船に乗せられ辿り着くは、不死達の最期の場であり忘れられた牢。名すらも残っていない亡国が造りし終わりの流刑地。いつからか人はそこを忘却の牢と呼んだ。
船が洞窟を抜け、忘却の牢に辿り着く。なんとも陰気臭い場所だ。未だに死ねぬ不死達の呻き声が至る所にある牢から聞こえてくる。陽が当たらぬ分不死院よりも質が悪い。
人とは変わらぬものだ。不死という存在を蔑み恐れ、しかし共存する事を知らぬ。邪魔だから、不死が移るから、送ってしまえと。愚かなものだな、だから闇の王を目指す不死が出てくるのだ。
降りて直ぐ、篝火を見つけたので私は一度マデューラに戻ることにした。新しく見つけた場所ではあるが、一度
ルカティエルも一度落ち着きたいとの事だし、私達は篝火による転送でマデューラの緑衣の巡礼の所へと向かう。ついでにケイルから貰った鍵を使って隠れ家を開いておきたい。
「いつ来ても寂れているな、ここは」
転送され、マデューラを一望したルカティエルが呟く。
「栄えているだけが全てじゃないさ。むしろ栄えていると人が溢れているせいで鬱陶しくてかなわん」
そう言って当たり前のように彼女の手を引き、隠れ家へと至る。もう彼女も私に手を握られるのは慣れてしまったようだ。尻を触られるよりはマシと判断したのかも知れない。
どうやらこの隠れ家はかつては金持ちが住んでいたのだろうか。やたらと古く資料的価値のある本が多く置かれていて、暇を潰せそうだ。おまけに2階にはベッドもある……閃いた!が、今はまだ早いな……
「ふぅ……久しぶりに篝火以外でゆっくりと休めそうだ」
ボスっとベッドに腰掛けるルカティエル。マスクは……外している。故に今の彼女は身体を癒そうとしているただの麗しの女騎士。
グググっと欲求を抑える。正直に言えばこのままそれとなく横に座ってイチャコラして押し倒したいのだが、まだその時ではない。愛とはゆっくりと育み、熟成させるべきなのだ。その時こそ燃え盛る。ロードランでは些かせっかち過ぎたからな……
「少し出てくるよ」
「そうか。私も少し休んだら忘却の牢へと戻る。もし会ったならばまた手を貸そう」
「ああ、心強いね……では」
ムラムラを抑えて部屋を出る。ここは勝手に使って良いと言ってあるから忘却の牢で会わなくともいつか会えるだろう。私の都合に彼女を付き合わせる事はない。
現状として私の力はドラングレイグに通じている。故にあまり強化の必要性は無いのだが、それでもいつかは強敵とぶち当たるだろう。それこそアルトリウスのような輩がいるかもしれん。神々が生き残っている可能性すらもある。だから
緑衣の巡礼は、岩に腰掛け一人つまらなそうに足をパタパタと揺らしていた。可愛らしいものだ、感情があまり無さそうな娘が見せるギャップは堪らない。今直ぐにでもあのブーツを剥ぎ取って匂いを嗅いでみたいが、そんな事はせずに彼女の横に座る。
「来たよ、みどたん」
「みどたん……?」
「何でもない。
そう言うと、彼女は立ち上がり懐から古びた羽を取り出す。
ちなみにみどたん、というのは
私も岩から降りて彼女の前に跪く。そして集中する。
願うは信仰。私の忌み嫌う神への信仰心を高める事にした。奇跡を習得してリーシュに振り向いて欲しいからだ。だが今更神に捧げる心など無いから、解釈を変える事にした。
即ち、少女達への信仰心。これもまた信仰である事には変わりない。神への信仰をすり替えただけだ。
通常の不死なら、そんな事はできないが。私は少女達を神を超える程に尊ぶ。故にできる荒業。こんな事、きっと私にしかできないだろう。
或いは、あの薪の王も同じように私を思っていたのかも知れない。だからこの胸に下げられたペンダントが、触媒となった。今となっては誰にも分からぬが。
案外
かつてロードランで鍛え過ぎたせいで必要な
「……終わりました。意外ですね、貴女は神を怨んでいるかと思いましたが」
「おや。私の
