暗い魂の乙女   作:Ciels

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いつも以上にはっちゃけます。


朽ちた巨人の森、最後の巨人

 

 マデューラから北西に進み、トンネルを潜っていけばそこはある。

 亡国ドラングレイグ、その要であったはずの砦。そこはかつて巨人達が侵攻した際に最も悲惨な戦いが起きたのだという。そのせいかは分からぬが、結果的にドラングレイグは王が姿を消し滅んだのだ。

 

 

朽ちた巨人の森

 

 

 まぁそう言うこともある。長く生きていれば国の興亡を目にする機会もあった。それはアストラもそうだ。あれだけ栄えたはずの貴族の国は、案外あっさり滅亡したものだ。皆、そこから薪の王が生まれたとも知らずに。

 この地もまた、様々な国が栄えては滅んでいったようだ。まるで人の生き死にのように。だがそれは自然の摂理なのだろう。永遠のものなどありはしないのだから。国は不死ではない故に。

 

 サイクロプスや亡者兵達の蔓延る小川を抜け、砦へとやって来る。これが昔の、北の不死院出たての私であれば苦労したかもしれないが。

 幸い、こちらには強大な(ソウル)と亡者鍛冶屋レニガッツから買った新武器がある。それはレイピアとメイス。レイピアは刺突に特化した剣であり、またパリィに向く。そしてメイスは鎧なんかを着た相手を叩き潰せる。かつてロードランでも使っていた。最初だけ。

 

 砦の内部に侵入し、亡者共を屠ながら先へと進む。角で待ち伏せしたり階段の先で火炎壺を投げてきたりする輩には殺意が湧くが、まぁロードランでもあったことだ。

 そうしてある程度見晴らしの良い砦の上部に出れば、大扉を見つけた。大層な作りで、開けるには多少力がいるが、強引にこじ開ける。するとそこには篝火があり。

 

「買っておくれ……何か買っておくれよ……」

 

 篝火のすぐ横に、大きな家財を背負った老婆の亡者が座り、縋るようにこちらに訴えかけてきた。その割には顔は笑っており、多少の狂いはあるようだが。

 

「商人か。丁度良い、何か買おうかと思っていたんだ」

 

 一先ず篝火に手を翳して点火し、老婆と商談する。ロードランにも下水道に物売りの口の悪いババァが居た記憶がある。どうにもいけすかなかったが、商品だけはそれなりだったような。

 それに、彼女は老婆だが女性だ。私のポリシーとして敵対する女性以外には優しくしたい。女性は須く宝なのだから。

 

「年寄りじゃ……助けると思うて……何か買っておくれよ……」

 

「うむ、うむ。買うから。商品を見せてくれ」

 

 そう言うと彼女はヒヒヒ……と怪しげな笑みを見せて家財より商品を広げる。広げては、また家財を背負う……何だか不便だな。座っている時くらい下ろせば良いのに。

 広げられた商品を見る。何やら光る石のような物や、隙間の洞で見た光虫もある。何やら鍵があるようだ……形を見るにこの鍵はレニガッツの宿の家のものであるようだが……なんでこの老婆が?

 

「この石は何なんだ?こんなものは見たことがないが」

 

「あぁ……そりゃ雫石って言ってねぇ……死体の(ソウル)の残り滓、それが凝縮されてできた結晶だよぉ、ヒッヒッヒ……」

 

 (ソウル)の残滓、その結晶。そんなものあのロードランですら見たことがない。そもそも(ソウル)とは物質に縛られぬものだ。それは最早概念的存在であり、干渉こそ出来るが固形化などと……待て、結晶で思い出した。魔術にもあるじゃないか。結晶魔法の武器が。あれも(ソウル)を介した魔術ながら、触れる程に結晶化しているではないか。

 となれば、不思議ではないのかもしれない。(ソウル)とは変質すれば結晶化するものなのだろう。まさか殺したはずの白竜が絡んでいるなんて事があるはずはないし。

 

 ふぅん、と言ってその石を手に取る。僅かばかりだが、この石には生きる気力を回復させる効力があるようだ。つまりエスト瓶を使わなくても傷が癒せると。便利じゃないか。エスト瓶の残量を気にしなくて済む。

 とりあえずこの老婆……話せばメレンティラというらしい。彼女から買えるだけの雫石を買い取る。どんなものか使ってみたいというのもある。

 僅かばかりの人の像と、何やら各地の仕掛けを作動させるのに使う物らしいファロスの石とやらも買ってみたが。

 

