暗い魂の乙女   作:Ciels

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投稿が空いてしまい申し訳ありません。10000近く書いたから許して


ハイデ大火塔、聖職者と女騎士

 

 

 

 古い竜狩りが鎮座していた大聖堂は、どうやら進むべき場所ではなかったようだ。何だか気難しそうな騎士が去れ……とか言ってくるだけで目ぼしい物は無かった。態度がムカつくのでとりあえず文句だけ言う。

 その先でひび割れた青い瞳のオーブとやらは手に入れたが、これだけでは赤い瞳のオーブとは異なり侵入などはできないようで無用の長物。まぁ強敵を倒して(ソウル)を手に入れられただけでも良しとしよう。

 

 さて、来た道を戻り分岐点より大火塔の主塔へと向かう。道中道を塞ぐ古騎士共を屠り、宝箱の前で座り込んでいたハイデの騎士もついでに殺して何やら有用そうな指輪を手に入れる。

 繋ぎ止める指輪。どうやら亡者化が深く進行しても生命力が低下しないらしい。この時代の不死達には重宝するのだろうが……いかんせん、私は古い時代の亡者である。故に今の若い奴らとは体の作りが少し違うようなのだ。だから生命力は低下しない。誰かにあげてもいいかもしれない。

 

 そんな、ちょっとしたガッカリを味わいながら主塔に掛かった濃霧を潜る。竜狩り程では無いがそれなりに強い(ソウル)を感じてはいる。どれどれ、少しは楽しませてくれれば良いのだがね。ドラングレイグの連中は根性無いからな。

 

 濃霧を潜った先に居たのは、大層な鎧に身を包んだ騎士だった。重厚で、装飾も良い赤い鎧と兜は状態も良い。手にした斧槍と盾もまたそれなりに高価なのだろう。体格も良い、古騎士ほど身長は無いが常人では無い。そこそこの(ソウル)を期待できそうだ。

 

 

竜騎兵

 

 

 私はドラングレイグの歴史に詳しくは無いからよく分からないが、それはそう呼ばれていたらしい。私の中の何かがそう言ってくる。

 竜騎兵というくらいなのだから竜にでも乗っていたのだろうか。ロードランで様々な古竜や飛竜を見た私からは想像できないが。

 ともかく、竜騎兵はこちらを見るや否やズシリと重い足取りで私へと向かってくる。ざっと地形を見れば、この主塔内部は円形になっており、厄介な事に狭い円形の足場の周りは壁ではなく海へと落ちるようになっている。動き回る戦法だと私が落下死しかねない。

 

「落下死か……いやこれは溺死になるのか?どちらにせよ嫌な死に方だ」

 

 実はロードランで結構な数の落下死と溺死をしてきた。故にその苦しみは分かっている。落下して頭から叩きつけられればまだマシ。足から着地しようものならば数時間苦しみ死ぬ事もあった。溺死は苦しいし。まぁ死ななければいいだけの話なんだけれど。

 

 どうやら考え事の最中に竜騎兵の射程に入っていたらしい。もっさりとした動作で竜騎兵が斧槍を振り上げる。サッと私も右手を朽ちた巨人の森で拾ったバックラーに変え、待つ。

 

 確かに、中々の速度と破壊力を持つ一撃であった。振り下ろされた斧槍は、けれど案外あっさりとバックラーによりパリィされる。構えと初動が分かれば後は簡単なものだ。

 どうやらこんなにあっさりと弾かれると思っていなかったらしく、竜騎兵は驚いたように兜の中の血走った瞳を開いていた。だがこれだけデカイとパリィからの致命の一撃はできないな。

 

 仕方ない、と私は弾かれて無防備を晒している竜騎兵の横を走り抜ける。円形の床までは狭い通路であるため、危うく竜騎兵とぶつかりかけた。

 私は円形広場の中心に陣取り、背を向ける竜騎兵を挑発する。具体的には、やれやれと両手を広げて態とらしく首を傾げた。呆れる、というロードランの闇霊で流行っていた煽り行為である。大体は仮面巨人と呼ばれた害悪闇霊連中がやっていたが。

 

 竜騎兵は振り返り様にそれを見て、少し怒ったのだろう。重い体重からステップを踏み、斧槍を一気に突き刺してきた。

 

「お〜いおい」

 

