長く、長く。私は公爵の書庫に閉じ籠っていた。
体感的には数年、いや数十年だろうか。だが何度も言うが不死にとって過ぎ去りし時間など一瞬に等しい。時折アナスタシアや蜘蛛姫、そしてプリシラに会いにも行ったが、それ以上に私は真相の解明という使命に精を出してしまっていた。
シースの書庫は広すぎる。元々学者でも無い私には持て余す量の本と深い叡智は手のかかるものだが。
それ以上に彼、白竜の熱心な勉学への心という名の狂気が私を突き動かした。私は知らず内に彼の狂気に触れていたのだろう。我が師、ローガンのように。
だが狂いはしない。あるいはもう狂っているのだろうか。当の本人が狂っているか否か等と分かるはずもなく。けれど少女達と会う際の私は確かに白百合である。そう、自信を持って彼女達を愛している。
シースという白竜はどうにも人間臭い古竜である。それは彼の書いた書物や、研究用のノートを見ていれば分かった。
割と全能なように見える竜でさえも、寄り道はするらしい。魔術の研究をしていたと思えば、気がつけば信仰について考え、自らを戒める文を書く彼はなんとも人間らしい。
彼が朽ちぬ鱗を求めた故に結晶を研究したのは知られているが、その過程で人間性という人間にしか持ちえぬものを研究していたようだ。
きっと、我が師ローガンはこの文献も読んだのだろう。この本には、人と古竜は祖を同じくする可能性があると書かれている……つまり白竜は、それを再現するために人体実験を繰り返していたのだろう。聖女など、その貴さから人間性を溜め込んでいるが故に。
まぁそれは、副次的な知識である。時折頭を破裂させようとする啓蒙の高過ぎる知識を副次的と呼んで良いのか分からぬが、私が求めるのは神の偽り……即ち、火継ぎについてである。
シースはもちろん、この件についても研究し書き記していた。彼は友であったはずの大王を、しかし信用していなかったようだ。書かれた文字には火継ぎに対する彼なりの否定的な意見が添えられていた。
火継ぎこそ、世の理に反する事であると。奇しくもそれはカアスが言っていたことと合ってしまう。
分かってはいた。所詮尊大な神々が言い出した事だ、火継ぎなど碌なものではないのだと分かってはいた。
だがここで新たに得た火継ぎの知識は、私の心を凍つかせるに足るものである。なんと神とは欺瞞に満ちて虚栄が強いのか。やはり神など滅ぶべきだろう、火の時代はともかくとして。
オスカーは、この事を知ってしまったら絶望するだろうか。それとも立ち向かうだろうか。立ち向かって、行けるだろうか。
あんなに純粋で、けれどやる事なす事裏目に出る少年が、今度はやり遂げられるだろうか。
私が敵になっても尚、その意志を貫けるだろうか。
問わねばならない。その火継ぎの意義を。
王女は常に暖かく、そして欺瞞に満ちている。闇も光も全てを包み込むような抱擁を与えんと、勇者を待たんと王女の間において鎮座する。
だが色々と学んだ今ならば分かる。それすらも欺瞞。人を容易く操る為の擬似餌でしかない。醜く、しかし綺麗に魅せるための太陽への執着心。
跪くことなど無い。仮に彼女が本物であるならば、美しい女性を愛する私はこんな行動に出るはずもなかったろう。
だが、全てが偽りであるのならば。躊躇いなどしない。その前に問う。
「不死の勇者よ……何か、含んだ顔ね」
そう聞かれれば、私は無視して問う。
「王女、グウィネヴィア。偽りの太陽である貴女に問おう」
両手にはゴーの大弓を。かつて四騎士の弓として神々を守ったであろうこの弓が、今まさに神に弓引く存在となりつつある。
「そうまでして不死を騙して楽しい?使命だなんだと言って、偽りの太陽を照らす事だけを考える哀れな神よ」