「すまないねぇ……ヒヒヒ」

 

「メレンティラ、貴公ずっとここで商売をするつもりか?」

 

「いんや、そろそろ別の所に行こうかと思ってねぇ……また来ておくれよ、安くしておくからさ……ヒヒヒ……」

 

 パッチもそうだが胡散臭さが商人らしさでもあるのだろうか。あいつもこうやって嫌らしい笑い方をしていた。思い出すと腹が立つが、あいつは今頃どこかで野垂れ死んでいるのだろうか。まぁもう会うことは無いと思いたいが。あいつの禿頭は頭に来る。

 

 

 

 

 

 とりあえずこの上の階などの周辺の探索を終える。

 篝火のすぐ横が崩落しており、なし崩し的に梯子が掛けられていたのでそこから砦内部へと降りる。するとどうやら更に下層では溶岩でも噴き出しているのか、赤く煌々と何かが燃えているようだ。見ればそれは、大きなカエルのような何かが火を撒き散らしている。なんだあの生き物は。

 しかしここのフロアは鍵が掛かった扉が多い。かなり複雑な機構のせいでピッキングでも開けられそうに無いから、仕方なく扉を無視して濃霧が掛かる方へと進めば、まるで大樹のうつろのような大木が絡み合う水辺に出た。

 

「落ちたら死ぬな」

 

 不死は泳げぬものだ。沈めば浮かず、そのまま死ぬ。どう言う理屈かは分からぬが。生命の母とも言われる水に嫌われるとは。つくづく不死とは嫌われ者よ。

 ここは伸びた大樹の根の他にも仮組みされたような足場があるが、いかんせん足を踏み外しやすいらしい。所々で亡者どもが私の存在に気付き弓などで攻撃してくるが、位置を変えようとして誤って落下死している。お前らがそれでどうするんだ。

 

 それでも迫る矢は斬り払ったり弾いたりしながら探索を進める。何やら反対側の石壁が崩れていて入れそうなので、多少ヒヤッとしながらジャンプしてそちらへ飛び乗る。どれだけ冒険をしても落下死の危険性というものは恐ろしいものだ。

 崩落の危険性は薄いようで、むしろこの崩れた壁の中にもしっかりと空間がある。通路になっているようだ。

 警戒しながら進めば亡者が交差点にいる。そしてどこからかやってきた鉄球が亡者を轢き殺した。久しぶりに見たな、センの古城以来だろうか。私もあれに難儀したものだ。

 

 轢き潰された死体を見ながら感傷に浸っていると、どうやら鉄球はあれだけだったようだ。流石にあの大きさの鉄球を装填できる不死はいないだろう。巨人くらいだ。むしろこの罠は侵攻してきたという巨人用なのだろうか。

 鉄球が転がってきた方へと向かえば、誰かが居る。最初はこいつが鉄球を転がした本人かとも思ったが、どうにも違うようで必死に何かを石畳の上に砂を用いて書いている。地図だろうか。

 

「貴公、亡者ではないな」

 

 そう話しかければ、彼は驚いたように振り返りこちらを見た。敵意は無いらしい。見た目こそ放浪の戦士のようだが、腕っ節が強そうにも見えない。

 

「ああ、失礼。ちょっと……ええっと、夢中になってまして」

 

 そう言うと彼は恥ずかしそうに頭……というよりも兜を手でかく。

 

「いや、構わないさ。地図を書いているのか?」

 

 覗けば、それはこの朽ちた巨人の森の地図であるようだ。ふむ、マッピングという習慣が無い私にとって地図というのは新鮮だ。

 

「ええ、大陸のあちこちを巡って地図を作っていまして……ケイルと申します。ミラの出の」

 

「リリィだ。貴公と同じく旅人のようなものだ」

 

 腰に刀を挿しているが、抜く気配は無いし仮に居合いが上手いとしても対応ができるように彼の真横に陣取り、しゃがみ込む。まるでパッチのような座り方だが、案外安定するものだ。はしたないけれど。

 しばしソワソワする彼の横で地図を眺める。かなり精巧な地図だ。地面に書いているのが勿体無いくらいには、彼の地図はよく出来ている。ソワソワしているのは、彼が他人に地図を見せる事が少ないのだろう。

 

「よく出来ている。紙には書かないのか?」

 

 そう問えば、彼は頷いて懐のポーチから真っ新な羊皮紙を取り出す。

 

