ロードラン、我ら学びの時だ
古く。かつて神々の地がロードランと呼ばれていた頃。不死の勇者達の間で、とある闇霊が猛威を振るっていた。
それは赤くとも白百合のように清廉であり。しかし神々のように勇ましく。デーモンのように卑劣でもあったという。そもそも彼女は元来戦士ではなく、故に戦い方に縛られなかったのだ。
その戦いは熾烈を極め、撃退できた事は極稀であったという。
素早く、苛烈で、姿の見えない万能の攻撃を持つダークレイス。それはいつしか不死達の間で真しやかに囁かれたという。
古い闇姫、と。
今よりもっと、古い時代の話だ。当の本人は恥ずかしがってこの異名を用いなかったらしいが。
とある世界の城下不死教区。ここに、名も無き英雄にならんとする不死がいた。
その不死は過去に騎士として名を馳せた男で、他の英雄と同じく不死院に閉じ込められ終末を待つ身だったが、突然の騎士の手助けによりロードランへと至った。今はまだ、鐘を鳴らす為にガーゴイルへと挑もうとしている所だ。
馴染みの鍛冶屋から武器を受け取り、彼は塔へと向かう。道中の亡者やバルデル兵、そしてバーニス騎士は手強いが、それでも
彼は正に、慢心していた。
ふと、彼の
そうして彼は、初めての体験をする。侵入という、時の澱んだロードランでしかあり得ない忌まわしい体験を。
唐突に、そんな言葉が頭を過ぎる。それは気のせいではない。きっと彼は今後様々な闇霊と遭遇するだろう。そしてその度に、彼はこの言葉を感じるはずだ。
彼は身構えながら、教会内の敵を殲滅する。中は何も変わらないが、闇霊がいつ来てもおかしくはない。
騎士は正々堂々と戦う事を好む。故に彼はその舞台を作り上げたのだ。
だが、どういうわけかいくら待っても闇霊は来ないではないか。
もしかすれば、臆したのかもしれない。彼もそれなりに名高い騎士だ。世界が異なればその異名は届かないかもしれないが、もしかするとその
だから彼は、先へ進むことを望んだ。
伝導者のいる二階へ進み、そして奥の梯子へと足をかける。
戦わないで済むのならそれで良い。どうせこの先には試練が待ち構えているのだろうから。そう思って。
そうして梯子を登り切る時。
彼が、最上階の床に手をかけた瞬間、誰かが彼の頭を上から蹴飛ばした。
「ぐわっ!?」
思わず彼は呻き、バランスを崩して梯子から落下する。甲冑を着込んだ彼の重量は重い。クレイモアを背負っていれば尚更だろう。
だがそこは、不死というべきか。ギリギリ彼の生命は保たれていた。身体中痛むが、それでも立ち上がる事ができる。
明らかに、今の蹴りは闇霊のものだった。姿はまるで見えなかったが、きっと奴はこの教会に先に潜り込み、彼が登ってくるのを待っていたのだ。
そう考えると急に怒りが込み上げてくる。なんと非道で外道な輩だろうか。だから彼は、騎士らしく叫ぶ。
「この外道が! 姿を現せぃ!」
エスト瓶を飲みながら、その闇霊が現れるのを待つ。
が。
刹那、彼の胸から曲剣が突き出る。それは血を浴びて尚、黄金の刀身が光を浴びて輝いている。まるで魂を吸う呪われた刃。
バックスタブ。彼が戦いの中で何度も用いた戦法を、呆気なくやられたのだ。それもその存在に気が付かず。
「うぐぅッ!!?」
痛みに喘ぐ彼は、何とかその闇霊を一眼見ようと首だけを振り向かせる。最早彼の生命は尽きかけている。それほど、この一撃は重い。あり得ないほど、痛い。
少女が、いた。
真っ赤に身体を光らせ、それでも分かるくらいに純白で、けれど灰色で、美しい少女が。
まるで聖女のような少女は、しかしその瞳に何ら罪悪感を抱いていないように冷たく。ただ作業のように魂を貪る。