そう問えば、彼女は少しばかり眉を歪めて困り顔をした。美しい困り顔には、しかし感情が無い。これこそ王女の正体。ただ表面上だけの偽りの存在。
王女などありはしない。本来の王女は、既にどこかの神へと嫁いでいる。おかしいと思ったのだ。伝承と食い違う彼女の存在が。今目の前にいるのはただの幻。どこかのコンプレックスを携えた神の幻影に過ぎない。
「気づいてしまったのね。残念だわ、貴女は見所があったのに」
「やはり神は信用ならぬ」
怒りに任せて弓を構える。狙いはもちろん偽りの王女グウィネヴィア。否、末子である陰の太陽グウィンドリンの幻影に。
だが仮にも神と相容れぬ人を率いただけはある。彼女は変わらぬ声色で口を開く。
「愚かね。そして哀れでもあるわ。そんな事をすれば貴女は神に仇なす敵となり、永遠に追われる事になるわよ」
虚仮威しだが事実でもある。だがそれがどうしたというのだ。敵など、今まで全て屠ってきた。私に殺せぬものなどない。何度死のうと心は折れず、蘇って相手を殺すだけだ。
だから大矢を放つ。敵になるが良い。神は全部死ぬべきだ。
大矢が彼女の胸を穿ち、女神の絶叫が響く。だが所詮は幻、
さぁ、陰の太陽よ。その姿を見せるが良い。私に貴様らを殺させろ。事実を知った私に、最早貴様らの声は届かぬ。
すぐに変化は訪れた。あれほど太陽に照らされていた王女の間が、まるで夜になったように暗くなる。それはいっそ日蝕のように唐突で。だが事実、このアノール・ロンドに太陽などありはしなかったのだろう。
この夜の暗闇に呑まれた世界こそ本来の姿。大王無き後の王都は既に終わっていたのだろう。
男とも女とも分からぬ声がアノール・ロンドに響く。それは呪詛のようにも聞こえた。
━━神の姿に刃する者よ。我が名はグウィンドリン。汝の不敬は決して許されるものではない。アノール・ロンドの夜に果てるが良い━━
「日陰ものの神様が何だって? 脅す相手を間違えたわね」
鼻で笑って軽口を叩く。だが陰の太陽は何も語らない。どうやら怒っているようだ。ゴーの大弓を
まだ神は殺せていない。私の、否。人の怒りがアノール・ロンドを飲み込もうとしている。
暗月の女騎士は、酷く深い溜息を溢すと腰に備え付けられた剣を手にした。エストックと呼ばれる大型の刺剣は、鎧ごと相手を貫くのに適したものである。
彼女はそれをクルリと回すと、アノール・ロンドの大回廊で敵となった少女を待つ。
突然の出来事だった。太陽に照らされていたアノール・ロンドが夜となり、どこぞの誰かが彼女が仕える者を怒らせたのだと理解した。
そしてそれが、一瞬でも彼女を口説いた少女だと理解できるのに、然程時間は掛からなかった。
同じく旅をしていた騎士は信仰が厚く、神々の敵となることはないだろうとは思っていたが。まさか連れの方が敵になるとは。確かに賢そうで捻くれているから敵になりそうではあったが。
何にせよ、アノール・ロンドの秘匿が破られたというのは大問題だ。明確に神々に敵する個人が現れるのは初めてだったからだ。
不意に、大聖堂の大扉から喧騒が聞こえてきた。きっと同志である暗月の騎士達が敵対者である少女と戦っているのだろう。
だがその夜に似合わぬ煩わしさもすぐに終わり、静寂が訪れる。そして、
ゴロン。
暗月の騎士である男の首が、大扉より階段を転がって女騎士で止まった。その目は驚愕するように開かれ、いつしか
そうして、大扉を超えて彼女はやって来る。まるで白百合のように真っ白な服と灰のような髪色。その手には、かつて神々の為にデーモンと闘った者達の武具が握られている。
暗月の女騎士は態とらしく拍手すれば言った。
「やはり貴公だったか。神に刃するとはなんたる思い上がりだが……よくぞここまで辿り着いた」
