暗い魂の乙女   作:Ciels

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Overrun
ハイデ大火塔、古い竜狩り


 

 マデューラの篝火に転送される。便利なものだ、ロードランの時なんてやっとの思いで突破してきた道を逆走したりしなくてはならなかったのに。中盤からは転送が出来た上に敵もあまりいなくなったからあんまり苦労はしなかったが。

 

 最初の巨人を屠った後に朽ちた巨人の森を探索したのだが、どうにも開かない扉もある。まぁその内鍵でも手に入るかもしれない。特にあの砦に相応しくない(ソウル)仕掛けの大扉は、やたらと強そうな騎士が守っている上に王の証を見せろと要求されるからどうにもならん。

 また、一箇所だけ強い(ソウル)を感じる濃霧があった。一先ずマデューラで休息したならばそっちへ向かうのも良いだろう。

 

 しばらく篝火の炎を見詰めて休む。不死はこうする事でしか安らぎを得られないのだろうか。

 眠りもせず、涙も流さず。けれど安らぎくらいはあってもいい。そしてその安らぎを守るのは火防女であり。このマデューラにいる火防女は美人だから目の保養にもなる。

 

「君もこの地に降りてから長いのか?」

 

 篝火のすぐ側で海を見詰める緑衣の巡礼に話し掛ける。彼女はフード越しに私を一瞥すると、語る。

 

「貴女のような沢山の不死を見ました。希望を求めこの地に訪れ、しかしやがてはその希望すらも失い、亡者となる……遅かれ早かれ、皆そうなるのです」

 

「随分と悲観的じゃないか。不死になった事を嘆き悲しむから絶望する。むしろ、私のように楽しむべきなのさ」

 

 そうやって私は生き抜いてきた。希望も絶望も無い虚無の中、それでも私は自分の人生を楽しんだ。

 後悔だけはしてはいけないとは、誰の言葉だったか。そして後悔はもう、しているとは、私が言ったのだったか。けれど、私は自分の人生を、選択を後悔はしていない。だってその過程で見てきた美しいものは本物だったから。

 

 私はそれを、後世に紡いでいかなければならない。私達の愚かで綺麗な思い出を、絶やさないために。

 

「……誰もが貴女のように強いわけではありません」

 

「だろうな。私も最初は殺されまくった」

 

 今でも不死院のデーモンの一件は腹が立つ。あの野郎、散々人を挽肉にしやがって……そう言えばこの時代にはもうデーモンは残っていないのだろうか。最早苗床は消え去り、死に行くだけの種族であるが故に栄えることは無いだろう。

 私は立ち上がり、緑衣の巡礼の隣に立つ。そして共に海を眺めた。

 

 マデューラの海は深い青に染まっている。嗚呼、あんなに綺麗に映る海は、しかし不死にとっては死の象徴であるとは。触れられず、見る事しか出来ないのは案外辛いものだ。

 

「美しい海だ。君が今目にしているものは、果たして絶望だろうか?」

 

「……私には、分かりません」

 

 無口な彼女が自分の感情を言い表せないでいる。なんと愛い事だろうか。後こんな状況で言うのも何だが本当にスタイルが良いな。隣に並んでいるから分かるが胸部が本当に大きい。谷じゃないか。谷……谷村?

 私も胸だけはあまり無いからな……案外コンプレックスだったりするんだ、が、あれ?

 

 ふと、自分の胸に目を遣れば。異邦の服を着込んではいるが、どうにも昔よりも盛り上がっている。おかしいな、アノール・ロンドであの女神を見た時に感じた絶望感が薄れているじゃないか。

 

 不死は成長しないものだ。それは覆せないこの世の摂理。そう言えば、髪も少し伸びただろうか。代謝の無い不死は最早髪すらも伸びないのに。

 

「……きっと、分かるようになる。私は絶望には飲まれん。私は闇に咲く白百合であるが故にね」

 

「……意味が、分かりません」

 

「自分でも言っていてよく分からんから大丈夫だ」

 

 良い雰囲気にしたくて自分から壊していってしまった。これは反省しなければ。人生反省することばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 朽ちた巨人の森に戻るのも良かったが、せっかく海を見て感傷に浸ったので逆方向にあるハイデ大火塔へと向かう。その火塔は海に面しており、今では海面の水位が上がってしまったせいで殆どが海の底ではある。