 だが私の飄々として舐め切った態度は何も変わらず。

 ドンっ、とその斧槍の切っ先を踏み付ける。先程竜狩りにやってみせた行為だ。確かに突きはキレが良いが、それだけだ。分かりやすくて見切りやすい。

 

「ロードランならお前は単なる不死の栄養分だぞ」

 

 斧槍を片足で踏みつけながら腕を組み、ニヤリと笑い竜騎兵を嘲笑う。あまりにも完璧な見切りに焦ったのか、竜騎兵は槍を引いて私の美脚の拘束から逃げる。まぁお遊びはここまでだ。今度は私も手を出させてもらうぞ。

 レイピアを握る右手に力を入れ、距離を取ろうとする竜騎兵へと駆け出す。魔術や闇術で屠るのも良いが、此度は昔ながらの近接線だけでやってみせようかな。

 

 盾を持つ竜騎兵の左側へと緊迫し、相手から姿を隠す。大盾は良い。強大な攻撃からも身を守れるそれは、正しく鉄壁の防御。私もロードランでハベルの大盾相手に苦戦したものだ。

 だがそれ故に、視界が遮られる。今も竜騎兵の盾に隠れ、私は攻撃の寸前。手始めに盾の内側へと入り込み、レイピアを鎧の隙間に突き刺す。

 

 ふむ、攻撃は案外通るが効き目が薄いな。無理も無い、碌に改造していないのだからこんなものだろう。

 

 刺されて痛みが走ったのか竜騎兵がもがく。盾を持つ左腕で、内側に入り込んだ私を薙ぎ払おうとして暴れたので一度離れた。如何に私の膂力と技量が高くとも生命力と強靭はそこまで高くない。ガタイの良いあいつの攻撃は喰らわないに越したことは無い。

 

 お返しとばかりに斧槍が振るわれる。パリィを恐れているのかやたらと素早いが、攻撃力はその分落ちているようだ。私はパリィせずに身を翻したりしゃがんだりして斧槍の連撃を回避する。おいおい、斧槍は元々私の専売特許だぞ。そんな私に斧槍を使うなどと、烏滸がましいではないか。恥を知れ恥を。

 

「どうしたどうした、当ててみろ!」

 

 笑いながらその攻撃の尽くを避けていく。反射神経の訓練みたいになってしまっているな。竜騎兵は舐められすぎて怒っているように見える。

 だがそんな中、不死であり飽きという物に対して非常に敏感な私は急に笑みを消す。消して、大きく溜息を吐いた。今も竜騎兵の攻撃は迫っているのに。

 

「飽きたな。お前もう死んでいいぞ」

 

 それはあからさまな死刑宣告。人の世で行われるそれと違うのは、即日。否、即執行されるということだ。

 レイピアを片手で回転させ、迫る斧槍を弾く。パーフェクトパリィ。レイピアはその形状のお陰で攻撃を弾きやすいのだ。真、良い武器である。もうちょっと破壊力が欲しいものだが。

 

 またしても攻撃を弾かれた竜騎兵は、しかしこの後すぐに殺される。

 私は飛び上がると両足で竜騎兵の顔面を思い切り蹴飛ばした。私の体重は軽いが、いくら重厚な竜騎兵とて顔面に全力のドロップキックを喰らえばよろめき後退る。そして、こいつは自分が戦っている場所をもっと見極めるべきだった。いつの間にか竜騎兵は攻撃しながらも崖側に誘導されていたのだから。

 

 戦士として、竜に乗って戦うだけではいけないだろう。それは慢心であり驕り。そんな心をへし折ってやるのも不死である私の役割だ。

 

 床の端っこで落ちそうになりブンブンと腕を振ってバランスを取ろうとする竜騎兵。だがその重量だ、立て直すのも一苦労であろう。

 ドロップキックから宙返りして着地した私は、そのまま駆け寄り竜騎兵の膝に足をかけて身体を登る。そしてすぐさま右手のレイピアをショートソードへと変えた。

 

I’m invincible(私は無敵故),I’m unavoidable(逃げる事は叶わぬ),I’m undebatable.(その余地すらない)

 

 いつもの文言を言いつつ、ショートソードを竜騎兵の兜のスリットへと突き刺す。こちらを驚いて見ていた瞳が刺し潰された。血が噴き出て、体勢を立て直す所では無い。

 そのまま腹部を蹴飛ばし、竜騎兵の身体から離れる。着地し、奴の方を振り返った時にはもう竜騎兵は下の海へと落ちる寸前だった。

 