彼女は曲剣を、騎士を蹴りながら抜き去ると血を払う。
こんな可憐な少女が、魂を欲して人を殺す事が彼には信じられなかった。
だが事実は変わらない。彼は倒れ込みながらもその強靭な意思で立ち上がる。敵は、倒さなくてはならない。例えどんな相手だろうとも。
最後の力を振り絞り、立ち上がる。そして背中のクレイモアを抜刀した。
所詮、闇討ちしか出来ぬ愚かな娘だと思った。
少女はその姿をただ興味無さげに眺めていた。形の良い綺麗な抜刀も構えも、何も意味を成さないと言わんばかりに。それが腹立たしかった。怒りは時に原動力となる。彼は怒りに支配されていた。
「しぇあああッ!」
騎士が、大振りだが隙の無い振りを見舞う。少女は動く事なく、だが左手に持つ短刀だけをサッと振るった。
その短剣は、パリングダガー。
決して遅くはなかった。彼の一撃は黒騎士すらも屠った一撃だ。過信はすれど油断は無かったはずだ。
だがその一撃は、いとも容易く払い除けられた。
完全なるパリィ。騎士が敵でありながら惚れ惚れする程の完璧な技術。
少女はそれを容易くやってのけたのだ。
クレイモアは重い。故にパリィをされれば体勢を立て直すのは遅いものだ。
気がつけば少女は右手にしていた黄金の曲剣を、少女の背丈を遥かに越す斧槍へと切り替えていた。
考える暇もない。騎士の心臓が少女の斧槍に穿たれる。穿たれ、そのまま少女より一回りある体重と身長の騎士を持ち上げる。
片手でそれをやってのけるなど、一体どれ程の
そんな事を考えながら、騎士はそのまま無闇矢鱈に子供の児戯のように振り回され、とうとう斧槍の刃先から放たれる。窓を突き破り、教会の外へと投げ出されればそのまま地面に落ちる事なく
世界の宿主を倒した少女は斧槍をクルクルと回すとそれで血を払う。何ら興味もなさげに、しかしその
あまりにも、その少女は常軌を逸していた。強く、狡猾で、そして酷い。故に彼女は口にする。声を発せられるわけもなく。だが言うのだ。
それは呪詛のようなもの。頭に降りた天啓は、しかしいつしか彼女を現す言葉となった。
古い闇姫は今日もまた、不死を殺す。ただ人間性を貪るために。自らの人間性を肥大化させ考えるために。
他世界から深淵へと戻る。よくもまぁ不死が闇霊相手に正々堂々なんて言えたものだ。そんなものは余所でやってくれ。オスカーなら喜ぶかもしれない。
私がカアスに人間性を投げつけると、彼は器用にそれを飲み込んでみせた。まるで餌付けだな。最も相手は可愛らしさも微塵もない臭い蛇だが。世界蛇ならぬ臭い蛇……しょうもない。
カアスはそれを堪能すると、ゲフッと臭い息を吐き出す。蛇も人もおっさんは汚いものだ。
「ふむ……貴公、想像以上に殺しが得意のようだ」
「そりゃどうも」
嬉しくもない賛美を貰い適当に流す。殺しが上手いと言われて喜ぶのは殺人狂くらいだろう。
「貴公、人間性を捧げるのは良い。だがその身にも溜め込んでおるな」
やはりこの蛇には見透かされているようだ。だが別にそれが知られても何ら問題は無いし、隠すようなことではない。
「それが、叡智を齎す事もあろう……故に貴公、人間性を求めよ」
何も言わず、私は篝火に触れて転送する。奴と話すことは何も無い。こんなむさ苦しくて臭い奴と一緒にいられるか。少女こそ私の癒しだ。
久しぶりに、プリシラの所へ寄る。転送を使って仕舞えば意味は無いが、公爵の書庫へ寄る途中だった。久しく彼女と話してないからというのも理由の一つだ。
私は彼女に会うや否や、抱き着いてその感触を確かめる。やはり少女にモフモフは最高だ。永遠にこうしていたくなる。その為に亡者となるのも悪くはない。