そしてその手にするエストックの刃先を少女に向ける。左手には、敬虔な暗月の騎士にのみ与えられるタリスマンを。
「せめてもの褒美だ。私がここで終わりにしてやろう」
そう言って彼女は、奇跡を唱える。それは暗月の騎士のみが用いられる強化。暗月の光の剣と呼ばれる奇跡だ。エストックが、青く光りだす。
少女はまるで意に介さず、ただ言ってみせた。
「退きなさい。女の子は傷つけたくはないの」
「おかしな事を言う。王女を滅したではないか!」
すぐに彼女は白百合の少女へと肉薄し、鋭い一撃を放つ。見事な刺突。
だがそれは、ダークレイスとして数々の英雄を屠ってきた少女にとっては見慣れ過ぎた一撃に過ぎない。あっさりと身を翻すと、少女は空いた左手で女騎士の右腕を掴み上げた。
「それとも、甚振られるのが好きなのかしら?」
夜にありても白く輝く少女の顔が歪に歪む。それは欲求と殺意に溢れた酷く人間らしい顔だ。恐ろしい獣は、人の中にこそ住まうもの。
まるで自らの
「戯言を!」
エストックを振るう。この刺剣には刃もあるため、様々な状況において優位に立ち回れる。
だがその一撃は、見えぬ何かによって阻まれた。少女の手が、しかし次元が歪んだように。剣は弾かれる。
これぞダークハンド。ダークレイスが魂喰らいとなる由縁。それは盾ともなり、或いは魂を抜き去る冒涜ともなる。
ダークレイスとして、闇姫として恐れ慄かれる彼女が持っていないはずが無かった。今までは使う事は無かった。それは侵入する世界の主が、彼女と同程度かそれ以上の実力を持っているためだ。それらを打ち倒すのに妥協は出来ぬ。持てる力を全て用いて殺す必要があるから、隙が多く盾としても役に立たないダークハンドは使い物にならなかった。
だが少女にとっての暗月の女騎士は。道中の、そこらにいる亡者と何ら変わらない。それ程までに、少女が抱く
神々ですら殺してみせる少女を、たかが暗月の女騎士程度が殺せるはずもなし。
「好きよ、そういう強情な所」
少女の手が赤く光る。何かの予備動作であることは容易に見て取れた。
隙有りと、女騎士は少女を穿とうと剣を突き刺す。だがそれごと、彼女のダークハンドは飲み込んでみせた。剣先から折れて行くエストックは、まるで彼女の心を表すようで。
迫るダークハンドから逃れられぬ女騎士は、そのまま赤く光る手に首を掴まれ、引き寄せられる。
「だから奪いたくなる」
少女の顔が眼前に迫る。瞬間、少女のダークハンドを起点に女騎士から
それは耐え難い苦痛。自らの魂を抜かれ、正気を保てる人間などいない。それが例え、火防女であろうとも。
少女が女騎士の兜を叩き脱がせると、その唇が女騎士に触れた。もちろんそれは、唇同士。
だが同意を得ない口付けとは攻撃に他ならない。少女は女騎士の内側から、その
自らの内に闇が広がる気がした。ドス黒く、しかし暖かい闇は、抵抗するには優しすぎる。
「お、ご、ぉお、あ」
声にならない声が、唇越しに少女に伝わる。愉悦、快楽、優越感。少女の唇を犯すことの快楽が、少女を支配していた。
そしてそれは、女騎士も同じこと。強き
最後に闇が訪れるのならば、それは今でも変わらないじゃないか。
だから君、闇を恐れるなかれ。我ら食餌の時だ。
少女は最期の一滴まで女騎士を貪った。ねっとりと、深く絡みつく舌と唇は女騎士の火防女としての
だが火防女とは、神の呪い。不死の縁である火防女など、そもそもが苦痛でしかないだろう?なら、終わりが来るのは良い事じゃないか。愛する神も、最早死に行く定めなのだから。
陰の太陽グウィンドリンは、やって来た不敬者を見るや否や呪いを吐く。その少女は返り血によって白い装束を赤く染めていた。まるでそれこそ彼女の生き様であるかのように。