 ハイデという名が果たして国であったか、地名であったのかは最早失われた記録故に解らぬが、私の古い記憶では確か交易で栄えた国であったと思う。まぁ聞いたか何かした程度の記憶でしか無いから確かではないが。

 

 マデューラから東へトンネルを潜り、水門伝いにハイデ大火塔へと向かう。道中分岐路があったが、どうにも仕掛けが分からずもう片方への道は閉じ切ってしまっている。まぁ今は良いさ、どうせその内行くことになるのだから。

 

 水路を抜け、眩しい陽の光と海が反射する太陽光が同時に網膜を攻める。嗚呼、この眩しさこそあの太陽の戦士が憧れたものであるのだろうか。確かに、その光が映す光景は綺麗であるな。

 

 見渡せば、そこは海。ちらほらと未だ朽ちぬ塔とその周囲の建物が海面から覗くばかりだ。青教と呼ばれる宗派がいつからあったのかは預かり知らぬ所だが、ここはその発祥の地。神を信じぬ私にはどうでも良いことだが。

 

 

ハイデ大火塔

 

 

 近場に篝火があったので、とりあえず点火する。あまりにも海に面したこの地では水死の危険性が絶えないだろう。あれは苦しいからできればしたくは無い。少なくとも、死んでもここから復活できるのは有難いことだ。

 ここからでも見て取れるが、道中には巨人かと思う程に大きな古い騎士達が鎮座している。最早鎧は錆びており、まるで黒い森の庭にいた石の騎士のようにも見える。関係は無いだろう。

 

 篝火からすぐの広場に、バケツ頭のボロボロの騎士が座り込んでいる。どうにも亡者らしく、こちらの問い掛けにも反応は無い。敵意が無いのであればそれで良いが、後々襲い掛かられても困るので殺す事にしよう。

 ハイデの騎士と呼ばれたバケツ頭の彼らは、守るべき地が海に沈み最早やる事が無いのだろう。だがその技のキレは失われていないようだ。久しく一方的な蹂躙ばかりだった私は、反撃してくるハイデの騎士と斬り合う。

 

「だが所詮は亡者だ」

 

 亡者とは理性の無い獣。故にその攻撃は自身の最も得意とする技ばかりを用いる傾向にあるのだ。

 ハイデの騎士の三連撃。一撃目と二撃目をメイスで弾き、三撃目の大振りを見切った。

 左手のレイピアが、完全に騎士の剣をパリィする。すると無防備になったハイデの騎士の首元へ右手のメイスの柄でジャブを入れた。これは牽制だ。怯ませればより効果的な一撃を入れられる。

 

 殴られ怯んだハイデ騎士の頭を、メイスで打ち倒す。ボコッとバケツ兜がへこみ、そのまま勢い良く倒れ込む騎士を追撃する。更に顔面へとメイスを叩き込めば騎士は死に絶えた。まともな頃に戦えればそれなりに楽しめたはずだ。

 

 

 巨漢の古騎士は厄介だ。握り拳程度の大きさのメイスの先端では怯ませるのも容易ではない。ただ私の膂力はそれなりに強いため、殺す事自体問題は無い。

 各所に配置された古騎士を倒せば、時折何かのレバーが現れるが、引いても良かったんだろうか。まぁ良い、何とかなるだろう。……あの頃の慎重な私は消え去ったな。

 

 古騎士にも色々と種類がいるようで、時折大きなメイスや特大剣を持った厄介な輩がいるものの、そいつらは魔術や闇術で屠る。シースは嫌いだが結晶の魔術は強いので好んで使っている。

 

 そうこう進んでいれば、また分岐路となる。片方はこの下にある大火塔へと繋がっているようで、もう片方は上方に位置する聖堂のような建物へと繋がっているようだ。どちらにしようか悩むな、敵がいようが全部屠れば良いから楽しむことだけしか考えない。

 

「あれは……飛竜か?」

 

 と、聖堂手前の円形の広場に赤い飛竜がいるではないか。どうにも平和そうに眠りこけているあたり、奴の脅威となる敵がいないのだろう。

 あれを見ていると城下不死教区のヘルカイトを思い出す。まだ未熟な薪の王と散々焼かれたものだ。……思い出したらなんだかイライラしてきた。

 

 思い立ったが吉日。とりあえずあの竜は殺してしまおう。(ソウル)も美味いだろうし溜飲も下がるというものだ。私にとってメリットしかない。

 

「邪魔だこの古臭い騎士共ッ!」

 

