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マデューラの家屋で絵を描く。
想い出だけを頼りに、淡い鉛筆で私は少女達の絵を描いていく。
薪の王に破れてから、いつか草葉の陰で見た美しい村娘。どこかの街で商人をしている看板娘。そのどれも私の脳裏に焼き付いていてかつての美しさを表現できる。
何枚も、何枚も大きなキャンバスに描いてみた。そのどれも私の磨耗しない記憶力のお陰か、それとも少女への執念からか寸分の狂いなく思い出して描いてみせる。それは良い。少女とは美しくあってこそだろう。
そうして、一頻り少女達を描いたのちに。記憶の奥底、もっと古いあの地で出会った少女を描いてみせる。
聖女レア。あの何も知らぬ世間知らずで清廉な少女は、やはり絵にしても美しい。この目と感触で彼女の全てを感じ取ったからこその出来。もちろん春画ではない。
半竜プリシラ。色々大きくてもふもふな感触は、今でもこの手に覚えている。私を友と言ってくれた大切な娘であり、彼女の親を殺した。
イザリスの魔女クラーナ。千年を孤独に生きた我が呪術の師は、別れ際に私を愛してくれた。その素顔は、二度と忘れない。
筆を止める。
最後に描くべきもう一人。
私が心の底から愛し、愛された火防女。
もう背景と身体は描けているのに。私はずっと、描けずにいる。
今でも鮮明に覚えているのに。煤けたあの檻の中で、私だけに見せてくれるあの笑みを、覚えているのに。私は描けない。彼女の想いを裏切ってしまった私には。
惨めな女だ私は。強がって他人にはああも発言できるのに過去の想いに縋り前へと進めない。ルカティエルに自分を貶めるなと言っておきながらこの様だ。
けれど表面だけは強く生きなければ。私はあの子に顔向けできない。
隠れ港の船の中で手に入れた呪術の炎で、封じられた亡者共を焼き尽くす。
忘却の牢、虚ろの衛兵共を倒したその先を進む。どう改造すればそうなるのか分からぬが、爆発する亡者とは厄介なものだ。ここにいる亡者共は近付くと爆発四散する。生命力が低い私が食らえば一溜りもない。
亡者を閉じ込めておきながら生命を愚弄するとは。真、人の業とは愚かしい。
ルカティエルは先にこの牢を進んでいるようだから、少し心配ではある。あの子は抜けている所があるから……
道中魔術師らしき男の石像があったが、香木が無いから無視して先へと進む。
塔を抜け、大橋を渡り塔の上層からクロスボウを放つ兵達を全滅させる。地味な嫌がらせは一番腹が立つな。
さて、橋を渡った先の塔には下層へと降りられるエレベーターがあった。ロードランでも散々見たし使ったが、階段を降りるよりもずっと楽だ。いくら不死と言えども必要以上に疲れる事はしたくない。
下層へと辿り着けば、そこは浸水していた。幸いなのは水嵩が腰にまで満たない事だ。腰まで水嵩があれば格段に動き辛いし、足元が見辛いから突然地面の切れ間があったらそのまま落下死する。ていうか溺死する。
「おやおやもう雑魚扱いかお前」
と、隠れ港では強敵感を出して登場した流罪の執行者が浸水した牢を徘徊している。まぁ確かに虚ろの衛兵と比べればこいつは雑魚もいい所だからなぁ。
私の言葉など聞ける知能すらなく、剣と棍棒を振るう執行者を魔術で消し飛ばしていく。そういえばロードランでも牛頭のデーモンや山羊頭のデーモンは流罪の執行者のように後半のエリアになるとそこらの雑魚と同じように沢山居たな。
「しかしただでさえ足場が悪いのに爆発亡者とは……ここを造った奴は嫌がらせの天才だな」
最早柵が腐食して崩れ、牢屋の機能を成していない。もちろんそこからは溢れるように爆発亡者が出てくるわけで。
私は面倒になって纏めて屠る事にする。シャラゴアから買い取った誘い骸骨で一箇所に誘導すると、闇術で全部吹き飛ばす。やはり数が多い敵はこうするに限る。ドラングレイグの武器は壊れやすいから一人一人相手にしていたら修理の光粉が底をついてしまうからな。
浸水牢屋地帯を抜ける。どうやらまた塔があるようで、細い一本の橋を渡らないとならないらしい。アノール・ロンドの梁よりはマシだが、狭い場所を通るのは気が進まない。すぐ側が海ならば尚更だ。というか、こんな海面スレスレの場所に塔やら橋やら作るのは良いが満潮になったら水没しないのか?