身の中で高まる少女達への愛が昂る。嗚呼、信仰心とは良いものだ。聖職者も馬鹿にはできないな。ともあれ、少女は良いものだ。フフフ、フハハハ……
本を、閉じる。
読んでいて……読み聞かせていて恥ずかしくなってきた。如何に人を超えたからと言って、羞恥心が無くなるわけではない。おまけに読み聞かせているのは最愛の娘なのだから。
お茶を濁すように熱い紅茶が入ったカップに手を掛け一口呑む。私好みの砂糖が多めな紅茶。よく紳士を騙る者どもは茶葉の風味を楽しむと言い張るが、美味しければ何でもいい。
テーブルを挟んで対面する、私の大切な娘であり恋人が首を傾げた。雪のように白い肌と髪は実に神秘的で美しい。だからこそ、私が一番巫山戯ていてぶっ飛んでいた頃の話を聞かせたくない。教育上よろしくない。今更だが。
「どうされたのですか?」
静かに耳を擽る声で彼女は言う。小さく唸りながら、私は呟く。
「恥ずかしいです」
「……?」
経験の乏しい彼女には分からないらしい。まぁ、そうだろう。彼女は人らしい感情を十分に理解できるほど成長していない、これから学ぶべき娘なのだから。
そんな子にこんな破廉恥な物語を聞かせるべきなのだろうか。破廉恥は好きだが。主に少女の。
娘、そして恋人である彼女の前で恥ずかしさのあまり読んでいた本で赤くなった顔を隠す。父であり母であり恋人である私のそんな珍しい光景に、彼女は興味が湧いたのかこそっと立ち上がり、わざわざ椅子を私の隣に持ってきて座り出す。
そして愛らしく長身な彼女は首をこてんと傾け私の肩に頭を乗せた。
「可愛らしいですね。……闇姫様?」
蕩けるようなハスキーボイスが耳元で囁かれ、脳の内にある瞳が震える。それは啓蒙的な震えではなく、甘美な百合の匂いに震えるもの。
誰が教えたのか、この女たらしめ。嗚呼、教えたのは私だ。
「……罪な女だな、君は」
「そうでしょうか?ふふ……」
どうやら私の負けであるようだ。仕方無しに、私は茹で蛸のように赤い顔を晒して本を開く。
これが啓蒙より齎された黒歴史というものか。今ならば分かる。隠しておきたい秘密というものは、とんでもない恥なのだと。
「……けれど、闇姫はやめてくれ。聞いていて恥ずかしくなる」
その秘密を読んだのは、私であるけれど。
朽ちた巨人の森へと戻る。相変わらずここの寂れ具合も凄まじいが、気になるのは砦の最上階にある濃霧の掛かった場所。
変わらず亡者兵士達は砦を守り、どういう訳か樹となった巨人を殺そうと武具を振るっている。最早その行為に何ら意味は無いというのに。
まだ見つけていない場所があったらしく、そちらにも足を運べば篝火と闇霊が。武器屋デニスと名乗る闇霊は侵入するにはあまりに弱い。サクッと殺し、ついでに近場の巨人の木より奇妙な木の実を拾う。
巨人の木の実。どうやら使用すれば侵入してきた闇霊に対しても他の亡者や異形達が敵対する優れものらしい。いつか使う事があるだろう。
さて、目的の最上階へと向かう。右手にレイピア、左手に魔術師の杖。この先から多少強い
濃霧を潜れば、しかし誰もいない。見晴らしの良い砦の最上階であり、建造物は多少崩れている。特徴は設置型の巨大バリスタがあるくらいか。
突然、烏の鳴き声がした。朽ちた巨人の森で烏といえば、やはり奴しかいない。
いつか見た大鴉が、見知った鎧を運んでくる。それは前に逃した呪術者。懲りずにまたやって来たらしい獲物は、着地すると決めポーズをして私と対峙した。
私は杖を肩に担ぎ、ため息を漏らす。
「性懲りも無くやられに来たか。まぁいいさ」
奴は特大剣を構えると、お得意の浮遊移動でこちらへと突っ込んでくる。
それはもう前に見た。斬撃が放たれる前に転がって回避すると、良い事を思いついたので全力で走る。走る方角はもちろんバリスタの方向だ。
あまりに突然走り出して驚いたのか、呪縛者も私の後を追ってくるがもう遅い。バリスタのレバーに手を掛け、力の限り引いてから放せば、
ドンッ!