 竜騎兵は呻き声をあげ、とうとう落下していく。選んだ地形が悪過ぎる。もっと自分を生かせる場所で戦うべきだ。もし亡者にならなかったら覚えておくと良い。まぁ、根こそぎ(ソウル)を奪われればもうそれも無理なのだが。

 鞘へとショートソードを納刀すれば、竜騎兵の身体が消える。数刻して、ドボンと大きな音を立てて海面へと激突したようだ。

 

「相手が悪いな、木偶の棒が」

 

 それなりに多い(ソウル)が流れ込んでくる。最初こそ楽しかったが、まぁ飽きるな。せめて魔術くらいは覚えていればもっと楽しめたのだが。

 

 

━━Victory Achieved━━

 

 

 まぁ勝ちは勝ちだ。(ソウル)も溜まったから緑衣の巡礼の下へと戻って(ソウル)を強化するのも良いだろう。だが大して疲労していないからこのまま進むのもアリだろう。私なら死んで(ソウル)を失くす事も無いだろうし。

 折角集めた(ソウル)を死んで失った時は本当に怒りに震える。あの憎きペトルスをサンドバッグにして爆散させても足らないほどに頭に来る。そういえば昔ペトルスの弟を名乗った闇霊がいたな。まぁきっと今頃くたばっているんだろうが。

 

 主塔を進み、最上階へと至る。道がそこにしか無いから進まざるを得ないのだが。

 

 すると、最上階に誰かがいた。どうやら聖職者のようで、この時代の聖女の服装に身を包み祈っている。ふむ、服装の上からでも中々の身体をしているようだ。良い良い。聖職と奇跡の国であるリンデルトの者のようだが……ふむ、それにしては祈りに真摯さが無いな。私も元聖職者としてそれなりに作法は知っているが、ちょっと違う。いくら時代と国が違えどもその辺りは変わらぬものだ。

 

 そんな考察と色欲の目線を送りながら、その聖女らしき女性の背後で腕を組んで観察する。いやぁ、しかし尻が良いな。若い少女ばかり好きになってきたが、こういう年上っぽい見た目の女性も中々良いものだな。あの火防女の家政婦と言い、中々にエロいじゃないか。

 

「……あの、もし」

 

 不意に、聖女が首を動かしてこちらに振り返った。顔も中々良いじゃないか。聖女らしい清らかさとは異なる、何というか人間らしい闇も感じる。欲も持った綺麗な女性だ。妙にエロい。さっきからエロいしか言っていないな私は。

 

「ああ、失礼。美しく清廉な聖女様とお見受けして、見惚れていた」

 

「はぁ……この地にお住まいの方でしょうか?」

 

 何言ってるんだこいつとばかりに訝しむ聖女。おお、全ての人々を受け入れましょう的な聖女は散々見てきたし、レアもまた慈悲に満ちた聖女であったが……こういう態度も良いじゃ無いか。なんだかゾクゾクする。

 色欲を必死に隠し、人当たりの良い笑みを浮かべながら彼女の横に胡座で座る。

 

「いや、最近来てね……私はリリィ、旅人さ。貴女はリンデルトの聖女?」

 

「はい……私の名はリーシュと申します」

 

 リンデルトから来たと見破られ、彼女は少し気まずそうな顔をした。ほんの一瞬だが。何やら事情がありそうだ。それも私好みの事情が。

 

「リーシュ。ふむ、良い名だ。君は一体何をしにこんな所へ?」

 

 徐々にフレンドリーに接する。そもそも、ここは少なくとも竜騎兵を倒さなければやって来れないはずだ。いくら世界が異なろうが、竜騎兵は強大な(ソウル)を持っていた。ならば他世界であろうともその存在は確立されているだろう。

 つまり彼女は、竜騎兵を殺せるくらいの実力はあるようだ。良いじゃないか、武闘派聖女。ますます好みだよ。

 

「私は奇跡の僕、この素晴らしき力をこの地に伝えに参りました」

 

「力、ねぇ」

 

 聖職者あるあるだが、普通彼らは奇跡を力などと呼ばない。神の御業だの導きだのと言うはずだ。それを単に力と言うとは……ますます怪しいじゃないか。聖女らしく、というより聖職者らしくない。何だか昔の私を見ているようだ。