「今、地図を精査していまして。出来上がり次第こちらに描く予定です」

 

 ふむ、と私は言って、こちらも腰のポーチから擦り切れた羊皮紙を取り出す。

 

「私もこの森を探索していてな。貴公が良ければ模写させてくれないか?もちろん対価は払おう」

 

「ああ、いえ、お代は結構です。趣味でやっているだけですし、まだ完璧じゃ無いですから。でも驚いた、貴女も地図をお描きで?」

 

「いや、普段は女性を描くだけだ」

 

「はぁ、女性を……」

 

 彼は少しばかり唖然としたようにそんな感じで言う。まぁ女が女を描いているとなればこの時代では変わり者であろう。もっと良い時代になって欲しい物だ。

 羊皮紙に彼の描いた地図を書き込みながら、まともな不死との会話にも勤しむ。これだけ探索したのだから有益な話も出そうなものだ。

 

 そんな時。ふと、何故地図が好きなのかという話をすれば、彼は悩む。

 

「理由ですか……難しいですね……そもそも私がこの国に来たのは……来たのは……あれ?……呪い?呪いってなんだっけ?」

 

 地図を模写する手が止まる。それは、不死の最終段階。記憶の摩耗に他ならなかった。ロードランではあまり見なかったが、私を殺した薪の王が火を継いで以降火が陰り不死が現れると、どうにも理性と記憶両方が摩耗する者が増えた気がする。彼もまた、そうなのだろう。

 呪いを解こうとやって来たドラングレイグでその事すらも忘れるとは……なんと哀れなのだろうか。ただ一つ大好きな地図描きを覚えていることは救いなのだろう。

 

「いや、良い。思い出せない事もあるさ」

 

「ははは、嫌ですね。最近頭がぼんやりする事が多くて……ただ地図を描く事が好きなのは覚えているんです」

 

 そう、思い出さない方が良い事もある。それが辛い記憶ならば尚更だ。

 

 

 

 

 

 ケイルから地図を写させてもらい、先へ進む。隠し扉の位置なども記されており、無駄なく探索ができそうだ。

 彼はどうやらマデューラにある鍵の掛かった空き家を拠点としているらしく、そこの地下にある巨大な地図に魅入られているらしい。私も是非見たいと言ったら、親切な事に鍵をくれた。素晴らしい、あそこをドラングレイグでの拠点としよう。彼も住んでも構わないとの事だし。何より、今後美しい女性とそういう関係になったらやる事やるための場所が必要だろう?

 

 さて、大樹を登って地図の通りに進む。砦の上では亡者兵達がまたまた襲ってきたが、返り討ちにする。

 そうして、砦上の広場にやって来た時だった。何か、大きな影が太陽を遮った。

 

「ドラゴン……じゃないな。大鴉か?」

 

 祭祀場にいた大きなカラスが飛んでいる。バサバサと羽ばたき、どんどんこちらへとやって来るではないか。カラスも亡者化するのだろうか?それとも単に凶暴なだけか。

 

 いや、よく見てみれば何かを抱えている。あれは……鎧?

 

 

 刹那、カラスから何かが投下される。勢いよく私の数歩前に飛び降りたそれは、少しだけ空中に浮いたイカツイ騎士だった。目は赤く光り、手にするのは大きな大剣と大盾。まるでバーニス騎士だが、目の前にいる強敵は曲線が多いしシルバーだ。

 

 その騎士はこちらを見るや否や、浮きながら剣を構えてこちらへと襲い掛かってくる。やはり敵のようだ。

 

「面倒な輩だ」

 

 気怠げに言えば、私は右手にメイスを、左手にレイピアを携えて警戒する。

 初撃は斜め下からの切り上げ。膂力はあるようで、回避した私の立っていた石畳を容易に砕く。だが動きは単調なようだ。キレは良いが。

 

 回避した私を追撃するように、その強敵……呪縛者は大剣の連撃を放ってくる。

 

「ほれ、ほれ!当てて見ろ!」

 

 煽りながら攻撃を避ける。どうせ話せるほど理性は無いのだろうから煽っても無駄だろうが。

 今度は突きだ。だがどうにも奴の握る大剣が光っている……多少の呪いを感じさせながら。貫かれれば多少は不味いか。

 

 呻き声と共に繰り出される突きをスライディングして避ける。そのまま奴の足下を潜り抜け、立ち上がり様に股間をメイスで打ちのめした。

 