「あらあら……何だか疲れてますね、リリィ」
よしよしと私の頭を撫でるプリシラはまるで母親だ。大きくて暖かい彼女から母性を感じる……気持ちが良い。
「色々ね。不死として生きてれば面倒な事が多くてね」
「それは……気の毒ですが」
さ、と彼女は言って私の手を引く。雪が舞う景色の中、私と手を繋ぐ真っ白な彼女の笑みはとても映えるものだ。綺麗、その一言に尽きる。
塔の中央で、私は座る彼女の上で横になる。このまま眠りにつければどれほど幸せなのだろう。つくづく不死とは哀れな生き物だ。
見上げれば微笑む彼女の美顔が目に映る。ああ、本当に少女は美しい。良いものだ。
もし、神の時代……火の時代が終わり、闇の時代が来たとして。彼女はどうなるのだろう。絵画世界という隠れ家には影響があるのだろうか。そうであるならば、私は闇の王なんざになるべきではないのだ。
世界よりも優先すべきは少女だ。私にとって少女こそ、世界よりも貴い。
「さぁ、せっかく会いに来てくれたんですもの。いっぱいお話しましょう?」
「そうね……でも、お話よりももっと良い事、したいけれど?」
頭の中がピンク色になるとこうも私は直情的になるのだ。我ながら頭が悪い。
だが性欲とは人間の三大欲求だと聞いた事があるし、他の食欲と睡眠欲が無い不死の私は最後に残った性欲に従う権利がある。
何をかんがえているんだわたしは。
「あら、それは……え、リリィ?もしかして、そっちの……」
「女の子同士で愛し合っちゃいけないなんて、そんなルールデーモンにでも喰わせればいいのよ」
そう言いながら、私は彼女の胴回りに抱き付く。衣装と彼女の肉付きが柔らかい。心臓の音が耳に響く。それは子守唄にも似て、私の啓蒙を高める。
すると彼女は困ったように眉をハの字にして頬に手を当てた。どこかの令嬢を思わせる仕草だ。
「あらあら……どうしましょう。私、人間の女の子に誘われてるわ」
だがどうにも慣れたような言い方だ。まるで弄ばれてるのは私と言わんばかり。
「ねぇ、まさかだけど、私以外にもこういう事言って来た奴っていたの?」
質問する。僅かばかりの怒りがある。誰だその不届き者は。
「まぁ、過去に少し……でもここの皆がそういう男の人達は追い払ってしまうの」
「何それ。分かってるじゃない!」
エレーミアス絵画世界の忌み人達よ、君達を誤解していた。君達は性別は違えど、百合を愛する紳士だったようだ。それはとても、素晴らしい事なのだ。
百合は良い。百合こそ、人が歩むべき道。闇の王じゃなくて百合の王になれないかしら。世界蛇にそういう奴いないの?
だがしかし、それならば彼女のこの態度も分かる。彼女は意外にも恋多き乙女なのかもしれない。クソ大王も彼女に手を出したようだし、なら私も……ね?
「なら、プリシラ。私と百合の花を、咲かせてみないかしら?」
「ふふ……面白い例えをするのね、リリィ」
そう言うと彼女は私の両脇を抱き抱え、ぎゅっと正面から抱き締める。まるで赤子のように抱かれるのはちょっと違う気がするが、まぁ彼女の豊満な胸と端正な顔が近いから良い。
私から仕掛ける。戦いは先制攻撃に限る。相手の虚を突いて、こちらのアドバンテージをとるのだ。
ちゅっと、彼女の額にキスをして私は不敵に笑った。すると、まぁ!と驚いた彼女はにっこりと笑い私の鼻にキスをする。
そうなればもうキスの応酬だ。口にはしない。今はタイミングを伺うべきだ。これは戦いなのだ。
「ふふ……甘くて癖になりそうな味」
プリシラがそんな事を言うから、どうにも下腹部が疼く。ダメだ、ここにこんな事を書いてはならない。色々と制約を受けてしまう。
でも、皆好きなんだろう?