 可愛いなぁ、その化けの皮と服を剥がして可愛がってあげたいなぁ。

 

 溢れる色欲を抑え、彼女の話を聞く。あくまでも彼女は聖女を貫いている。慣れない言葉と態度で私を騙し続けてくれ。そしていつか君の本性を私にぶつけてくれ。

 

「私も昔は神に仕えていたよ」

 

「でしたら、奇跡の力の素晴らしさをお分かりいただけると思いますわ」

 

 ふむ、と戦士の側面が心に現れる。奇跡は嫌いだ。神も嫌いだ。だがその有用さはあのクッソ憎い薪の王を相手にした際に身を持って味わっている。

 果たして太陽の力がこの時代、この地に伝わっているのかは分からないが。利用できるのであれば戦力が増すだろうか。特に太陽の光の剣辺りは黄金松脂よりも強いと聞く。

 

「ふむ……」

 

 いつかまた、薪の王のように強敵と戦う事があるかもしれんか。それに奇跡を覚えてリーシュとイチャつける可能性が増えるのであれば、変なプライドを捨てても良い。結局は神への憎しみよりも百合だ。百合こそ全てを超越する。超越者エディラ。誰だよ。

 

 イケナイ事を思いつき、ニヤリと頬を緩める。すぐに凛々しい戦士の顔つきに戻れば、私は尋ねた。

 

「なら、私に奇跡を教えてくれないだろうか。君の奇跡……私も知りたいな」

 

 そう問えば、彼女はギョッとしたように私を見た。そして驚いた。あまりにも不自然に近寄る私を警戒しているのだ。だが表立って警戒することのできない彼女は愛想笑いし、そそそっと離れる。

 

「え、ええ……教えますから、その」

 

 百合に目覚めていない者を導くのも、白百合の役目だ。きっと最後には彼女の方からやって来るに違いない。美人が多くて良いなぁドラングレイグは!

 私もそれ以上は近づかずに、咳払いする彼女の言葉を聞くことにする。

 

「最低限の信仰心はお持ちのようですね。良いでしょう……では、(ソウル)を」

 

「金取るのか?」

 

「僅かばかりの(ソウル)を惜しんでいては祝福は得られませんよ!」

 

 笑いそうになる。物凄く俗物じゃないか。だが気に入った、それでこそ人らしい。実に新鮮だ。百合に溺れた彼女の顔を脳裏に浮かばせながら竜騎兵を倒して得た(ソウル)を献上する。神にではない、彼女に対してだ。

 差し出した(ソウル)を彼女は掴み取ると、懐から聖典を取り出して私に差し出した。おいおい、語り継ぐのでは無いのか。まずは語り、そして聖典を見せるものだろう。アドバイスしたいが、彼女が警戒してどこかへ行ってしまうかも知れないから言わない。面白過ぎるぞこの女。

 

「これこそ神の奇跡を写した聖典。きっと神は貴女を祝福するでしょう」

 

 差し出してきたのは限られた大回復という奇跡の書。昔から伝わる大回復の物語の一部を切り出したものらしい。ふむ、効能は似たようなものだがその分(ソウル)の集中力も多大に使うようだ。篝火で回復しなければ一度しか使えないだろう。まぁいいさ、回復に困るほどダメージは受けん。

 

「信仰心もあるようなので、直ぐにでも恩恵に授かれるでしょう……これからも神々のためにソウルを供するのですよ」

 

 商魂逞しいな彼女は。絶対落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、リーシュと別れた私は心に燻るムラムラを抑えながら先へと進む。今まであっさり落ちた子が多かった気がするから新鮮だが、この欲求はどこへぶつけてくれよう。

 とりあえず大火塔を降る。道中の敵は全滅させる。奴らではこの心を抑えられない。うぐぐ……アナスタシアが恋しい。彼女は今何をしているのだろうか。まだあの檻の中で私を待っているのだろうか。……それは、無いだろう。何百年も昔の話なのだから。

 

 もし、会えたら。いや、会わせる顔など無い。約束を破った私に、そんな権利はあるはずない。

 

