ファロス、と呼ばれる人物がいた。
流離人である彼の名はドラングレイグのみならず様々な場所に残っている。
困窮した人々の救世主として様々な仕掛けを残したと言われる彼は、しかし複数の人物の偉業が混ざった末の統合であると言われており、誰もその真実を知らぬ。けれど確かにその仕掛けは残っており、存在はしていたのだ。
例えば、朽ちた巨人の森。人の顔を模した壁の仕掛けに鍵となるファロスの石を嵌め込めば、隠し扉が仕掛けられていた。ついでに楔石の原盤も。
そしてここ隠れ港においても、彼又は彼女の仕掛けは残されている。薄暗い洞窟の中に造られた隠れ港、そこの仕掛けは洞窟内にあるすべての篝火を点火するという地味に優れたものだ。個人的にはアイテムや武具が隠されていた方が冒険心が擽られるから良いんだけれど。
「異形共が隠れていくな……光が苦手なのか」
ファロスの仕掛けを弄る私の隣でルカティエルが呟く。
「否。むしろ光は憧れだよ。故に日陰者である彼らには眩しすぎるのだ」
不死の異形と呼ばれる存在。肌は黒ずみ、異常なほどに発達した腕を持つ人ならざる奴らは、元はただの亡者だったのだろう。それなりに強靭を持ち、高い攻撃力を持つ奴らの相手は苦労した。主にルカティエルが。
彼らを見て、古いウーラシールの民を思い出す。彼らもまた深淵に飲まれ、異常なまでに人間性を暴走させて変異してしまった。だがここの異形は、長い年月を経てゆっくりと変化していっただけだ。故に闇や深淵への理解などありはしない。これは自然現象なのだから、そんな啓蒙に辿り着けぬ。
哀れなものだ。そして恐ろしいものだ。人間性とは一体何なのか。その答えは未だに分からぬが。碌なものではないということは確か。嗚呼、いつか私もああなってしまうのだろうか。きっと異形になっても少女達を追っていそうだが。百合のデーモンみたいに。
それにしても、この港は怪しさに溢れている。どうやらここはドラングレイグの管轄では無かったのか、ヴァンクラッドの痕跡がまるで無い。となれば、かつてのハイデという国が隠していたのだろうか。ここに住むのは蛮族と異形だけだが、どうにも統率が取れている。きっと何かの目的があってここにいたはずだ。
考えるのは楽しく、苦しいものである。辿り着けぬ答えがあるからこそ考えを愉しみ、しかし辿り着けぬからこそもどかしい。あの白竜もそんな境地にいたのだろうか。
あからさまに配置されたレバーを引けば、海の方から一隻の船がやって来る。古びた船だが航行には問題無いようで、鳴った鐘の音に呼応しているかのようだ。どうやら、あの船で次の新天地へ向かえとの事らしいが。何だか誘われているような感じだ。
「さて、どうするルカティン。あの船は私達をお呼びだぞ」
同じく船を眺めるルカティエルに尋ねながら、ソソソっと彼女に寄る。一瞬彼女は驚きに身体を震わせながら、しかし次の瞬間には一歩だけ離れた。連れないものだ。
「ならば進むだけだ。……リリィ、近い」
それでも寄ってくる私に、ちょっとだけルカティエルが恥ずかしそうに呟く。あれ、この反応。案外満更でも無いんじゃ無いだろうか。
今はまだ待つ時だ。いつか彼女も私の百合の蜜にメロメロになる時が来よう。あー楽しみ。滅茶苦茶。
船へと至る前に、一先ず探索を済ませておく。罠が仕掛けられた宝箱に殺されそうになるルカティエルを助けたり落ちていたグレートソードを拾ったりしていると、またもやまともな人に出会った。
どうにも寸胴な体型に、蛮族のような鎧と兜を着込んで酒をグビグビ煽るその人物は……ゲルムの戦士であろう。
「ダレ、オマエ?オレ、ガヴァラン。ガヴァラン、アー、ショウダイ、ショウバイ?」
「商人か?」
尋ねれば、彼はガハハと軽快に笑って頷く。ゲルムの民は自分達を地下に追いやった人間を恨んでいると聞いていたが、彼は大分異なるようだ。無邪気に話し酒を呑む彼は、商品が陳列された机を指差す。