最早闇とかどうでもいい。今は彼女と戯れる。幾度も口を除いた顔中に唇を付け、ここだと思った。
彼女の羽織る毛皮に包まれた胸に、手を添えた。もうここまで来たら押して押して押すまでだ。
「ひゃ……」
と。そんな可愛らしい嬌声と共にプリシラの顔が愛くるしくも悶えた顔になる。その雪のように真っ白な頬は少し赤い。
ほう。彼女もまた、乙女なのだな……
「もう、リリィったら……絶対、他の女の子にもこう言う事してるでしょう?」
ふと少し頬を膨らませたプリシラに見破られた。その通り過ぎて何も言えない。アナスタシアにまたゴミを見るような目で見られそう。
「……ちょっと、だけ?」
「なぜ自分の言ったことに疑問を抱くの? まったく……なら、そんな女泣かせのリリィはお仕置きね!」
むちゅっと、彼女の唇が私の唇を奪う。雪のように冷たいが、それ故口内の感覚が尖る。舌を入れられ、私の口内を蹂躙される。
それがまた良かった。大体私がそうしていたから、なす術もなくこう、アレされるのはとても良かったのだ。
不死に寒さなど関係が無い。私達は塔の中、お互いを求め合った。ほぼほぼ一方的に私がされていたのだが。これが生命狩りというものなのか。
「ああ〜気分が良いわね! あんたもそう思うでしょ!」
ズバッと、公爵の書庫の伝導者を斬り捨てながら同意を得ようとする。だが返答は無く、断末魔だけが響いた。情けない、これだから男は。そもそもこいつに性別はあるのだろうか?
まぁそんな事はどうでも良い。少女と愛し合ったのならば、次は勉学の時間だ。ここには大量の本があるからいくらでも学べる。それだけはあの白竜に感謝しなければならないだろう。
ここで知識を付けたのであれば、今度はロードラン中を今一度歩こうと思う。まだ行っていない場所、行った場所含めて、この目で色々と見れば何か学ぶ事があるかもしれないじゃないか。
人とはまさしく考える葦なのだから。学び考える事が人としての在り方だ。
太陽の戦士の長として、他の戦士達に頼られるまでに至ったオスカーはたまたま世界が重なった同志からある情報を聞いていた。
共に篝火に座り、エスト瓶を酒に見立て飲み交わしている最中の事。ふと、同志の一人が言い出した。
「そう言えばオスカー殿。闇姫、というのを知っているかね?」
重厚なバーニスの鎧に身を包み、これまた巨大なグレートクラブを傍に置く太陽の戦士。オスカーは首を傾げ、尋ねる。
「いや、知らないな」
ふむ、と騎士は頷き、その概要を話し出す。
「何でも、ダークレイスの一人らしいが……最近同胞からやたらとその名を耳にしてな」
「ダークレイス……魂喰らい共か」
忌々しそうに彼は呟く。彼は既に小ロンドの遺跡を攻略している。道中のダークレイスや亡霊をアルトリウスの大剣で屠り、闇に堕ちた公王も処刑した。
闇というものの恐ろしさを、彼は知っている。だからこそ分からない。なぜ不死人が、全てを飲み込む闇なんぞに手を貸すのだと。
「かなりの同胞や不死が侵入され殺されたようだ。その中には実力者も多かった」
「それは……まぁ、他の不死にも強い者は多く居る」
脳裏に浮かぶは彼が気にする少女。とても強く、頼りになるが、それ故孤独な少女だ。今彼女はどうしているだろうか、なんて考えていれば騎士は言う。
「問題なのは、そいつが殺しのために手段を選ばない事だ。聞いた話じゃ近づかないと姿も見えないらしくて、気づいた時には背後からバッサリだと」
「穏やかじゃないな……待て、姿が見えないと?」
ふと、自らが少女に渡した魔術のスクロールを思い出す。それは確か、見えない身体であったはずだ。
だがそんなはずはないと、彼女がそんな事をするはずがないとオスカーは首を横に振る。いくらぶっきらぼうで愛想が無くてもダークレイスになどなるはずがない。
「続けてくれ」
「うん?ああ。まぁ知っているのはこれくらいさ。見えないから魔術や弓で狙撃もできない。だから貴公も気をつけてくれ。ソラール殿が古竜になると言い出して消えてから、我らの長は貴公なのだからな」
そう言われ、オスカーはどうにも居心地が悪い。
「よしてくれ。僕はそんな器じゃない」
「そう謙遜するな。聞けば、貴公はもう四つの偉大な
騎士の疑問も最もだった。オスカーは既に最初の火の炉へと至る資格を持ち合わせている。後は王の器に
「……」
「……まぁ、良いさ。貴公にも色々とあるようだしな」
そこで会話は終わった。孤独な不死に会話は似合わない。彼らはただ、戦い
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