 道中のハイデ騎士と古騎士を尽く屠る。弱いのに道を塞ぐのが悪いのだ。

 と、そんな喧騒を聞きつけたのか眠っていた飛竜が首を上げてこちらを見た。どうにも寝起きらしく、若干機嫌が悪いらしい。まぁここは静かだから昼寝にはちょうど良いのだろう。

 

 まるで鬱陶しい蝿を払うかのように、広場へと通じる一本道を飛竜が焼く。口から放たれた炎は伸び、危うく私を燃やしかけた。腹が立つ。

 きっとそれで私が死んだとでも思ったのだろう。隠れる私に気付く事もなく飛竜はまたすやすやと眠り込む。あれだけ気分良さげに眠るのを見ると睡眠が羨ましい。

 

 見ていない隙に一気に駆け込む。私の素早さならば今気付かれようが炎に焼かれる事はない。

 迫る私の足音を聞きつけたのか、飛竜がまた起きてこちらを見た。ギョッとした顔を飛竜でもするものなのだな、その顔はどうにも驚いているように見えた。

 

 飛竜が飛び起き、しかし何かする前に私のレイピアが奴の足に突き刺さる。ふむ、カラミットの硬さを想像していたがそれよりもよっぽど柔らかいようだ。先程レニガッツに武具を鍛えてもらった成果も出ているようだ。

 飛竜は嫌がるように私を踏みつけようとするが、あまりにも遅すぎる。飛んで何処かへ行かれる前に仕留めてしまおう。

 

 魔術師の杖を左手に持ち、脳内で詠唱する。放つは(ソウル)の結晶槍。結晶化する程に濃縮された(ソウル)は槍となり飛竜の胸を穿つ。

 咆哮し、怯む飛竜を更に攻める。レイピアに黄金松脂をサッと塗り、ガラ空きの喉元を突き刺しまくる。竜は総じて雷が苦手なのだ。

 

 数度突き刺せば飛竜は倒れ込んだ。そして後に残るは中々の量の(ソウル)。だが思っていたよりも少ないな。まだ若いのだろうか。

 

 飛竜を倒すとまたレバーが現れたので引いてみる。すると、聖堂前の橋が降りて来て通行できるようになった。これはもう行くしかないだろう。

 やや警戒しながら橋を渡り、聖堂を見上げる。立派なものだ。いつかこの建物も海の藻屑となるのだろうか。

 聖堂には濃霧が掛かっており、中からはそれなりに強い(ソウル)を感じる。良い良い、私が強くなるための餌がいるということだ。

 

 濃霧に触れ、中へと入る。中は至って普通の礼拝堂のように見えた。白教も青教も、こういう所は変わらぬものだな。

 

「……ほう」

 

 そしてその先に居る者を目にし、ほくそ笑む。

 

 見知った鎧だった。かつてあの神々の地において私を苦しめた強敵。それに酷似した鎧を着た誰かが、そこにはいたのだ。

 竜狩り。今は名前すらも失われているらしい四騎士の長。その名は竜狩りオーンスタイン。けれどもあの頃の金ピカ具合は無い。燻ったような銀色であり、背丈も少し小さいか。となれば、あれはもしかすると古くグウィンの竜狩りに参加した者の成れの果てかもしれない。

 これから死ぬ事には変わりないがね。

 

 

古い竜狩り

 

 

 竜狩りはこちらへ振り返るや否や、槍を抱え一気に突っ込んでくる。見覚えのある技だ。そして、私達を追い詰めた奴程キレのあるものでもない。生温い。

 あまりにも温くて、考える時間が多大にある。そうだな、槍か。確かに相手取ると厄介な敵ではあるな。ならば私の技の練習台となってもらうか。

 

 突進する竜狩りが槍を突き立てる。私は少しだけ身体を捻りながら片足を大きく上げる。

 

 薪の王(あの若造)ができて私が出来ないはずがない。槍は私を突き刺す事はなく、逆に踏みつけられて無効化された。

 あの時、最初の火の炉で薪の王にされた事を私も試してみたのだ。案外ぶっつけ本番でもできるものだ。だが別にその後は何もしない。竜狩りは思わず槍を引いて私から逃れる。

 

「竜狩りが聞いて呆れるぞッ!」

 