巨人相手に用いるべき大矢が呪縛者に向けて放たれた。これには驚いたようで呪縛者は咄嗟に丸い大盾で矢を防ぐ。
だが巨人を穿つ程のバリスタだ。その威力はクロスボウの比ではない。盾を貫通し呪縛者の鎧に矢が突き刺さる。おまけに浮遊していた呪縛者はぶっ倒れた。
「ハハッ!愉快だな!」
笑いながら倒れた呪縛者に向けて走る。その頃にはもう奴は起き上がり、何やら剣に呪いのようなものを付与して剣を振るう。
すると斬撃がまるで魔術のように飛んで来た。だがそんなものロードランでも何度も見てきた。月光剣を振るう闇霊なんてのも沢山居たわけで、同じような攻撃をしてきたよ。
ローリングしてその一撃を飛び越え、起き上がり様に杖を呪縛者に向ける。放つはかつての対人最強候補の闇術。
「闇の飛沫」
一度に数発放たれる闇の弾は、しっかりと目の前の呪縛者に全弾当たる。だが闇に耐性でもあるのか、それだけでは死ななかった。最早瀕死ではあるようだが。
仰け反る呪縛者を前に私は跳躍しながら顔面を蹴り上げる。サマーソルトとでも言えば良いのだろうか。
そして空中で身を翻し、レイピアの刃で首目掛けて二回薙ぐ。着地と同時に呪縛者が剣を突き刺そうとするのを目にした。
「
それを足を上げ、踏みつけて対処する。すると呪縛者は疲れたようだ。振り払う力もない。
剣の上に乗り、跳躍する。そして呪縛者の背に乗ると、その首にレイピアを突き刺した。
血に混じって闇が噴き出る。こんな闇、深淵に比べたら屁でもない。
暴れる呪縛者に突き刺したレイピアを抉る。抉って、無理矢理引き抜きながら傷を広げてから離れた。
真っ向からの戦いで逃げるような奴だ、もう終わりである。案の定呪縛者はそのまま
レイピアの血を払い、格好付けて鞘へと納刀する。うむ、決まった。今度からもっと格好良く色々とやっていこうかな。少女達をキュンとさせたい。
呪縛者を殺し、先へと進めばまた巨人の木がある。またしても亡者達がその木に攻撃しているが、一体何だというのだろう。
どうやら今の朽ちた巨人の森にはもう探索できる場所は無いようだ。後はあの開かずの扉と溶岩蛙のいる地帯か。落下攻撃で蛙に飛び乗れば多少は衝撃が殺せないだろうか。
と、そんな時にあるものを見つけた。それは烏の巣。砦でも見晴らしの良い場所に造られた巣は、北の不死院にいたあったかふわふわを要求するあの子達のもののように大きい。呪縛者もこの巣の烏を利用していたのだろうか。
前のように丸まっていたらどこかへ連れて行ってくれるかもしれん。不死特有の奇行ではあるが、そんな考えの下で私は巣の中で他の卵と同様に丸まる。
数分して、烏の羽音が近付いて来た。もし攻撃されるようなら返り討ちにすれば良い。
烏は私を嘴で確認するように突いたが、しばらくするとその鳥足でそっと掴んでくれた。そして勢い良く飛ぶ。