 どれもこれも、薪の王のせいだ。勝手に私の顔が彫られたペンダントを持った変態のせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイデ大火塔を更に降り、地下の洞穴を進む。するとそこにあったのは……港だと?こんな地下に港があるじゃないか。まるで隠すように作られたその港は、どうやら海につながっているらしい。一体どんな目的で作られたのやら。

 

 

隠れ港

 

 

 あまり大きな港では無いが、船が泊まっていない。面白そうだから探索してみるか。有用なものが落ちているかもしれない。

 だがそこは蛮族の住処と化しているようだ。足を踏み入れればやたらと亡者化した蛮族が襲って来る。複数で来られても対処は簡単だが、遠くから矢を放って来る輩は本当に腹が立つな。

 

 一先ず敵を皆殺しにしながら桟橋を抜け、粗末な家屋をしらみ潰しに探る。こんな場所にあるのだから、さぞかし良いものが落ちていそうだが。

 室内にも蛮族はおり、どうやら交代制で見回りしているのか机に突っ伏して休んでいる奴らもいる。戦う手間が省けるから良い。寝ている蛮族はとりあえず背後からレイピアを突き刺してやった。

 

 と、そんな探索をしながら品物を探す盗賊と化していた時。

 

 とある家屋で、その人物と出会った。

 

 

 その人物は私を見た瞬間、蛮族の仲間と思ったようで大剣を抜刀したのだが、私の白く滑らかな肌を見て亡者でないと理解したらしい。剣を納めると静かに言う。

 

「……何か用か」

 

 翁の仮面をした騎士。蛮族とは似ても似つかない凛々しく作法ある佇まい。だがその声は麗しい女性のものだ。

 今日はツイてる!まさか二人も女性と出会うとは!時の歪んだこの地で今日などと言うのはおかしいかもしれないが、まぁ良いんだ細かい事は。とにかく気品溢れる女騎士と向かい合い、私は口にする。

 

「剣を抜いておいて何か用かは無いんじゃないか?まぁ良いさ……貴公、不死か?」

 

 壁にもたれ掛かりながらも気品が溢れる女性に話しかけると、しかし彼女はツンケンした様子で語る。

 

「……誰かは知らんが、あまり私に関わらない方が良い……その方が身の為だ」

 

「……それ、無駄に格好つけてるように見えるから辞めた方が良いぞ……」

 

 後の世であれば厨二病と言われるものに近しい。まぁそんな女性も好きだが。痛々しい女性ってのも見てみたいものだ。可愛かったら愛せる。

 呆れる私に、女性騎士は大きく溜息を吐いた。怒らせたか。怒る女性も好きだぞ。

 

「ふー……フフ、奇特な奴だな」

 

 笑った。仮面で表情は見えないが、確かに笑った。どこか緊張が抜けたのか、彼女の声色が少し柔らかくなる。かなり美声じゃないか。できれば仮面をとって欲しいが。

 

「こんな怪しげな仮面を付けた者に危ぶみもせず近づいて来るとは」

 

「一人孤独な女性を見捨てて置けなくてね。リリィだ、旅をしている」

 

 手を差し出す。武具は握っていない、警戒はさせたくなかった。すると彼女は少しばかり握手を躊躇った後、恐る恐ると言った様子で私の手を握る。グローブ越しでも分かる、この手は戦士の手だ。そして優しくも厳しい少女の手だ。リーシュにお触り出来なかったから嬉しいぞ。

 

「私の名はミラのルカティエルという」

 

「ほう、誇り高き騎士の国か」

 

 噂は知っている。戦乱の絶えない国であるらしいが、騎士らしくプライドが高いと言うことも。ここに来るまでには山岳地帯を抜けなくてはならないから大変だったろうに。

 

「知っているのか。この地にある(ソウル)という特別な力を求めてきたが……想像以上に奇妙な場所だ、ここは」

 

「ふむ、そうかもしれん。およそ人知が及ばん事が起きるのもまた、(ソウル)の業故さ」

 

 その間も、ずっとルカティエルと名乗った騎士の手を握っている。にぎにぎ、感触を確かめるように。流石に彼女も何か思う所があるのだろう、少し申し訳なさそうに彼女は言った。

 

「……その、もう握手は良いだろう」

 

「ああ……なら、ハグはどうだ?まともな不死を見るのは久しぶりじゃないのか」

 

「い、いや……いらない」

 

「そうか……」

 