「オオオオォオオ!」

 

 思わず股間を押さえる呪縛者。不死だろうから生殖機能は無い、安心し給え。

 大袈裟に痛がる呪縛者の背後をタコ殴りにする。時折メイスの刺突を交えれば、相当なダメージを受けたのだろう、呪縛者は浮きながら勢い良く逃げ出す。

 

「逃げるなァ!」

 

 私はそんな呪縛者を追う。だが、その時またあの大鴉がやって来て呪縛者を攫っていった。どうやら組んでいるようだ。

 大きな(ソウル)を持っていそうな獲物を逃し、私は少し膨れっ面で逃げていく大鴉を眺める。だがこれでようやく分かった、この地にもロードランのように強大な(ソウル)を持つ雑魚共が多いようだ。狩り尽くさねば。

 

 呪縛者を逃し、しかし先へ進む事は止めず。そんな時、分岐路でまたまた理性を保った人を見掛ける。

 軽めの鎧と兜に身を包み、槍と軽い大盾を持った男は、適当な石に腰掛け何かをずっと待っているかのようだった。どうにもこの男からは奇妙な感じがするも、話しかける。

 

「貴公、不死か」

 

「やぁ、こんにちは。貴女もでしょうか。もしかしてお一人で旅を?」

 

 親切な言葉遣いと物腰の柔らかそうな若者だった。嫌な感じは一歳無いのにどこか胡散臭い気もするが……まぁ偏見だろうか。

 

「このご時世に一人旅とは、何か訳ありなのでしょうねぇ……まぁ私も人の事は言えませんが。フフフ……私はペイトといいます」

 

「ペイト……うむ……」

 

「何か?」

 

「いや、気のせいだ。私はリリィ。貴公も呪いを解きに来た口か?」

 

 何かが引っかかる名前だが、きっと気のせいだろう。長年生きているのだ、そういう事もある。

 

「いえ……そうですね……宝探しのような事をしています。あちこち巡ってね。ああ、近頃は旅人を騙す輩も多いと聞きます。貴女も道中お気をつけて」

 

 ただの親切な若者だと良いのだが。何をそんなに警戒しているのだ、私は。

 

「そうそう、そこの奥に行くのであればお気をつけて。何やら宝があると聞いていますが、中に入ると入り口が閉じる仕組みになっています」

 

 そう言ってペイトは前にある石造の門を指差す。確かにケイルの地図にも罠であると書いてある。罠を教えてくれるということは、悪い奴では無いのだろうか。

 

「前にも同じような仕掛けを見た事があるからわかるんですよ。その時も戦士風の方と居合わせたのですが……私を押し退けて入って行ってしまいまして。宝はやらんとか言いながら。乱暴な人でしたが、結果的に助かりました」

 

 彼は左手に嵌めた指輪を見せる。棘がついたような悪趣味なものだった。

 

「その方が落とした指輪を持っているんです。無事だと良いのですが……」

 

「欲深い輩は一定数いるものだ。貴公が気にかける事では無い」

 

 人間とはそういうものだ。誰もが親切では無いのだ。少なくとも表面上は親切な目の前の男のように。

 

「私は手を引きますよ。中がどうなっているかも分かりませんから」

 

 あの憎きパッチのように騙す気は無いようだが。まぁ良い、所詮罠などセンの古城程では無いだろう。私は感謝だけ述べて罠へと飛び込む。

 門を潜れば、やはり柵が降りてきて閉じ込められる。安心したのは先へと進めばどこかに繋がっているという事だ。帰還の骨片を使わずとも良い。

 

 すると、奥の扉が開き建物から亡者兵士がワラワラと出てくる。丁度良い、呪縛者に逃げられてムシャクシャしていたんだ。鬱憤を晴らさせて貰おう。

 

 

 

 

 

 亡者を悉く殺戮しながら探索する。彼の言っていたお宝は、きっとこの地図に記された隠し扉にあるのだろう。

 壁を叩けば、やはりというべきか壁が引き戸のように開いて行く。中には宝箱……念の為に叩けば、どうやらミミックでは無いようだ。流石にあの魔物に食われるのは勘弁願いたい。

 

「おお、これだこれ!これを探していたんだ!」

 