「不敬者が……王女の姿のみならず、大王の墓所まで穢すとは……」
だがそんなものどこ吹く風とばかりに、少女は手にする黄金の残光にこびりついた血を払った。
火防女を殺し、この隠された墓所へと至るまでに相当数の暗月の刃に侵入されたのだろう。そしてそのどれもが、彼女の刃の前に散った。
「嘘吐きの末裔が良く嘯くわね。その姿すらも性を偽るのだから、あんたは欺瞞の塊よ」
ちっぽけだと思っている人間如きに怒りが止まらない。青白い肌が赤く染まる。まるで沸騰したヤカンのようだ。
普通の人間であれば、その
彼女は人を超えている。それは他世界の、英雄たり得る不死にも言えることだ。
「陰の太陽、グウィンドリンの名において……許されると思うな」
会話も既に不要。下半身に蛇を供え、女性にしか見えぬ男性である彼は杖を振るう。
「そして、魔術。神であるのに月の力を有するその二面性」
少女が何かを呟いた。だがその時には杖より青白い魔術が放たれている。巨大で正確、そして偉大な魔術は通常であれば人など容易に消し飛ぶ威力を持つが。
少女はそれを転がって避け、尋常ではない速度で神に接近してくる。
「人間風情が……!」
即座にグウィンドリンは新たな魔術を放つ。それは追尾する
追う者たち。それは禁忌とされる闇術の中で、特に危険な闇術。仮初めの生命は、本物の生命に惹かれ貪り尽くすまで追う事だろう。
神が放つ魔術は、より一層の
「馬鹿な……!」
思わずグウィンドリンは後方へ転移する。それは高等な魔術ではあるが、逃げるという事に他ならない。故に彼は、逃げという手を使わされた少女に更なる怒りを抱く。
「醜いわね。プリシラも竜と人との二面性を持っていたけれど、拗れるとこうも哀れなものなの?」
そう呟きながら少女は駆ける。
「知ったような口をッ!」
手にするは弓。魔力を有する暗月の弓を構え、その弦を引く。
「太陽に憧れ、しかし嫉妬し……人を誑かし。その罪は身を持って償いなさい。死ね」
グウィンドリンが目の前の少女に怒りを抱くように、少女もまた神に憎しみを抱く。似て非なるそれは深い闇をより一層暗く堕とす事だろう。だがそれで良いのだ。
暗月の弓より放たれた魔力の矢は、しかし柱に隠れる事で防ぐ。盾で防ぐには魔力が強過ぎた。そして矢が途切れるタイミングを狙い、彼女は走る。
「戦いは初めてかしら? オーンスタインの方がよっぽど強いわよ」
黙れ、という暇もなく少女は肉薄してその手にする黄金の残光を振るう。彼にも見覚えのあるその曲剣は、四騎士の一人キアランが用いたものだ。
少女は王達の騎士の得物で神殺しを決行しているのだ。
神といえど血は出る。鋭利で歪んだ刀身は、グウィンドリンに出血を強いた。
「ぐっ!」
「逃がさないわよ」
たまらず後方に転移して逃れようとする彼を、少女は一気に跳躍して顔面へと蹴りを入れて中断させる。
黄金の仮面が外れる。そうして現れたのは、美女と言っても差し支えのない美しい顔。
「あら、案外綺麗じゃない。女の子だったら惚れてたかもね」
だが少女は、偽りを赦さぬ。すぐ様彼を押し倒すと、少女は黄金の残光を打刀へと切り替えて詠唱する。
「
刹那、打刀の切先がグウィンドリンの胸を穿った。だがそれだけではない。彼女は刀を突き刺したまま、一気に刃で股下を引き裂く。
臓物や血が溢れる。神であろうと、その構造は人と似ている。だがそうまでされて死なないのは、やはり神というべきか。
「こ、のッ」
「死になさい」
ザンっと、グウィンドリンの首が断ち切られる。すると最早生命は残っていなかった。ただ彼の呪いだけが響くだけ。
━━闇に生まれた不敬者が……貴様に、永遠の呪いを……!