「オレ、ソウルイッパイホシイ。イッパイ、ショウバイ!ガハハ!」
初めて未開の民族を見つけた気持ちだ。だが悪い奴では無いようで、むしろ良い奴だ。商売は出来る時にするに限る。リーシュでは無いが、僅かな
私とルカティエルは苔玉数個を買う。どうやら毒の扱いに長けているらしく、指輪以外の品物は全部毒系のものだ。毒投げナイフも買っておく。侵入された時の嫌がらせに丁度良い。
ガヴァランとの買い物を終え、また船へと向かう。桟橋には敵が複数隠れていたが、どいつもこいつも弱いから簡単に殺せる。定期的にルカティエルを見てやらないと海に落ちそうになっているのでヒヤッとするが、そんな意外とおっちょこちょいな所も可愛いぞ。
それはそうと、ドラングレイグにはまともな不死がかなり集まっているらしい。また新たにまともな人間を見つけた。
どうやら魔術師らしいその老人は、目を閉じて桟橋の奥に座っている。瞑想しているのか?見た目は全く似ていないが、何だか古い我が師、ローガンに似ていなくもない。
「ふむ……」
そんな老魔術師は、私達の存在に気がつくと首だけを振り返らせ、まるで品定めするように眺めてきた。
「女の子をそんな目で見ているとしょっ引かれるぞ」
軽口を叩きながら老人に話し掛ければ、そんな言葉は無視される。
「お主だけはかなりの力を感じるぞ……よろしい。そこの荒々しい方の娘、お主は今から我が弟子だ」
「なんで?」
あまりに突拍子もない事を言うものだからそんな声を出してしまう。なんで急に弟子にされたのだ私は。思い出してみれば、ローガンも中々に変人だったが……裸で竜になったし。
私とルカティエルが老魔術師に困惑していると彼はまた勝手に話し出す。実は亡者化進んでいないかこのジジイ。
「我が名はカリオン。晦冥のカリオンと聞けば御主も知っていよう?」
「誰だよ」
本当に誰なんだこの老人は。心の底から疑問が出て、しかし目の前のジジイは何を思ったのかほほほと笑い出す。
「よいよい、我が名に臆する事はない。共に魔術の深奥を究めようぞ」
本当に言っているのかこのじいさんは。私は隣のルカティエルにヒソヒソと耳打ちする。
「知ってる?」
「いや、知らない」
どうやら騎士の国の彼女も知らないようだ。まぁそもそもミラの国は魔術を使っているイメージが無い。だがまぁ、この爺さんからは下心を感じない辺り、本気で私を弟子にしようとしているらしい。どちらかといえばこの爺さんが私の弟子になるべきだが。
まぁ良い。何か新しい時代の魔術もあるかもしれん。ルカティエルにちょっと待っててとお願いすると、私は老人の後ろに座った。
「では、師よ。この私に魔術を教えると言うのであれば教えて見せろ」
「ほう、随分と跳ねっ返りだな。まるで若い頃の自分を見ているようだ。良い良い、それくらいの気概の方が伸びるというもの。だが我が魔術は
互いに魔術師のスイッチが入る。どうにも勉学は好きじゃないはずだが、やはり興味があればどんな事でも熱中するのだろう。
しばらく私は新たな師から様々な魔術を学ぶ。その殆どが私も知っているものだったが、それでも時が経ったことによる魔術の進化も見れて面白いのだ。
ルカティエルは一人、後方で時間を潰す。釣りでもしようかと思い、置いてあった釣竿を手に桟橋で一人釣果に恵まれぬまま時間を過ごした。どうにもここは魚が少ないらしい。
数時間学び、満足した。どうやら師もここには長居する必要がないと思ったのか、マデューラへと向かうらしいからまた学べるだろう。
理力も高く、二つ名を名乗る事もあって魔術師としては優秀なジジイだった。ローガンよりは劣るかもしれないが、やはり彼は結晶魔術を書庫で見つけた事が大きいな。
いつの間にか釣りに熱中していたルカティエルと、今度こそ船に乗る。乗員の蛮族が何人か居たがあっさりと私達に蹂躙された。