 下がる竜狩りを追う。手にするのはメイス。鎧相手には打撃系が良いからだ。

 苦し紛れに槍で斬り払いをする竜狩りだが、私はそれを前転で回避した。そして起き上がり様にメイスをカチ上げる。ゴンっと鈍い音がしてメイスの鉄塊が竜狩りの胴にぶち当たった。

 

「……!」

 

 竜狩りは驚いたように怯み、しかしあまりダメージが無いようだ。これは魔術を使うことも視野に入れなければ。

 私の次の一撃を竜狩りはステップで避けると、カウンターのように槍を突き刺してくる。なんて事は無い、私はそれをメイスで弾く。

 

「オラオラどうした!竜狩りを見せてみろ!」

 

 大きく跳躍し、竜狩りの頭上を超えながらメイスを打ち付ける。ガンッと頭を叩かれ竜狩りが痛がり大きく怯む。その際小声で痛ッ、と言っていたが聞かなかった事にしよう。

 着地と同時に右手に魔術師の杖を取り出す。唱えるのは闇術、闇の飛沫。放たれた闇の塊達は確かに竜狩りの背中に追突した。

 

 だが、どうやらこの竜狩りに闇術はあまり効かないようだ。まるでこちらを嘲笑うかのようにゆっくりと振り返り胸を張る竜狩り。なるほど、こいつやっぱり神々じゃ無いな。人だ。

 となれば、私はソウルの槍を放つ。闇術に耐性があるならば魔術で殺す。一方竜狩りは、それはダメだと言わんばかりに全力で避ける。分かり易いなこいつは。

 

 避けた先で、竜狩りが跳躍した。その動きはやはり突き刺し。まぁ槍なのだから突き刺しが王道だ。むしろそれ以外はあまり強くは無い。

 

 空中で加速したように竜狩りがこちらへ落下してくる。私も瞬時に飛び上がり、真っ向から向かっていく。

 ショートソードを右手に持ち替え、迫る槍を弾きながらローリングして竜狩りの身体を躱す。そして背後に飛び乗れば、その切っ先を背に突き立てた。

 

 流石の鎧も私の膂力の前には無力。半分ほどまで突き刺さった刃を抜けば、竜狩りの背から血が噴き出る。

 私が奴の背から飛び降りると、竜狩りは激痛に悶えながらもこちらを見据えた。根性はあるらしい。

 

「さぁ、私を殺してみせろ!」

 

 両手を広げて挑発する。流石に怒ったのか、竜狩りも震えが止まらない。

 竜狩りは震えたまま、闇のような波動を身体から放つ。本物は雷だったが、人であるが故に闇が得意なようだ。

 

 竜狩りは跳躍すると、今度は槍を構えずに……まるで空中で座り込むようなポーズを取る。あれはもしや、スモウもやっていたヒップドロップか。

 地上のこちら目掛けて一気に奴の尻が迫る。何て汚い光景なのだ。私が転がってその範囲から出た瞬間、奴のヒップドロップが炸裂。石畳に闇の波紋が広がる。

 

「最初からそれをやればいいんだ」

 

 座り込んだままの竜狩りに肉薄する。右手にはレイピア。左手には魔術師の杖。走りながら私はレイピアにエンチャントしてみせた。

 結晶魔法の武器。剣に結晶化した(ソウル)を宿らせ、一時的に爆発的な威力を齎す魔術だ。

 

 立ちあがろうとする竜狩りが苦し紛れに槍を横に薙ぐ。私は跳躍し、それを軽々と飛び越えた。

 

I’m invincible(私は無敵故),I’m unavoidable(逃げる事は叶わぬ),I’m undebatable.(その余地すらない)

 

 お決まりの台詞を吐き、竜狩りを押し倒す。攻撃し終えたばかりの竜狩りはバランスを容易に崩し、私に馬乗りにされると。

 一気に胸元へとレイピアが突き刺される。それは必殺の一撃。突き刺したレイピアを引き抜き、更に喉元へと突き立てる。すると竜狩りがより一層苦しみ、とうとう動かなくなった。

 

「例え本物の竜狩りであろうと今の私は倒せん」

 

 レイピアを引き抜きながら立ち上がり、刃に着いた血を払う。その時にはもう竜狩りは(ソウル)の霧と化して消えてしまっていた。

 (ソウル)の量は中々のものだ。強者であったのだろう。だが相手が悪かったな、私はこれでもロードランではそれなりに名を馳せたのだから。

 




1/18 仕事の関係で今週も投稿が厳しいです…

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ

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