して火を継ぎ、今や消えかけの王グウィンを殺し、四人目の王となり闇の時代(人の時代)を齎すのだ」

 

 それは甘い誘惑。人としての本能が、その実闇を求めている。だからこその甘さ。

 だがそれは、決して私の意志を揺さぶるものでは無かった。闇の時代とか王とか、馬鹿馬鹿しい。そんなものは勝手に誰かがやれば良い。歯向かうならば殺すだけだ。

 

 

 だが。

 

 

 人が不死である事こそ、当たり前の世であるならば。

 

 

 不死に起こる悲劇は、起こり得ない。

 

 

 世界は、そんな悲劇を生み出さない。

 

 

 火防女も、火を守る役目を終えられる。

 

 

 アナスタシアを解放できる。

 

 

 正気に戻る。駄目だ、それはリスクが大き過ぎる。今の人の世は火がある事を前提としている。それが崩壊すれば人の世は混沌とする。きっと悲劇も起きる。私は不死で、その私を閉じ込めた奴らはとんでもなくムカつくが、それでもそんな事で全世界の行く末を決めてはならない。

 

 決められない。私では。無理だ、今は。

 

「使命に縛られるのは好きじゃないわ」

 

 そう言って彼に背を向ける。

 

「ふむ……貴公、悩んでいるな」

 

 そんなもの、すぐに見破られる。

 

「貴公、やはり見事な不死だ。見てくれはただの子供だが、その啓蒙で様々な思惑と事象を考え抜いている……だからこそ、人は、闇は迎えねばならん」

 

 オエッと、カアスが何かを吐き出す。それは赤黒い、何かの(ソウル)

 

「貴公、これを携えよ」

 

 それを私は拾う。それは、ダークハンド。闇に属し、闇を現す魂喰らいの証。

 ダークレイスの証。

 

「そして、これを」

 

 ひび割れた赤い瞳のオーブを、ダークハンドに移される。これは……これは、他世界に侵入して他人を殺すためのもの。人間性を奪うためだけの、悪しきオーブ。

 こいつは私にダークレイスになれというのか。

 

「貴公、今はまだ悩むが良い。だが、分かるぞ。貴公はきっと、闇を求める。故に学べ。戦え。奪え。そうして見えるものもあるだろう」

 

 見透かされたように言われ、私は返す言葉がなかった。

 人であり、神が嫌いな私は闇を求めている。だが、本当にそれで救いはあるのだろうか?分からない。分からない……

 

 私はどうしたら良いの?誰も、それを教えてくれない。

 

 

「……少し、考えさせて」

 

 

 か細く呟く私に、カアスは表情を変える事なく言う。

 

「良い。しばらく我もここに留まるであろう。それまでは、待つとしようではないか」

 

 火の時代の終わり。それは神々に支配された人々が、ようやく解放される始まりの時。

 だが闇とは。悍ましい闇とは。それが人の本質であるのならば、火の終わりに来たる時代であるのであれば、それは何とも救いようがないじゃないか。

 

 私は、どうすれば良いんだろう。

 

 学ぶ必要がある。もっと、もっと。知恵を持つ必要が。そして奪う必要もある。人間性を。いっぱい、いっぱい集めて、私の人間性を啓く必要がある。

 

 やる事が決まった。今はただ、学び戦うだけ。

 




もう大体見えてきましたね。
感想、評価お待ちしております。

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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