「懐かしいな、空の旅だぞ!」
烏に連れ去られながら私ははしゃぐ。いくら不死と言えども飛ぶ経験など無い。
……昔はあんなに男の浪漫とやらを否定していたのに。人間性とは変化するものだな。今ならお前の気持ちも分かるものだ。人の物全部取っていったけどさ。
数時間、私は烏と共に海岸沿いを飛んだ。海も渡り、気がつけば夜となっていた。そしてどこかの海沿いにある建物群に辿り着く。何だか見覚えのある場所だ。
ああ、またか。結局はここに戻ってきたという訳だ。だが同じ地域でも降り立ったのは建物の上階であり、篝火からは離れているようだ。ガッカリはしない。むしろ未知の場所に来れてワクワクするね。
夜の帷の中、私は忘却の牢の外の通路を探索する。道中ドラングレイグの兵や呪術を扱う巨漢の獄吏などを蹴散らし、何だか重厚な鉄の宝箱を見つけたので開く。もちろんミミックを警戒して一度蹴飛ばしている。
中に入っていたのは香木だった。何だか懐かしいような良い匂いだが、こんな物のために鉄の宝箱を用意したのか?ふむ……何か裏がありそうだ。
試しに香木の
と、突然私の背後に何者かが召喚されてくる。というよりも転送されて来たのだろうか。
「ああなんだ、量産型か貴様ら」
現れたのは呪縛者。どうやらドラングレイグに何体かいるようだ。相手するのは面倒だが、
一回戦った相手に遅れを取るような私じゃない。呪縛者は何も出来ずに結晶魔術と剣技により速殺された。おまけに鈍い種火を落としてくれたので、良しとする。種火は武器の強化の為に用いるもので、鍛冶屋に渡せば武器を更なる高みへと運んでくれる。レニガッツは扱えるだろうか。アンドレイも一部は扱ってくれたが。
通路を渡り、角にある塔の内部へと入る。するとそこに居たのは。
「……お前、どこから来たんだ?」
船着場より来たらしいルカティエルが壁に寄りかかっていた。
「やぁ、奇遇だね。色々あって空中からやって来た」
「……?まぁ良い、生きていて何よりだ」
そそくさと彼女の横に、同じように壁へと寄り掛かる。今はマスクをしていて顔は見れないが、言葉に裏は無いようだ。あっても困るが。
「よく休めたかな?」
「眠れはしなかったが。横になるだけでもありがたいさ」
「今度は添い寝したいものだが」
「ハハハ、冗談はよせ」
最近の女騎士、キツいや。
どうやらルカティエルもこの先に用があるらしい。ならばと言うことで同行を誘えば頷いてくれるあたり彼女もデレデレだなぁ。そう思うのは私だけでしょうか。
一先ず船着場の方へと逆走する。彼女曰く何やら怪しい壁があるそうで、そこを調べようという事になったのだ。
呪術を扱う獄吏をバッサリと彼女の大剣が斬り捨て、階段を降れば確かに壊れそうな壁がある。おまけにその後ろから壁越しにも分かるくらいに温かみを感じた。篝火か?