 名残惜しそうに私は手を離す。シュン、と落ち込む私は、きっと犬ならば耳が垂れているだろう。犬……犬は嫌いだ、腹が立ってきた。何だか最近感情が荒ぶるな。

 するとルカティエルはそんな私を見てくすりと笑う。そんなにおかしかっただろうか。

 

「フフ……不思議な奴だな、お前は。私はずっと人を避けてきたというのに」

 

「気に入ってもらえたかな?気を張り続けるのも良いが、貴公は笑っていた方が綺麗だぞ。顔など見なくとも分かる」

 

 平然と恥ずかしい事を言うが、何を躊躇うことがあろうか。私は好きなように生きているのだ。美しいものを美しいと言わずにどうする。

 流石に性欲をダダ漏れにはしないがね。いや、手を握っている時点でアウトか?

 

「面白いな、お前は。こんなに人と話したのは久しぶりだ」

 

「偶には言葉を交わさんと退屈するだろう?退屈は不死の敵だ」

 

 仮面の下で彼女は笑い、頷く。

 

「そうだな、そのようだ。お前も旅の途中のようだな、もし必要であれば手を貸そう」

 

「本当か?」

 

 内心物凄く喜ぶ。もしかすればこんな麗しい女騎士と旅が出来るかもしれん。ロードランでは途中まであのクソ坊主と一緒だったな。ちっ、私が男と旅をするとは……人生の汚点だ。どうせなら彼女みたいな女騎士と旅をしたかった。

 もし百合に目覚めさせていたのならば、対峙することなど無かったに違いない。あームカつく。武器も装備も消耗品も根こそぎ奪いやがって……いかん、嫌な思い出に浸るのは私の悪い癖だ。

 

「我が国ミラは、騎士の国。私も、それなりに覚えはあるつもりだ。遠慮する必要はない……どうせ私の身など……フフフ……」

 

 自嘲気味に笑う彼女の心の闇を押し退け、私はグイッと詰め寄る。

 

「おい、貴公」

 

 ドンっと、壁に寄りかかる彼女を阻むように、片手を彼女の横に押し当てる。まるで愛を迫る男のようだ。後の世では壁ドンなんて呼ばれるらしい。身長が小さいせいで私が見上げているが。

 

 そんなアクションにルカティエルは少し驚いたようだった。息を呑む音が眼前の私に伝わる。

 

「どんな事があるにせよ、自らを貶める事を言うなよ。貴公も不死であろう、ならばもっと強気で生きろ。でなければ不死は亡者の呪いに囚われ続けるぞ」

 

「……お前」

 

 彼女の股の間に膝を入れる。逃がさないと言わんばかりに。

 

「初対面だがな、私は貴公を気に入っているんだ。気に入った貴公を蔑むのは誰であろうと許さん。貴公自身でさえもだ。いいな?」

 

 彼女は答えなかった。だが思う所があるのか、少し俯く。俯くと帽子の先端が私の頭に当たるからやめてくれ。その帽子の飾りが私の頭に刺さるんだ。

 とにかく、辛気臭い話は終わりだ。私は彼女から離れ、手を取る。

 

「ほら、分かったら行こうじゃないか。手を貸してくれるんだろう?」

 

「え、あ、ちょっと待て!私は白霊として……」

 

「まぁまぁ良いじゃないか、この港だけ一緒に回ろう、な?フフフ……」

 

 強引に彼女を連れて家屋を出る。いくら腕に自信のある騎士とて私の膂力に勝てるはずもなし。それにその反応、生娘だな?ヒョヒョヒョ、可愛いじゃないかルカティエル。いや、ルカティン。

 何か言ってくるルカティエルを無視して一緒に階段を登る。ああ、少しの間でも少女と冒険できるとは。良い時代になったな!

 

「お、おい!話を……」

 

「お、ルカティン、犬がいるぞ!皆殺しだ!犬は殺せ!」

 

「ルカティ……はぁ……分かった、この港だけだぞ」

 

 次第に諦めたように彼女は隣に立つ。

 

 縁とは、奇妙なものだ。こんな出会いでも繋がり、そして未来へと紡がれるのだから。

 今の私には分からないが。きっと幾年経とうが彼女を忘れることはないのだろう。それは呪いに似て、しかし暖かくもある。

 

百合ばかりの番外編を

  • 見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
  • いやぁそうでもないっすよ
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