 中身は魔術師の杖。これがあれば得意の魔術や闇術が使える。戦力の大幅アップだ。

 久しぶりに握る杖は結晶の錫杖ほど理力が効率良く伝わるものではないが、この森にいる敵相手には十分すぎるくらいだろう。

 右手にレイピアを握り、左手に魔術師の杖を掲げれば意気揚々と先へと進む。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、どうやら上手く抜け出せたようですね」

 

 罠を抜け出し……というか捩じ伏せペイトの所へ戻れば彼は変わらぬ様子でそう言った。

 

「お陰で宝も手に入った」

 

 左手の魔術師の杖を掲げる。やはり魔術は良いものだ、敵が瞬間的に溶けていく。

 

「それは良かった。そうだ、これを差し上げましょう」

 

 すると、彼は見覚えのあるものを取り出して差し出してきた。それは白いサインろう。懐かしいものだ、あの時、あの場所で、竜になろうとした太陽の戦士からも貰ったものだ。薪の王に根こそぎ持っていかれたが。

 

「懐かしいな。感謝するぞ、パッチ……じゃなくてペイト」

 

 名前がちょっと似ているから間違えてしまった。彼は首を傾げたが、それは良かったと言っていつものように優男へと戻る。まぁ何はともあれ結果的にプラスにしかならなかったな。

 

 

 分岐点へと戻り、砦を先に進む。どうにもこの地の濃霧は入り辛く、中へと入るまでに時間がかかる。ロードランのように敵をスルーしながら濃霧を潜るのは危険だ。

 しかし本当に魔術は便利だ。ソウルの矢でさえここの亡者共は一撃で死んでくれるから、わざわざ殴りにいかなくても良い。流石に亀のような鎧をした重鉄兵は一撃では殺せないが、それでも大ダメージである事は確かだ。

 

 そうして、私はさっきの篝火下にある通路へと出る。相変わらず下層では火吹きガエルが燃え盛っているが、関係ない。

 篝火までの扉もこちら側からならば開くようで、良いショートカットだ。目の前に昇降機があるが、地図にはそれ以降の道が載っていない。地図は確かに便利だが、探索のワクワク感が無くなってしまうからこういうのもまた良い。ロードランではワクワクなどしなかったが。

 

 昇降機を降りれば、そこは一本道の通路だった。地下にあるのだろう、地盤を掘って作られた雑なものだ。けれど扉がひとつぽつんとあるのを見るに、ここは炎まみれの下層へと繋がっているのだろう。そちらも見たかったが、鍵がなければ開けられない。

 濃霧の前に白いサインが二つある。他世界からの協力者のものだ。懐かしいな、ロードランでも世話になった。

 

「おう、ペイト。さっきぶりだな」

 

 ひとつはペイト。召喚されるや否や、こちらにお辞儀する。やはり獲物は槍と大盾だ。

 

 そしてもう一つのサインは……

 

「なんだお前?」

 

 傭兵ルートと呼ばれる、岩のようなハベルの鎧を着込み両腕に大層な大盾を持った……なんだ、こいつは。胴体以外は普通の鎧だが、何やら頭が赤く光っている。もしやこの大盾と言い、敵を引きつけるための装備なのだろうか。意外と頼もしいじゃないか。

 まぁ良い、こうやって誰かと戦う事は久しぶりだ。私達は濃霧に手を掛け、それを潜る。サインを書く、という事はこの先には強敵がいるということだ。(ソウル)はあまり感じ取れていないが。

 

 

 霧を潜れば、そこは大部屋と呼べぬくらいに洞窟で。そしてそれは居るのだ。

 

 

 大きい巨体。それは、巨人と言うにはあまりにも無機物のようで。

 顔があるはずの顔面には、大穴が穿たれていて何も無い。その穴はまるで呪われ過ぎた不死の身体に開く暗い穴のようだ。

 そして異様なのは、その巨人が鎖に繋がれていると言うこと。捕縛され、そして忘れられたのだろう。しかしまだ生きているようで、侵入してきた私達を、振り向いて確認した。

 

 刹那、巨人が吼える。

 

 まるで仇敵が来たと言わんばかりに。吼え、そして私にだけ殺意を向けてくる。会った事はないのだが。もしかして女は好きじゃないのだろうか。お前男好きか巨人。

 

「おい傭兵、お前の仕事は敵のヘイトを集める事だろう。仕事しろ」

 

 隣で立ち尽くす傭兵ルートに愚痴る。けれど彼もおかしいな、と言わんばかりに大盾で頭を掻いている。やめろ、大盾を振り上げると私に当たるだろう。

 