「火炎壺でも壊せないが、どうする?」
「ああ、試したんだな。ふむ……」
考え、とある物を目にして閃く。そういえば階段の上に火薬が満載された樽がいくつかあったな。あれを使えば壁くらいは壊せそうだ。
と、言うことで樽を持って来ました。問題は点火方法。
「呪術を使えればな……火炎壺でやるしかないか」
火球あたりがあれば安全な距離から樽を破壊できるのだが……私の火も奴に持って行かれたままだし。
火炎壺はその重量のせいであまり遠くへ投げられないのだ。投げナイフなら百発百中で当てられるが、火炎壺は昔から苦手だ。だがドジっ子な彼女にやらせたら大変な事になりそうだから私がやるしかないか。
「離れていろ」
ルカティエルを遠ざけ、私もなるべく距離を取って火炎壺を用意する。そして狙いをつけ、投げる。
火炎壺が爆ぜ、同時に火薬樽が勢い良く爆発した。私の想像の三倍くらいに強い爆発。ギリギリ私も爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。
「おわああああ!」
品の無い声をあげて転がる私を見て、ルカティエルは思わず駆け出した。
「だ、大丈夫か!?」
仰向けに倒れ瀕死の私を抱き抱えるルカティエル。痛みが凄いがそれ以上に役得である。彼女の身体の柔らかさが伝わってくるではないか。
「お前、ドジだな……まったく、ヒヤッとしたぞ」
「君に……言われたくない」
そのままエスト瓶を取り出して飲む。ドラングレイグで一番のダメージだ。回復すると、私はどさくさに紛れて彼女の全身を掴みながら立ち上がる。どうやら彼女は本気で私を心配してくれているらしく、私のセクハラに気がついていない。罪悪感が凄い。
だが目的は達成出来た。壁は破壊され、やはりその奥には隠された空間がある。篝火だ。飲んだ分のエストは補充できるだろう。
痛がりながら篝火を点火していると、横でその光景を見ていたルカティエルが何かを見つけたようだ。何とこの空間の横に部屋がある。
誰かの気配があるので警戒しながら入室すると、そこには……
「火よ……火よ……フフ、どうした……やけに素直ではないか……フフフ……」
鍛冶用の炉の前で火と戯れ合う変態親父がいた。なんだあれは。
「変態がいる……」
「お前が言うのか……」
ルカティエルの中では私も変態であるようだ。何にせよ、変態とは関わらない方が良い。私達はそっとその場から離れようとすると、
「ムッ……火の匂い……貴様から火の匂いがするぞ」
「ヤバい、見つかった!変態にされる!」
「お前はもう変態だよ」
呆れたようにルカティエルが言う。失礼な、私は少女が好きなだけの不死だ。
変態親父に見つかり、仕方なく私を先頭に彼と向き合う。見たところ、彼は鍛冶屋らしい。もしかしてさっき手に入れた鈍い種火の事を言っているのだろうか。
「これか、火の匂いというのは」
「さぁ、その種火を寄越せ。早くしろ貴様」
「なんだァ、テメェ……」
「くれてやれよ、一々喧嘩を売るんじゃない」
キレかけた私を宥めるルカティエル。私達良いコンビじゃないか?種火を投げ渡せば、鍛冶屋は目を血走らせて喜ぶ。とんでもない種火マニアだな。
炉に種火をそっと入れる鍛冶屋。その手つきは見た目に寄らず繊細だ。あのアンドレイや巨人鍛冶屋を思い出す。彼らも肉体と巨体の割にはかなり繊細な手つきだったな。
「貴様、石は持っているのだろうな」
「楔石か?多少はある」
「なら石を寄越せ。貴様の粗末な物を鍛えてやろう……」
「セクハラかエロ親父」
何ともこの地の鍛冶屋というのは話が通じないものだ。
熟練のマックダフ。あの変態親父に剣を鍛えてもらった。レニガッツも腕は良いが、マックダフはそれよりも良いらしい。なんかむさ苦しいから好きにはなれんが。
ルカティエルも剣を鍛えてもらったのか、大剣が強化された。ちなみに彼女は楔石を持っていなかったので私持ち。惚れた弱みだ、それも良いさ。
「腕は確かだな、奴は」
ルカティエルが剣を振るう。良い構えだ、実戦をいくつも経ている者の構え。多少指摘すべき部分もあるが、それは余計なお世話だろう。嗚呼、それよりも彼女に一度殺されてみるのも良いかもしれない。少女に
……こう言う所が変態と言われる所以だろうか。昔はこうじゃなかったはずだが。