辿り着いた塔には濃霧が掛かっていた。毎度の事だがどうやら強敵がいるらしい。それもかなり強大な
と思ったのは良いが、どうやら塔の左右に小部屋があるようだ。濃霧を潜るのはそれからでも良いだろう。
どうやら塔の中は今までよりも暗いらしく、左右の部屋は中の灯りを灯すための部屋らしい。火の蝶と呼ばれる生命を砕き、道中拾った松明に擦り付けると火が燈る。便利だな、これがあれば地下墓地はもう少し楽だった。
部屋にある台の上の油に火をつければ、油を伝って頭の中へと火が進んでいく。これで良いだろう。少しは戦いやすくなったはずだ。
さて、左右の部屋に火を灯せば、いつのまにか塔の中から何やら喧騒が聞こえてくる。金属のぶつかり合う音からして、誰かが戦っているのだろうか。ルカティエルかもしれない。
さっさと濃霧を潜る。相変わらず拒絶の強い濃霧だが、問題は無い。
「やぁルカティエル!」
濃霧を潜った先に居たのは、誰かと鍔迫り合いをするルカティエルだった。声をかけられ鍔迫り合いしながら振り返る彼女は、少々焦ったように言う。
「手を貸せ!こいつ、強い……!」
言われなくてもそのつもりである。レイピアと新しく手に入れたファルシオンを握りルカティエルに加勢する。割って入るように横からレイピアを突き刺せば、敵対者はサッと下がってそれを回避してみせた。
その姿は、罪人である。内側に爪のついた仮面を被せられ、両手と両足には枷が着けられている。塞がれた両手で大剣を握るその姿は、内にする
一体どんな罪を犯したのだろうか。だが一つ言える事は、最早正気では無いと言うことだ。剣を握りこちらに仇なすというのであれば、こちらも剣を交えよう。
「助かったぞ!」
「待たせたな」
若干息を切らすルカティエルに格好つける。ヒーローは遅れてやって来るものだ。私の場合ヒロインであるはずだが、ルカティエルがいれば何ら問題ない。
さて、対峙するのは良いがどうやらギャラリーもいるようだ。塔の内側にある小部屋から、二体ほど赤い闇霊が飛び出してきた。闇霊というか、あれは単なる防衛装置だろう。余程罪人と接触させたくなかったのか、私達を排除しようと動いている。
「お客さんだ。頼めるか?」
「三十秒で片付けるさ」
ルカティエルに頼めば、彼女は勇ましく赤い闇霊に突っ込んでいく。大丈夫かな、あの闇霊達は呪術師っぽいぞ。剣だけで突っ込んでいくのは多少骨が折れると思うが。
まぁ良い、そこは彼女を信頼しよう。ルカティエルと闇霊達がワーワー何やらやっている中、私と罪人は互いに向き合う。
どうやら剣には覚えがあるようだ。両手がつながれようとも、その構えは堅固である。おまけにカウンターを狙っているのか、中段で横に構えた剣は私の攻撃を誘っているようだ。
ならば誘いに乗ってやろう。私は走り出し、飛び上がりながらレイピアを振るう。素早く、そして体重を乗せた一撃はパリィなど出来ぬ。
「……!」
それを察したのか、罪人はレイピアの刺突を受け流す事にしたようだ。ギリギリと大剣の表面をレイピアの刃が火花を散らして通り抜ける。
すぐ様左手のファルシオンを足目掛けて振るう。斬ることに特化した曲剣の一撃は、軽い。しかしその切れ味は確かである。剥き出しの足を浅く斬られ、傷口から血を噴き出しながら罪人はたじろぐ。
反撃とばかりに罪人が大剣を振るう。その鋭さは中々のものだ。ステップで避けながら機会を待つ。久しぶりにまともな斬り合いだ。
大きく大剣を振り被る罪人。ここぞとばかりに私はファルシオンを構えた。
「パリィは私の専売特許だ」
ファルシオンの湾曲した刀身が大剣を弾く。すると完璧に攻撃を弾かれた罪人は尻餅をついてしまった。嗚呼、未だ只人であるならば可愛らしいのだろうが……既に罪人は異形と化している。ならば殺すしかない。
すぐ様私は罪人に跨りレイピアを胸元へと突き刺す。刺突に優れたレイピアは致命ダメージが大きい。死にはしないようだが、それでも罪人は苦悶の声を上げる。
そして、仮面の内側からおかしな虫が這い出ようとした。
「……なるほど。罪とは、そういうことか」
回転しながら後方へと飛び、距離を取る。あの虫。大きさはまるで違うが知っている。
悍ましい虫。命を生み出そうとし、そして呪われた哀れな魔女達。それらが作り出した混沌。
どうやらこの罪人は、嘗ての魔女達と同様に命を創り出そうとして混沌の蟲を産んでしまったらしい。何ということだ、あんなもの生命への侮辱以外に無いというのに。