それにしてもボロい船だ。数十年、或いは数百年使っていたのだろう、所々船体が海水と潮風で痛み、朽ちかけている。航行には問題なさそうだが……頼むぞ、船が沈んだらどうにもならん。
どうやらこの船は魔術か何かで動く仕掛けのようだ。外観はボロいが、中身はハイテクという訳で。私達は船内を探索することにする。動いてくれないと困るし。
「魔術の成果はあったか?」
ふと、ルカティエルがそんな事を聞いてくる。
「貴公の釣果よりはあったね」
「言うなよ、釣りなんて初めてだったんだ」
たわいも無い会話。だがそんな会話こそ私が少女としたいものだ。
抱き合いながらイチャイチャして日常会話しながらまたイチャイチャするという崇高な事こそ私が求める百合。良いよね百合って、私百合大好き。今すぐルカティエルと愛し合いたい。欲求が止まらない。
妄想に囚われていると、目の前に濃霧がある。こんな狭い船内なのに強敵がいるようだ。竜騎兵と同等程度の強さだろうか。
「よし、私と貴公の共同作業といこうじゃないか」
「お前は普通に会話できないのか……まぁいいさ」
呆れながらも、私とルカティエルは霧を潜る。何だっていいさ、
それは、異形。だが先程見つけた異形達とは違い、もっと悍ましい形状をしている。
まるで二人の人間が背合わせになっているようなその異形は、自然に生まれた者ではない。一人は曲剣、もう一人は棍棒を握る背中合わせの合体人間は、理性など無い。だが使命だけはあるようだ。
私たちのような不死を屠る使命が。
腰から上は二人の亜人が合体しているらしいその執行者は、私達を見るや否や二足の足で駆け出してくる。なんて悍ましいのだ、鎧こそ着ているがゲテモノ感丸出しで不快だ。芸術点に欠ける。
執行者が狭い室内で跳び上がり、両手の曲剣を振り上げる。中々に素早いその動きは、しかし回避には事欠かない。私とルカティエルは横へと転がるとその一撃を回避した。
「ありゃ、浸水してるじゃないか」
転がってから気がついたが、室内に水が溢れている。壁の一部に穴が開いていてそこから海水が浸水してきているようだ。面倒だな、さっさと倒さないと溺死するじゃないか。逃げようにも濃霧のせいで逃げられん。
「ならばさっさと倒すまでだ!」
勇ましくルカティエルが執行者へと突撃する。彼女の剣技に流石の異形も怯んでいた。なるほど、剣に覚えがあると言うのも嘘ではないようだ。可愛い。
と、私も魔術で援護しながら傍観しようかと思っていると変化があった。突然船体に空いた穴から暗殺者らしき二人の亡者が現れたのだ。まるで獣のように這いながらルカティエルへと迫る異形の影。
私は即座に魔術師の杖を掲げると脳内で詠唱する。その速度は異常に速く、例え速度に特化した異形共でも間に合わないだろう。
「ソウルの槍」
多少無理をして連発する。放たれた極太の
「援護しよう。新しい魔術も使いたいしな」
「悠長に言っている場合か!」
ルカティエルの盾が執行者の連続攻撃を防いでいる。だがあのままでは押し切られてしまうに違いない。押し切るのは私の役目だぞ。
杖を持ったまま執行者の背後へと回り込む。背後といえどもう一人の執行者が背合わせにくっついているから弱点にはならないだろうが、ルカティエルに当たらなければ良い。
こちらに気がついた棍棒持ちの執行者が何かする前に、私は脳内で詠唱する。新たに手にした我が魔術、ご覧入れよう。
「乱れるソウルの槍」
唱えた瞬間、杖から小さめのソウルの槍が複数乱れ飛ぶ。やや精度に難ありだが、大きめの身体である流罪の執行者相手では問題ない。
小さく威力は控えめであろうとも全弾当たれば脅威である。きっとソウルの槍単発よりも威力は高いはずだ。
一斉に石をぶつけられる迫害者のように、流罪の執行者へと乱れるソウルの槍がぶち当たる。痛がっているのか、必死に腕をクロスして耐えているが……気の毒に。
そしてルカティエルと対峙している側の執行者もその異常事態に反応し、攻撃の手が弱まる。愛しの女騎士はその隙を見逃さない。