さて、寄り道も済んだ所で先へ進む。階段を登ってすぐに行けそうな場所があったから、そっちへ行ってみよう。
「待て。何か来る」
ふと、嫌な気配を感じて私は先頭を進むルカティエルを止める。
「なんだ?」
「これは……」
暗い、闇のようなものを感じた。
他世界からの侵入者。赤黒く光る闇霊特有の輝きに身を包むは、喪失者と呼ばれる名もなき不死。
大剣を背負い、ゆっくりとした動きで私達に対峙する。その
大剣を構えた喪失者が、私の内なる闇に呼び寄せられるように駆け出す。同時に私も喪失者目掛けて走り出した。
「待て!一人では!」
ルカティエルを無視して殺しにかかる。悍ましいものだ。彼女に晒して良いものではない。私とルカティエルのデートを邪魔するんじゃないぜ。
素早い大剣の振りを見て、私はレイピアで受け流す。重い一撃だが、今ので力量は見えた。私よりも弱いがルカティエルよりは強いかもしれない。
刺剣と大剣で打ち合う。受け流し、その隙に突く。大剣の利点はその重厚な攻撃力とリーチであり、それは同時に欠点でもある。重ければ動きは鈍く、懐に入られればリーチを活かしにくい。例外は、あの薪の王だけだ。
「どこの馬の骨かは知らんが、相手が悪いな」
攻撃を弾きながら私は言う。攻撃しても弾かれても、体力を使うものだ。そして私はそれに特化している。
苦し紛れに喪失者が大剣を振るえば、それはレイピアによってパリィされた。同時に疲れ果てたのか動きが止まる。
左手を伸ばし、喪失者の首を掴む。そしてその胸元に一気にレイピアを突き立てた。鎧を貫き肉すらも抉るレイピア。しかし、予想に反して喪失者はそれだけでは死ななかった。
貫かれながらも奴は私のレイピアを握る腕を掴み、強引に後ろへと投げる。少し慢心しすぎたか。
「ちっ……!」
仰向けに地面へと投げられ、舌打ちする。その時にはもう喪失者が私目掛けて大剣を振り下ろそうとしていた。死んだかな、あまり生命力は高くはないし。まぁ良い。
だが、途端に喪失者の動きが止まり、胸から見知った大剣の切っ先が飛び出る。
「一人で突っ込みすぎだ!」
ルカティエルが、喪失者の背後を穿っていた。思わぬ手助けだ。あまり協力者がいる場面は今まで無かった故に、予想外だ。
だがそれでもまだ死なぬ。ならばと私は背中を軸に足を振り回し、駒のように回って立ち上がる。そしてレイピアをダガーに切り替え、喪失者の顔面へと突き刺して抉った。
「助かったぞルカティン!」
すると、最早死に絶えたようで喪失者の身体が消えて行く。彼女の言う通り突っ走り過ぎたか。それとも、彼女を信頼していなかったのか。ともあれ良い経験になった。
ルカティエルに頭をゲンコツされる。
「あだっ!」
「馬鹿者、死んだらどうする!」
彼女の怒りは凄まじかった。今ので体力の一割が持っていかれるくらいには。
だが不死が死ぬ事を心配するとは。珍しいものだが、しかしそれこそ人の心なのかもしれない。普通は死んだらそれで終わりなんだから。彼女は戦場で、そう言う場面を見て来たのだろう。
「ごめん」
ショボくれた犬のようにしょげて謝る。それでも彼女は怒っていたが、次第にその怒りは悲しみへと変わっていったようで。
「不死でも、死んだら痛いだろう。死ぬと言うことは、仲間を悲しませるんだ。お前は死ぬ事に慣れているのかもしれないが……私は、あまり見たくはないんだ」
そっと、彼女の両手が私の頬を包む。
「……惚れそう」
「……」
思わず出た本音に、ルカティエルは無言で私の頬をつねる。
「痛い痛い!ごめんって、許して!」
「本当にお前ってやつは……もう知らん!」
そう言って彼女はズカズカと一人先へ進んでいく。そんな彼女を私は追う。嫌われた訳じゃない。心配されたんだ。実を言うと、嬉しいんだ。今のはそんな本心を隠した照れ隠し。
歳を取った私だって、素直になれない時もある。昔のように、若かったあの頃みたいに。
「待ってよルカちん!」
「うるさい!もう知らん!」
しばらく私と彼女の応酬が忘却の牢に響く。たわいも無い喧嘩だが、そんなものでも私の中では良い思い出なのだ。
私の事を、心から思ってくれる人なんて、何人もいなかったんだから。
ルカティエルがいると百合が書けるから好き
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