混沌の苗床、そのものを産み出そうとするとは。人は過ちを繰り返す。
ならばもう殺してしまおう。人間性を喰らう混沌が生きていて良い事など無い。我が師の望みが混沌を滅ぼす事による贖罪であったのであれば、あれは殺されなければならない。
他ならぬ私によって。
左手を杖に変え、脳内で詠唱する。
「闇の玉」
私の人間性より生み出された大きな大きな闇の玉は、発射されると同時に罪人の頭部を消し飛ばす。だが混沌の苗床はすんでの所で逃れたようだ。宿主が死んでも尚、首元にまだ蠢いている。
死体に飛び乗り、レイピアを蟲へと突き刺す。しぶとく生き延びようと足掻く蟲を、奇跡で焼く。
左手の杖を収納し、アイツのペンダントを握れば雷の槍は蟲を内側から焼いてみせた。
「火は好きだろう?」
相反する奇跡により焼かれ、最早動かぬ苗床の模擬。人はいつも身の丈に合わぬものを求め、失敗する。これもまた、同じこと。
「おーい、もう三十秒経ったぞ」
混沌に対する感傷も済まぬまま、未だ背後で殺し合うルカティエルへと声を掛ける。どうやら一体は殺したようだが、彼女も最早ボロボロだ。
「ちょ、ちょっと待て!もう少し……そらぁ!」
呪術を展開しようとしていた闇霊を、大剣が穿つ。それで勝負はついたようで闇霊は
「お疲れ様。何はともあれ無事でよかった」
「ああ……お前、もういいのか?」
「何がだい?」
その言葉を察せない訳じゃない。けれど私は何事も無かったかのように首を傾げて彼女の手を取る。
「……いや、良いんだ。先を急ごう」
それは私の強がりだ。自分だけの過去を振り返り悔やむのは、一人の時だけで良い。私の問題は、私だけで解決すべきなのだから。心配しなくても、良い。
初まりの篝火。そう、呼ばれているらしい。
忘れられた罪人を倒し、塔を進めば一際大きな部屋を見つけた。何もない円形の部屋は、しかし中央にポツンと篝火だけがある。
それだけである。けれどこの篝火から齎される感覚は、凄く懐かしいものであり。嗚呼、これは。分け与えられた王の
ゆっくりと優しく燃える篝火は、本来の役割を果たす。燃える遺骨と灰は、かつて殺した魔女が溶け込み。私の中にも入り込む。嗚呼、あの時は得られなかったものを、こんな所で手に入れるとは。
古き魔女の
……クラーナ、貴女が愛した家族もまた、貴女を思っていたようです。それを、直に伝えたかった。
僅かに時空のズレたルカティエルもまた、その
「さて、マデューラに戻ろうか」
「うむ。しかしこれでようやく一つか……先が思い遣られるな」
「私がいれば大丈夫さ」
そう言って篝火に触れる。焚ける火は、私達を包み込むと果ての篝火へと飛ばす。
「……良い匂い。やっぱり貴女を選んで正解みたいね」
小屋で一人、シャラゴアは呟く。愛くるしい見た目と声色で彼女は待ち侘びる。王となるべく者の行く末、その終焉を。
けれどきっと、愛しい猫は使命を果たさないだろう。他の姉妹ならばいざ知らず、彼女は幸い愛を持って生まれてきたのだから。だから良いのだ。新たな王は、自由気ままにやれば良い。猫がそうあるように。
カリカリと木壁で爪を研ぐ。王がこの地に来てから機嫌が良い。最初こそようやく訪れた機会に震える程驚いたが、今となってはあの少女の偉大で孤独な旅路が楽しみで仕方がない。
生まれ持って得た特性もあるに違いないが。けれどそれは、憤怒でもなければ孤独でもなく、渇望でもない。
愛こそ、彼女が猫であるための使命。ならば姉妹達のようにあれこれする必要は無い。
「だって、貴女は私を愛してくれるでしょう?ウフフ……モテる猫は辛いわね」
今もまた、大きくなった彼女は猫の前に現れる。愛しい猫をモフりに。愛情を向けてくれる。
「やぁ、早速で悪いんだけど落下を和らげる品物無い?」
「あら、痛そうね。あるわよ」
マデューラの穴へと飛び込んで折れた足を引き摺り、猫の元へやって来る少女は彼女が待ち侘びた王となるだろう。
エルデンリングやりたい
百合ばかりの番外編を
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見たい。百合こそ人類の宝、ダークソウル
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いやぁそうでもないっすよ