 

 

最後の巨人

 

 

 それは、そう名付けられたのだと頭が理解する。不思議な感覚だ、まるで囁かれたような気にもなる。とにかく、その最後の巨人は暴れに暴れ、鎖を引き千切る。そんなに簡単に千切れるならばさっさと逃げれば良いのに。丁度天井は無く、岩場だから登っていけるだろう。

 だがそんな事はどうでも良いのだ。早くあの巨人を滅ぼし(ソウル)を奪いたい。それは久しく隠れていた私の中の獣性。ロードランで味わった奪うことの快楽。

 

 私が走り出せば、遅れて協力者の二人も走る。ルートだけはその装備のせいで遅いが。

 

 巨人が拳を振り上げ、私目掛けて一気に振り下ろす。それをステップで避ければ地面が大きく揺れた。

 

「鈍いぞ巨人ッ!」

 

 揺れのせいで動けぬペイトを置いて、私は姿勢を低くしながら足下へと駆ける。巨人の弱点は足。踏まれたり蹴られたりすれば致命傷は免れない。だがその鈍重な動きは欠伸が出るほどだ。

 瞬間的に追尾するソウルの結晶塊を展開する。時は経とうともその技は衰えていない。

 

「オラァッ!」

 

 あの頃の少女らしさは何処へやら。猛々しい雄叫びをあげながらメイスで足を殴る。如何に私が小さな人間であろうとも、その膂力は(ソウル)により強化されている。握り拳ほどの鉄の塊が巨人の踵を砕いた。同時に、結晶塊が飛んで行く。

 

 巨人が痛みに咆哮する。

 

 結晶塊が巨人の腰に全て当たり、まるで腰を痛めた老人のように崩れ落ちた。痛いんだろう、片腕で腰を押さえ、項垂れている。

 

「死ねぃッ!」

 

 項垂れる巨人の頭の前へと移動し、瞬時にメイスをレイピアへと切り替える。そして、顔に空いた大穴にその切っ先を突き刺した。

 ずぶり、と肉とも皮とも思えぬ泥のような感触が握り手に伝わる。一体此奴の穴には何が詰まっているのだ。

 

 だが相当なダメージであったらしく、まるで飛び起きるように巨人が立ち上がり、よろよろとよろめきながら頭と腰を押さえる。二日酔いみたいだな。

 

「お前ら仕事せんかァ!!!!!!」

 

 背後でどうして良いか分からず立ち尽くす二人に檄を飛ばす。彼らはわたわたしながらよろめく巨人へと突っ込んだ。

 だが、その時だった。ダメージを受けながらも復帰した巨人が、何を思ったのか怒りに任せて自身の片腕を引き千切ったのだ。どうやら相当怒らせたらしい。

 

 千切った腕をまるで棍棒のように振るう巨人。突っ込んだ白霊二人は突然の逆襲に吹き飛ばされた。

 

「まったく男という奴らは……」

 

 協力者が聞いて呆れる。今度は私目掛けて振るわれる腕をローリングして後方へ回避する。

 

 そんなに死にたいのであれば見せてやろう。これでも闇姫と言われた過去がある。それはただ戦いに長けていたわけではない。

 

「追う者たち」

 

 闇術の十八番、追う者たちを展開する。結晶塊のように現れるそれは、私の闇から生まれし仮初の生命。そして長らえる事のないそれらは、生命を羨み向かっていく。

 放たれた闇の生命は、結晶塊のようにやさしくはない。巨人の足、腕、胴を容易く穿ち、爆散させる。

 

 一際大きく咆哮すると、巨人は倒れる。断末魔も大きいな。

 

 ああ、そうだ。こういう時に言う言葉があった。

 

I’m invincible(私は無敵故),I’m unavoidable(逃げる事は叶わぬ),I’m undebatable.(その余地すらない)

 

 久しぶりの決め台詞。自分で決め台詞と言って恥ずかしくないのかとも思ってしまうが、まぁ良いのだ決まれば。

 巨人は次第に(ソウル)へと霧散する。最後の巨人は、ドラングレイグに訪れた私にとって最初の巨人である。

 

━━Victory Achieved━━

 

 

「お前ら何をしに来たんだ……」

 

 

 唖然としながら消えていく白霊二人を見て呟く。まぁ二人とも世界の主(ホスト)が悪かったのだ。綺麗で強い白百合に呼び出されてしまったんだから。

 




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