「はぁッ!」
可愛らしい雄叫びをあげて彼女の大剣が執行者の顎先を抉る。思わず曲剣持ちの執行者が項垂れる。そのせいで背中の棍棒持ちが仰け反ってしまった。二人一緒なのも考えものだな。
ニヤリと笑い、得意の結晶魔術を唱える。結晶の錫杖があればきっとこの一撃だけで屠れていただろう。
「ソウルの結晶槍」
結晶化する程に濃縮したソウルの槍は、執行者の腹部に突き刺さるとそのまま軌道が逸れて棍棒持ちの顔面を文字通り飛ばす。更にルカティエルが項垂れた曲剣持ちの首を刎ねた。
哀れだな。流罪のための執行者が、執行対象に斬首されるなど。生まれてきた地獄に戻るが良い。
強敵と言いつつも、ここまでの道中は皆雑魚ばかりだ。それも無理はないだろう。ロードランの連中は皆揃って純粋に強いのだから。
私達は浸水する部屋を抜け、動力室へと入る。何やら複雑そうな仕掛けのレバーを動かせば、ようやっと船が動いてくれた。
甲板に出て、しばし海の旅行を楽しむ。柵にもたれ掛かり、私達を殺しにかかる海と意外と不快な潮風に晒されながら、あぁ、時代が変わっても人は変わらぬのだな、なんて考える。
あの執行者が誰を流罪にしていたか何て、考えなくとも分かる。不死だ。北の不死院よろしくこの船に不死を乗せてどこかへ流していたのだろう。不死は死ねぬ故、閉じ込めておくのは変わらない。臭い物に蓋をするということだ。
不意に黄昏れる私の横に、ルカティエルがやって来る。彼女は同じく私の横で海を眺めると、徐ろに仮面を取り外した。
「……仮面を被っていたのはそれが理由か」
ようやく拝めた彼女の顔は、半分亡者と化していた。悲しいかな、心臓が跳ね上がるほどに美人であるのに。だが私はそんなもの気にしないがね。美しいのは変わらないのだから。
彼女は頷く。そして片手で亡者と化した半面を隠した。
「本当は、見せる気はなかった。すまない、こんな醜いものを見せてしまって」
「そうかな……私も散々亡者になったし、気にしないさ。美人はいくら亡者になろうが美人なのさ」
私が望むのは、
そっと、私は隣のルカティエルの腰を抱いた。最初こそ彼女は驚いて身体を跳ねさせたが、離れることは無い。これはつまり、合意だ。
「君は美しい。故に、私の前だけでも良い、その仮面は取り払え。君への愛は変わらないさ」
「恥ずかしい事をつらつらと……フフ、おかしな奴だな」
言いながら、とてもとても雰囲気が良いなと興奮する。多少彼女の方が背丈は高いが、それもまた良い。鍛えられた彼女の体は多少筋肉質だが、女性特有の柔らかさも持ち合わせている。
さっと、私は彼女の尻に手を伸ばす。
「あまり調子に乗るな」
パシン、と彼女の拳が私の手を払った。
「……ダメか?」
「そう言う関係じゃ無いだろう。そもそも女同士だぞ」
「性別や常識など不死には関係がない。それよりも、心を大切にすべきだ。だろう?」
むふふ、と笑い彼女を見上げる。これでも顔は良い方だ。小悪魔的な笑い方は、少女達の心に響くだろう。ルカティエルもまた、挑戦的な私の笑みを見て頬を赤らめた。
それで良いのだ。心があるのであれば。例え亡者となろうが人間であるのだから。
「陽が、沈む。けれど人はそれでも生きていく。なぁルカティン、あの景色を美しいとは思わんかね。その心こそ人である証さ。不死だろうと、亡者だろうと。あれが美しいと思れば人なのさ」
「……まるで哲学者だな、お前は」
腰に抱きつく私の頭を、彼女はそっと撫でる。その手はどこまでも暖かくて、理性など失ってはいない。やはり彼女は美しく、私の好みの女性なのだ。
絶対いつか堕としてみせるぞ。向こうから抱きつくくらいにね。
ロイエスマラソンで彼女には助けられました。もっと百合が描きたい……
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