打刀を振るい、血を払う。とりあえずグウィンドリンは死んだが。完全に死んだかと言えばそれは異なる。神の存在は信仰によって決まる。信仰がある限り神は死なず、滅せない。
だが少なくとも、この世界では当分復活する事はないだろう。それだけの殺し方をしてみせた。人を騙す神など、殺して仕舞えば良いのだから。
一人、考え込むようにオスカーは篝火の揺めきを目にする。呆然と、しかしその心はどこか重く、不安ばかりが募りに募る。
そうさせる理由は、とある同胞から聞いた闇姫の件だろう。どうにもそれが他人事とは思えぬ彼は、しかし心では否定している。故の矛盾が、彼の心の内に靄を発生させていた。
例のダークレイスと、彼が慕う少女が同一であるわけがないと思いながらも。時折彼女が見せる暗さが、どうにも心に引っかかりを作る。
そんな訳で、考え込む彼は隣に立つ少女に気が付かなかった。
「ヤッホ、オスカー。元気無いわね」
バンっと背中を叩くのは今まさに考えていた少女である。いつかの暗さはなりを潜め、彼が知る明るくもどこか太々しい少女に戻っていた。
オスカーは驚いたように少女を見て、しかし安堵する。そうだ、こんなにも暖かい少女がダークレイスになんてなるはずがないと。
「ビックリしたよ! 久しぶりだね、元気そうだ」
「そりゃね。今気分がイイからね……あ、そうそう。あんたにプレゼントよ」
どかっと隣に座る少女は、不意に一つの巻物を若い太陽の騎士に投げる。わちゃわちゃしながらもそれを受け取れば、彼はその巻物に驚いた。
「これは、太陽の光の剣の書じゃないか!どこで手に入れたんだい?」
そう問えば、彼女はすっとぼけたようにさぁ、と言って笑った。
「ちょっとアノール・ロンドでね。あんた、前にウーラシールの魔術をくれたでしょう? そのお礼よ」
「……随分気前が良いね。君らしくない」
「馬鹿にしてるなら返してちょうだい」
いや、とオスカーは慌てて巻物をしまう。太陽の光の剣は、太陽の戦士達にとっては伝説的な奇跡の一つだ。何せどこで入手すれば良いか分からず、ソラールくらいしか使い手がいなかった。そのソラールも、太陽を見ていたら使えるようになったとか言い出すし、そもそももう彼は旅に出てしまった。
それを手に入れるとは、やはりこの少女は素晴らしいとオスカーは再度惚れ込む。
「やっぱり君は、明るい方が似合うよ」
「あら、そう? 明るいかしら。そうね。そう、見えるのね」
ふふ、と、いつになくテンションの高い少女。彼女は不意にオスカーの方へと振り向けば、尋ねる。
「ねぇ、あんた結局火を継ぐのかしら?」
「そのつもりだよ。もう、偉大な
へぇ、と少女がわざとらしく驚いた。
「やるじゃない。もう私の手助けはいらないみたいね」
「……そうでもないさ。たまには君に助けてもらいたくなる」
何よそれ、と彼女は笑う。それは珍しくオスカーが見せる弱さでもあった。
「なら、助けてあげようか」
刃のように、貫かんばかりの美声が、騎士の脳を刺激した。
人間性が震えている。彼の人としての魂が警鐘を鳴らしている。本能的に、彼女を拒否している。だが逆に理性はとても魅力的な彼女を受け入れている。
男としての本能は、最早不死には不必要なそれは、彼女の助けを求めているに違いない。
オスカーはそんな彼女の、瞳を覗いた。
瞳の奥のダークリングが輝く彼女の眼は、宝石のよう。
オスカーはその瞳に魅了されかける。あるはずもない彼女の内の炎は、まるで不死にとっての篝火のよう。
美しい少女を、彼の魂が求め出す。先程までは拒絶していた全てが、彼女に平伏そうとしている。
暗い魂を、彼女に感じた。どこまでも深く、暖かく。全てを包み込む母性の塊。包まれてしまおうと何かが囁く。人間性がそうさせようとする。
「僕は、僕には、もう助けはいらないよ」
意志が、彼を勇者たらしめる。
「むしろ、僕は君を助けたい。ずっと助けられっぱなしだったから」
そう言えば、少女は酷く驚いたように目を見開いた。しばらくそんな眼が、オスカーを見続ける。無言で、語る事なく。
一瞬、ほんの一瞬だけ。彼女の顔が悲しみに歪む。だが見間違えかと思うほどにそれは短く、いつの間にかいつも通りの彼女の顔へと戻っていた。
「そう。言うようになったじゃない」
少女はそれだけ返すと、無言になった。決別の現れ。それに気が付けるほど、オスカーはできた人間じゃない。
だが今だけは、昔のようにこうやって篝火に触れていたい。もうあの頃とは違うけれど。ただ見てくれだけ真似て、懐かしみたい。過去を慈しむことは、そんなにいけないことだろうか。
説明不足感はありますが、後々回答をします
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